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【書籍化】なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる(Web版)  作者: 合澤知里
続編

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30.お礼

 数日後、魔力が完全に回復した私は、アガタさん、ハンナさんと一緒に、フィリップさんが御者を務める馬車で、国境警備軍の砦へと向かった。


「皆さん、喜んでくださるでしょうか?」

「勿論ですよ。この間も大喜びしていただけましたもの」

「きっとまた、あっと言う間に皆様の胃袋に消えていくに違いありませんよ」


 国境警備軍の皆さんに、遥々ネーロ国まで助けに来てもらったお礼も兼ねて、私達は前回よりも大量のサンドウィッチを用意した。具もお肉を増やす等、ボリュームのある物にしたので、きっと喜んでもらえると思うのだけど、ハンナさんの言う通り、またすぐになくなってしまうかもしれない。

 砦に到着した私達は、まずはセス様の執務室に向かう。


「セス様、失礼致します」

「来たか、サラ」


 セス様には、事前にお礼を兼ねて差し入れに行きたいということは話していたので、すんなりと迎え入れてもらった。


「こちらはセス様の分です。お仕事が一段落されたら、どうぞ召し上がってください」

「ああ。そうさせてもらおう」

 微笑みを浮かべたセス様に、嬉しくなった私もつい満面の笑みを浮かべる。


「皆も喜ぶだろう。頼むぞ、サラ」

「はい。では、皆さんにも配ってきますね」


 セス様の執務室を後にした私達は、次に救護室に向かった。


「失礼致します。テッドさんはいらっしゃいますか?」

「うん? 誰かと思えばサラさんじゃないか。体調はもういいのかい?」

「はい。お蔭様で、もうすっかり回復しました」


 私が一時期、国境警備軍で働いていた時の上司であるテッドさんは、変わらぬ穏やかな笑みで迎えてくれた。


「フィリップさんとハンナさんを助けてくださったそうで、私からもお礼を言いたくて」

「その節は、本当にありがとうございました。お蔭で一命を取り留めることができました」

「私の足もすっかり良くなりまして、心から感謝しております」

「いえいえ。当然のことをしたまでですよ。お気になさらず」

 私達がお礼を言うと、テッドさんは恐縮しながらも、照れ臭そうにしていた。


「テッドさん、お礼も兼ねて、差し入れを持ってきましたので、良かったらどうぞ」

「これは嬉しいな。以前のサンドウィッチがとても美味しかったので、また食べたいと思っていたんだよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 救護室に居合わせた人達にも差し入れを配り、私達は救護室を後にして、訓練場に向かう。大勢の兵士の人達が、剣を手に稽古をしているのを暫し遠目に見守り、休憩に入ったのを見計らって、少しの間お邪魔させてもらった。


「おっ、サラちゃん! もう体調は大丈夫なのか?」

「はい。魔力もすっかり回復しました。ジョーさんの方こそ、お怪我はもう大丈夫なのですか?」

「平気平気! サラちゃんのおまじないのお蔭で、もうすっかり元気いっぱいだぜ!」


 ドンと胸を叩いて見せるジョーさん。先程の稽古でも、誰よりも速くて力強い剣さばきを披露していたし、言葉通りもうすっかり元気なようだ、と私も安心する。


「ジャンヌさんは、魔力は回復しましたか?」

「ええ。流石に疲れたけれど、帰ってきてからはゆっくりと休ませてもらったから、もう平気よ」

 片目を瞑ってみせるジャンヌさん。


「ラシャドさんも、お疲れ様でした。ずっとキンバリー辺境伯領を守ってくださって、ありがとうございました」

「いいえ、私は大したことはしていません」

「それでも、ラシャドさんがいたから、セス様は安心して私を助けに来てくださったと思うので」

「そう言っていただけると、嬉しいです」

 ラシャドさんは、照れたように笑みを浮かべた。


「これ、皆さんに、助けに来てくださったお礼も兼ねて、差し入れです。良かったら召し上がってください」

「やったぜ!!」

「おお!! 美味そう!」

「また食いたかったんだよな!!」

 私がサンドウィッチを差し出すと、こちらの様子を窺っていた兵士の人達からも歓声が上がった。


「すみません、サラさん。ありがとうございます」

 ラシャドさんが兵士の人達を見て苦笑しながらも、嬉しそうに受け取る。


「ありがとうな、サラちゃん! うわ、美味い!!」

 ジョーさんは受け取るや否や、早速食べ始めた。


「もう、ジョーったらがっつかないの。サラ、ありがとう! このサンドウィッチ、美味しいのよね!」

 ジョーさんに呆れつつ、ジャンヌさんも嬉しそうに笑顔を見せた。


「俺達もいいですか!?」

「はい、どうぞ」


 待ちきれない様子の兵士の人達に聞かれて頷くと、我先にと押しかけてきて、あっという間に持ってきたサンドウィッチが飛ぶようになくなっていく。


「美味い!」

「ありがとうございます、奥様!」

「ご馳走様です!!」


 大量のサンドウィッチが一瞬で胃袋に消えていく光景に、呆気に取られながらも、嬉しくなってハンナさん達と微笑み合っていた。


 全員に配り終えて、私達は一度セス様の執務室に戻る。


「セス様、お邪魔致しました。それではお仕事、頑張ってください」

「ああ。礼を言う。美味かった」

 セス様にも褒められて、思わず満面の笑みを浮かべる。


「サラ、魔力は回復したようだが、だからと言ってまじないを作り過ぎるなよ」


 セス様の言葉に、ドキリとした私は口元を引きつらせた。帰ったら、すぐにおまじないを作ろうと考えていた所なのだから。


「……その顔は図星だな?」

 眉根を寄せるセス様に、私は慌てて口を開く。


「で……ですが、今回の件で、作り置きしておいたおまじないが大量に消費されてしまったはずなので、また頑張って作っておかないと、と思っていたのですが……」

 私の返事に、セス様は呆れたように溜息をつく。


「やはりか。お前が考えそうなことだが……。ブローチがあるからと言って、また無理をして体調を崩したらどうする」

「ですが、セス様のお言葉通り、ブローチがなくても問題ないくらい回復していますので……」


 魔石のブローチのお蔭で、キンバリー辺境伯家に帰って来た翌日には、私の魔力は殆ど回復していた。だが、ブローチがなくても完全に回復するまではおまじないを作らないように、とのセス様の言葉に従って、もう一日我慢していたのだ。ブローチもあるのだから、またおまじないを作れるだけ作りたいと思っていたのに。


「ブローチがあろうとなかろうと、今まで通り一日十枚までにしておけ。そうでないと、お前はついつい多めに作って、また無理をしかねないからな」

「う……。分かりました……」


 ブローチがあれば十数枚は問題なく作れるようになったのにな、と残念に思うのだけれども、確かにセス様の言う通りになりかねないことは自覚している。本当にセス様は、私のことをよく分かってくれている。

 そのことを嬉しく思いながらも、少しばかり肩を落としながら、私は執務室を後にしたのだった。

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