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237  作者: Nora_
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05

 尿意を感じて目を開けたら目の前に顔があって叫びそうになった。

 ただ、自分の家ならいいけどここは臼井家だ、つまり起こしてしまうことになるからなんとか抑えられた形となる。


「と、トイレ」


 素直にどいてくれるなら困ってはいない。

 仮に興味があるとしても対象が起きた瞬間に慌てて逃げるところではないのか……?


「……寝られないんですか?」

「あ、起こしちゃってごめん」


 うん、今更になって慌てて、しかも私の方の布団に入ってくるのはどうなのか。

 親友には見られたくないのだとしてもこっちに逃げてきてはなにも意味はない。


「少しリビングで話しませんか、コーヒーぐらいなら作りますから」

「わ、わかった、だけどその前にトイレにいかせてもらうね」


 同じベッドで寝ていた由真のことも気にしてほしいけどいまは出るのが一番だ。

 というかね、なにも言わずに寝ているところにくっついてくることの方が一番怖いから逃げたいのもあった。


「ふぅ、漏らすことにならなくてよかったよ」

「誰であっても漏らしそうになったらトイレにいくので大丈夫ですよ」


 うんまあ、ギリギリだったわけではないからね。


「最初は……というか最近まですみませんでした」

「はは、やっと関わり始めるようになっただけだけどね」


 六月になったけど私の方はほとんど変わらない、まだまだ出会ったばかりと言えるレベルだ。

 その短い期間の中で何回も後輩に優秀なところを見せつけられてやられたものの、関係についてはね。


「ただ……平方先輩も悪いんですよ? だって全部自分が悪いことにして進めようとしていたので……」

「実際にこの目で見られたわけじゃないからわからないけど臼井ちゃんと上鶴ちゃんが言い合いをするようになっちゃったら嫌だからだよ、だから守ろうとしてくれたときに好都合だと思ったのさ」


 由真だってそうしてくれた、だからやりやすかった。

 由真が気になっているのに最初からこういう態度だったら変な風に彼女を見てしまうからここも上手い。


「顔が気になって近づいたのは本当のことですしあの子がはっきり言うのもいまに始まったことじゃないので大丈夫でしたけどね」

「はは、なら余計なことだったか」

「それも違います」


 別に腕を掴まなくても嫌なら続けないのに。

 あとこの子、私よりも大きいから顔を見やすいのも今回は悪い方に働いた。

 なんでこんなに暗い顔をするのか。


「やっぱり二人きりがよかった?」

「いえ、我慢ができないところがまだまだ子どもだなと悲しくなったんです。だってこれぐらいの話ならちゃんと寝て起きてからでもいいじゃないですか、なのにまだまだ寝なければいけない時間にわざわざリビングまで相手の人を連れてきてまで……」

