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237  作者: Nora_
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06

「ここにいたんですね」

「いま弱っているから今度にしてー」

「成美に千種先輩を取られてしまったので相手をしてもらいたいです」


 謝ってくれたとはいえ、仮にも嫌いだと言った相手によく頼めるな。

 そういう点では誰もがここ最近はおかしかったことになるから今更感がすごいか。

 ちゃんとできていたのは由真だけ、ならちゃんとできていなかった私が羨む資格もない。


「大人しく譲ったということ? 臼井ちゃんらしくないじゃん」

「平方先輩が一番わかっていると思いますが千種先輩はみんなに優しいんです、本人が相手をしようとしているのに邪魔をすることなんてできるわけないじゃないですか」

「ならこれまでは?」

「知らなかったし成美も来なかったからです」


 んー……上鶴ちゃんが演じていただけだとしても変なことにしたのはこちらも同じこと……。


「わかったわかった、だけどこのまま学校にいるのもあれだからどこかにいこうよ」

「それなら私の家かファミリーレストランにでも――」

「ならファミレスでっ、ドリンクバー代ぐらいなら出してあげるよ」


 沢山飲んで少しなんとかさせてもらう――はずだったのにファミレス内に二人がいて結局彼女の家にいくことになった。

 かわりにまたコーヒーをくれたけど……色々な意味で苦い時間の始まりとなった。


「私が一番驚いたのは千種先輩が好きだったことよりも平方先輩に乗っかっていたことです、あんなことは初めてだったので声をかけるべきかどうか悩みました」

「じゃあ慌てて隠れたのはいいけど意味はなかったということか」

「いえ、隠れてくれてよかったですよ、だって平方先輩に一階に来てほしかったのにあのままだと誘いづらいじゃないですか」


 紅茶を準備したのもいつもの癖で失敗をしたわけではなくてわかっていたから。

 なんだよもう……なにもかも後輩にいいようにやられている気がする。

 で、私は恥ずかしいところだけを見せることになって得られたものはなにもないと、うん、羨む資格がないとかもうどうでもいいや、やっていられないね。


「聞いておくけどさ、きみは嘘じゃないんだよね? ちゃんと由真が好きなんだよね?」


 な、なんでなにも言わないのかっ。

 一人うがーとなって内では暴れていた、もうみんな真面目な由真が取っていいから頼むからここだけは嘘ではあってほしくない。


「コーヒーをもう一杯飲みませんか?」

「い、いや、流石にそれだと迷惑にしかならないからやめておくよ」

「なら部屋にいきましょう」


 なにがならなのかはわからないけどそれで喋りやすくなるのなら。

 今度は部屋でも隅の方でごろごろとしていた。


「少なくともそこに関しては嘘をついていないです」

「そっかっ、なら安心だ!」


 彼女はよくやってくれた、これでもう今日から気持ち良く寝られる。


「これで安心して臼井ちゃんといられるよー応援するからね!」

「なんでこの情報で安心するんですか?」

「え、だって上鶴ちゃんから後出しで本当のところを吐かれて困っていたから、その点臼井ちゃんは貫けているわけだから一緒にいやすいでしょ。あ、何回も来てくれるようになるとは考えていないよ? ただこういうことがあと何回かあったときに疑いたくないんだよ、それって疲れるじゃん」


 まあ、上鶴ちゃんだって直前に変なことをしてきていたから気になっていただけであの子を好きな子が増えるのは大歓迎なのだ。

 だから今回も勝手に自爆しているだけで恨んだりはしていないから正直に言えば上鶴ちゃんも露骨に変わったりはしない。


「教えてくれてありがとうございます」

「うん、だから長くいるのもあれだから今日はもう帰るよ、コーヒーありがとね」


 今度こそドリンクバー代を払ってあげるからねと言って歩き出したときに、


「待ってく――ど、どうしたんですか?」

「あっ、ごめん……」


 何故かこちらを掴もうとした手を払ってしまったから変な時間となった。

 それでもすぐに再度謝罪をして部屋を出たから気まずくは、いや、鍵を閉めるために付いてきているわけだから気まずかった。

 はぁ、なにをしているのか。

 元々、なんか二人が来てくれるからお喋りができていただけでそれ以上のなにかはなかったのにこれだ。

 ただ? 上鶴ちゃんにだけではなくて臼井ちゃんにも同じように恥ずかしいところを見せてしまったという点については揃ったような気がして少し安心した。

 

