07
七月になってからは頼まれた際は必ず受け入れていた。
由真以外に友達がいないことがこういうときは好都合だった、他に合わせることで彼女に合わせられないなんてことがなくなるからだ。
まあ、ゼロか百でしかできない私がまた極端なことをしているわけだけど、今度は必死になることで引いてもらおう作戦で動いていたわけだ。
「暑い……」
ひっくり返った虫みたいになっている人間がここにいる。
行動力の塊みたいな存在ですぐに完全には付き合えないのだとわかったよ。
あと教室すらも暑いから遠い空き教室まで逃げてきている、アイスもなんとかするためにもう食べつくしてしまったから頼れない。
「平方先輩」
「放課後は付き合うからいまは汗をかいているし近づかないで」
「そんなの気になりませんよ」
彼女は一人全く気にならないみたいで羨ましい。
「夏休みになったらプールにいきましょう」
「はーい、付き合うから大丈夫だよ」
「あとはお祭りですね、邪魔じゃないなら四人でいきたいですね」
「由真に言っておくよ」
邪魔じゃないなら……って、本当なら積極的に邪魔をしてもらいたいところなんだけどね。
一人で終わらせたような雰囲気を出しているけど困るのだ、引いてもらわなければ作戦は失敗となってしまう。
「あとは個人的に平方先輩にしてもらいたいことがあります」
「それは?」
「名前で呼んでもらいたいです」
名前で呼ぶことなんて簡単だ、別にそれ自体は嫌ではないからいま呼んだっていい。
だけど最初が最初だけに引っかかってしまうのだ、せめて嫌いなだけで由真のことが好きとか言われていなければよかったのに。
上鶴ちゃんは私が少し変わりかけたところで本当のところを出してきたわけで、彼女にもそれを期待しているのに今度ばかりは……。
「このまま臼井ちゃんが私に優しいままだと困るんだよね」
「千種先輩とのことを気にしているからですよね」
「そうだよ、それがなかったらなんにも問題はなかった、別にあるなんて思っていないけど臼井ちゃんが求めてくれたら受け入れられていたんだよ」
どこかで嘘をついているのなら早く教えてほしい。
「顔が気になって近づいたことも好き……だったことも嘘ではないです」
「だったって……」
「昔、成美から大事な物を取ってしまったことがあったんです、だから私は積極的に千種先輩とはいないようにしたんです。最初とかは……ずっと一緒にいても知らなかったので、はい」
「なにそれ、そういう理由からやめられるとか一番嫌でしょ」
「気になるかもしれません、だけど同じようにしたくないんです」
偶然でも取ってしまったら嫌だと言いたいのはわかっているけど自信がすごいというかなんというか。
最初と上鶴ちゃんが動くまでの時間だけで由真が気に入ってしまっていたら二人だけの問題ではなくなる。
「で、やめるのやめないの?」
「千種先輩には迷惑をかけてしまいましたがやめます」
「ならもう言ってあげて」
「はい、お昼休みに一緒に過ごしてほしいと誘ってあるのでそのときに言います」
はぁ……こっちに対する態度が嘘! の方がよかったなぁ。
なにもかもが本当で結局は友達のために譲るなんてね。
「おかえり――なにも言わなくていいよ」
「言おうともしていなかったけどいまので言いたくなった」
「はは、天邪鬼さんだ。お昼休み、臼井ちゃんと話してくるね」
「うん」
単純だから暑いとか汗とかどうでもよくなって椅子に張り付いていた。
そうしたら放課後になって「まだ残ってくれていてよかったです」といい顔をした臼井ちゃんが現れたことになる。
「なんか大体はわかっていたみたいで物凄くあっさりと終わってしまいました」
「臼井ちゃん」
「それもわかっていますよ、だけど片平先輩がそこまでの顔をするとは思いませんでした」
そもそも隠せない私が隠そうともしなければそうなるか。
「ちゃんと動いたことを知ってもらいたかっただけなので今日はこれで帰ります、また明日からよろしくお願いします」
「じゃあね」
昔ならあり得たけどこういう場合でも由真は来ないか。
残っていても期待しているみたいで嫌だったから走って帰った、急ぎすぎて臼井ちゃんを抜き去ってしまったぐらいだ。
「もしもし?」
「はは、さっき真剣に走っているところを見たよ」
「見られていたかー」
「あれでちょっと元気が出た、ありがとね」
切られてしまった。
「どうであれ臼井ちゃんは動いたことには変わらないしその気がないならはっきり言われた方がマシだしこれでちゃんと切り替えよう」
それで名前呼びだっけ? 明日に回すとぐわーとなりそうだから今日するか。
着替えたりもせずにまた走って戻ると今日は特別ゆっくりなのかまだ外にいてくれたから、
「捺生!」
と、叫んでみた。
通行人はいなかったからいいけど家にいる人からすれば迷惑でしかなかったと思う。
「一瞬、成美かと思いましたよ、平方先輩ってすごいですね」
「そんなのはどうでもいい、捺生がちゃんと動いたから私も動いているだけ」
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を言われても困るけど……。
「でも、今日すぐしてもらいたかったわけありませんでした、だってまだ平方先輩相手の場合には少ししか頑張れていませんでしたから」
「もう求めていたんだから喜ぶところでしょここはっ、それとも上鶴ちゃんみたいにやっぱりこれすらも嘘って言う!?」
興奮してはいけないとはわかっていても冷静ではいられなかった。
あれは怖い、だからここでそうなるかもしれない可能性をつぶしておきたい。
彼女はちゃんと守ってくれる子だから吐かせておけば少しは安心できるはずなのだ。
「言いませんよ、千種先輩にも最初はともかく平方先輩にも適当に合わせて過ごしてきたわけじゃありませんから」
「ならいいじゃんかー」
うざ絡みみたいで申し訳ないけどこうとしか言えない。
「だ、だって今日だと真っすぐに喜べないじゃないですか」
「あー」
「でしょう? まあ、私が悪いだけなんですけどね」
「あ、それは駄目だよ、ここで終わりね」
「平方先輩がそう言ってくれるなら」
走り回って疲れた。
今日こそファミレスにいくべきだと思ったから手を掴んで歩き出したのだった。




