6話 エクセル帝国
この世界には多くの国がある。まず人族至上主義を掲げ、偽りの神を信仰する神聖ネール教国、それに従う過去の勇者が作り上げたシエル勇国、マルス王国、ザーゲ民国。
それに対するのは獣人が王を務めるオーテッド獣王国とケルト森林国だったが、森林国は俺が丸ごとぶっ壊したせいでなくなった。
そして無干渉を貫いている、極寒の地に生き魔道具の開発に力を注いでいるニブル魔導国、世界に覇を唱えようとする大国、エクセル帝国。ニブル魔導国とエクセル帝国に挟まれた商人たちの自治国家であるアレルタ商国。
ケルト森林国と隣り合い群雄割拠しているアサーニャ王国。
俺はエクセル帝国の軍に入りお偉いさんまで登る事にした。この国は神の存在を全否定しているので俺にとってはかなりいい国だ。
他の眷属たちも同様に色々な国に潜入している。俺は黒コートに二振りの神剣を携えエクセル帝国の帝都アトラスへと向かう事にした。【深淵支配】で帝都のあるアトラスから5キロほど離れたところに移動し外からでも見える大きな城を仰ぎ見る。
「はぁ〜〜〜これはすごいなぁ」
「あぁ、すごいよな。エクセル帝国の城って」
後ろを振り向くとかなり良い身なりをしている人間とそれに付属して人間にしては魔力の多い者が付き従っている。まさか皇帝か?いや、こんなところに来ないか。
「君はどうしてこんなところにいるの?」
探りを入れてきたのか?
「ええ、帝都に行けば軍隊に入れるって聞いたんで。」
彼は少し考えるように首を傾げ、にこやかな笑顔で
「なら、ウチの護衛とちょっと腕試ししてみる?」
は?いやいやまて?いきなり戦いですか?まぁいいけど。
「いいですけど、倒してしまってもいいんですよね?」
これには4人の護衛もキレて
「舐めるなよガキがっ!お前みたいなチビに負けるわけねぇだろ!」
俺は更に挑発する。
「そっちこそ図体でかいだけの木偶の坊なんじゃ無いですか?」
「なんだとっこのボウズッ!!」
「まあまてまて、模擬戦形式で、僕が審判をするからね。」
皇帝と思しき人が仲裁してくる。確かにこのままじゃ、相手が死んでたもんね。
「じゃあ双方10メートル離れて。(あの少年、なぜあそこまで強気なのだろうか?)」
俺と槍使いの相手は10メートル離れて互いに構える。
相手は2メートルほどの槍を正面に構え、俺は日本の剣を両手に待ち、だらんと下げた。
「お前っ!やる気あるのかっ!」
顔に青筋を浮かべながら唾を飛ばす。
「自由にかかってきていいんだよ?」
「こっのガキィィッ!!」
皇帝は不安げにこちらをチラ見し
「双方構えて、始めッ!!」
皇帝が試合の開始を宣言すると槍使いの青年は乾坤一擲の突きを放とうとした瞬間、本能的な恐怖を感じ取った。
審判も槍使いの少年も他の護衛3人も全く動けず、ギリギリと音を立てながら少年がいる悪寒のする方向へ顔を向ける。
少年は嗤っていた。膨大な魔力と神の威圧を発しながら一歩一歩と確実に相手に近づいていく。その覇威に周囲の魔物は恐れをなし弱いものはショック死し、中型は恐怖に動けず、大型魔物は我先にと逃げ出した。
彼は別段ほとんど魔力を込めていない。今まで周りに漏れ出る魔力が無いように抑え込んでいただけである。それだけでも少年の周りには彼が放った魔力の残滓が具現化し漆黒の波動が周囲に靡く。
皇帝や間近にいる槍使いの青年など、あまりの恐怖に呼吸困難に陥っていた。
「じゃあ行くよ、……降参する?」
少年は行くよと言った瞬間、青年の首元に2本の剣筋を添える。人間の進化の最奥にして最高たる仙人しか扱えない【仙技】の瞬間歩法、縮地である。
皇帝は震える声で青年の敗北を宣言した。
「し、勝者、少年!」
そして魔力を抑え込み威圧を取り除くと一気に空気が軽くなった。周りで見ていた人達はハァハァとまるで死の底から生き返ったかのような反応をする。
実は皇帝が自分の護衛を使って軍に入ろうとする人を試そうとするこの模擬戦はよくあることであり、皇帝の胸ポケットの映像結晶が帝都の大スクリーンに展開されているのだ。
すなわち、漆黒の波動を垂れ流す少年の強者っぷりは帝都民皆が見ていたのだ。
