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237  作者: Nora_
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「馬鹿捺生、なんで帰らないんだよー」

「だって鍵を持っていくわけにもいかないじゃないですか、つまり鍵を閉められない時点で駄目だったんですよ」

「いやほら、こうしてもう起きているんだからさ、いつでも自由に帰れるじゃん?」


 拘束だってしていないし玄関はすぐ目の前と言っていい、なのに帰ろうとしないのはおかしいではないか。


「駄目ですよ、杏梨先輩も同じ気持ちを味わってからがスタートラインなんですから、そもそもしたいことは全くできていないんです」


 自分が嫌な気持ちになったから相手にも味わわせてやりたいって怖い子だ。

 尾行なんかせずに大人しくしていれば見ることもしないで済んだのにこれだからね。


「で、次のしたいことは?」

「先輩呼びをやめること、敬語をやめること、あとは告白ができていません」


 したいことばかりだなー。

 最後はともかく二つはいますぐにでもできることだからやってみるように言ってみた。


「あっ……あ……」

「いや杏梨って呼ぶだけじゃん、自分から言い出したことじゃん」

「だ、黙っていてくださいっ」


 なにを気にしているんだか。

 ただ余計なことを言うと進まなそうだったから黙って待っていたらこのままで三十分ぐらい経過してしまった。


「由真はいまなにをしているのかなー」

「千種先輩はあなたと違って真面目に勉強とかをしているんじゃないですかね」

「あ、やっと喋った、これからも由真のことを出しておけば解決しそうだね」


 煽りたいわけではないけどたかだかこの程度のことで止まっていたら困るのだ。

 また、止まられても困るけど積極的になられすぎても困るという微妙な状態だった。

 だって告白はやらせたくない、動くなら私からだから前の二つだけで疲れてくれたぐらいの方が本当はありがたい。


「そんなことをしたら怒りますよ」

「怖い顔をして無駄ーどうせ名前を呼び捨てにする程度で止まっちゃう子なんだからね」

「杏梨」

「よくできました、はい、休んで休んで」


 怖い顔をしながらも言うことは聞いてくれたからその上に跨る。


「捺生のことが好きだよ」

「どこが好きなんですか?」

「私よりもしっかりしているところだね、あとは基本的に引っ張っていってくれるところかな」


 だからって似たような由真を重ねているとかではないから勘違いしないでもらいたかった。


「あれ、優しいという言葉が聞こえてこなかったんですが?」

「だって捺生は私には結構厳しいからねーそもそも嫌いから始まったんだからさ」

「そ、それでも好きになったんですよね? それなのに今更一部は出さずに告白って……」

「そんなに優しいって言ってもらいたかったの?」

「ま、まあ……小さい頃から『捺生ちゃんは優しいね』と言われて生きてきたので」


 みんなが言ってきてくれていたのなら尚更必要はないだろう。

 誰でも言えるようなことを言うだけなら別に友達のままでよかったのだ、だけどそうではないから特別なことを口にした。


「じゃあ言わない」

「は?」

「うわこわぁ」


 私はもうこれだけで大満足だから下りて寝転ぶ。

 それからじっと見つめていても察してくれなかったから敬語をやめないのと直接聞いた。


「はぁ、お腹が空きました」

「よし、なにか作ってあげるよ」

「いえ、私も手伝います」

「じゃあ一緒にやろう」


 お肉とキャベツがあったから生姜焼きにしてみた。

 ご飯が炊けるまでの間、匂いでどうにかなりそうだったけどグロ動画みたいなことにはならずに済んだ。


「美味しい、作れるようにしておいてよかった、後輩と遊んでいるときに飲食店にばかりお世話になるのもお財布的に現実的じゃないからねー」

「結局、キャベツを切ることしかやらせてもらえませんでした」

「いやすっごく助かったからね? ありがとう」

「……美味しいです」


 初日だから気になるだけでどうせすぐに彼女の方が引っ張っていく側に戻るのだ。

 だからいまは休憩ぐらいに考えてくれればよかった。


「ごちそうさまーっと、よし洗い物!」

「それぐらいはやらせてください」

「じゃあ拭く係をお願い、レッツゴー」


 やばい、この上がり続けているテンションをどうやって抑え込んでいけばいいのか。

 もう寝るという方法には頼れないから他には……落ち着きたいから帰ってほしいなんて言ったところで聞いてもらえないだろうし……。


「うわっ!?」

「ちょっ」

「びしょびしょ……」


 でも、物理的に冷えたことで止まったのはよかった。

 とりあえず被害が出たところをなんとかして洗面所に移動する、着替えは持ってきていないけど自宅だから後で取りにいけばいい。

 素っ裸になる前に後輩が濡れていないかも確認、大丈夫、私だけだ。


「あ、あの……壁に押さえつけられても冷たいだけでさ……?」


 夏だけど一人だけ既に濡れている状態だからその感想しか出てこない。

 まあまだ服を着ている状態だから問題ないと言えば問題もないけど……目が怖いのだ。


「部屋で待っていますね」

「あっ、着替えを取りにいかなければならないから部屋じゃなくて客間の方がいいかな。だって見たいものでもないでしょ」

「どういう……あ……それなら先に取ってきましょうか?」

「い、いやっ、それも恥ずかしいからやめておくよ! じゃ、すぐに出てくるから、うん」

「わ、わかりました」


 やり取りをしていた時間の方が長いぐらいにした。

 変に時間をかければかけるほど戻りづらくなる。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 隣に座らせてもらう。


「ごめんね」

「謝る必要はないですよ、あと勝手であれですけど洗い物もしておきましたから」

「ありがとう」


 寄りかかりたいけど違う気がしたから足を使ってもらうことにした。

 一緒に寝たときとは違って頭も撫でさせてもらって勝手に一人で満たされている。


「杏梨」

「なーに?」


 あ、今度は大丈夫そうだ、これもまた目でわかるものだ。


「……正直、頭を冷やさなければいけなかったのは私なんだよ」

「お、そうなの?」

「うん……」

「ははっ、可愛いやつめー……ぎゅえ!?」


 って、そんなに必死に抱きしめなくたってここは私の家だから逃げたりしないのに。

 あんまり怒らせたくはないけどたまには煽ったりして吐かせていかないと駄目みたいだなあ。


「私も好きなのっ」

「まあ、実際のところは本命が無理になったからだけどね」

「空気が読めない……」

「事実だからしょうがない」


 好きという気持ちが由真を好きだった気持ちに負けていてもよかった。


「大事なのはいまこうして捺生が求めてきてくれていることだからね」

「最初からそれでよかったのに……なんで杏梨ってそうなの?」

「うわ、捺生って敬語をやめると由真になるね」

「話を逸らさないで、これからこのことでトラブルにならないようにしっかり話し合わなきゃ」

「わかったわかった、付き合うからとりあえず力を緩めてね」


 何故なら私の好きという気持ちは勝っているから。

 だから話し合う必要なんて全くないけど満足するまで付き合うことにした。

 真剣な顔でどうのこうのと話している捺生は呆れた顔や怖い顔をしているときよりも遥かによくて、遥かに可愛かった。

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