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座る女

 日暮のんのが取り押さえた男を警察官に引き渡したと同時に、どこからか携帯の着信音が鳴った。


 幾千の星たちが輝きを放っても 君の瞳がずっと眩しいんだ——


 もちろん、「宇宙少女ソラ」のテーマだ。その携帯の持ち主、美月のあこと日暮のんのは自慢げに自分のスマホを高々と差し上げて観衆に手拍子を促すと聴衆はノリノリだ。その様子に満足し、のんのはおもむろに電話に出た。


「こちらは宇宙少女ソラ。宇宙の危機ならお任せください」


 ——なにわけわからんこと言ってるんだ。今どこだ?


 それは生活安全課の上司である倉橋課長からの電話だった。


「今ですかあ。江戸川ビッグアーチです」


 ——ちょうどいい。そこの地下鉄南口の正面の雑居ビルで女が飛び降りようとしているらしい。説得に女手がいるから、悪いけどすぐに向かってください。


 署長はときどき変に丁寧な言葉でのんのに命令を出した。


「まかせてください!」


 のんのはそれだけ言うと、さきほど犯人を引き渡した巡査が乗ってきた自転車を「ちょっと借りるね」と言って、さっそうと自転車にまたがった。


「のあちゃん、かっこいいよっ!」


 そんな観衆の掛け声に宇宙少女は右手で敬礼をすると、鳴り止まない拍手の中背中のマントをなびかせて自転車で消えていったのだった。


 ⌘


 のんのが駅前に着くと、数台のパトカーと消防の梯子車、特殊工作車などの赤いパトランプが駅前に溢れ緊張感を演出しており、さらに野次馬が鈴なりになってビル前は騒然としていた。

 そんな中へ「宇宙少女ソラ」がいきなり自転車で入ってきたものだから、警備に当たっている警察官たちもどんな反応をしていいのかわからないというところだったが、のんのはそんなことも全くお構いなく警察の司令車へ近づいていった。


「状況は?」


 のんのは現場にいた生活安全課の山根巡査部長に話しかけた。


「……あ、ああ、警部補、なんですかそのカッコ」


 さすがに山根巡査部長もどう反応していいやら困っていたが、


「えっ? はい、正義の味方ですが何か」


と、のんのがそんな山根巡査部長の視線をまったく気にすることなくビルを見上げると、7階建のビルの屋上の端っこに女が座っているのが見えた。


「いや、なんか近づいたら飛び降りるとかなんとか言って、うかつに近寄れないんですわ」


 見上げているのんのに横から山根が状況を説明する。


「誰か彼女と話したんですか?」とのんのが聞くと。


「いや、とにかくまだちゃんと近寄れなくて」

「じゃあ、とりあえず私が行ってみましょうか?」

「でもどうやって近づきます? しかも——その格好で」


 言いよどむ——無理もないが——山根の心配をよそに、のんのは消防の梯子車に近寄るとそのオペレーターに一言二言何か話しかけ、梯子車の先についた柵のついたゴンドラにさっそうと乗り込んだ。


 のんのが合図を送ると、やがてハシゴはモーター音を発しながら徐々に上へと伸びてゆく。


「あっ、ソラだあ!」


 野次馬のあちこちからそんな声が聞こえる。梯子車のゴンドラに乗る宇宙少女はとにかく目立つのだ。そして絶好の「映え」被写体なのだろう、野次馬のほぼ全員がスマホをゴンドラに向けて写真を撮りだした。


 だんだんと宇宙少女を乗せたゴンドラは屋上に座って足をプラプラさせている女の近くへ寄っていく。


「こんばんは」


 屋上にあと数メートルとなったころ、右手でオペレーターに静止の合図を送り、のんのは屋上に座る女を見上げながら語りかけた。


「あたしもなめられたもんね。からかってんの? あんた何者?」


 宇宙少女の格好をした女が上がってきたのを見た屋上の女は、あきれたようにとろーんとした声でのんのに言う。


「東江戸川署生活安全三課の日暮です」


 のんのが真面目な顔で答えると、


「えっ? あんたが警察? ウケる!」


と言って笑い出した。少し酔っているようだった。

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