「私的にはなにも問題はないけどね」


 今回は無理やりいっただけで普段は真夜中にトイレにいったりはしない。

 そういうのもあって一回起きると寝られない人間なのだ、だから頑張ったところで意味はなかったから寧ろ彼女は助けてくれたぐらいだった。

 とはいえ、こういうマイナス方向に考えているときは言葉を重ねてもあまり意味はないからこれだけにしておく、あとは好きな子がいる子に必死になってもアレなだけだし。


「それ、上鶴ちゃんに?」

「はい、成美は紅茶が好きなので。ただこれは起きてもいないのにいつもの癖で作ってしまったので平方先輩が飲んでください」

「それなら上鶴ちゃんを起こしてくるよ」


 丁度いい、だって部屋に戻ったところで自由にやられても困る。

 なにかしたいのだとしても起きているときにやってほしかった、朝から不健全なことをしている風に考えたくないからだ。


「平方先輩は寝るのが好きなのか好きじゃないのかがわかりません」

「好きだよ、だけど今回は可愛い後輩に頼まれて付いてきただけ」


 先程も考えたように一度起きたら頑張ってもすぐには寝られない、なので解散になってしまったら困るのだ。

 物理的に腕を掴んで止めるのも違うから会話にも積極的に参加をして――なんてね。

 それこそ可愛い後輩達が寝不足状態のまま学校にいかなければならなくなるから付き合わせるわけにはいかなかった。


「さ、歯磨きをして寝ないとね、お喋りならお昼休みとかでもできるんだから」

「「はい」」


 ささっと済ませて部屋へ。

 また自由にやられても困るから仰向けではなく上鶴ちゃんに背を向けて寝転んだ。

 それでもと重ねて目を閉じていたけどやはり寝られないから諦めて天井を見ようと戻した際に手を掴まれて意識を持っていかれる。

 喋ろうとした私にしーと指だけで止めてきてそのまま目を閉じた彼女だけど……。

 結局、甘えたいのか寝ぼけているのかわからなくて寝ることはできなかった。




「ぼげー」


 肉食系みたいな後輩といられない時間がただただ落ち着く。

 あと今日は求めていたように雨が降っている、この心地のいい音がまたそうしたくなる気持ちに拍車をかける。


「灰色ですね」

「それなのになんできみは灰色じゃないの?」


 全て灰色ならなんにも変わったりはしないのに。

 体をちゃんと起こして後輩を見てみてもやはり灰色ではないのが残念だった。


「賑やかでみんなが楽しそうにしているその前に大きな壁があったんだよ、いまで言えばあの壁と向こう側って感じでさ。でもね、その壁は明るい人間には効果がないの、だから由真は何回もこっち側に来られていたんだ」

「それは明るい人達が作った壁じゃなくて平方先輩が勝手に作った壁ですよね」

「そうなのかな」


 最初からあったから私作なのかどうかはわからない、わかっているのはいまも言ったように明るい人間には意味がないということだ。

 もしその通りただ私が拒絶しているだけだったとしても簡単に突破されてしまう、私だって最初からいまのように由真といられていたわけではないからその度に困ってしまったものだ。


