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237  作者: Nora_
3/10

03

 あの言葉だけ吐いて帰ってしまったから結局はなにもないのと同じだった。

 あの二週間が終わってからは追われてもいないから平和だ、悪く考えるなら誰からも興味を持たれない期間とも言える。

 いいのか悪いのかよくわからない点はわざわざ臼井ちゃんが教室に来て由真と盛り上がることだった。

 暇で暇で仕方がない私は一人で過ごせる場所を探しに教室を離れる。

 空き教室なんかは開放されているけどこれだという場所は多分すぐには見つからない。

 勉強をするためにここに来ているだけで休むために存在しているわけではないからだ。

 あとはないとも言い切れない、由真がこちらのことを探したときに疲れずに見つけられるようなところなんて……。


「すぐ近くの空き教室でいいや」


 探すために多く時間を使うことになるぐらいなら、移動するために時間をかけるぐらいならすぐ近くの場所ですぐに寝られた方がいい。

 それにここならトイレにいくついでに見つけることができる、完璧だ。


「こんにちは」

「うん」


 邪魔をしないようにしているだけでこの子が近くにいることは知っている。

 これはこの子が来てくれるかもしれないからとしているわけではないけどね。


「きみもしてみなよ、楽でいいよ」

「そういうわけには」


 嫌いではない、臼井ちゃんよりはいいというだけでそこに大して差はない。

 彼女としてもこちらに興味はない、ただ友達といられないから時間をつぶすためでしかない。


「今週いっぱいまでにしておきます、誘われない限りはもう付いていったりしません」

「そっか、まー私達がいてもいなくてもあの二人は上手くやるからね」

「はい」


 んー年下のこの子がそうやるなら私も変えなければならないか。

 正直に言ってしまえば相手のためになっていないなどと考えてしまいながら心のどこかでは期待してしまっていたようなものだ。

 ふとしたときにあれ、いないとなって動いてくれたら……みたいな汚いことを考えていた自分に別に注意をしたかったわけでもないだろうけど突き刺してきたことになる。

 しっかり椅子を元に戻してから教室に戻る。

 少し見たくなかったこともちゃんと見ていかなければならないということだ。


「うん、やっぱり杏梨は教室にいないとね、寝ていたら完璧だね」

「寝るのは放課後ぐらいだよ」

「うん、私が言っているのは主に放課後のことね。だけどさ、寝ていないと杏梨はちらちらこっちのことを見てくるからねー意外と気になるものなんですよ」

「やだ、私ってば」

「はは、だって杏梨には私ぐらいしかいないからねー」


 うん、どうしようもない。

 授業中は色々な意味で静かだった。

 だけどそれはそれで気持ちが悪くてすぐに寝たいなーとか今日のご飯はなんだろうかーみたいに考えて内を賑やかにしていく。

 真面目モードになったって私だからすぐに限界がくる、ただちょっといまはその限界に達するまでの時間の短さを直視したくなかったからごちゃごちゃにしていくのだ。


「この机の半分は私のだよ」

「うん、食べよ」


 今日はやたらと来る。

 彼女からすればいつも通りの杏梨わたしなのにどうしたのか。

 敢えて臼井ちゃんの敵である私といることで多く来てもらおうとしているのなら別にいいけどそれ以外の理由からならもったいないとしか言いようがない。

 あとはこれ、一度作ってもらわずに出たあの日からママが作ってくれなくなってしまったから自作のお弁当なのも謎に影響した。


「杏梨、今日の放課後にパフェを食べにいこ」

「うん」


 パフェとなると近くのお店で言えば千二百円ぐらいは使うことになるのか。

 でも、いまの私にはいいかもしれない、たまにはお金を使ってスッキリさせたい。


「大丈夫、臼井ちゃんだけじゃなくて上鶴ちゃんも誘っておいたからね」


 と、なっていたところでこれだったから一瞬、止まったけどそれだけだ。


「はは、それだったら二人だけでいけばいいのに」

「これは私が臼井ちゃんといたいからじゃないもん、それじゃあ意味がないよ」


 ならあの子を誘ったのは私のためということ? あのとき否定しなかったからか。

 まあいい、誰がいようとパフェを食べられればなにか変わるはずだ。

 いや、変わってくれないと困る、このままだと自分の気持ち悪さにやられてしまう。


「はい、由真と臼井ちゃんと上鶴ちゃんはそっちね」

「えーなに一人だけ広くなるようにしているの」

「パフェを食べるときはこれじゃなきゃ駄目なんだよ」


 うん、今日も睨まれている。

 同じ物ではなくても注文して魅力的な食べ物が運ばれてきたときも、食べている最中もずっと同じだった。

