とんでもなく不気味なキス! ~放課後の教室に君はいた。美少女がキスをしてくれるらしい。彼女が伸ばしたのは気持ち悪い触手で、先端の形状が人類の唇に似ている。まさか……。その通りだった~
急に触手を見たら、パニックにもなりますよ。
君は男子高校生だ。
君は放課後の教室の、後ろのほうで立っていた。
君と向かい合っているのは、長めの黒髪の美少女だ。ミディアムブルー襟、水色スカーフのセーラー服を着ている。黒い瞳は大きく、顔は幼げに見えた。
君は今日、彼女のことを初めて目にした。そんな彼女が、君のことをじぃっと見つめている。……本当にかわいい。
「キスしてもいーい?」
見た目にふさわしい甘い声で、彼女は聞いてきた。
君は美少女に弱い。このチャンスを逃すつもりはなかった。
いいよ。君が即答したら、――美少女に思い切り蹴られた。
君は床へと倒れてしまう。すごく痛かった。
どうにか君は上半身を起こす。乱暴な行動に抗議するぞ。そんな決意で、上を向いた。
美少女の細くて長い足が、目に入る。すごく美しい。
それだけじゃない。彼女は、濃い青色のミニスカートをたくし上げていた。下着が丸見えで、君はすごく驚いた。
女子の穿いていた下着は、薄い緑と暗めの緑の縦縞模様だった。ウエスト部分と足ぐりも暗めの緑色で、同じ色をした小さなリボンが上部の中央についている。
と、そこまで詳細に語れるぐらい、晒されていたのである。
「ふふーん、見られて嬉しいんでしょー?」
彼女のその発言は無視し、キスはどうしたのかと君は叫んだ。
「キスはするよ?」
女子はずっとスカートを持ち上げたままでいる。倒れた君に顔を寄せるような素振りもないが――。
君は不自然なものを見た。
不気味な触手だ。
女子の下着のウエスト部分が急に膨らみ始め、左右から上部へと、触手が這い上がるように登場したのである。
二本の触手がどんどん姿を現す。触手の直径は、親指の倍ぐらいありそうだ。木に似た色の触手で、非常に長い。君の背丈よりあるかもしれない。
宙に浮かんでいる触手の先端には、薄茶色い唇がついていた。人間のそれと同じぐらいの大きさではあるものの、気持ち悪さは格段に上と言える。
君は嫌な予感がした。
だが、君に逃げる余裕はなかった。一本の触手が君の両足に巻きつくほうが早かった。もう一本の触手が君の体に絡みついて、身動きが封じられてしまう。
触手の硬い質感は、これが現実であることを君に教えてくる。
まるで生き物のように動いている触手。二本の先端はとうとう、君の顔の前で並び、止まった。
二つの唇。
これがキスをする。
絶対に間違いないだろう。
君はこんな状況を望んでいなかった。
恐怖でいっぱいになる。君は暴れまくったけれども、どうにもならなかった。
「キス……するね?」
女子の恥ずかしそうな顔と、丸見えにされた女子の下着。これらを堪能出来ればどんなに良かったか。触手の存在が本当に邪魔だった。
ゆっくりと迫る、二本の先端の唇。
君の瞳は見てしまった。同時に、君の口が感じてしまう。薄茶色の唇が左右から密着したことを。
触手を介した不気味な口づけは長い間おこなわれ……。
君は気を失ってしまった。
◇
「おいどーしたんだよお前! 大丈夫かッ!」
翌日、教室でずっと気を失っていた君は、同級生の男子に起こされて目を覚ました。
君は周りを必死で見渡す。
あの恐怖の元凶だった女子は、どこにも居なかった……。
同級生の助けを借りて、君は立ち上がる。体調は正直、あまり良くなかった。けれども、自力で立っていられたし、どうにか歩けた。
それでも今日は、早退することにした。
下校中に君は考える。
どうして、倒れたままだったのか?
夜、警備の人が校内を巡回をしていないのだろうか?