ある帝国魔導師長は人間ではあり得ない量の魔力に感涙し、ある帝国騎士団長は剣の軌道から神懸かった技量を察し驚嘆し恐るべき歩法に畏敬の念を覚えた。
普通の騎士団員もその技量を圧倒され尊敬を抱き、魔導士は神の魔力に本能で敗北を悟った。
都民はこの強者が軍属になることで帝国の安泰を期した。そして少年は帝国軍第3騎士団に入団することになった。
少年は皇帝たちと共に帝都の門をくぐり抜け身分証をもらっていた。身分証には
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名前:アンリ・マユ
性別:男
年齢:17
職業:騎士見習い
主武器:双剣、鎖
主魔法:火炎、暴風、大海、大地、神聖、暗黒
戦闘力:SSS
備考:仙人
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と書かれており、戦闘力以外は自分で書き入れたものである。皇帝や周りの人達は唖然とした顔で僕の身分証を見ている。
「どこかおかしかったですか?本当に17歳ですからね?」
「そこじゃないよっ!何、魔法全部使えるのッ!?それに仙人って!」
「ボウズ、流石に嘘は良くないぞ」
信じてねーなこれは。
「じゃあちょっと見ててください。帝都の外になら撃ってもいいですよね?」
もちろんとニコッという笑みを浮かべたまま俺についてくる。門番も怖いもの見たさについてくる。門から3分程離れたところでまたしても映像結晶に映されながら魔法を展開する。
魔法はイメージだ。魔法の場合は詠唱というモノを挟むが、昇華して、神羅万象となった今世界の理をも捻じ曲げて発動することができるのだ。
だが詠唱した方がイメージは濃くなるしカッコよくなるのでオリジナル詠唱をつける。
「其が生み出すは神話の再現。」
空に直径30メートル程の岩の塊が浮き上がる。
「大地とともに大海は天嵐を呼ぶ。」
その横に水混じりの氷塊と轟々と竜巻を鳴らす天の嵐が混ざり砕けた氷塊が竜巻に巻き込まれる。
岩塊も竜巻に巻き込まれ砕けた氷塊と岩塊を纏う竜巻が誕生する。
「原初の焔は天地を焦がし、
魔を滅する聖なる光は魔の闇と共に顕現す。」
そこに太陽のように燦々と降り注ぐ炎の渦。
炎の渦は竜巻と統合し明らかに危険な色をしている。
そこに光と闇が混ざり合い混沌とした力が竜巻に吸収され、禍々しい漆黒の混沌魔法が
「原初の魔導は覇をもたらさん!」
今、世界で初めて発動された。
少年の前には雲まで届く禍々しくも漆黒のオーラを纏う混沌の渦が指向性を持って一直線に飛んでいく。
少年が手を向けた方向には何も残らなかった。万象一切を消し飛ばした。混沌属性の魔法は全てを消し去るのだがそんなことこの世界の人間は気づいていないので偶然だ。
これには皇帝も見ていた人も絶句である。なにせ剣だけであれほどの技量を感じられるのに魔法も得意ときた。それに全属性の魔法でオリジナル魔法を作り上げたのだから。
《固有能力:混沌覇砲を獲得しました。》
しかも同時に世界にも認められてしまったのだから。
開いた口が塞がらない皇帝たちを引き連れ俺は堂々と城下へ入っていく。映像を見ていた周囲の人たちは俺に歓声を送ってくれた。
門の中は中心の城まで一本の大通りがあり通り沿いには高級店が立ち並ぶ。俺は恐らくこんなところには来ないだろう。狭い路地裏などを見るとスラム街とかしている。
そのまま真っ直ぐ進み貴族街と呼ばれる貴族達の屋敷が立ち並ぶゾーンだ。帝城に近づくにつれ男爵家、子爵家、伯爵家、侯爵家、公爵家と順になっている。
帝城まで着くと俺たちは馬車を降りる。周囲には皇帝の護衛兵が集まり、俺も一緒に連れて行かれる。門兵の誰かが、開門っと大声で叫びゴゴゴゴォォォォ!と音を鳴らしながら金属製の門が開かれる。
門を通り帝城の5階にある1つの部屋に入って行く。俺も皇帝に着いて行くとその中は円卓であった。その中には7つの席があり、うち5つは埋まりもう1つの席に皇帝が座った。
え?俺座っていいの?座ったら無礼者っ!とか斬られない?
