3時間目 水兵リーベ
「水兵リーベ 僕の船」
オイオイ、今は理科の授業だ。
音楽の授業じゃないんだぞ?
なに歌ってんだよ!
俺の名前は和田洋平。
中学2年生。
今は理科の授業中だ。
俺は今、理科の実験室で水兵リーベさんの歌を聴いている。
それにしても、「僕の船」がどうしたんだろう?
むむ!?
あ、あれは!?
この学校の実験室には、授業を行うスペースの後方に「理科準備室」という部屋がある。
俺が座る席からその理科実験室が見えるのだが、その部屋の中には何やら怪しげな薬品が⋯⋯。
遠くてハッキリとは見えないが、危険な匂いがプンプンとする。
先生の目を盗み、おそるおそる近付いてみる。
瓶詰めされたその薬品にはラベルが貼ってあり、そのラベルは「読めない漢字」と「英語」で記載されている。
どうもきな臭い。
ま、まさか!
これらの薬品は毒薬で、先生は生徒達の毒殺を謀っているのか!?
いや、もう間違いないだろう⋯⋯。
先生の見た目は、ネクラなオタク顔。
いつも髪がボサボサで、目の下にはクマができている。
まるでマッドサイエンティストだ。
マトモな先生ではない。
それにさっきから授業は、リーベさんという水兵の話だ。
おそらく、水兵のリーベさんからもらった毒薬を使って、俺達を毒殺するつもりなのだ!
許せない!!
ここは俺の出番だ!
俺が何とかしなければならない!
クラスメイト達が皆殺しにされるのを防ぎ、先生に自首を促そう。
俺は、大量の薬品を1本ずつチェックして、本物の薬品と毒薬を見分ける。
薬品はそのまま置いておき、毒薬だけを処分するためだ。
ちなみに、毒薬は穴を掘った地面に埋めるつもりだ。
ふぅ⋯⋯。
薬品と毒薬を見分けるのは大変だ。
毒薬を扱う時、注意を怠れば自分が毒に侵されてしまうからだ。
よし⋯⋯。
なんとか終わったぞ⋯⋯。
俺は10本の毒薬を、体育館裏に運び込んだ。
体育館裏には誰も近付かないからな⋯⋯。
こんなに危険なことに、一般生徒を巻き込むわけにはいかない!
地面に穴を掘り、毒薬を流し込む。
なんて毒々しい液体だ。
俺は毒に侵されないように、細心の注意を払いながら作業を進める。
しかし、最後の1本で運悪く毒薬が口に入ってしまった!
「ぐぅああっ!!!」
くっ⋯⋯!
身体が熱い!痺れる!
全身に激痛が走った。
「ふっ⋯⋯俺の人生は⋯⋯ここまでか⋯⋯⋯」
「でも、なんとか穴は塞いだ⋯⋯これで⋯クラスメイト達が毒殺されること⋯⋯ない⋯⋯」
「そう、死ぬのは俺1人だけでいい⋯⋯」
そう言って俺は倒れ込み、静かに目を閉じる。
俺の人生に、1ミリも悔いはない!
「和田くん!!」
「⋯⋯はにゃ!?」
気が付くと、そこは天国ではなく理科の実験室だった。
「実験中に寝るだなんて前代未聞だぞ!」
実験中⋯⋯!?
ふぅ、どうやら夢を見ていたようだ。
この薬品も、生徒を毒殺するための毒薬ではない。
『キーンコーンカーンコーン』
おっと、時間のようだ。
「それでは、今日の授業はここまで」
そう言ってマッドサイエンティストは教室を出て行った。