 正直、目が乾かないのかなとか後でいくらでも付き合うからいまは集中しないともったいないと言いたくて仕方がなかった。


「じゃ、千種先輩は返してもらいますから」

「あはは、うん、お返しします」


 ふぅ、ちくりと言葉で刺してこなくなっただけ変わったのかもしれない。

 それでも楽ではないけど。


「あの」

「早くいかないと二人が離れちゃうよー」

「あれから大して時間も経過していませんが捺生のことよりも気になるんです」


 影響を受けやすい子なのかな、どちらにしても心配になる子だ。


「いいいい、気にしたところでなにも変わらないよ」


 冬でもないからこのまま外にいても風邪を引いたりはしないだろうけど早く帰りなと言って歩き出した。




「ふぅ」


 最近は自動販売機でコーヒーを買って飲むのがお気に入りの行為だった。

 空き教室でもどこでもいいけどベランダに出て遠くを見ながら飲めばそれはもう大人、


「真似をしてみましたけど結構苦いですね、私は紅茶の方が好きです」

「そうだね、紅茶も美味しいよね」


 うん、大人だ、私はずっと冷静でいられる。


「由真に細かく聞いたわけじゃないから知っているなら教えてもらいたいんだけどさ、由真と臼井ちゃんっていつから一緒にいるの?」

「入学式の日からですね、私が知っているのはそれぐらいです」


 ならびびっときたのは本当は由真の方だったかもしれないのか。

 あの子は積極的に手伝ったりするから入学式の日に関われていてもおかしくはない。


「ん-なら上鶴ちゃんが言っていた臼井ちゃんの顔云々の件は嘘ってこと?」

「嘘ではありません、それも本当のことです」

「そっか、教えてくれてありがとう」


 さ、缶を捨てて午後も頑張りますかね。

 結構この前のアレでダメージを受けていたから一切見ないように頑張っている。

 そもそも授業中なら席の場所的に見ることができないから授業の時間が救いだ。


「杏梨っ」


 一切加減せずに歩いてきた勢いのまま両手をついたものだからバン! と大きな音が鳴る。


「ずっと我慢をしていたんだけどもうできないから言うっ、今日は臼井ちゃんが風邪を引いて休んでいるんだよ!」

「早くいってあげなよ」

「でもねっ? なんでか杏梨が無理なら来ないでって言われているのっ」

「じゃあいこう」


 そりゃ睨むだけだと疲れるからね。

 少しだけでも二人きりになれたら言いたいことも言えるということだろう。

 全く謎ではないけど自然と上鶴ちゃんも参加して結局はいつもの面子になった。


「普通にしているだけで風邪を引くことになるとは思いませんでした、すみません」

「謝らなくていいからベッドで寝て」

「その前に平方先輩に言いたいことがあるのでいいですか?」

「わ、わかった、じゃあ上鶴ちゃんに案内をしてもらうよ」


 パジャマか、いちいち着替えるの偉いな。

 というか実際にいたのか、由真だって普通の服を着て寝るだけだから新鮮だ。


「千種先輩と関わるまではあなたのことはどうでもよかった、でも、いまははっきりとあなたが嫌いだと言えます」

「うん」

「理由は私といるときよりも千種先輩が楽しそうだからです」

「うん」


 由真は呆れたような顔でいることが多い。

 ただ彼女からすれば例え呆れたような顔であっても自分から近づいて合わせることが許せないというところか。


「今日来てもらったのは家なら誘わない限り成美がいないからです、なのに……」

「じゃあ連れてきちゃったのは不味かったか」

「そうですよっ」


 彼女が自分から求めたとはいえ、私的にはあの子がいた方が彼女的にも安心できると思ったから止めなかったのだ。


「待った待った、体調が悪いときにそれは不味いって」

「誰のせいだと……」


 じっとしているのを待っているのだと判断して部屋まで抱いて運んだ。

 意外と暴れたりしなかった、ただつねられた。


「お、大きな声が聞こえてきたけど喧嘩でもしちゃったの……?」

「いえ、千種先輩のことで盛り上がっていただけです」

「そ、そっか。あ、でも、上鶴ちゃんと話し合ったんだけど悪化させても嫌だからこれで帰ろうかなって」

「そうですね、悪化云々はともかく移してしまったらあれなので今日のところは」

「うん、元気になったらまた一緒に過ごそうね」


 ここはまだ甘えられないか。

 あの子だけを残して二人で出てきた、割とすぐのところで手を掴まれたから足を止める。

 なにも言わなくても言いたいことはわかったから無理やりやったと答えておいた。


「違うんだよ……」

「違わないから」

「違うんだよっ、正直に言うといつもは素直になれないのに体調が悪いのもあってちょっと苦手な子に強気に対応できずに大人しくお部屋まで運ばれてきて可愛いと思っちゃったんだよ!」


