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短編

呪うって言ったじゃないですか!

作者: 猫宮蒼



 オーエン伯爵家の令息ドルフの醜聞は社交界に光の矢の如く知れ渡った。

 というか、こうなるんじゃないかなぁ……と薄々思われていたのもあって、一部ではやはりか……なんてしたり顔で頷く者も出る始末であった。


 それは例えるならば危険な猛獣がいるとわかっている檻の中に全裸かつ猛獣の好物を身体に括りつけて突撃するかのような、目に見えてわかる危険というか、まぁお察し案件だったわけだ。

 だからこそ、周囲の貴族たちはまさかやらかさないだろうとも思っていた。


 しかし実際はやらかして、その結果がこうして社交界に広まりオーエン伯爵家はドルフの存在をなかった事にした。要するに、家との縁を切って彼はもううちとは無関係ですよというやつだ。


 流石にそれは薄情じゃあないか? と言う者もいたけれど、正直そうするしか道はなかった。

 跡取りとして育てていたとはいえ、ああなってしまえばもう致命的。

 家の中で飼うにしても、誰も面倒をみたくないと思ってしまった。


 まぁ、オーエン伯爵家じゃなくとも代わりにドルフの面倒を見たい相手がいるか? と聞かれれば可哀そうじゃないかなんて言っている者たちとて立候補はするまい。



 事の発端はといえば、ドルフが一目惚れとやらをしてとある令嬢に婚約を申し込んだ事だろうか。


 ドルフが一途な性質であるなら、その一目惚れをして婚約を申し込んだ令嬢と結ばれていれば何も問題はなかった。けれどもドルフはそもそも恋多きと言うべきか、まぁ様々な令嬢に目移りするタイプだったのである。

 といっても方々に声をかけて浮名を流す、という程ではなかった。


 どちらかといえば友人たちとどこそこのご令嬢が可憐で、だとか、別の家のご令嬢が愛らしくて、だとか。

 劇団のスターにきゃあきゃあいうご令嬢と似たような感じで盛り上がるようなものではあったのだ。ミーハーと言ってしまえばそれまでの話。


 ただ、ご令嬢の場合はあくまでもスター相手にきゃあきゃあ言うだけで、それ以上でも以下でもなかった。中にはもしかしたら秘めた恋心を持つ者もいたかもしれない。けれども口に出しさえしなければ、友人たちとの会話だけではそんなところまでわかるはずもない。


 けれどもドルフたちの場合は、少し違った。

 どこそこのご令嬢と結婚できたなら、という話だとか恋人として付き合えたなら、という割とありそうな想像もしていたのである。

 ご令嬢だってそういう妄想をしたことがないわけではないが、基本はあくまでも自分の脳内だけで完結させていて口に出したりはしなかった。というか、流石にその手の妄想は人に聞かせるのは恥ずかしいという感情の方が強かったとも言う。

 そういった妄想や空想をあえて創作に昇華させて作家デビューをした令嬢もいたようだが、皆が皆そんな令嬢のようにいくわけもない。


 大抵はぼかしていた。恋愛小説を読んで、こんな恋をしてみたいわね、なんて言いながら脳内でがっつり妄想していようとも外に出さなきゃバレないものである。


 ドルフたちはそういった妄想を仲間内で笑い話としてしていたようだが、ともあれドルフはどこそこのご令嬢と付き合えたらこういう事がしたいだとか、あの場所でデートしたいだとか、割と現実みのある想像を披露していた。

 友人たちの中にはとあるご令嬢に片思いをしていて、もしあの人とお付き合いができたなら……というささやかな妄想をする者もいたが、その友人は基本的にそのご令嬢だけが空想対象で他の女の名前なんてこれっぽっちもでてこなかった。

 一途とみるか執念とみるかは人それぞれだ。

 そのご令嬢に迷惑をかけていないうちは、やめろというわけにもいかない。


 そういった特定の相手が出るような話をする者と比べると、ドルフの口から出てくるご令嬢は実に様々であった。目移りが激しいと言ってもいい。


 だからこそ、ルミネ子爵家のアシュリーにドルフが婚約を申し込んだと聞いた時、友人一同は「大丈夫か?」と聞かざるを得なかったのである。


 そもそもルミネ子爵家は、本来ならばもっと上の爵位を賜っていてもおかしくはない家だ。

 ただ、代々家の者に出る特殊な能力のせいであまり権力を持ちすぎると逆によろしくないと言い子爵家であり続けているような家なのである。


 特殊な能力、魔法の力を持って生まれた、と言えば聞こえはいいかもしれないが、物語に出てくるような魔法使いのように魔法が使えるわけでもない。

 ルミネ子爵家の血を引く者たちは、その目に魔を宿していた。

 魔眼である。


 といっても目を合わせただけで石にされるだとか、突然相手の事が好きになってなんでもしたくなるだとか、そういう物騒な力はない。

 何となく目を合わせにくいなと思ったりだとか、目を合わせた途端相手の顔の認識がぼやけるだとか、どっちかといえば敵地に忍び込んだら便利かもしれないな……という能力が大半である。

 とはいえ、それを常に使って城に忍び込んで重要な機密を、だとかの悪事に使ったりはしていない。


 ルミネ子爵は城で定期的に文官たちと目を合わせて何か不正をしていないかチェックだとか、他国から紛れ込んだスパイがいないかチェックだとかをするくらいだ。ルミネ子爵と目を合わせるとなんとなく本音が口から出やすくなるのである。つまり自白。

 スパイを捕えたりした場合は、そのスパイと目を合わせて相手の持つ情報を穏便に吐かせるのも仕事であった。



 そんなルミネ子爵の娘でもあるアシュリーはといえば、父親のような自白させるだとかの力はないが、認識をぼかすというか、ふわっと幻を見せたりすることができた。


 といっても周囲に常に無差別に幻覚を見せるわけにもいかない。普段はきちんと魔眼の力を制御しているので、周囲に何かの被害が及んだ事はなかった。


 たまにお手伝いとしてアシュリーは町医者の所にいって、注射が嫌だと泣く子供相手にふわっと幻を見せて注射が注射じゃなく見えるようにしているくらいしか力を使ってはいない。

 注射ではない別のものに見えている間は針がチクッと刺さってもあまり気にならないらしく、子供たちのギャン泣き率が減っているので定期的に手伝いに来てほしいと頼まれているのだ。


 そもそも一人泣くと待合室で待ってる子供にも伝染して泣き声で大合唱になったりすると付き添いできた親も困り果てるし、泣き声のせいで周囲の言葉が聞こえなくて医者の話が中々聞き取れないなんて事もある、どころか、次に呼ばれた子供が更に火がついたように泣くものだから親が子供の症状を説明したり医者が診察するよと声をかけても泣き声にかき消されて話が進まない。


 流石に毎日手伝いにはいけないが、それでもアシュリーの魔眼の力で病院の平和が若干保たれている。


 ルミネ家の魔眼の力は基本的にコントロールできるものなので、常時発動しっぱなしというわけでもない。


 発動した挙句コントロールができないのは、基本的に魔眼の持ち主の精神がとても不安定になった時だ。


 たとえば、冤罪吹っ掛けられて断罪された時だとか、家族や友人を目の前で殺されたりだとか。

 基本的に温厚な性質の人間が多いルミネ家なので、怒りで頭が真っ白に、だとか目の前が真っ赤に、だとかそういった事態にでもならない限り魔眼の力などそう暴走はしない。


 過去に暴走した一件は流石に今の代の子爵からすれば、いや流石にそれだけやられればそうなりますよとしか言いようがないのだが。

 というか無実の罪で有罪判決とかふざけるなと憤っていい案件だし、流石に目の前で大切な人が殺されれば怒りもしよう。信じていた人に裏切られたりした時だとかもそうだが、逆に言えば誠意をもって付き合っているならそういった事はないし、そこまでされない限りは魔眼の力も暴走はしない。


 何か特殊な力を持っているとはいえ、付き合い方がわかっているなら対処もしやすい。

 故に王家はルミネ家の魔眼の力を有効活用していたのである。まぁ、過去一度冤罪吹っ掛けてるわけだが。



 さて、そんなよっぽどの事をしない限りは温厚であると言われているルミネ家の人間に、ドルフは婚約の申し込みをしたのである。

 アシュリーは最初渋った。


 ドルフは確かに目の覚めるような美形である。

 朝起きて真っ先に彼の顔を見たらもうそれだけで気分が上向きそうなくらいの輝かしい美貌を持っていて、まさに生きる芸術品とか言われるくらいだ。毎日彼の顔を見るだけでも寿命が伸びそうだし、朝からいい気分で一日を過ごせそうだと思える程ではある。


 ただ、アシュリーはそれでも悩んだのだ。


 それだけ素敵な殿方を、果たして他の女性が放っておくなど有り得るだろうか、と。


 アシュリーは基本的には人畜無害である。というかルミネ家の人間は大体そうだし、それは別にルミネ家に限った話でもない。大抵の人間は犯罪者だとかでもない限り基本は無害である。


 ただ、アシュリーは自分が他の家族よりも若干短気なのかもしれないなと思っていたのだ。

 別に、ちょっと気に食わない相手がいるからとて、始末してやろうだとか思うわけではない。


 自分がちょっとイラッとしたような出来事を、しかし他の家族は笑って受け流しているのを見て、もしかして私の心狭いのではないかしら……と思っていたのだ。

 イラッとしたといっても別に顔に出したり不満を口に出したりしたわけではない。だからもしかしたら家族の誰かもアシュリーと同じようにイラついていた可能性はある。

 けれども表面上とてもそうは思えないので、アシュリーはやっぱり自分だけが上手く流せないだけなのかもしれない……と思っていたわけで。



 そうやって自分の人としての器が小さいかもしれないなと思い悩んでいたところに、婚約の申し込みである。


 物語の中から素敵な王子様が飛び出してきた、とか言われても違和感のないドルフの外見は見ているだけで毎日こんな芸術品をタダで見る事ができるとかなんて素晴らしいのかしら、と思える程である。