「なにが言いたいのかと言うと真夜中のきみがその由真と同じだってことだよ、まさか乗ってきたり手を握ってきたりするとは思わなかった」


 やたらと触れてきた点も似ているから本当にね……。

 問題は困ったりなんで? となるだけで嫌ではないことなのだ。


「あのままだと時間の問題でしたからね、なにもできないまま終わりにはなってほしくなかったからです」

「時間の問題?」

「つまり、あっちもそっちもとやろうとする捺生がずるいという話です」


 物凄く真剣な顔で言っていいことではなかった。


「はは、適当に巻き込まれたらやっていられないでしょ臼井ちゃんも」

「笑い事じゃないですよ」


 あ、またこのパターン。

 後輩達はここぞというところで凄く真剣な顔になったり怖い顔になったりして効率良くこちらを揺さぶってくる。

 つまりいつだって好き放題やられていることになるわけで、本当ならこちらの方がしてやりたいぐらいなのに情けない。

 飄々とした態度で躱していきたいのにいちいち止まってしまうのがもうね……。


「杏梨先輩」

「うん、どうしたの上鶴ちゃん」


 なんとなく、本当になんとなくだけどこの流れで名前で呼んではいけない気がした。


「はぁ……ない、ないですよ」

「ん?」

「優しくしてくれたので平方先輩には言いますけど私、千種先輩が好きなんです」

「な、なんだって?」


 同性が好きなのだとしてもなにも同じ人を好きにならなくてもいいのに。

 学生時代なら周りに女の子は沢山いる、中にはびびっとくる子もいるだろう。

 だというのにこれ、友達だからこそ、親友クラスだからこそなら……。


「これは捺生にも言っていないことです」

「じゃあ顔云々の件は……」

「それもやっぱり本当のことです、ただ受け入れられていてずるい」


 なら私が由真と一緒にいて一番気にしていたのは彼女だったということか。

 なんだこれ、一つの情報だけで変な方向に一気に傾いてしまう。

 というか、もうどれを信じていいのかわからなくなりそうだった。

 怖くなってきて椅子に張り付いていられる時間が最強になった、のは少しの間だけだった。

 何故なら別に誰からも興味を持たれているわけではなかったからだ。

 逃げていたって笑われてしまうだけだ、だって誰も追っていないのに追われている気分になってそれはアホなだけだ。


「由真さん由真さん」

「ん-……」


 一人、夜から朝まで爆睡していたのにどうしてこんなに眠そうなのかがわからない。


「後輩が待っているよ、いってあげなよ」

「杏梨がいるならいく……」

「いくからいこう、寝ている場合じゃないよ」


 臼井ちゃんにだけ集中しておけばいい由真は楽だと思った。

 だけどすぐに捨てる、これはずるいとかそういう風に嫉妬しているのと同じだ。


「あれ、上鶴ちゃんだけ?」

「捺生は女の子に呼ばれて出ていきました」


 タイミングが悪い。


「暇なら付き合ってくれない? 臼井ちゃんの件が終わるまで時間をつぶそうよ」

「そうですね、先に帰る意味もないですからね」


 でも、臼井ちゃんとはどうしていくつもりなのか。

 同じ相手が好きならどうしたってぶつかる羽目になる、周りが不安定になると由真も影響を受けてしまうから悪い方に傾きやすくなってしまう。

 関係ないと逃げるのは楽だけど、いや実際に関われてすらいないから加わる方がおかしいとしても由真が暗い顔をしていることが多くなってしまうぐらいなら私は……。


「あ、臼井ちゃんが戻ってきたよ」


 とかなんとか考えつつ、結局すぐにどうこうはできないのだから帰っておけばよかったと後悔した。


「ああ、待ってくれていたんですか、ありがとうございます」

「それより捺生」

「ああ、今度勉強を教えてほしいって言われただけ」

「そっか、ならよかった」


 な、なにがいいのか、まあ、とにかく帰ろう。

 帰り道、自然と三対一になったから気づかれない範囲で三人を見ていた。

 今日は珍しく由真から話しかけずに二人がどんどんと話しかけていく、対する由真は微妙だ。

 ただ眠たいからではないように見える、肉食系の上鶴ちゃんに本当のところをもうぶつけられて悩んでしまっている……とかだろうか。


「成美、ちょっと止まって。千種先輩、今日はどうしたんですか?」

「それが……」


 ここ最近は他の誰よりも学校では一緒にいたと言ってもいいぐらいだからわかるか。


「お腹が減って仕方がないんだよ、お弁当だってちゃんと食べたのに異様にお腹が……」

「うぇ、じゃ、じゃあなにか変なことをされたとかじゃないんだね?」


 これには急でも参加するしかない。


「うん……」

「でも、なんでそれなら帰ろうとしなかったの?」

「動く元気もないと思ったんだよ……実際は歩いてみたらこの通りだけど……」

「よ、よしっ、それなら家まで運ぶよ」

「うん、その方がいいかも、お願いね……」


 ささっと運んで終わらせよう。

 もちろん、馬鹿ではないからそのまま信じたりはしないからね。 

 そもそもこの件は二人きりにならないとずっと曖昧なままだ。


「ありがと、だけど今日はご飯を食べて大人しくしておくよ」

「うん、また明日ね」

「いっぱい食べてくださいね」


 さて、三人で集まっていても意味はないから帰ろう。


「捺生、言っていなかったけど私は千種先輩が好きなの」


 ここでやらなくてもいいのにっ。

 あ、そうだ、聞かれたくないだろうからと挨拶をして別れようとしたら二人に腕を掴まれて駄目になった。

 肉食系ちゃんからはわかるけど臼井ちゃんからは何故なのか。


「いちいち私に言わなければいけないことじゃないよね」

「そうだけど、ちゃんと言っておかないとなかったことにされちゃうから」

「それなら千種先輩に言わないと、私に言ったってなにも変わらないよ」

「いや、やっぱり捺生に言う必要はあるよ、だって捺生に千種先輩を取られたくないから」


 ここにいなければならないのは由真で私ではない。

 でも、腕を掴むのをやめない、ただ不自然に力が込められたりもしていない。

 はっきり言われた際もそうだった、普通なら長く一緒に過ごしてきた相手が自分の好きな人を好きになったら動揺したっておかしくは……ないよね?

 ここでも大人なところを出してしまっているならそれは危険だ。


「とりあえず……今日は解散にしない? 雨も降りそうだからさ」


 いまの私的には大歓迎だけどね。

 びしょ濡れになって風邪を引いて休みたいぐらいだ、それでママに「杏梨が悪いよね」と言ってもらえたら完璧だ。

 だけど後輩二人が弱るのは違うから避けるしかない。


「そうですね」

「言わなければならないことは言えたので私もそれでいいです」


 ほ、こういうところは本当にありがたい。

 家の場所的にまず上鶴ちゃんを送ってから臼井ちゃんにとなった。

 別れるときも平和、二人きりになったからって崩れることもなくそのままだった。


「すみませんでした、こう……一人だと冷静に対応できそうになかったので帰ってほしくなかったんです」

「やっぱりそうだよね」

「あまりにも唐突でしたからね」


 爆弾発言は一人一回とかではなくて合計で一日に一回だけにしてほしい。

 言いたいことも言えたはずなのに、もう家の前なのに入ろうとしないのは何故なのか。

 あと、いまだって腕を掴まれたままなのも困ってしまう。


「気を付けてくださいね」

「うん、じゃあまた明日」


 今日ほど学校にいきたくないと思った日はない。

 そもそも最初の由真からおかしかった、私も馬鹿だった。


「うわーん」

「ど、どうした?」

「ママが作ってくれたご飯が美味しいから泣いていたの」

「ぼ、棒読みだけど……確かに美味しいな」


 もうこうなったらこの件に関するみんなの発言全てが嘘だったらいいのに。

 そうすればただの友達として仲良くできる……のかどうかはわからないけど少なくとも変なことで争う必要もなくなるのだ、演じる必要もなくなる。


「ごちそうさまでした、お風呂に入ってくるね」

「おう」


 そのママは疲れてしまって休んでいるから後で洗い物とかをしっかりしないと。

 まあ、どんなことになろうと風邪で逃げようとしている場合ではないのは矛盾しているけど確かなことだった。

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