「ただいま」

「おかえりー」

「ママ……と由真? 由真はともかくママはなんでこんなに早いの?」

「昨日寝ちゃったから言っていなかったけど今日はお休みだったんだよ、それで休んでいたときに由真ちゃんが来てくれたからお喋りをしていたんだ」

「そっか」


 いまは少し余裕がないから由真はママに任せて休ませてもらう。

 お昼寝と食事パワーが重ねれば明日には持ち込まずに済むはず……だった。




「完全復活っ」

「それはいいけど早く書かないと不味いよ」

「調べてかきかきするのって面倒くさいよね」

「わからなくもない」


 雨の季節ももう終わってしまう、そうなったら私は毎日どこかしらが溶けていく。

 由真はどの季節も大歓迎というか貫けるからきっと上手くやっていく。

 今度は片方とだけではなくて両方といる時間も増えた、敢えて教室でやる理由はわからないけどいちいち移動しなくても見られるのは大きい。


「「終わったー……」」


 別に発表なんかをしなければならないこともないから本当にこれで終わりだ。

 図書室から教室に戻れたらそのことでも安心できた。


「すぐに席に張り付かない、頑張った後だから甘い物でも食べにいかない?」

「アイスか、確かにいいかも」

「よし、いこう」


 体育館前の自動販売機にそれは売っている、それなりに移動しなければならないのは確かだけど移動する価値はある。


「みんなが買っていくからこの一台でいっぱい儲けられそう」

「電気代とかもかかるから意外とそうでもないんじゃない? あと、調べものをした後にごちゃごちゃ考えるのはなしだよ、せっかくアイスパワーに頼っているのに疲れちゃう」

「そうでなくても明るい由真さんは放課後が近づくにつれてどんどんと元気になっていくけど」

「ん-だけど毎日できているわけじゃないからね、最近は特にね」


 あの二人とだけではなくて他の友達とだって上手くやれているのに最近は駄目扱いなのか。


「急に上鶴ちゃんが近づいてくるようになった理由が知りたいの」

「近づく理由なんてすぐにわかると思うけど。興味があるかその逆だよ、どっちにしろ一緒にいようとしていることには変わらないけどね」

「二分の一か、逆だったら怖いね」

「ほとんどは興味があるからでしかないけどね」


 嫌いな人間のために時間を使うなら好きな人を振り向かせるために普通は時間を使う。

 というか、知ってしまっている身としてはいちいち濁した言い方をしなければならないのが面倒くさい。


「でも、いくら増えても関係ないでしょ、由真が気になった子と仲良くすればいい。友達でもそうだよ、その点に関しては厳しくいかないとね」


 そうしないと誰にとってもマイナスな結果にしかならない。

 いらないだろうけどこれぐらいは友達として言わせてもらいたかった。


「っと、戻らないとね」

「うん」


 最初から答えを見てずるをした小学生時代にやれたら楽だった。

 由真に聞けばいいのにそれだけはずっとできないままでいる。

 急に席替えなんかになって由真が隣に来てくれたらいいのにと妄想をした。

 まあ、実際はなにも起こらないまま板書をしたりぼうっとしたりしている間に授業の時間が終わっていくだけだけど。

 元々いい人間ではないからずるでもなんでもいいから自然と耳に入るようにしたかった。

 少し離れているうえにクラスメイトも盛り上がっているとなるとお喋りの内容なんかはわからないからね、仲間になれていないとしても自分的には仲間のつもりでいたいじゃん、と。