 だがしかし、同時にこんな素敵な人と結婚したとして、生涯自分だけを愛してくれる人でいてくれるかはわからなかった。ルミネ家は性質上人間関係に余計な亀裂を入れるような真似は避けるが、他の貴族の家なら愛人だとかがいても何もおかしくないのである。


 もし、結婚して早々に自分は飽きられて愛人なんかを作られでもしようものなら。


 きっと、アシュリーは許せない。


 想像しただけでもう駄目だったのだ。それがもし現実になれば自分は何をするかわかったものではなかった。

 いや、何をするか、というのは決まりきっている。きっと感情が爆発して魔眼の力を上手く制御できず裏切ったとされる相手を傷つけるに違いないのだ。


 そうなると確定した未来ではない。

 けれども、もしそうなった時の事を考えるとやめておいた方がいい。

 最初から遠くで見つめるだけの生きた芸術品だと思えば、彼がどのような女性といようともそういうものだと受け入れられる。けれど、夫婦となったならきっとそれすら許せなくなってしまう。


 だったら最初から縁なんてなかったのだという方が余程お互いのためでもあった。


 アシュリーは両親に自らの想いを滔々と語り、なのでこの婚約の申し込みを断って欲しいと告げた。

 両親もアシュリーの気持ちを優先させた。


 もし家の身分がもっと上であったなら、それこそ血筋を絶やしてはならぬとばかりに政略結婚だとかあれこれ面倒なしがらみが増えていた事だろう。けれどもこの目の力を考えれば、下手に家を続かせるのもよろしくない。

 そういった部分も考慮した上で、この家はあえて身分を子爵に留めていた。


 愛のない結婚などしたところで、魔眼の持ち主が日々精神を蝕まれるような暮らしをしていけば、何かの拍子にうっかり力が暴走しないとも限らない。

 故に、積極的に婚姻を結ぶ必要もない、いざとなれば平民に下れるようにと高い地位を望まなかった。


 王家としては利用できる力ではあるので、勿論もっとしっかり縁を繋いでおきたかったが……既に過去やらかした事があるので、今の距離感が精一杯である。とはいえそれで一応上手くやっていけているので、これ以上を望むのは……といったところか。



 ともあれ、そういうわけなので仮に家格が上である家からの婚約の申し込みであってもルミネ家はサクッと断る事が許されている。

 しかしそれでもドルフは諦めなかった。

 そもそも本人の性質が恋多きものである挙句、望めば他に妻にしてほしいと言う女性なんて山といるだろうにそれでもアシュリーを望んだのは、今ドルフが恋焦がれているのがアシュリーである事と、そして断られた事で手に入らないと思われた事、つまりは高嶺の花のような認識になってしまったのも原因だったのかもしれない。


 アシュリーは自分の精神面とドルフの事を思って断ったのに、そのせいで余計にドルフの心に火がついて燃え上がってしまったのである。

 それはもう日々熱烈なアプローチをされる結果となってしまった。


 アシュリーとてそこまで求められれば心が揺れないはずもない。

 けれど、そうやって好きになってもう引き返せなくなってから、恋が冷めてしまえば。

 自分だけが相手を好きなままでいたならば、間違いなく悲劇にしかならない。


 茶会で耳にしたドルフの噂もあって、アシュリーは簡単に首を縦に振る事ができなかったのである。

 令嬢たちがあちらの家の令息が素敵、そちらの家の次期当主様が……なんてきゃっきゃと噂に花を咲かせているように、令息たちも似たような話をしていると耳にした事はある。

 ただ、令嬢たちは自分からぐいぐい近寄ってアピールなどはしていなかったが、令息たちは違う。

 場合によっては自ら行動する事もあるし、更には素敵な女性だと思えば市井の者にまで声をかけているという話も伝え聞いていた。


 そういった噂で、ドルフはよく聞く名であった。


 好きになった相手に一途でずっとその思いが続いている、とかであればアシュリーも悩まなかっただろう。けれど、ドルフは今まで好きになったであろう相手があまりにも多すぎた。

 断ったから余計に燃え上がっているだけで、もしこれでアシュリーが頷いて手に入ったのだと思った時点でその熱はあっさりと冷めるのではないか。どうしたってそんな疑いが消えてくれなかった。



 けれどももう周囲でドルフの熱烈な求愛は広まりすぎてしまって、どうしようもなくなっていた。

 断っても諦めてくれないドルフ。そこまで求められているなら受け入れてしまっては……? なんていう周囲。


 勿論中にはアシュリーの思いを汲んでくれた友人もいるが、そうじゃない周囲など人様の恋愛なんて単なる娯楽だ。アシュリーは万が一の事を考えた上で結論を出したというのに、周囲はそういった部分を無視してくっついてみれば案外うまくやっていけるんじゃないか、なんて言う始末。


 そんな若干無責任な連中に背を押されてか、ドルフはますます勢いを増していた。



 両親を通じてやんわりやんわり断っていたけれど、一向に諦めてくれる様子がない。

 最終的にアシュリー自ら断るしかないのだろうか。そう思ってドルフと話をする機会を設けてもらう。とはいえ、二人きりになるつもりはなかった。

 両家の両親交えての話し合いである。



 魔眼についてはそもそも今更である。知られた話。この国の貴族なら知っている。

 ルミネ家以外にも特殊な能力を持って生まれる者はいたので、そこまで特別な話題でもない。

 そういった特殊な能力持ちの家は余計なごたごたを避けるために政略での結婚はしない方向性であるという事も。



 話し合いの結果、アシュリーは夫婦になるのであれば自分だけを愛してほしいし、愛人とか許せそうにないし、ましてやちょっとの目移りも許せないかもしれない。けれど、ドルフについての話、噂だとかを聞く限りきっとそのうちアシュリーとはうまくいかなくなる。そういった事を話したが、ドルフは今までの事は君に会うための準備みたいなもので、今付き合ってる女性もいないしそういった関係の女性もいないときっぱり言い切った。

 数人親しい女性の友人が市井にいたけれど、そちらも縁を切ると。


 女性と遊んでいたとしても、超えてはいけない一線を超えさえしなければ、と許容していたドルフの両親もあまりの熱意に息子は本気なのだと理解してアシュリーにどうにか考えてやってほしいと頼み込む形となった。


 確かに、どこからどう見ても本気でしかない。

 誰が見ても彼は本気である、と言えるくらいの熱意であった。


 とはいえ、それで何もかも全てを信じていいよ、と言える程アシュリーも無邪気な年頃ではなくなってしまった。いくら好きだと言っていようとも、熱が冷める日はある日突然、なんてこともあり得るのだ。

 もしそうなった時に、お互いに話し合って穏便にお別れができればいいがそうじゃなかったら待ち受けてるのは修羅場である。


 そうなった時、アシュリーが自分を制御できるかは自信がなかった。


 けれどあまりにも熱烈に求められているのもあって、心は揺らぐ一方。


 結果として、保険を掛ける事にした。



 もし自分以外に好きな人ができた場合は、二股かけたりしないで最初にまず別れ話をしてほしい事。

 その場合は婚約破棄ではなく解消、白紙に戻すという事。結婚後であればその時の状況によっては慰謝料を払ってもらうかもしれない、とも。


 まぁ至って普通の願い事である。

 その上で、それを無視してこちらを蔑ろにするような事をした場合、魔眼の力でもってアシュリーが思いつく限りの仕返しをしてしまうかもしれない、と彼女は仄めかすどころかがっつり忠告した。


 そんなアシュリーの言葉を、ドルフのみならず彼の両親も了承した。

 別れるにしても誠意を持って話し合えばいいだけの事だ。難しいものでもない。

 別れる時にアシュリーの事をぼろくそに貶すだとか、ない事ない事悪い噂を吹聴するだとか、そういった事をしないで穏便に別れ話をするのであればアシュリーとて悲しいがやっぱりそういう運命だったのね……と自分を納得させるつもりであった。そんな事態にならない可能性だって勿論あるけれど、それでもどうしたってアシュリーの心から不安は消えなかったのである。


 なので自分を安心させるための保険でもあった。


 別れるならばまずきちんと話をする事。

 そういった事もしないでこちらに対して不誠実な態度を取った場合、魔眼の力でもって呪ってしまうかも……いや、まず間違いなく呪うであろう事。

 そうしたりさせないためにも、お互いが相手の事を思いやる事。


 そう話し合って、お互いそれならば……という合意の元婚約は結ばれる事となった。

 ついでにそれらの話し合いの内容をきちんと書面に認めて契約書も作っておいた。

 契約書に関しては一応形に残しておいた方が良いだろうという双方の意見の一致である。


 オーエン家はうっかりアシュリーが勘違いでドルフを呪ったりした場合を考えての事だったし、ルミネ家は万一ドルフがやらかして呪われた後で文句を言われた時の事を考えてだ。

