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落ちこぼれ魔女が紡ぐ幸せの魔法  作者: 神山れい
第二章 魔法の可能性
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 ──翌朝。


「本当にすみませんでした……!」


 気が付けば、朝だった。


「いや、気にしなくていい。疲れていたんだ」


 一向に起きてこないアリーシャを心配して、ノアは夜に一度訪ねてきたそうだ。まったく気付かなかった。どうりで布団がかけられていたわけだ。

 そして、朝。コンコン、と扉を叩く音でようやく目を覚ました。寝ぼけ眼で扉を開けると、そこにはノアが立っていて──急いで湯浴みをし、身支度を整え、今に至る。

 食堂へ向かいアリーシャとノアが席に着くと、次々と朝食が運ばれてきた。焼き立てのパンに、新鮮な野菜のサラダ。あたたかいコーンスープに、半熟の目玉焼き。そこにはベーコンらしきものも添えられている。

 ティンタジェルの村で食べたときも、元の世界にあるような食事ばかりだった。異なることもあれば、同じこともある。世界は違うのに不思議だと思いつつ、アリーシャはスープを口にした。まったりと優しい味が染み渡る。

 おいしい、と今度はパンにバターを塗って食べてみると、サク、とした歯ごたえがあったかと思うと、中はふわふわで非常においしい。バターもまたじゅわりと口の中に広がり、パンの香ばしさを更に引き立てる。


「アリーシャ、おいしそうに食べているところ悪いんだが」

「は、はい。なんでしょう」


 恥ずかしい。顔に出ていたのだろうか。いや、しかし本当においしいのだ。


「昨日言っていた宝石の欠片が届いたんだ。あとで一緒に見に行こう」

「ありがたいですが、もう届いたのですか⁉」

「モルガンでは宝石の加工業が盛んだからな。欠片はいくらでも手に入る」


 元の世界では、宝石はダンジョンにある宝箱からしか取れない。


(だから、明日にと仰っていたのですね)


 そのあと二人は朝食を食べ、食後のコーヒー、紅茶を嗜むと食堂を出た。

 宝石の欠片は大量にあるようで、あまり使われていないかつ広めの部屋に置いてあるとのこと。アリーシャはノアに案内されて廊下を歩いていく。

 それにしても、今はどこを歩いているのだろうか。道を覚えられるのだろうかと頭を悩ませていると、ノアがぴたりと足を止めた。


「ここだ」


 扉を開けると、そこには大きな幅広の長机が用意されており、その上には大量の宝石のかけらが置かれていた。


「す、すごいです。圧巻です」


 アリーシャは長机に近付き、淡い青色をした宝石の欠片を一つ手に取った。歪な形などまったく気にならないほど、キラキラと輝いている。

 ノアも隣にやってきて、アリーシャを同じように宝石を一つ手に取った。


「それで、これをどうするんだ?」

「はい、ここに魔力を込めて、魔法をかけます」

「ああ、そうか。言っていたな、アリーシャの魔法を込めると」


 これに込められるのかと、ノアは持っていた宝石を人差し指を親指で挟み、その間でコロコロと転がす。


「では、一つ試してみましょう」


 アリーシャは手にしていた淡い青色の宝石を握り、魔力を込めた。その瞬間、光が発生し、ノアはあまりの眩しさに目を細めている。


「すごい光だな」


 魔力が込められているとき、宝石は光輝く。つまり、この世界の宝石でも魔力は込められるということ。

 しかし、これは。次第に光は消えていき、アリーシャの眉間に少しだけ皺ができた。


「魔力は込めやすいのですが……それぞれに容量というものがあります。治癒魔法に必要な分の魔力が込められる宝石でなければ、崩れてしまうのです」


 このように、とアリーシャは手を開いた。今し方まで輝いていた宝石は、光を失い、黒石と化して粉々になってしまっている。


「この宝石は、魔力がそこまで必要のない魔法なら込められたのかもしれませんね」

「手探りというわけか。俺が手伝えればいいんだが」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ、これだけあればきっとすぐに見つかります」

「ん……、では、最初に作ったものを俺に試させてほしい」


 ぽかんとしていると「それくらいならできる」とノアは口元を綻ばせた。

 魔法でもなんでも、何かを初めて試すときは自分自身で試してきた。そうでなければ、相手を大変な目に遭わせてしまうかもしれないからだ。

 何より、治癒魔法を込めた宝石を試すとなれば、ノアには何かしらの怪我を負ってもらうことになる。そんなこと、頼めるわけがない。

 ──と、アリーシャが考えていることなど、ノアにはお見通しなのだろう。ふ、と小さく笑い、宝石を持っていない手を自身の胸に当てた。


「傷などいくらでも負ってきた。それに、どんなものでもアリーシャが作ったものなら俺が最初に試したい」

「で、ですが、実際に使ってみないことには何が起きるかなんて」


 そうだ、更に酷い怪我を負う可能性だってある。アリーシャは首を横に振るも、ノアは笑みを崩さない。


「何かあれば、そのときはアリーシャが癒してくれるだろう?」


 もちろんです、とアリーシャは力強く何度も頷く。

 それでも、それでもだ。本当にいいのだろうか。迷っていると、扉をノックする音が響いた。

 ノアの表情は一転し、凛としたものに変わる。


「入れ」

「失礼いたします。ノア様、ルカ様がお呼びです」


 入ってきたのは一人の兵士。敬礼し、ここに来た理由を話す。

 ルカとは、ノアの兄の名だったはず。昨日は留守にしているとの話だったが、戻ってきたのだろうか。

 ノアが「わかった」と短く返事をすると、兵士は再び敬礼し部屋を出て行く。先程までの凛とした表情はどこへやら。ノアは眉間に皺を寄せ、嫌だと言わんばかりの顔をしている。邪魔をされたかのように思ったのかもしれない。


「……少し出てくる」

「い、いってらっしゃい。あ、そうだ。もし後でお時間があればご挨拶に伺いたいので、お伝え願えますか?」

「挨拶……わかった」


 別にいいのに、と呟いた気もしないでもないが、ノアは部屋を出て行った。


「では、ノアが戻ってくるまでに少しでも進めなければ」


 真っ黒になってしまった宝石は机の端に置き、別の宝石を手にする。魔力を込め、少しして宝石の様子を確認し、黒くなっていれば机の端に置いた。

 何度も、何度もその作業を繰り返す。黒くなってしまった宝石の数が増え続けるも、魔力を込めても問題がない宝石も少しずつだが見つかり始めた。

 黒くならずに光り輝く宝石が机の上に並び始める。よかった、と胸を撫で下ろし、別の宝石を手に取った──そのときだった。


「とても綺麗な光ですね」


 すぐ後ろから、声が聞こえたのは。


「ひゃあ⁉」


 集中が途切れ、アリーシャは手に持っていた宝石を落とし、間抜けな叫び声を上げた。

 一体誰なのかと振り向くと、そこにはクリーム色の髪をした、赤い瞳の男性が立っていた。

 身長はノアよりも高く、見るからに筋骨たくましい身体をしている。少したれ目気味の赤い瞳はアリーシャの声に驚いたのか、大きく見開かれていた。


(も、もしかして、この方は)


 顔立ちも、ノアとよく似ている。何より──ノアと同じ、赤い瞳。

 驚きから固まっているアリーシャに近付くと、男性は片膝をついた。


「驚かせてしまって申し訳ない。私はレオ。レオ・マルク・モルガン。この国の第一王子です。はじめまして、アリーシャさん」


 男性──レオは微笑むと、そっとアリーシャの右手を取り、軽く口付けた。

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