同窓会
数年ぶりの故郷。別に田舎でもなく大都会でもなく、その中間の掃いて捨てるほどある自分が生まれた故郷はあまり変わることもない様相で僕を迎えた。今までこういう類は何となく断って来たのでたまには来ようと思って久しぶりに帰郷をした。なぜこの年になるまで来なかったのかはもう忘れた。忘れるということはきっと大した理由じゃないのだろう。たぶん。
変わらない、何も変わっていない。何の意味があるのかも知らない大きな飾り、動くことを忘れた電飾のついた模型。もはや地元民に見向きもされない塔、小学生からある食べ物屋。悪いことではない、別に気味が悪いものでもなければ曰くがあるわけでもない。それでも、寂れたプールアミューズメントを流れるプールのようなその中途半端な感じが嫌で故郷を出たのだ。きっと帰ってこないと思って、捨てる決意すらあった。でもこうやって帰ってくれば懐かしさを感じてしまう自分は意思が弱いのか、それとも人間はそういうものなのか。考えても答えは出ないまま、連絡のあったホテルに着く。受付で名前を書き、中に入る。
「久しぶりじゃん!全然変わってないな!」
「そう?久しぶり、悪いな帰ってこれなくて。忙しくてさ」
心にも思っていない世辞を吐きながら、名前を探して記憶の箱をひっくり返す。見つからない。出てこないなら、まあ、その程度ってことだろう。
「仕事何してるんだ?」
名前も思い出せないたぶん友達が聞いてくる。
「今は作家やってるよ」
「まじ!すげぇじゃん!なんて名前なんだ?」
「あー、悪い、個人情報は非公開でやってんだ」
「ここだけの話にするからさ、な?」
「ダメなものはダメです。親にも教えてないんだ」
「まじかよ、徹底してんな」
「まぁね」
誰でも野次馬根性は持ち合わせているものだ。程度の差はあるが、これぐらいなら良い方だ。ちゃんと礼儀をわきまえていると言える。
「まじ?すげぇじゃん!」
「けっこう儲かるんでしょ?年収どれぐらいなの?」
「そういや、国語の成績よかったよな」
「確かに!いっつも本読んでたよね」
「いいな~、楽そうな仕事で。うちなんてほとんどブラックだからさ」
「こんど結婚するからさ、何か書いてくんない?」
「どんな本書いてんの?買うから教えてくれよ」
「誰にも言わないからさ、教えてくれよ」
雨のように降ってくる質問の中に混じる不躾と悪意と無知が神経を逆撫でする。お前に学校時代にの成績を教えたことは無いし、教室で本をよんではいなかったし、お前が作家の何を知っているんだ。渦巻くヘドロを一気飲みしとりあえず相手を始める。
ああ、思い出した。これが嫌だったんだ。踏み込み、かつての友人であれば礼儀すら軽んじる。最低限を要求すれば面倒そうな顔をされ、離れる。だから、故郷を捨てたんだった。誰も知らない街に行けば誰もが他人だ。他人として接する。それが生きやすくて見知らぬ街に一人で住んでいるんだった。
もうきっと二度と帰ってこないだろう。