それとも、たまたま警備員に気づかれなかっただけなのか?
そもそも――。
触手を出していたあの女子は、何者だったのか?
君には疑問しか浮かばなかった。
あの時の不気味な触手の見た目が、感触が、とにかく鮮烈に頭の中で残っている。
でも、彼女が丸見えにさせていた、かわいらしい下着が、君には忘れられなかった。
◇
あれからは何事もなく、一年が過ぎようとしていた。
一年前のあの日、町の人の何人かが、夜空で光る物体を目撃したらしい。その噂を聞いて以来、君はあの女子の正体が、もしかしたら宇宙人だったんじゃないかと疑っていた。
君は今でも時折、放課後に独りで教室に残ることがある。
あの日、何が起きたのかを、彼女に聞いてみたい。……いや、そうではない。触手の恐ろしさを上回るぐらい、彼女の姿は魅力的だった。美少女に弱い君は、彼女との再会を心の奥底では願っていたのだ。
今日の君は、そのまま机に突っ伏して眠ってしまったらしい。誰かに起こされて、君は体を起こした。
誰なのかは決まっている。
「お久し振りだね」
あの時の女子だった。君はとっさに上半身を引いた。
セーラー服を着た、黒髪の美少女。内には、触手を隠しているのだろう。
怖くはなかった。
すでに知っているからこそ、君の中では怖さよりも好奇心のほうが勝っている。
「私は宇宙人なの。去年は君のお陰で、UFOの帰りの動力源を確保出来たんだよ。ありがとう」
あの触手でのキスが、動力源の確保だったと言うのか。君は触手で体を絡まされたあの日のことを、否応なく思い出してしまう。
彼女が宇宙人でも、君はさほど驚かない。むしろ、ここで普通の人間だと宣言されたほうが、よっぽど信用出来なかった。
とりあえず君は、宇宙人が未確認飛行物体をユーフォーと呼ぶのかと、どうでもいいことを聞いてみた。なお、制服を着た日本人姿で日本語を喋っていることについては、触れないでおいた。
「『ゆーふぉー』って、響きが面白いでしょう? 『みかくにんひこうぶったい』でもいいんだけど、ちょっと呼ぶのには長いもん」
そう言った後、彼女は黒い瞳を細くした。
「今日もキスしてあげよっか?」
キスの言葉にすぐ反応した君。去年のようにまた蹴られるのだけは嫌だった。
よって、君はすぐに席を立つ。
教室後方の何もない場所で自分から横になった。進級しているので去年とは違う教室だけれど、位置はほぼ同じだろうか。
後ろをついて来た彼女はスカートを……持ち上げたりはしなかった。実に残念だ。
倒れた君の目の前で、濃い青色のミニスカートを押さえながら、しゃがみ込む。
君に顔を近づけて――、唇でキスをした。
「去年はこっちを期待してたんでしょう?」
そうだった。
だけど、物足りないとも、今の君は思ってしまった。
せっかく再会出来たのだから、去年のように下着を見せてもらいたかったのが本音だった。
そんな君の思いを知ったのか、彼女は立ち上がり、細くて白い両足を少し開く。ミニスカートを一気にたくし上げた。
去年と全く同じ、濃淡になった緑の縞々模様の下着が丸見えになる。
下にいる君の位置は、まさに特等席だった。
君がずっと警戒していても、見たくはない触手は現れなかった。
ここは楽園だ。これならずっと、彼女の下着を眺めていられる。
「君はこれが見たかったんだね。触手は見たくなかったようだけど」
どうして分かったんだと君は聞いた。
「テレパシーだよ」
下着を大胆に晒したまま、美少女は口にした。
テレパシー。自分の心の中が、直接相手の心に伝達すること。
宇宙人っぽかった。
(終わり)
SF要素は宇宙人とUFO、パニック要素は触手でした。
この後、あなた達がどうなったのかは、あなたの解釈にお任せしますね。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。このような変態的な作品を数多くご用意してありますので、作者の別の作品もお楽しみ下さいませ。