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【書籍化】なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる(Web版)  作者: 合澤知里
続編

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32.ヴァンスの相談

「ところで、魔獣の背中に乗って来ていたけれど、あれはどういうことなの?」

 応接室へと移動しながら、私はヴァンスに尋ねる。


「ああ、あれは魔獣服従の魔札の効果だ。魔力は相当消費するが、魔獣をある程度の時間従わせることができる。そのお蔭で、ネーロ国からここまで飛んでくることができた訳だ」

「そうだったのね」


 私は感心せざるを得なかった。ネーロ国で見つけた本に載っていた魔獣服従の魔札は、消費する魔力が多すぎて、私では到底扱うことはできなかったと記憶している。魔力が私よりもはるかに多いヴァンスにしか使えないだろう。人を襲う魔獣が、まさか空を飛んで移動する手段になるなんて、考えたこともなかった。


「お前も乗ってみるか? 慣れるとなかなか便利だぞ」

「遠慮しておくわ」


 ヴァンスに誘われたが、まだ魔獣に対する恐怖がある私は、慣れるほど魔獣に乗りたくないこともあって、すぐに辞退する。

 そんな話をしているうちに、応接室に到着した。私とセス様は並んでソファーに腰かけ、ヴァンスとキーランはその向かいに座る。ラシャドさん達やハンナさん達も一緒に付いて来てくれていたけど、ヴァンスがあまり大勢に話を聞かれたくないとのことなので、国境警備軍の人達は訓練に戻ってもらい、ハンナさん達には扉の前で待機してもらうことにした。


「それで、人払いしてまで相談したいことって、何かしら?」

 私が尋ねると、ヴァンスは苦い顔をした。


「……お前が見つけてくれた魔札の本のお蔭で、ネーロ国は何とか維持できる状況にはなった。扱える魔札の種類も増え、状況に応じて使い分けられるようになったはいいが、俺の魔力量という限界があってな」

「……まさか、またサラをネーロ国に連れて行く、などとふざけたことを口にするわけではあるまいな」

 セス様が腰の剣に手をかけながら、ヴァンスを鋭く睨む。


「ち、違う! サラが持っていたブローチ! 魔力を増やしたり、魔力切れの症状を緩和する効果があっただろう! そんな便利なアイテムが、俺にも持てないかと思っただけだ!」

 ヴァンスが慌てた様子で、私の胸元のブローチを指差した。


「ああ、魔石のブローチのこと……」

 私はブローチに触れながら考える。


 魔力を増強する効果と、魔力不足の症状を軽減する効果のある、二つの魔石を使ったブローチ。これはセス様が私にプレゼントしてくれた、とても大切な宝物だ。これをヴァンスに譲ることなんて到底できないけれど、王都の魔石店を案内することくらいはしてもいい。だけど……。


「この魔石を売っていたお店を紹介することはできるけど、王都にあるから遠いわよ? それに、この魔石はとても高価だったけど、大丈夫?」

「……」

 私が尋ねると、ヴァンスは落胆した様子で、俯いて口を噤んだ。


(やっぱりね……)


 ネーロ国では、王族も平民も関係なく、とても質素な暮らしをしていたヴァンス達だ。ヴェルメリオ国の通貨を持っているとも思えないし、高価な買い物をすることも難しいだろう。ネーロ国の人々のことを考えると、力になってあげたいとは思うのだけど、どうすればいいのだろうか。


「……セス様、何かいい方法はないでしょうか?」


 私には分からないけれど、セス様なら何かいい案が浮かぶかもしれない。そう思って尋ねてみると、セス様は渋い表情を浮かべながらも口を開いた。


「正直、俺はお前達が魔石を持つことは勧められないな」

「何故だ!?」

 否定的なセス様に、ヴァンスが声を荒らげる。


「サラには説明してあるが、魔石の存在に頼って魔力の使い過ぎが常態化してしまうと、万が一魔石をなくしたり、魔石に込められた魔力が切れてしまった時、魔石に頼っていた分、自力での魔力回復力が劣ってしまうからだ」

「そ……そうなのか?」

 ヴァンスが愕然とした表情を浮かべた。


「ああ。その説明をしてあっても、サラはまじないを作り過ぎた。俺が多少は制限していたから、大事には至らなかったがな。お前も魔石を持てば、それを頼りにし過ぎて、いざと言う時に魔力の回復が遅れてしまわないとも限らん。お前達の中に魔石に詳しい者がおらず、適切に管理できないのであれば、俺は魔石を持たない方が無難だと思うがな」

「……」

 セス様の説明を聞いて、ヴァンスは口を閉ざしてしまった。


(確かに、セス様の言う通りかもしれないわ。でも……)


 ネーロ国の人々を魔獣から守れるのは、おまじないを使えるヴァンスだけだ。ヴァンスの魔力は私よりも遥かに多いけれども、魔力の消費量が多いおまじないを使うのであれば、魔力をより増やせないかと考えてしまうのだろう。

 セス様の、皆の役に立ちたいと、おまじないをもっと多く作れないかと考えてしまう私は、ヴァンスの気持ちが痛い程分かってしまった。


「……そうか。そういうことなら、自力で何とかするしかないな」

 暫くして、ヴァンスは諦めたように立ち上がった。


「無駄足になってしまったが、仕方がない。帰るぞキーラン」

 ヴァンスの言葉に、キーランも立ち上がる。


「あ……」


 折角、ネーロ国から遥々私を頼って来たのに、何の力にもなれず、何だか申し訳なくなる。暗い表情をしたヴァンスに、どう言葉をかけていいか分からなくて、胸が痛んだ。


「……待て」

 呼び止めたセス様を、皆が一斉に注視した。


「サラの持つ物よりも効果は大分弱まるが、一時的に魔力を増やす魔石なら、キンバリー辺境伯領にも取り扱いはある。いざと言う時、一度くらいなら、多少無理をする程度はできるだろう」

「ほ、本当か!?」

 ヴァンスが目を輝かせた。


「ああ。それでいいのなら、誰かに店に案内させてやってもいい。金が必要なのであれば、国境警備軍で、貴様のまじないを買い取ってやる」

「分かった! 感謝する!!」

 先程とは打って変わって、ヴァンスの表情が明るくなった。


「セス様、ありがとうございます!」

「……別に大したことではない」

 私がお礼を言うと、セス様は不貞腐れたように言った。


「収穫がないまま奴らを帰せば、多少なりともお前が気に病むだろうからな」


 セス様の言葉に、私は目を丸くする。私が胸を痛めていたことを、セス様は見抜いていたようだ。


「セス様は優しいですね」

 私は自然と笑顔になる。


「優しいのはお前の方だろう。俺は奴らが手ぶらで帰ろうとも、痛くも痒くもないからな」


 セス様はそんなことを言っているけれども、セス様が誰よりも優しいのは、私がよく知っている。そうでなければ、魔石に関する注意事項を口にしたり、ヴァンスのおまじないを買い取ってまで、魔石を購入する手助けをしたりしないはずだ。

 優しくて素敵な旦那様を持って、私は幸せ者だな、と私は改めてセス様に惚れ直したのだった。

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