 お互い相手の家がやらかした時の事を考えてのこと、という点から双方そこまで信用も信頼もしていないのが透けて見えるが、そうならなければいいだけの話である。

 今はまだお互い歩み寄る以前の話ではあるけれど、ゆくゆくは仲良くやっていければいい。そう思っていないわけでもなかったのだ。



 ――だがしかし。


 ドルフはやらかした。


 友人が主催したパーティは、最近忙しく中々会えない友人たちで集まって楽しもうというものと、あとは友人の友人あたりの薄い繋がりだとかから、いい出会いがあればいいな、というもので大規模なものではなく、小さな催しであった。


 たまに話に聞くあいつの友人と仲良くなれそうな気がしてるんだよな、みたいな感じの相手は数名いたし、そういう部分で人脈を広げるのも有りだろう。


 そんな感じの仲間内での小規模なパーティに、ドルフは参加したのである。

 アシュリーはその日別の用事が既に入っていたためにドルフに誘われたけれど断った。アシュリーとしてもそちらに行きたい気持ちはあったけれど、どうしても外せないものだったのだ。具体的には隣国で過ごしていた親戚がやってくると前々から決まっていたので。


 なのでドルフは一人で参加して、久々に会う友人たちと会話を楽しみ、ついでに友人たちが連れてきた相手と交流をし――そこで、出会ってしまったのだ。



 ロレッタ・ディドーラ男爵令嬢に。


 彼女を一目見た瞬間、ドルフの身体はまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

 一瞬息が止まり、次の瞬間には彼女の周囲が鮮やかに色づくかのように見え、そうして脳内ではまるで祝福の鐘が鳴り響くかのような錯覚に見舞われたのである。


 間違いなくあの瞬間ドルフの周囲には見えない天使が舞っていて、福音を鳴らしていたに違いないのだ。


 そう思える程に、衝撃的であった。


 ロレッタは兄に誘われ参加した口である。

 そういった、身内繋がりでとりあえず参加しました、という令嬢は他にもいた。ロレッタはそんな令嬢たちと会話に花を咲かせていたが、喉を潤すために飲み物を取りに行こうと料理の並んだテーブル付近へ移動するところであった。


 ロレッタもまた、ドルフを一目見て世界が煌めいたと確かに感じたのだ。


 まさしく運命の出会い。


 二人はきっとそう答えただろう。


 ただ出会ってしまっただけならまだしも、二人はそこで接近し、周囲に聞かれても困るような話はせずあくまでも穏やかに自己紹介などをして、当たり障りのない話だけをしていた。

 けれどもお互いがお互いを見る目は潤み、頬は知らず紅潮し、どちらを見ても明らかに恋をしているとわかるものであった。


 ロレッタに婚約者はまだいなかったけれど、ドルフにはアシュリーがいる。


 だからこそ、ここで話をしたとして次に繋ぐべきではなかったのだ。

 どうしても次もまた会うつもりであったなら、ドルフはアシュリーに話をするべきだった。


 だがしかし、運命の出会いだと思っていながらもそれでも、ドルフはすぐにアシュリーに話をして婚約を解消する事を躊躇った。


 そもそも決まってから間もない話だ。


 あれだけ熱烈に口説いておきながら、婚約した直後にやっぱ無かったことに、はあまりにもこちらの体裁が悪い。

 自分の体裁を気にしている場合でもないだろうとは思うのだが、あれだけ口説いておきながら……と周囲――とりわけ友人たちに呆れられるのも避けたかったし、下手に噂になるような話題を提供したいとも思っていなかった。


 ドルフは一瞬考えたのだ。

 運命の出会いだとは思うけれど、たまたま浮かれた空気にあてられてそう思い込んでいるだけかもしれない、と。


 何となく友人たちとの楽しい空気の中にいるから、そういう風に思い込んでいるだけではないのか、と。


 けれどもパーティが終わりに近づくにつれ、ロレッタと離れるのが惜しくなった。


 話をした結果、ロレッタが暮らしている家と自分の家はそこまで離れてはいないので、会おうと思えばまた会える。だからこそ、それもあってまた会えないだろうか、とドルフはロレッタにそう言ってロレッタもまたそれを拒否する事はなかった。


 出会いはパーティで浮かれた空気にやられていただけであるならば、次に会った時にはきっとそうはならないだろう。ロレッタの事を魅力的でまさしく運命の出会いだと思っているけれど、二度目に会った時にもそう思えるかはわからない。

 もし違うとなれば、それはそれでとドルフは思っていた。


 アシュリーとの婚約を早まった、と思う部分もあったけれど、しかし早々に婚約を無かったことにするのもまだ判断を下すには早いのではないかと思っていたのである。



 次にロレッタと会った時は、あまり人の多い場所は選ばなかった。

 ドルフに婚約者がいるのは友人たちに知られていたし、その状態でロレッタと二人きりで出歩いているのを見られたらと考えると、人の多い場所ではなく友人たちも足を運ばないような静かな場所がいいだろうと湖の近くを二人で散策した。


 天気は快晴。気温もそれなり。

 時折吹く穏やかな風が心地よい。


 ゆったりと話をしながら歩いているだけであったが、それでも二人の心はとても満たされていた。


 パーティで見たからキラキラ輝いていたのだろうかと思っていたけれど、煌びやかな場所でなくともお互いとても魅力的に見えていたので、やはりこの出会いは運命だったのだとドルフもロレッタも思っていた。


 であるならばさっさとアシュリーには婚約を無かったことにしてほしいと言うべきであったのに、ドルフは言えなかった。

 結婚するならアシュリーではなくロレッタ以外考えられない。既に彼の頭の中ではそう思ってしまっていたけれど、やはりあまりにも早い婚約解消は自分の世間体というか評判に関わるのでは、とも思ってしまったのだ。


 この場にアシュリーがいたならそんな事ないからさっさと解消の手続きの話をして下さいと言っていたはずだが、アシュリーとはまだそこまでお互いを理解してはいなかったのでドルフの頭の中のアシュリーは、あれだけ言っておきながら早々に婚約をなかった事にしようだなんて! と責める姿しか想像できなかったのである。


 そうして挙句に、裏切り者! なんて言い募った挙句呪われるのではないかとも。


 普通に話をしてさっさと解消してればそうはならないのだが、しかし一度悪い方に想像したドルフの中ではそれがまるで事実のように思えてしまっている。

 出会う順番が違っただけで、自分が何故そのような目に遭わなければならないのか。なんて理不尽なんだろう……とドルフの中ではそれが真実のようになりつつあった。理不尽も何も婚約してほしいと散々言い寄ったのはドルフであるにもかかわらずだ。


 しかも下手にロレッタの事が知られてしまえば、アシュリーはロレッタの事も魔眼の力で呪うのではないか……と思えてしまって。


 ドルフはアシュリーの事をロレッタに話し、どうにか婚約を破棄するから少しの間待っていてほしい、なんて言い始めた。

 ロレッタはアシュリーの事をよく知らない。魔眼持ちの一族については聞いているけれど、どういう能力を持っているかだとか詳しくは知らないのだ。

 だからドルフの話だけを聞いて、てっきりアシュリーがその呪いの力をちらつかせてドルフと婚約したのだと思い込んでしまった。


 恋は盲目とは言ったものだが、脳内の現実認識能力もバグっている。


 二人の愛の成就のためには、アシュリーという壁を乗り越えなければならない。


 決してそんな事はないのに、勝手にそういう風に決め打って二人はアシュリーをなんとかしなければ……という妄執に駆られたのである。



 とはいえ、アシュリーをどうにかしようにも、では亡き者にしてしまえなどとなるはずもない。

 そんな事をすれば事態はもっと大変な事になってしまうし、そうなればドルフもロレッタもお互いが結ばれるどころではなくなってしまうのは目に見えていた。

 できるだけアシュリー有責での婚約破棄を狙うにしても、たとえばロレッタを害そうとしただとか、そういうのがあればまだしもわざわざドルフがアシュリーにロレッタを紹介する必要も感じられない。


 というかアシュリーから特に何も言われていないうちから女の知り合いを紹介するとなると、いらぬ疑いが生じかねない。


 結局名案と言えるものは浮かばずに、二人はアシュリーや二人を知る友人たちの目から逃れるように逢瀬を重ねていったのである。

 二人で話をしていくうちに、いずれいい案が浮かぶだろう、なんて考えて。



 二人にとってはお互い秘密の関係のようなものであったわけだが。


 人目を忍ぼうとなんだろうと、知り合いに絶対にバレない、というはずもない。

 二人の関係は友人たちには早々にバレていたし、なんだったらアシュリーにもその話は伝わっていた。


 ドルフの友人たちが直接アシュリーに話をしたわけではない。

 ただ、友人たちの繋がりでドルフとアシュリーに直接繋がる相手がいなくとも、アシュリーの友人と繋がっていた相手はいたし、そこからアシュリーにはこんな噂を聞いたのだけれど……と確認されただけだ。

 その噂を聞いたアシュリーはそれはもう驚いた。


 婚約してほしい、余計な疑いをもたれるのは嫌だから市井にいる女性の知り合いとも縁は切るよ、とかのたまって女性関係クリーンにしたはずのドルフが、早々に女性と二人きりで出かけるだなんてアシュリーだって思わなかったのだ。


 えっ、もしかして釣った魚に餌はやらないとかそういうやつですの……? 婚約できれば後は野となれ山となれ、って事かしら……? とそれはもう困惑した。


 とはいえ、まだ決め付けるのは早い。


 その女性がもしかしたらドルフの親戚とかで、お互いにやましい事は無いと言える関係の可能性もあるからだ。

 流石にアシュリーだって身内だろうと異性との関わりは絶って下さいねなんて言うつもりはない。露骨にどうかと思う距離感でなければ親戚だろうとなんだろうと口を出すつもりはないのだ。