「またこの半分は私のだ」

「違うところで食べない? 外でもいいからさ」

「ん-なら敢えて外に出ちゃおうか」


 私が好きでいるからとかではなくてもいい、こういうところが好きだ。


「いちいち傘をさして移動なんて実に非効率だね、でも、学生時代はこれぐらいでいい」

「はは、キャラがおかしいよ?」

「それっ、杏梨に笑ってほしかったんだよ」


 表に出やすいところ本当になんとかしないとな……。

 でも、それは後回しにしていまはお弁当を食べるだけだ。

 ちなみに自作ではなくなっているからそれだけで力が出てくる。


「そりゃ杏梨的には暗くもなるよね、だって興味を持ってくれていたはずの子が急に違う相手のところにいくようになったんだから」

「ははは……それを由真が言うのも結構複雑だけどね」

「実を言うとね、私もいま杏梨と同じ状態なんだよね」

「え、どこが?」


 これはむかついたとかではなくて本当に気になったから聞いているだけ。

 楽しそうにやれているのになんでそうなるのか、理想が高すぎるのも問題だ。


「だって臼井ちゃんから――いや、これは本人から聞いてよ」


 そう言われてもそんな機会は……。

 まあ、最後にやらかしたからこないぐらいでいいか。

 本人が現れたわけでもないのに止めたということは話すつもりはないということだしここで終わりでいい。


「はい、今日はウインナー」

「なら私からはソースカツを」


 今更これぐらいでどうこうなる関係ではないから緩いままだ。

 そもそも長く一緒にいる友達でも一つや二つの言えないことがあるのも普通だからだ。


「元気出た? ならよし、午後も頑張りましょう」

「うん、頑張ろう」


 よくないのはアイス欲が再び出てきてしまったことだ。

 とはいえ、ちくりと言葉で刺されたりはしないから放課後に買って空き教室で食べることに決めた。




「あむ、うむ、バナナも悪くない」


 一気に味コンプリートといきたいけどお腹に余裕がないから諦めた。

 雨脚が弱ってきてしまっていることについても同じだ。

 なにができるというわけでもないしずっと雨ならやはりそれはそれで問題が出てくるからね。


「平方先輩、傘を貸してしまったので入れてください」

「ここは教室だよ?」

「はい、だから帰るときでいいので入れてほしいんです」


 朝から降っていたのに傘を忘れてしまう子がいるわけではない。

 また後輩に自由にやられたくない、なんて考えはないけど今日は完全下校時刻までここにいるつもりだから付き合えそうにないと言っておいた。

 まず付き合えないのは彼女の方だけど。


「そもそもなんで貸しちゃったの、弱まってきているとはいってもまだ降っているんだよ?」

「困っていたからですね」

「それで自分が困ることになったらアホちゃんじゃん」

「私には平方先輩という頼れる味方がいますから」


 味方ねえ……。

 それに全く反対の先輩で申し訳なくなったよ。

 関わっているだけでマイナスに……とまでは言いたくないけどプラス要素も少ない。


「この前のことがずっと気になっていたんです」

「ごめんって謝ったじゃん、じゃあもう一回謝るから聞いて」


 今回はしっかり頭を下げて謝らせてもらった。

 これでもまだ言ってくるならもう無理だ、私にできることはなにもない。


「あっ……違いますよ、平方先輩らしくなかったからです」

「あれが素かもよ、こう二人きりになった途端に出していくんだよ」


 だからいまもと伝えたくて近づいたら逃げられなくて困った。

 ここは「な、なにをするつもりですか」という風に反応してくれないと困る、真面目な顔のまま見られていても、うん。


「な、なんで逃げなかったの?」

「逃げる必要がないからです」

「そ、そう……」


 大人しくしておこう……。

 逆に積極的になられても困るから彼女にも横に座ってもらった。


「ちなみになにをするつもりだったんですか?」

「えっと……腕を優しく掴んで引っ張る……的な感じかな」

「この前の私がしようとしたことですね」

「そう、だからやり返してくれることを期待していたんだよ」


 中には自分より下の人間があんな風に対応をしてきたらむかつく人間もいるだろう。

 でも、私のこれは失礼な想像をしているのと変わらない。

 しっかり者の後輩だから可愛い後輩だからとかいつも言っているくせになんにもわかっていないのと同じだったからだ。


「ごめん」

「え、今度はなにに対する謝罪なんですか?」

「いや、うんまあ……細かいことは気にしないでほしい」

「そ、そうですか」


 黙っていたら時間も経過したうえに雨もやんでしまって彼女がここにいる意味もなくなった。

 それでもまだ一時間はあるから残るつもりではいる、だけど帰ろうとしている彼女がいないのが問題なのだ。


「びゃっくしゅっ! うぅ……風邪かも、移したら悪いからもう帰りなよ。あ、傘ももしかしたらまた降ってくるかもしれないし貸してあげるからさ」

「それなら平方先輩こそ早く帰らないと駄目ですよ、いきましょう」


 ああだこうだ言い訳を言って大人しく付いてこないことがわかっているからだ。

 だから今回は躊躇なく腕を掴んで、ではなく運ばれてしまっていた。


「……一応言っておくと気まずかったから傘を貸してでも臼井ちゃんに帰ってもらいたかっただけなんだよ、風邪なんて嘘なんだよ」

「そうなんですか、でも、休むにしても家で休んだ方がいいですからね、このまま平方先輩の家まで運んでしまいますね」


 わー楽でいいやー……。

 とにかく真面目感はよく伝わってきた時間だった。


「すっごく安定感があったよ、ありがとう」

「成美が無理をすることも多いのでこういうことには慣れているんです」

「無理をしちゃうのは臼井ちゃんなんじゃないの?」

「私はそこまで頑張れないので」

「だから上鶴ちゃんに譲って今日もこっちに来てくれたの?」


 もう十分甘えているけどこれ以上は流石に駄目だ。

 いくら私より余裕を持って対応ができるとはいっても流石に限界はある、それもよくわかっていない人間に偉そうに言われたらどうなるのかなんて決まっている。

 舐めているからではない、これは人並みであってほしいという私の願望の押し付けでもある。


「ふふ、駄目ですよ、それで帰ったりしませんよ」

「泣いていい?」

「どうぞ、あ、帰ったりしませんけどね」


 帰ってはくれないらしい。

 それなら涙を出すだけ損だからやめてベッドに突っ伏した。

 この前と違って家だという点は悪くなかった。

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