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落ちこぼれ魔女が紡ぐ幸せの魔法  作者: 神山れい
第四章 魔法は不思議を体現し、人々に寄り添うもの
26/29

1.5

 魔王の手下である竜がモルガン王国を襲撃した日から、三日が経過した。


「……報告どおり、街の被害はなし、か」


 ノアは護衛もつけずに一人で街を見回っていた。兵士達からは既に「被害なし」と報告を受けていたが、自身の目で確かめたかったのだ。

 街は、何事もなかったかのように元通りになっている。竜と戦闘が行われた場所も、本当にここだったかと疑うほど。

 怪我人も一人としていない。住民達が逃げる際に負った傷も。戦いの最中に負った兵士達の傷も。レオやルカの傷も。そして、自身の傷も。あの日、既に綺麗に治っていた。

 ノアは噴水近くのベンチに座り込み、空を見上げる。

 ──アリーシャが最後に放った、あの光。

 人々を包み、街を包んだ光が、すべてを癒し、元に戻したとしか考えられない。

 住民達も、口々にこう言っていた。

『あの光は、アリーシャ様の奇跡の光』だと。

 アリーシャの魔法はこれまでも見てきたが、あれほどの規模のものは初めてだった。

 だからなのか──あの日から三日経った今でも、アリーシャは眠り続けている。


「アリーシャ……」


 街は活気を取り戻しつつあり、日常が戻り始めている。それなのに、アリーシャだけが目を覚まさない。

 ノアは項垂れ、両手を握りしめた。

 息はしている。心臓も動いている。──生きてはいる。脳にダメージがあるとも考えにくく、医者も目覚めない理由が皆目見当がつかないと言っていた。

 魔力が底をついたせいなのか、はたまた別の理由なのか。

 時間を見つけてはアリーシャの部屋へ行き、眠る彼女の手を握る日々。


「ノア様! これ、たくさん摘んできたの! アリーシャ様に、渡してほしいの」


 小さな女児が、大きな花束を手にノアの元へやってきた。アリーシャの髪の色と同じ淡いピンク色の花に、鮮やかなオレンジ色の花。


「ありがとう。アリーシャも喜んでいる」

「アリーシャ様、起きてくれるよね?」

「……ああ、そう信じている」


 花束を受け取ると、女児は手を振って去って行った。

 住民達もアリーシャが眠り続けていることを気にしており、毎日のように誰かがこうして花束を持ってきてくれる。そのため、アリーシャの部屋はたくさんの花で埋め尽くされていた。

 目が覚めたら、きっと驚く。そう、目が覚めれば──。

 ノアは立ち上がり、城へと戻るために歩き始める。手には、女児から受け取った花束を持って。

 敬礼する兵士に軽く頭を下げながら廊下を歩き、アリーシャの部屋へ向かう。

 コンコン、と扉を叩くも、中から返事はない。わかっていても、叩いてしまう。返事があるのではないかと。

 入るぞ、とノアは部屋の中へ入った。

 ベッドで眠るアリーシャの姿は、数時間前と変わらない。アリーシャの傍へ行き、椅子に腰かける。


「今日は、小さな子どもにこのような花束をもらった。アリーシャが目覚めるのを……待っていると」


 眠るアリーシャに見せるように、花束を顔の上に持っていく。


「アリーシャ。街を、国を護ってくれて、ありがとう。大変だったよな」


 花束をアリーシャの近くに置き、彼女の左手にそっと触れた。


「あの光のおかげで、壊されたものは元通りだ。怪我人もいない。だから」


 アリーシャの左手を両手で包み込むと、祈るように額を寄せた。もって行き場のない気持ちに、胸が苦しくなる。


「目を、覚ましてくれ」


 君と話したい。君を、抱きしめたい。

 ぽたりと、白いシーツに雫が落ちた。

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