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第三話 勘違いかもしれない。けれど……

「なんだか、昔の彼に戻ったようね」


 私は、離れていくヴィクセンの背中を見ながらそう呟いた。

 昔は優しかった彼の性格がねじれ、私の身体しか見なくなったのはいつのことだったろうか。


 皇帝の娘と宰相の息子である私たちは、幼いころからよく一緒にいたものだった。同い年である私たちはすぐに仲良くなり、自分たちの親が執務に励んでいる間は二人で遊んでいたのだ。


 だがしかし、年月が経っていくうちにつれ、彼の優しかった性格はどこかへと消え、私の身体をいやらしい視線で見つめながら求婚の言葉しか口にしなくなってしまった。


 皇女として生まれた私には、親しい人間など滅多にいなかった。

 そんな境遇にあって、私の数少ない友人の変貌は、私の心を閉ざすには充分だった。


 だけど……


「フフ……」

「ふぅ、戻ったぜ、ローゼリア。自分の忘れ物くらい自分で……? 何笑ってんだ?」


 思わず笑みを零す私に、一人の女性が近づいてくる。

 水色の髪に、少し少年のような色の残る活発な印象を受ける女性。

 名をユリヤ。私――ローゼリア・フォン・ヘルタライアの従者を務める人物だ。


「今、ヴィクセンと会ったの」

「あ? あの悪ガキか? また性懲りもなくローゼリアに結婚しろだの言ったんだろ? とっちめてやろうか」

「いいえ。それが……ウフフ……!」

「……アンタがそんなに笑うなんて珍しいな。どうかしたのか?」

 

 ユリヤは周りをちらちらと見ながら私を案じてくれる。

 きっと、いつもは滅多に笑顔を周りに見せまいとしている私に気遣って、周囲に人がいないかを確認してくれているのだろう。

 私が忘れ物をしたおかげで、ほとんどの生徒はすでに校舎の中だ。寮から学園に繋がるこの道を歩いている人影はなかった。


「なんだか……さっきのヴィクセンが昔の彼に見えたのよ」

「昔?」

「ええ。……あぁ、貴方は昔のヴィクセンを知らないわよね」


 ユリヤが私の従者となったのは、ヴィクセンの性格が変わった後だ。彼女にとってのヴィクセンとは、彼女が言う通り求婚ばかりする口の悪い悪ガキなのだろう。


「貴方は知らないでしょうけど、昔のヴィクセンってとっても可愛かったのよ」

「想像できねぇな……」

「それでいて優しくて、友達が少ない私をいつも案じてくれていたわ」

「あの悪ガキがね……」


 懐かしいあの日々、そして幼いヴィクセンのあどけない笑顔が脳裏に浮かび上がる。

 いつもはヘルタライア帝国第一皇女として相応しく生きようと自分に厳しく過ごしている私だが、きっと今の私の表情はだらしなく口角が上がっていることだろう。


「……ヴィクセンの奴がそんな子供だってことは分かったけどよ。そんなに嬉しい事なのか?」

「ええ。だって彼は…………」

「……? なんだよ」

「……いいえ、なんでもないわ」


 私はかぶりを振って、表情をいつもの皇女然としたものへと変える。

 今更、ヴィクセンの性格が変わろうと私がやるべきことは変わらない。

 私は帝国初めての女帝となり、この腐敗した帝国を変えるのだ。それこそが私の行く道。私の覇道。


 ああ、だけど。

 先ほどのヴィクセンが纏っていた優しい雰囲気。

 

 それは私の勘違いかもしれないし、ただの彼の気まぐれなのかもしれない。

 だけど、私はそれが真であることを祈ってしまう。

 私が覇道を歩む時、私の隣に、真っ当な改心した彼がいてくれたらと願ってしまう。


 だって、彼こそが、私の――

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