2時間目 本能寺の変
「なんと明智光秀が織田信長を⋯⋯」
フン!忠実な家臣だった明智光秀が裏切るわけないだろう!
つまらん戯れ言を言うな!
俺の名前は和田洋平。
中学2年生。
今は歴史の授業中だ。
1時間目に妄想の中で不審者を捕らえた俺は、先生のくだらない授業を聞いていた。
全く⋯⋯。
さっきから黙って聞いていれば、織田信長の忠実なる家臣だった明智光秀が、織田信長を裏切って焼き殺したというのだ。
冗談なら顔だけにしていただきたい。
ブサイクな顔しやがって⋯⋯。
おっと、いかんいかん。
いくら俺の顔がイケてるからといって、他人の顔を悪く言うのはイケない。
俺は顔だけでなく心もイケているのだ。
それにしても、「本能寺の変」か⋯⋯。
もしも本当に、明智光秀が織田信長を裏切っていたのなら⋯⋯。
なんて可哀想なんだ⋯⋯。
過去に想いを馳せていると、急に俺の周りが光り始めた。
くっ!まぶしい!!
光が止み、ゆっくりと目を開ける。
「な、なんじゃこりゃあ!!!」
さっきまでここは教室だったはずだが、俺の目の前は轟々と激しく燃えていた。
「な、なにが燃えているんだ!?」
すると、隣で項垂れる人を発見した。
デコが極端に広くて髪を結っている。
服装は袴。
時代にそぐわない見た目から判断して、俺は過去にタイムスリップしたに違いない。
おそらく戦国時代あたりだろう。
炎に向かって歩こうとした俺は何かにスリップして転んでしまった。
ん!?これは⋯⋯血!?
炎で少し明るくなっているとはいえ、夜なのでかなり薄暗い。
断定はできない、したくないが、これはおそらく死体だ。
「明智が信長様を討った!」
驚く間もなく、そんな声が聞こえてきた。
ま、まさか!?
こ、これは⋯⋯「本能寺の変」!?
明智光秀は本当に裏切ったのか!
いやいや、こうしてはいられない。
いち早く織田信長を助け出さないと!
迷っている暇はない。
ハンカチで鼻と口を覆い、全力ダッシュで燃える建物に入って行く。
どこだ!どこにいる!?
「ゴホッゴホッ!!ゴッホゴッホ、ゴッホッホ!」
かなり酷い咳がリズミカルに聞こえた。
「おぉ〜!!信長だ!」
織田信長は苦しそうに咳き込みながら横たわっていた。
「助けに来ました!さぁ、早くここから出ましょう!」
俺は織田信長に肩を貸し、全力ダッシュで脱出した。
「す、すまない⋯⋯」
「誰にやられたんです?もしかして、明智⋯⋯」
「あぁ、そうだ。お主のおかげで助かった。ありがとう」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
「何か褒美を与えねば⋯⋯」
「いえいえ、最新型のゲーム以外に欲しいものはありません」
「さいしんがた?のげーむ?」
「いえいえ、それは気にしないでください。欲しいものもありません」
「で、ではお主の名を聞かせてくれ」
「いえいえ、名乗るほどの者ではありませんよ。俺の名前は和田洋平ですから」
「ワダ⋯⋯ヨウペイ⋯⋯?」
「いえいえ、ようへいです」
「和田洋平!!!」
「はにゃ?」
気が付くと、そこはいつもの教室だった。
信長の姿はなく、ブサイクな先生が俺の顔をギロリと睨みつけていた。
「何をボンヤリとしている!」
ふぅ、どうやらさっきまでの大活躍はただの妄想だったようだ⋯⋯。
『キーンコーンカーンコーン』
おっと、時間のようだ。
「それでは、今日の授業はここまで」
そう言ってブサイクな先生は教室を出て行った。