 だからアシュリーは、まだ、まだよ、感情に任せて魔眼の力を使うのは早計よ……と自らを落ち着かせるべく様子を見る事にしたのだが。


 周囲にも大っぴらに言えない秘密の関係というものは、二人をそれはもうメラメラと燃え上がらせでもしたのか最初は人目に付かない場所でデートしていただけのはずだったのに、気付けば当たり前のように街を出歩いているのだ。

 そうなれば周囲で目撃する者も当然増えるし、流れてくる噂もその分増えた。


 もしそちらの方が良い、というのであれば婚約の解消をしてくれた方がアシュリーとしても心の傷はまだ浅い段階で済むのだが、しかしドルフがアシュリーを訪ねて来た際にそういった話になる事はなかった。

 婚約者として、お互いの関係に歩み寄ろうとするべくあれこれ話をしようとアシュリーは試みたものの、婚約する以前に熱烈だったドルフはしかし今はとてもそっけない。態度に露骨に出さないように、とはしているがそれでも明らかに当時の熱量と比べれば冷めているのをアシュリーはしっかり感じ取っていた。


 どうして婚約解消のお話をして下さらないのかしら……と思いつつ、もしかして自分からでは言いにくいのかも、と思って話しやすい状況にしてみようと話題を振ったりもしたのだが、ドルフの口からは婚約に関しての話題が何一つ出てこない。


 まるで恋人にしか見えないくらいイチャついてデートしている二人の噂は、アシュリーの耳にも既に何度も入っている。なのにドルフはアシュリーに対して関係の解消を言い出さない。


 遊び……なのかしら? とアシュリーは困惑するしかない。

 将来の愛人候補、いえでも私そういうのも嫌だって言ったし、将来的にそういうのを作れないなら今のうちに手を出して結婚前に関係を切る……いえそれもそれでどうなのかしら……と考えられそうな可能性をつらつら思い浮かべてみても、どれが正解なのかさっぱりわからなかった。


 アシュリーが気付くはずもない。

 ドルフはアシュリーの落ち度になりそうなものを探して、そうして婚約をアシュリー有責で破棄させようと思っているなどと。

 他に好きな人ができたら、その時は穏便に関係を解消しましょうねと伝えてあるしお互いの家の両親も交えて双方それで合意しているのだから、まさかそんな事を考えているなど思い浮かぶはずもなかった。


 故に内心で不安に思いつつも、アシュリーは婚約者として見るならば文句なしの令嬢であった。落ち度が見つかりようもない。そのせいで内心ドルフが焦っているなど気付くこともなく。



 噂は何もアシュリーの耳に入るだけではない。

 ドルフの両親の耳にだって入っていた。

 しかしドルフはロレッタの事は友人であると何もやましい事はないのだとばかりに言い切ったし、アシュリーに関しての相談に乗ってもらっているのだと言えばそれ以上厳しく聞く事もできなかった。

 アシュリーに関する事をアシュリー本人に相談するわけにもいかない、と言われればまぁ納得できなくもない。たとえば贈り物をしたいけれど、女性目線での意見が欲しいだとか。――まぁこの場合他の女が選んだプレゼントを喜ぶかという疑問と突っ込みが生じるものではあるが、それ以外にもあるのだと言われてしまえば両親とて頭ごなしに叱りつけるわけにもいかず。

 噂で聞こえるロレッタとドルフがいかに恋人然としていようとも、人前で言い逃れもできないような行為をしたわけではない。


 故にドルフの親は、くれぐれも慎みなさいと言うくらいしかできなかった。



 どう考えてもドルフの不貞でドルフ有責で婚約破棄されてもいいような状況になりつつあるのだが、それでも決定的な何かをドルフはまだしていなかった。黒寄りのグレーゾーンという事態を解決させたい相手からすればなんとも面倒な位置である。

 せめて何か一つでも決め手になるようなものがあれば良いのだが、そういったものは中々なかったのである。



 けれど、そうやって周囲に自分たちはやましい事などありませんと言うように堂々と振舞うようになってきたドルフは、やがて最初の頃の人目に触れずひっそりとしていた時の気持ちなどすっかり忘れてしまったのだろう。そうして自分の中でのアウトゾーンだとかここまではセーフという線引きをしていたはずのそれらは、気付けば自分の中ではセーフであるものの周囲から見れば完全アウトである、というところまでやってきていた。



 王城で行われたパーティがあった日の事である。


 この頃にはドルフのアシュリーに対する態度はすっかり冷めきったものになっていて、パーティにだってエスコートはしたけれどいざ会場入りした後は早々に彼女を置いて友人たちの所に挨拶に行ってしまったし、更にその挨拶が終わった後ロレッタの所へ行ってしまったのである。


 流石に堂々とロレッタをエスコートするわけにはいかないとドルフもわかってはいたのだろう。だからこそ会場入りした後、バルコニー付近で落ち合おうと事前に伝えていたのだ。

 そしてロレッタと落ち合ったドルフは、二人でしばし甘やかな会話を楽しみ、周囲が挨拶だとかを済ませて各々がそのまま壁に近い場所で友人たちと語らい始めていたりだとか、音楽に合わせてダンスを踊り始めていたりだとかして周囲にあまり気を向けなくなった頃合いを見て、今なら周囲も自分たちの事など気にしないだろうと思いそっと人に紛れるようにしてホールへ移動し二人寄り添うようにして踊り始めた。


 そして、その光景をもろに目撃されたのである。アシュリーと、その両親、更にはドルフの両親にまで。


 さて、この国に限った話というわけではないが、婚約者がいる場合ファーストダンスは婚約者と踊る事になっている。婚約者が参加できないなどの事情があってその場にいないのであればともかく、いる以上はそう決められている。


 ドルフは友人たちの所で少し長めに挨拶と会話をしていたのもあって、ロレッタはてっきりファーストダンスは済ませてきたのだろうと思っていた。

 しかし実際は違った。アシュリーはすぐさま置いていかれ、ダンスなど踊っていない。

 エスコートしていたはずの婚約者がいきなりいなくなって、困り果てたアシュリーは仕方がないので両親のところへ移動して、そうしてどうしたものかしら……と相談するしかなかったのである。


 そしてそこにオーエン伯爵夫妻がやって来た。おや、息子は一体? なんて問いかければ、アシュリーの口から告げられる事実。

 何てこと……と震える声でドルフの母が嘆くのも当然だろう。


 夫妻は息子の非礼を詫び、アシュリーも別に両親は悪くないと判断していたので会話はそこまでギスギスしていたわけではない。そもそもロレッタとの事に関しても節度を守れ、誠意を示せと常々言っていたのだ。ドルフはそれをわかったと言っていたし、実際無理矢理二人を引き離すような出来事があったわけでもない。いっそ一線を越えていたなら対処も楽だっただろうに。


 あの馬鹿息子、一体どこに行ったんだ……とオーエン伯爵が視線を走らせるも、人が多くすぐに見つかるはずもない。ある者は楽しそうに、ある者は緊張気味に、またある者はすっかり慣れた様子で踊っているけれど、肝心の人物は見当たらない。


「あ」


 最初に気付いたのは、アシュリーだった。

 しれっと周囲に溶け込むように紛れ込んでいたが、アシュリーの目にはそれはもう目立って見えたのである。



 その後は修羅場であった。

 といっても、ドルフとアシュリーが、という意味ではない。

 ドルフとその両親との修羅場である。


 お前は婚約者を放ってファーストダンスも踊っていないのに何でそのお嬢さんと踊ろうとしているんだ、と言われてその声が聞こえた周囲も思わずそちらに目を向ける始末。


 大声で叱責したわけではないけれど、それでも楽しい雰囲気のパーティ会場の中でそんなトゲトゲしい空気が流れれば周囲はおのずとそちらに意識を向けるのは言うまでもない。

 あまり大きな事件にするつもりのないオーエン伯爵は声を抑えていたけれど、それでもどうしたって注目を浴びてしまっていた。


 パーティ自体は楽しいものであるけれど、他人の醜聞ゴシップもまた一種の娯楽である。

 こいつぁ何やら祭りの予感だ、と思った周囲は素晴らしい連携能力でもってそれぞれが視線を合わせ頷いて、そっとオーエン家の親子を遠巻きにするように距離を取り壁になり一連の様子を見守り始めた。


 いい年して大勢の前で親の説教とかいう公開羞恥プレイの洗礼を受けたドルフは、最初はどうにか言い逃れようとしていたけれど実際ファーストダンスは踊っていないので言い逃れも何もあったものではない。会場に来た時点で早々にアシュリーを置いてどこかへ行ってしまうような事をしでかしているので、何を言っても今更である。


 そもそもアシュリーではなくそちらのお嬢さんを選ぶと言うのであれば、何故もっと早くアシュリーとの婚約を解消しなかった、という父の言葉はまさしく正論。

 ドルフの婚約の話は、社交界全体に広まる程の話題性はなかったけれど、それでもある程度の貴族たちは知っていた。


 ドルフからアシュリーを望んだ事を知っている者は大勢いたけれど、もし他に意中の相手ができた場合は穏便に解消しましょう、という話もされていたのだという事をこの場で知った貴族たちの目は、とても胡乱にドルフに向けられた。


 オーエン伯爵も周囲にこれだけ人がいる以上、中途半端な情報開示は事実と異なる噂を流される可能性が高いと踏んで息子に言い聞かせるような口調でもって周囲に二人が婚約した時の話を説明した。