 やばい、友達がおかしくなってしまった。

 しかもしっかり見られていたようで「軽くでもつねったのも最高だよね!」とテンションがどんどんと上がっていく。


「あのさっ、本当は臼井ちゃんが杏梨相手に頑張る方がもっとよくなるんじゃないの!?」

「落ち着いて」

「落ち着けないよ!」


 これ以上は危険だから彼女も家まで運んでおいた。

 この話をママにしたら今回も私が悪いで終わらせてくれたからよかった。




「どう?」

「本当は私の方が風邪を引いていたのかもしれない……」


 呼ばれていってみたらベッドでひっくり返っている由真がいた。

 色々とお世話をしていたら夜になったどころか既に真夜中だ。


「でも……悔しくて勢いでなんとかしようとしたわけじゃないんだよ……本当にそうなった方がより魅力的に見えると――」

「はいはい、治ったらいくらでも聞いてあげるからいまは休んで」


 せめて臼井ちゃんが元気であってくれたなら、それなら最近の私よりも近くにいて調子が悪いことにも気が付けたはずなのにタイミングが悪い。

 あと、同じ教室なのに全くわかってあげられなかったのも問題だった。

 布団は由真母が持ってきてくれたけど寝る気にもならなくてベッドの側面に背を預けてずっと座っていたらすぐに朝になった。


「無理そう?」

「んー……頭が痛いし……寒い……」

「わかった」


 早起きしてくれていた由真母に話をして千種家をあとにする。

 家に着いたらささっとシャワーを済ませて学校へ、なんか食べたい気分ではなかったからこれでいい。


「平方先輩」

「臼井ちゃんか、今日由真は休むって」


 食欲も睡眠欲もない私とかレアすぎる。


「やっぱりそうですか――あ、昨日、少しおかしいように見えたので、はい」

「はは、自分も調子が悪かったのに優しいね」

「優しくなんかありませんよ、結局言わずに、それに近くにもいられていないんですから」


 元々年上らしくもないから言ってしまおう。


「臼井ちゃんが嫌じゃないならいますぐにでも由真のところにいってあげてほしい」


 まあ、休めと言っているようなものだからここでわかったとなるわけがない。

 でも、いまが大事なのだ、ここで動くか動かないかでやりやすさが変わってくる。

 不安定なときほど求めている存在に側にいてもらいたいものだから。


「え」

「実は夜から朝まで一緒に過ごしたんだ、いまのままだと今度困ることにならない? そうでなくても前から一緒にいるんだからさ」


 ごめんよ、だけど今回ほど彼女相手にはこういうキャラでよかったと感じたことはない。


「休んでまでいったりはしません、千種先輩も求めていません」

「でも、放課後も私を――」

「ちゃんと真面目に授業を受けて放課後になったらいきます、失礼します」


 とてもいい顔をしていたな。

 いつものアレでコーヒーを買って飲んだら今日はより甘く感じた。

 教室の方もすぐに登校をしてきた生徒で賑やかになって、なんとなく見てみたけどいつもなら誰かと盛り上がっているところなのに由真はいない。

 朝からしっかりとした後輩に完敗したうえにこれ、何故かまだ眠気も食欲も出てこないからまた内がしんみりとしてしまった。

 ただこれにもいいところがあって、そういうところを直視している間に時間があっという間に経過することだ。

 放課後にもレアな私が出て残ることも寄り道もせずに家に帰った。

 初めて朝以外は誰とも過ごさない日となった、想像よりも悪くはなかった。


「入るぞー」


 家でもすぐに引きこもった結果がこれだけど。


「今度遠出をしよう、それで美味しいご飯でも食べよう」

「いきなりどうしたの?」


 父までおかしくなってしまった。

 いや、こちらのことを考えてくれているのはわかるけどきっとそのことを出したりはしない。

 またあれだ、親からすれば丸わかりというやつなのだ。

 いまは色々な意味で静かなだけでどうせすぐに戻るのにね。


「ん-俺がたまには遠いところにいってスッキリさせたいだけだ。ただ生きているだけでどうしても不満というのは溜まるものだからな」

「それならママと予定を合わせないとね」

「そうだな。とにかく、一日だけでもいいからここから離れてなにも考えずに過ごしたいんだ」


 結局はすぐに出かけられるということで少し元気になった自分がいた。

 大人とは言えないしはっきり言うとまだまだ子どもだけど今回は恥ずかしく感じなかった。

 だって朝の私には勝てないからだ、あれには誰も勝てない。


「うがあ~……」


 顔を合わせることになったら気まずいな。

 今日の放課後ブーストのそれでもうこちらのことなんか一切視界に入れないぐらいの勢いで臼井ちゃんにはやってもらいたいところだった。

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