 事情を知らなかった者も、少しは知っていた者も、それらを聞いてドルフに向ける目は余計に残念なものを見る目になっていく。


 婚約の経緯は知らなくても、ドルフが仲睦まじい感じでロレッタと一緒に居る所を見た事がある者はかなりいたのである。

 アシュリーの愛人とか作らないで自分だけを愛してほしいとかそういう部分はまぁ、いかんせん魔眼を持つ一族の娘だし余計な厄介ごとを起こさないためと考えれば言い分もわからなくはない。

 愛情が一瞬で無関心に傾けばまだしも、下手に嫉妬だとかが膨れ上がれば感情を穏やかに保つ事などできなくなるし、そのせいで魔眼の力がおかしな方向に発動すれば周囲に迷惑がかかるのだから。


 自分たちや周囲にそういった力の被害者を作らないためのものと考えれば理解はできる。


 魔眼持ちと知っていても知らなくても、アシュリーが婚約した時の契約はかなり優しいものだと思える。

 自分から望んでおいてやっぱ他に好きな人できたから別れて、なんて言えば普通は顰蹙ものだし下手すりゃ慰謝料が発生しかねない。だが、普通に申告してだから別れてほしい、と言えばアシュリーはすんなり身を引くつもりだったと言われれば、とても優しいと言えるだろう。


 だがしかし、自分を蔑ろにして別れ話もしないまま他の女に現を抜かすようであれば容赦しないというような内容もついてきているわけで。


 まさしく今の状況がそれ。


 事情を知れば知る程、何でやったら駄目って事を人間はそう簡単にやらかすのか……みたいな目がドルフへ向けられていく。視線だけで穴が実際に開くのであれば、今頃ドルフの身体はハチの巣になっていた事だろう。



 ドルフはロレッタに出会った頃に思った事を白状するしかなかった。


 婚約した直後にロレッタに出会い、まさしく運命だと思った事だとかを。


 早々に言ってくれた方が婚約解消して他の相手を探す事もできたのに、ずるずる引っ張ってコレだ。しかも自分を放置してファーストダンスをその女と踊ろうとしていたのだから、これはもう完全に裏切りである。


 一応ロレッタにも知った上での事か確認がされたが、ロレッタはアシュリーの事を直接知るほど親しいわけではなく、噂程度にしか知らない。

 そこに、勝手に拗らせて被害妄想が入りかけていたドルフのアシュリー像が刷り込まれ、ドルフが何を言ってもアシュリーが別れてくれないものなのだと思い込んでいた。


 鵜呑みにしたのもどうかと思うが、それでもロレッタはいずれアシュリーと別れたら自分と結婚してほしいという言葉を信じて待っていただけであった。二人を別れさせるために何らかの工作をしただとか、そういう事は一切ない。



 アシュリーとしてもロレッタの事はそこまで憎いだとか思っていなかった。憎いだとか思う以前に、まずどちら様? という程度にしか知らないのだ。

 そんな事よりも。


「言ったじゃありませんか。最初に。契約までしたのに何故……

 ともあれ、やらないでほしいといった事をやらかしたのです。わかってますわよね!?」


 アシュリーの怒りの矛先は当然ドルフに向くわけで。


 こういった事があるかもしれないから最初にそもそも婚約の申し込みを断ったというのに。

 女の影がちらついていても、何故正直に白状してくれないのか。きちんと正直に話してくれれば自分としてはそこで身を引くつもりだったのに。

 まだそこまで好きになる前で良かった、とか言いながら、それでもきっとその日は寝る前に少しだけ泣いてしまうかもしれないとか思いながらも、それでもいつ好きな人ができたと言われてもいいように心の準備をしていたというのに。


 自分から言えないのであれば、こちらから話を向けるべきかとも思った事だってあった。

 けれどその時ドルフは何もない振りをした。

 だから、噂で聞こえるロレッタの事は何かの間違いなのだろうと信じようとも思ったのだが……


 カッ!! とアシュリーの目が光ったのは一瞬だった。

 それでもまるで稲光のような強い光に周囲は一瞬ではあったものの、思わず驚いたのだ。


「契約に基づいて呪いました。効果は明日から出ると思います。ともあれ、この婚約はなかったことにして下さいまし! そちらの有責で破棄にはいたしませんけれど、二度と私に関わらないでくださいね。

 あぁ、あと呪いに関してはそのうち解けると思いますがいつ解けるかまでは私にもわかりませんわ。こんな強い気持ちで使った事ないので」


 つーんとそっぽを向くようにしてドルフから視線を外し、アシュリーは一足先に帰らせていただくわ、なんて言って去っていった。


 呪った、という点だけを聞けばアシュリーに非難が集中しそうだが、しかしアシュリーは最初にした約束を守っただけだ。少なくともアシュリーに誠実であればこうはならなかった。そうなる道を選んだのはドルフである。


 未来永劫呪うつもりはないようだが、本人にもいつ解けるかわからない呪い。

 効果は明日から出る、と言われて不安はあれど今のところは何ともない。


 だからこそ、ドルフはとても軽く考えてしまっていた。

 この後自らに待ち受けている地獄に気付く事なく。


 ドルフは両親にこっぴどく叱られて――パーティ会場で――お前はもう帰って頭を冷やせと言われてしまった。それなりにいい年して大勢の前で親に怒られるのは確かに恥ずかしいが、ロレッタとの恋に溺れてすっかり頭のネジがすっ飛んでしまったドルフはしかし婚約はなかったことになってアシュリーとはもう関わらなくて良くなったし、婚約は解消で破棄ではない。慰謝料だとかを払う必要もないという事で随分と前向きに考え始めていた。


 周囲に色々知られてしまったのは困ったけれど、それでもこれでロレッタと大手を振って行動できるのだ。


 表向き反省した風を装って、ドルフは先に自宅へ帰る事にした。


 ロレッタもまたその場に残されても周囲の視線が刺さるだけなので、それとなくその場を離脱し――よりにもよってドルフと一緒に彼の自宅へ向かったのである。


 両親も一緒になって帰ろうとしていたら、そんな事許されなかっただろうはずなのに。


 ちなみにロレッタの両親はというと。

 父は仕事で地方に視察に出かけていて、妻はそんな夫と共に行動していたために。

 パーティに参加はしていなかったのである。


 家の者からロレッタの行動を認めた手紙が届けられていても、手紙にそこまで赤裸々に書かれていたわけではないので両親はそこまでおおごとではないと判断してしまった。痛恨のミス。



 故に、恋に溺れ頭のネジをすっ飛ばした二人はこれでもう邪魔な障害はないのだと。

 これでやっと結ばれると信じて手に手をとって新たな門出へ出発したのである。


 ちなみにドルフの両親はやらかした事に対して会場でとにかく謝罪していた。ここできっちりしておかないと、後で迷惑をかけた家一つ一つに出向かなければならないので、当事者野次馬全てそろっているうちにやり切った方がマシだと判断したが故だった。



 一足先に帰ったドルフはロレッタを連れて部屋へこもった。

 家令が困惑した様子を見せていたが、ドルフが問題は解決したんだなんて晴れやかに言った挙句確認しようにも両親はまだ会場でさながら米つきバッタのように頭を下げ回っているところであるし、従者はそもそも会場の中にまで参加していなかった。従者というよりは馬車を動かすので御者とでもいうべきか。アシュリーをエスコートした時はルミネ家へ行きそこからルミネ家の馬車でもって一緒に会場入りしたわけだが、帰りはオーエン家の馬車を使った。


 馬車で待機していた従者は会場で何があったか知らないし、どちらにしてもまだ伯爵夫妻が会場にいるのでもう一度城へ馬車を動かす事になっているので、家にいたメイドや執事も詳しい事情を知りようがなかった。


 余計な邪魔が入らないうちに、とドルフはここでようやくロレッタと愛を確かめる行為に及んだのである。

 結婚前にそんな……とロレッタは一応拒否する姿勢を見せたもののそれはあくまでもポーズで、その後はなんだかんだ流されるようにドルフと身体を重ねた。


 運命の出会いをしたと思っている両者は、会えば会う程思いが募っていってもういつこうなってもおかしくはなかったが、アシュリーとの婚約があるうちは……と我慢していたにすぎないのだ。

 そしてその我慢していた部分がもうしなくていいとなれば、後はお察しである。



 謝罪行脚とも言うべき事を終わらせてぐったりしながらオーエン夫妻が戻って来た時には、もうすっかりヤっちまった後だったのである。

 正直帰ってきてやる事やってぐっすり寝てる二人を叩き起こすべきだったのかもしれないが、夫妻もあまりに疲れ果ててこれからまた更に説教しなければならない、となるととてもじゃないが身体も精神も限界だった。


 なので、明日の朝には特大の雷を落としてやろうと思ってメイドたちにも二人が朝一家を出る可能性も考えてそうなったら止めるようにと伝えてから二人も眠りについた。

 本当は風呂に入るだとかして身体を清めるだとか、ロクに食事もしなかったから少し何か食べたいだとかやりたい事もやっておいた方がいい事も色々あったけれど、疲れ果てて何もしたくないくらいだったのだ。


 もうあとは明日の自分に任せた……とばかりに夫妻はまず眠る事を選んだのだけれど、それもまぁ仕方のない事だろう。



 翌朝、ドルフの怒鳴り声で夫妻は目覚めた。


 夫婦の寝室と息子の部屋はそこそこ離れているのだが、それでも聞こえた声に何事かと飛び起きて身支度をする以前にとにかく駆け付けたのである。

 すると部屋の入口で床にうずくまるように倒れているロレッタと、それを見下ろし尚も怒鳴りつけているドルフの姿が目に入った。


 坊ちゃん落ち着いて、と年若い執事見習いがドルフの動きを封じるように後ろから羽交い絞めにしているけれど、何が起きたのかさっぱりわからない。ロレッタはどうやらドルフに力いっぱい蹴られたらしく、腹のあたりを押さえながらも立ち上がれないくらいの痛みらしく、震えた声で「ドルフ……どうして……?」なんて言っている。その声もかなり弱々しい。


 その間にもドルフは、汚らわしい一体どこから入り込んだ、なんて事を怒鳴っているのである。

 昨晩愛を確かめ合ったはずの恋人に、一転汚物を見る目を向けられて吐き捨てられているロレッタは何がなんだかわからなかった。

 豹変したドルフに恐怖すら感じる。

 幸せな気分で目覚めるはずだった。

 けれど、先に起きたドルフが隣で眠っていたロレッタの腹を蹴ってベッドから叩き落したのである。


 なんだお前! そう叫んでベッドから落として、どうしてここにいる!? なんて高圧的に言われて。


 痛みで起きたロレッタは何がなんだかわからなかった。

 容赦も何もない勢いで蹴られて、痛みで頭が回らない。

 ドルフ……と名を呼べば誰が呼んでいいといった、なんて低い声で言われて。


 今まで自分に向けていた感情とは真逆のものを向けられてロレッタはあまりの恐怖に這いつくばりながらどうにか部屋を出て逃げようとしたのだが、部屋を出た直後で逃げるなロレッタはどこだと叫ばれたのである。


 それに対してロレッタは自分だと言ってもドルフは信じてくれなかった。どうして。一体何故、という気持ちのままそれでもなお本当に自分がロレッタだと言えば、ふざけるなと言われまたも蹴りを食らった。みし、と骨が軋む音がしたのは決して気のせいではないだろう。


 そうこうしているうちに、オーエン家で働く者たちが駆けつけてくれてそれ以上の暴力を受ける事はなかったが、しかし使用人たちも何があったのかわからないままだ。

 ともあれこのままではロレッタがドルフに殺されてしまいそうな勢いだったので、二人を物理的に引き離して違う部屋に押し込んだ。


 そうして夫妻はそれぞれから事情を聞いた。



 ドルフの言い分としては朝起きたら隣で眠っていたはずのロレッタがおらず、かわりにどこの浮浪者かと言いたくなるようなきったねぇおっさんが眠っていたのでロレッタをどうしたのかと問い詰めた、との事。

 あんなのが平然と家の中に入り込むなんて我が家の警備はどうなっている、と憤るドルフに、オーエン伯爵は察した。

 あっ、これがアシュリー嬢の言っていた呪いの効果か……と。


 しかしそれを冷静に指摘したところで今のドルフが聞き入れるかどうか疑わしい。何せ怒りで我を忘れているに等しい状態だ。ともあれ部屋で頭を冷やせと父はドルフを閉じ込めて落ち着くのを待つことにした。


 その間にオーエン夫人に別室に連れていかれたロレッタは、やはり事情を聞かれついでに怪我の手当てをうけていた。幸い骨は折れていないようだったが、蹴られたところがみるみる酷い色になっていて、息をするだけでも痛みを感じる。


 何が何だかわかっていないロレッタに、夫人は恐らくアシュリーの言っていた呪いのせいでしょうね、としか言えなかった。


 アシュリーはロレッタを恨んだりしてはいないけれど、それでも好きか嫌いかを問われれば嫌い寄りの無関心であると言えただろう。だからこうなるかもしれない事を想定したとしても何も言わなかった。いや、そもそも昨夜二人が別々に帰っていればこの事態は避けられたはずだ。そう考えるとあんなことがあったのに二人浮かれて一緒に帰ってきて、事に及んだのがよろしくない。

 とはいえ、嫁入り前の娘に手を出して、なおかつその娘に暴力をふるったのは事実。


 ロレッタが完全な被害者というわけでもないけれど、それでも謝罪する必要は出てくるのだろう……と考えると頭が痛かった。ロレッタの両親は現在仕事で別の地方にいるので、連絡を取るにも時間がかかる。

 このまま家に帰すのも流石に悩む。

 いや、ドルフと一緒にさせておくと、今のドルフの目にはロレッタが浮浪者もかくやというきったねぇ汚っさんに見えるらしいので、危険ではあるのだ。

 けれども家に帰した後で、ドルフがロレッタに会いに彼女の家に出向いた時におっさんにしか見えないロレッタを目にして。

 再びロレッタに何かしでかした犯罪者みたいなものと認識して襲い掛からないとも限らない。


 どちらにしても危険であるけれど、だからといってドルフがロレッタをそうと知らぬうちに殺すような事になるのは避けたい。

 ここにいても家に帰っても危険がある気がするけれど、きみはどうしたい? と伯爵に問われロレッタは言葉に詰まった。


 怖かったのだ。

 本当に、怖かった。


 だってあんな風にみられた事なんてなかった。

 ドルフはいつだって自分に優しくて、あんな、人を人とも思わないような目を向けてくる事なんてなかった。

 声だっていつも優しく語り掛けてくれて。

 あんな、恐ろしい声じゃなかった。


 さっきまでは何が何だかわからなかったけれど、それでも落ち着いて事情を把握し始めたら、今頃になって恐ろしくなって身体が勝手に震え始めた。蹴られたところが痛いだけじゃない。心が痛かった。

 怖くて、この年になってまさか泣くなんて思わなかった。

 昨晩はようやく結ばれたことで嬉しくて涙が零れたけれど、今の涙はそんな素敵なものではなかった。ただただひたすらにドルフが恐ろしい。


 彼はロレッタがロレッタではないと思っているからああいう態度であるのだ。

 ロレッタがロレッタであると正しく認識できればああはならない。

 そう言われても、それでも何も安心できなかった。


 ここにいてもドルフと遭遇すればまたあんな恐ろしい目に遭うかもしれないし、ましてや家に帰ってもドルフが自分に会いに来たとなれば。

 彼の呪いが解けない限りは彼の前に出るわけにいかない。


 カタカタと震えるロレッタに、オーエン夫妻はこの部屋にドルフが入らないよう見張りもつけておくから、落ち着いてゆっくりと考えなさいとだけ言った。


 夫妻からすればロレッタの存在はアシュリーの婚約を邪魔したような存在で、決して良いものではないだろうはずなのに。身分からみても、自分の存在を邪魔だと判断すればきっと簡単に始末できるかもしれないのに。

 それでも、自分を気遣ってくれる夫妻に対して、ロレッタは無意識のうちにごめんなさいと謝り始めていた。


 今更になって、昨日沢山迷惑をかけてしまった事に思い至ったのである。



 使用人が血相変えて夫妻の前に現れたのはそれからすぐの事だった。


 家の中に変なおっさんがいて、しかしロレッタがいない。

 きっと何者かに連れ攫われたに違いないと判断したドルフは閉じ込められていた部屋から抜け出して、どころか屋敷を脱走しロレッタを探しに行ってしまった、というのが使用人の報告だった。


 まずロレッタの家に向かった可能性が高く、オーエン伯爵は馬を使ってロレッタの家に事情を説明するように伝える。ロレッタの両親が家にいなくとも、使用人たち――といっても三名程度なのだが――に事情説明しておかないと、ロレッタが何者かに誘拐されたなんてドルフが言い出したら余計な混乱が生じかねない。


 それでなくとも昨日の今日だ。

 昨日の醜聞はいくら夫妻が頭を下げて回ったところでまぁ広まるだろう事は目に見えている。

 パーティを中止に追い込む程の事ではなかったけれど、それでも醜聞は醜聞だ。


 さらにそこに燃料投下するような出来事を翌日にやらかすなど、考えただけでも精神がごっそり削られるものでしかない。ロレッタの家に事情を説明しに行く者の他に、とにかくドルフを探して捕まえるための人手も用意しなければならなくなって、オーエン家は途端に上も下も大騒ぎになったのである。



 ……ドルフが見つかったのは、あまり治安のよろしくない所謂スラムと呼ばれてそうなところだった。


 と、これだけ聞けば彼が何やら犯罪に巻き込まれるかして無残な結果になったのだと想像されそうだが、実際は無事である。

 ……五体満足という意味では。


 ドルフはそんな治安もあまりよろしくないごみ溜めみたいな場所にいた浮浪者のおっさんに襲い掛かっていたのである。


 襲い掛かっていた、といってもおっさんに見えていたロレッタに対するようなものではない。

 逆だ。


「あぁロレッタ! どうしてこんな場所に! 大丈夫かい!? 怪我はしていないかな!? あぁもうとにかく無事でよかったよさぁ早く安全なところに行こうじゃないか」

「うぉお!? 誰だおめぇ、オラはロレッタなんて名前じゃねぇ、おい馬鹿やめろ離せ抱き着くんでねぇ、あっ、あーっ!」


 多分そこらにおちてた小銭を拾い集めるだとか、もしくはどこぞの誰かからスッたであろう財布からか、ともあれ安酒を手に入れた男はとっくに空き瓶になったそれを片手に赤ら顔でひっくと典型的な酔っ払い状態だったというのに、突然現れた男――自分より年下であろう相手である――に突然言い寄られ、まるで宝物を扱うかのような手つきでそっと空き瓶を持っていない方の手を取られ、熱のこもった目を向けられて挙句抱き着かれ更にはキスまでされて。


 まぁ悲鳴を上げるなという方が無理である。


 いくらお顔はお綺麗であろうとも野郎は野郎。

 いっそ男でも……げへへ、とか言えるような相手であればまだしも、この浮浪者のおっさんはそれなりにマトモな感性を持ち合わせていた。


 家もないから適当にそこらから集めてきた廃材でどうにか雨風凌げそうな場所を作ってそこをねぐらにしているような男だ。正直ロクに身体を洗ったりできる環境でもなく、頭はすっかりボサボサで脂ぎっているし、フケもある。ヒゲだって伸び放題で整えてもいないから、どうしたって漂う不潔感。

 そもそも風呂にろくに入れない生活のせいで、自分の身体から悪臭が漂ってるだろう事も男はわかっているのだ。とっくに自分の鼻は慣れたというか麻痺しているようなので気にならないが。

 自分の周囲をハエがぶんぶん飛び交ってないだけマシだが、正直それも時間の問題である。



 そこそこ綺麗な場所で暮らしている住人が男を見れば間違いなく眉をひそめ顔をしかめ関わろうとせず距離を取るだろう事はわかっているのだ。


 汗と垢と脂と酒の匂いが混じってさぞ酷いことになっているだろうはずなのに、キラキラした美貌の男はそんなのお構いなしに男に口づけを繰り返す。


 一体誰と間違えているんだと男は疑問に思ったが、そんな事より割と渾身の力で遠ざけようとしているのにそれ以上の力でもって綺麗な面をした野郎はぐいぐいやってくる。

 やっぱロクに飯食ってないから力が出ないのかなぁ、なんて思うも、しかしそれにしたって勢いが違う。

 これが……若さ、とか思っている間にまたもや唇が落とされた。


 まだ深いのまでされていないけど、このままでは時間の問題ではなかろうか。

 正直食生活はロクでもないし風呂も入れてないし、歯磨きだってほとんどしてないので万一そんな深いキスなんぞしようものなら酷いことになりそうではあるが、なんだか時間の問題な気がしてきた。

 一刻も早く離れたい。

 確かに綺麗なツラをしているけれど、自分が好きなのは若くて綺麗なねぇちゃんだ。乳尻太ももの柔らかいお姉さんなのである。乳尻太ももがそれなりに固い挙句足と足の間に自分と同じものがぶら下がってる野郎はお呼びではないのだ。


 ところが何を言おうとも全くこの男、話を聞いちゃくれないのである。

 人違いだと訴えてもはは、と軽く笑って流される。怖い。ロクでもない人生を送ってきた男ではあるが、今までに感じたものとは別種の恐怖に見舞われていた。


 オラは……ロレッタだった……?


 そんな風に思い始めたあたりで、ようやくドルフを見つけた使用人が回収しようとしたのである。


 ところが。


 ロレッタともう離れたりはしないぞ、とばかりにドルフの抵抗は酷かった。

 ロレッタと離れるくらいならいっそ二人で死んでやる! とまで叫ばれて、男は「えぇえオラも死ぬの……!?」と大層困惑した。

 完全なるとばっちりである。

 そもそもドルフを引き離そうとしても男の力をもってしてもびくともしなかった。怖い。体格は男の方ががっしりしているはずだし、いくらマトモに飯を食っていないといっても力がないわけじゃない。それなのに、自分より圧倒的に細身のドルフがびくともしてくれないのである。


 ドルフの目は相変わらず熱に浮かされたように男を見るし、なんだったら昨日の続きを後でたっぷりしようね……なんてどろどろに煮溶かした蜂蜜みたいな声で言われ、男は全身にサブイボが出るのを感じたほどだ。


 昨日とか酒飲んで酔っ払ってそこらで転がって寝てましたが……!? なんて言ったとしても多分聞いてくれない。


 というか、本気で本当に恋人に言うような甘ったるいセリフが飛び出るし、何かそういう行為を想像させるような事も言っている。


 えっ、ちょっとまってこのまま自分はロレッタとやらのかわりをさせられてしまうのか……!?

 どう考えてもツラの綺麗さ度合からして、仮にそういう行為を同性同士でやるにしたってお前が突っ込まれる方でこっちがぶち込む方では? いやそんなつもりはないけれども。男はいくら綺麗なツラをしていようとも、ドルフをそういう対象として見る事などできなかった。女性ならまだしもどう見たって野郎なので。

 このままでは自分の貞操が危うい事を察した男は、本気で抵抗し始めたけれどドルフはそれを全く意に介していなかった。


 どうにかドルフを正気に返そうとしている使用人たちもあまりの手強さに、どうしたものかとお互い相談し始める始末。男もそこに交ざりたかったが、がっしり捕まっているせいで離れられない。怖い。人生で初めてのか細い声が出た。怖い。助けてかあちゃん、ととうの昔にこの世にいない母親に救いを求める始末。

 落ちぶれるところまで落ちぶれて、もう人生で怖いものなんてねぇや、とか思っていたけれどそんな事はなかった。ただひたすらに怖い。

 見て震えが止まらないの……! と言いたくなるくらいだった。

 可哀そうに震えているね、寒いのかな? とか言ってドルフがぴったり密着してくる。

 震えの原因に抱き着かれても震えが一層酷くなるだけである。怖い。


 なりふり構わず暴れてどうにかドルフを引き離そうにも、がっしり抑え込まれてしまって無理だった。


 いい年してそろそろ本気で泣きそうになった男であったが、ドルフの両親が到着した事でギャン泣きは回避できた。


 目の前の光景に、ドルフの両親は隠す事なくドン引いていた。


 どこからどう見てもロレッタではないどころか、むしろきったねぇおっさんに愛を囁く我が息子を見た時の両親の気持ちはきっと誰にも理解できないだろう。



 ――幻想。幻覚。

 実際はどうであれドルフがアシュリーの魔眼によって呪われた効果はそれだった。

 素直に他に好きな人ができたからお別れしたいと言えばこんなことにはならなかったはずなのに、しかし自分が悪いと認めたくないドルフは一番選んではいけない道を選んでしまった。

 契約までしておきながら、その契約を破ったのだ。だからこそアシュリーは裏切られたという思いも込めて魔眼の力を開放した。それも心の赴くままに。注射を注射に見えないようにするくらいのふわっとしたものならともかく、ロレッタを全くの別人――それも普段のドルフなら間違いなく露骨に嫌なもん見たとばかりに顔に出しそうなおっさん――に見せ、その逆に浮浪者のきったねぇおっさんがロレッタに見えるという魔眼の効果は、とてもいやではあるけれど、ドルフ本人の命を直接奪うようなものではない。


 それに、婚約をあくまでも解消したとはいえ、やらかした結果だ。

 慰謝料も何もいらぬ、ただ解消して最初からなかったことに、というやらかしてもこちらに有利にしか思えなかったあの契約を受け入れたのはドルフだけではない。

 まさかドルフがやらかすなんて信じていなかったオーエン夫妻は、家が傾こうともこれなら最初から慰謝料を払った方がマシだったのではと思い始めた。

 それか、婚約の申し込みをして断られた時点で何が何でもドルフを諦めさせるべきだったのだ。


 万一関係が破綻しても、アシュリーの魔眼の力についてはそこまで脅威と思っていなかった。

 普段の力の使い方のせいもあるのだろうけれど、そもそもルミネ家は悪事に魔眼を使うような事はしないと王家と約束している。持てる者の義務、というわけではないが力を悪用すればいずれは一族郎党皆殺しの可能性に辿り着くが故に、正常時には決して自分の都合だけで悪用はしないという契約がされている。


 なので、契約を破っただとか、はたまた己の精神が平静を保てない状況下でない限りは周囲にむやみやたらと被害が、なんてことはないのである。

 契約は単なる契約ではなく魔法契約なので破ればルミネ家側に契約違反のペナルティが発動する。


 とんでもねぇ呪い状態になってるドルフではあるけれど、元はと言えばドルフがアシュリーとの婚約時の契約を守らなかったのが原因だ。

 婚約したばかりでやっぱやーめた、は世間体が悪いし……なんて言ってる場合じゃなかったのだ。


 そもそもドルフが恋多き……というか色んな女の人に目移りしていた事は周囲もわかっていた。だからこそ、仮に早々に婚約を解消していたとしても周囲だって「やっぱりな」で終わるはずだったのだ。

 ただ、その周囲の認識をドルフだけが理解していなかった。早々に解消していたとしてもドルフの世間体だとかは別に悪くなりようがなかったのである。


 けれどもドルフはそんな事にも気付けずに、自ら地獄を引き寄せた。


 部屋に監禁されたドルフは、ロレッタに会わせろと狂ったようにドアを叩いて抗議しているが、出せるはずもない。


 どうにか浮浪者の男から引き剥がして回収したけれど、ドルフの呪いが解けるまでこの調子であるならばうっかり外に出したらまた同じことの繰り返しである。


 ロレッタは速やかに別の場所に移動させた。ロレッタの両親が今現在自宅にいなかろうとも、自宅に帰すという選択肢は確かにあった。けれど何かの拍子にドルフが脱走した場合を考えると、やはり危険なのである。

 ロレッタは今現在ドルフの目にはきったねぇおっさんに見えているので。

 愛する女性がいると思った家にいかにもな浮浪者のおっさんがいるとなれば、ロレッタに何かをしでかそうとした狼藉者と思い込んでドルフが再び攻撃しかねない。

 手加減も何もなしの暴力をロレッタが再び受けてしまえば、最悪死ぬ可能性も出てくる。


 婚約者がいるにも関わらずそんな男と一緒になろうとしていた女だ。

 既に世間体を考えると彼女の未来は輝かしいとは到底言えない。

 けれども、ドルフがいずれアシュリーとの関係を解消するから、だとか言われていたのだ。

 ロレッタはドルフからいかにアシュリーが嫌な女かを聞かされて、だから婚約の解消ではなく破棄にしようと思っているなんて話を愚かにも信じてしまっただけだ。


 その話の内容がドルフの思い込みであったとしても。



 下手に自宅にも戻せないから、一時的な保護という形で用意した家に現在ロレッタはいる。


 とはいえ……仮に、ドルフにかけられた魔眼の効果が消えたとして。

 果たして以前のようにロレッタがドルフと接する事ができるかは……とても微妙なところだった。


 ロレッタがロレッタとしてドルフが認識しているなら、以前のような優しいままだろう。

 けれど、もしまた何かの拍子に……たとえば小さなことが積み重なって、切っ掛けはとてもしょうもないものでも喧嘩になって引くに引けない状況になってしまったその時に。


 もしまた今回のようにドルフがロレッタに暴力をふるうのであれば。


 そんなものはただの想像であるのだけれど、それでも有り得ない未来ではない。

 身分はそこまで高くないとはいえ、それでもロレッタは貴族の令嬢である。

 遠慮も何もない男の暴力をその身に受ける事などなかった。身分がもう少し上で、政敵からの嫌がらせだとかで狙われるようなのが当たり前であったなら他人の悪意にももう少し敏感になっていただろうし、そうなった時の心構えなどもしてあったかもしれない。


 けれども男爵家の生まれであるロレッタに、そんな高位貴族に生まれた令嬢と同じような覚悟などあるはずがなかったのだ。


 今まではドルフの事を思うだけで幸せな気持ちになれた。

 アシュリーとの婚約があった時は、少しばかりの苦しさもあったけれど、それでも幸せだった。未来を信じていた。


 だが今となっては、ドルフの事を思い出そうとするとロレッタをロレッタと認識できずに汚物でも見るような目を向けて平然と暴力をふるってきた時の事しか浮かばないのだ。

 それが怖くて怖くてどうしようもなかった。



 もし、ドルフの呪いが解けたとしても。


 二人が以前のような関係に戻る事はないだろう。



 オーエン伯爵が息子ドルフの事を我が家にはそんな息子は最初からいなかった、としたのはそれからすぐの事だった。

 ドアを叩いてどうにか部屋を脱出しようとしていたドルフは使用人が食事を持ってきた時に部屋を脱走しようとしたようだがそれに失敗、その後は大人しくしているかと思ったが深夜に部屋の窓を叩き割りそこから闇夜に紛れる形で飛び出した。


 窓が割れる音で家令が様子を見に来た時には事前に準備していたのだろう。シーツをロープ状にしたものが垂れ下がっていて、夜の闇のせいでドルフの姿は夜風の吹きすさぶ室内から見ても全くわからなかったのである。


 慌てて主人を叩き起こす事になった家令に、オーエン伯爵もげっそりとした様子で着替え、再び息子を捜索したのだ。



 見つかったのは早朝。

 やはりスラムに近い場所で、浮浪者のおっさんが捕まっていた。

 一度ならず二度までもドルフに捕まってしまったおっさんの表情は死んでいたし、ドルフは恍惚の笑みを浮かべていた。


 オーエン伯爵は平民の中でも最下層に位置してそうな浮浪者のおっさんにとても同情した。

 おっさんがただでさえロクな生活もできてなさそうなのに、そこから更なる不幸に見舞われている原因はオーエン伯爵の息子であるのだが、それにしたってあまりにも可哀そう。


 なんでだよぅ、もうオイラ真っ当に生きていこうって誓ってこれから少しずつでも頑張ろうと思ってたのに……やっぱ世の中クソだぁ……


 と両手で顔を覆ってしくしく泣き始めたおっさんに、オーエン伯爵も泣きたくなった。

 乙女のようにしくしく泣くおっさんの肩を抱いて慰めているドルフだが、お前が元凶である。


 正直な話、ドルフの呪いがいつ解けるかはわからない。

 解けるまでずっとおっさんはドルフの被害者のままだ。

 それに、もし呪いが解けたなら。

 その時ドルフの目にはロレッタだと思っていた相手がおっさんであると知るわけで。


 今まで散々ロレッタだと思ってイチャイチャしていた相手がおっさんだったと理解したのであれば。


 多分、正気は保ってられないだろうなぁ……と確信する。これでも父親なので息子の事はなんとなくわかる。仮に自分が息子の立場であったなら、間違いなく正気に戻った途端死にたくなってるし死んでるかもしれない。


 現状最愛のロレッタだと思って他の女に現を抜かしてしまった、とかであればまだしも、ロレッタとは似ても似つかないおっさんである。女性と見紛うばかりの美貌の持ち主の男性であるとかならまだしも、どう見たって女に見えるはずのないおっさんである。


 今後の事を考えた結果。

 きっともう息子が戻ってくる事はない。

 呪いが解けても、その直後に今度は発狂する可能性がとても高い。


「すまない。一つ仕事を頼みたいのだが」


 だからこそ、伯爵は浮浪者のおっさんに話を持ち掛けたのである。



 何のことはない。

 市井に家を用意するからドルフの面倒を見てほしいというだけのものだ。

 ドルフがおっさんの事をロレッタだと思っている間世話をしてくれるのであれば、その間の費用はこちらが持つと言えばマトモに住む場所もないようなおっさんからすれば突然舞い込んできた旨味たっぷりの仕事である。

 ドルフの呪いがいつ解けるかはわからない。


 けれども、もし呪いが解けたその時に。


 もし、正気を保っていられないようであれば。


 一思いに楽にしてやってほしい。


 そんな最終的に人殺しを頼まれたおっさんも、思わず動揺した。

 あんた、こいつの父親だろう!? と。

 けれどもその父親に今の状況、今後の事を語られれば、おっさんの目はどんどん死んでいく。


 やらかした結果おっさんの事が最愛の美少女に見えてると言われて、あぁ、ロレッタってそういう……と嫌な理解をしてしまったのである。


 最早貴族としての復活も無理だろうと父に思われ、それならいっそ幻想の中で幸せに暮らし、呪いが解けた時に正気でいられないようならトドメを刺してやった方がいい。慈悲だと言われ、おっさんは不憫な眼差しをドルフへ向ける。


 もし呪いが解けたとして、ロレッタだと思っていた人物がおっさんだったと知って直後に逆上して襲い掛かってくる可能性は低いだろうけれど、危険を感じたらすぐさま行動に移っても構わない。

 たとえ、呪いが解けていない場合でも。


 ドルフが生きている間だけは仕事として費用もこちらが出すと言っていたので、呪いが長引いてそこそこの年数経過するなら男もこの仕事が終わった後多少の蓄えは作れるだろう。無関係のおっさんであったはずが、意中の娘に見えているせいでとばっちり。費用は出す、の言葉に迷惑料も含まれているというニュアンスも感じ取れて、どのみち断ったとしてもドルフはおっさんに付きまとうのが明らかで。


 だからこそ、おっさんは色んな意味で真っ黒な仕事を引き受けるしかなかったのである。



 オーエン家からドルフが縁を切られたという話は、故に社交界に広まった。


 浮浪者だった男と暮らしている事も。

 噂の真偽を確かめようとした者も中にはいた。


 結果として噂はさらに広まる形となる。


 貴族ではなくなって平民になったドルフが、幻想の中とはいえ幸せそうだったので。



 彼の地獄の蓋は、まだ開かない。

 ロレッタはしばらくは家の中に引きこもったままだけど、あちこち遊び歩いていた兄がようやく事態を把握して迎えに来てもらいつつ、両親の所に行く事になる。物理的にドルフと距離を取る事ができたとはいえ、しかし自分にとても優しかったドルフの豹変っぷりがトラウマになり、男性恐怖症を患う。兄や父もふとした瞬間恐ろしく感じるようになって、最終的に修道院へ行く事になった。

 修道院も男性が全くいないわけではないけれど、それでも普通にそこらの町や村で生活するよりはマシ。神様は私に乱暴しない、という理由で一生涯神に仕える身となった。


 アシュリーはほらやっぱ言わんこっちゃない、とばかりにほんのり抱いていた恋心に終止符を打った後、町医者のところで注射を怖がるお子様たちに幻覚を見せて注射が知らんうちに終わった! と喜んでるお子様たちを微笑ましく見守る方向性にシフトした。魔眼のせいだとも知らず注射を克服したと思ってるちびっ子たちは可愛いですわね……とどっかおかしな方向に癒しを求め始める。

 恋とか当分こりごりだと思ってるので、結婚するかどうかは今後の出会いによる。




 どすけべコンテンツに出てきそうなきったねぇおっさんが可哀そうな目に遭う話を書こうとか思った結果がこちらとなります。なんでそんな事思っちゃったんだろうね? これ書いた時の自分の精神状況がわからないよ(´・ω・`)

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― 新着の感想 ―
[一言] オッサン、多分これから真面目に生活してればロレッタと間違える相手の条件から外れるのもそう遠くないはずだから……
[一言] 私は(最終的におっさんと真実の愛!に目覚めても)いいと思う 何年もロゼッタとして愛されてたら絆されるかもしれないじゃない!
[一言] ただひたすらに、おっさんが可哀想 結局ドルフが一番好きなのは己自身なイメージがありましたね。 誰かが好きって言うより、誰かを熱烈に好いてる自分が好きで酔ってる感じ。相手の言い分はマトモに聞…
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