それを見て皇帝は笑いながら座れと声をかけてきた。
「は、はい。お願いします。」
俺が席に着くと周りの人が自己紹介を始めて行く。
「俺は飛龍騎士団団長アマンド・ファルゴッドだ。飛龍に乗って戦うんだが、なにぶん飛龍の数も乗れる人も少ない。これからよろしくな」
いかつい無精髭の男がニヤッと笑いながら言う。
「私は魔導師団団長カエデ・メタリーナよ。魔法を使った戦争を得意としてるわ。女性と男性半々といったところだから自由に来てもらって構わないわよ。」
妖艶な美女が微笑む。やばい、息子が反応しそうだ。浮気にはならないだろうか?ならないよね?
「俺は隠密特殊部隊隊長ゼロだ。普段は諜報任務に従事している。お前は秘密が多そうだ。よろしくな。」
全身黒子な男か女か分からない体型のやつが言った。
「私は魔獣騎士団団長マリナ・カエサルよ。召喚魔法、使役魔法で魔獣になったり魔獣をけしかけたりするのよ。よろしくね。」
元気溌剌といった体育会系女子が発言する。
「俺は近衛騎士団団長エクセル・マギナだ。普段は騎馬訓練と陛下を守る訓練をしている。よろしく頼む。」
かなり真面目そうで頭でっかちなやつですね。
「じゃあ最後は私だね。私はエクセル帝国皇帝エクセル・フォン・アルスだ。よろしくね。それと君の自己紹介だね。」
いよいよか。
「僕は『原初の悪神』の名を冠する者アンリ・マユ。人の身から高位人間へと進化してそこから更に仙人へと進化しました。
年は17歳、得意武器は弓、剣、槍で能力として鎖関係のものがあります。
軍に入ろうとした理由は神を騙る管理者を討伐する為彼の国とは敵対している国に入りたかったから。それと新しく得た力を試す為に戦争というのがちょうどよかったからです。
それと召喚や偵察、破壊工作など大体のことならできます。」
俺の自己紹介をして皆唖然とした。へ?なんで?
「どうかしましたか?皆さん?」
皆俯きながら考え事をしている。
「お前さんは一体何者なんだ?あれだけの力、仙人なら誰でもできるのか?」
「それに召喚などは大体できるってのが気になるわね。」
「それと神を騙る管理者って何?」
ふむ、そういうことね?
「ではこの世界について少しお話ししましょうか。」
皆頷いている。
「まず神には《下級神》《中級神》《上級神》《超越神》《絶対神》の5つの位に分けられています。この世界はオルトゥスという《下級神》が作り上げた世界だったのですが、ある日間違って6人の人間に加護を与えてしまいました。
ですが、この6人はオルトゥスの為に精一杯働きオルトゥスも彼等に気を許していました。そんな時仙人へと進化した6人はオルトゥスを暗殺しました。
彼等はオルトゥスの死後オルトゥスが持っていた力を火、水、風、土、光、闇に分け自身で管轄することにしました。そして彼等は神聖ネール教国を使徒を使い作り上げた。世界を自身の楽園に作り変える為に。
だが彼等はどこまでいっても仙人でしかない。神には未だ届けずオルトゥスの残したもののうち3割ほどしか扱えていない。だが、世界を手中に収めたら奴らはオルトゥスの遺産の全てを使える事ととなる。世界の神となるのだから。」
シーンと、静まり返ってしまった。
「なぜ君はそんなことを言えるのか?」
黒子くんが聞いてくる。どうやって誤魔化そうかな?
「僕が一応は神の一族だからですかね」
曖昧に濁す。これに限る。だがもっとシーンとした。何故だ?
「じゃあ何故こんなところにいるのだ?教国に直接向かえばいいだろう?」
「教国へは眷属を向かわせましたよ。それに軍に属して主人と天下統一ってすごいじゃないですか!やはり人間は成長してこそ本来の輝きを見せる生き物だと思うんです。教国の仙人みたいに過去の栄光に縋り付くようなみっともない真似はしたくない。ただ、それだけですよ。」
皇帝以外の人も納得してくれたみたいだ。あ、そうだ。お詫びに何かしてあげよう。
「そういえば、《世界の箱庭》ぶっ壊してごめんなさい。お詫びになんでもしてあげるよ。」
この発言に皆ギョッとし、俺に目を向けてきた。
「あの《世界の箱庭》崩壊は君がやったのかっ!」
「あぁ、なるほど。それならあり得そうだ。」
「かなり危険な魔法だなあれは」
一応いうが魔法じゃない。剣の能力だ。
「それにあれは最低出力ですよ。最大出力は神を滅ぼす即ち世界を壊すほどの力ですから」
妖艶な魔法美女が
「あれで最低出力だっていうのっ!?ありえないわ!?」
「だってやりすぎると世界崩壊してしまうんですから。それにもう1つのあれと同等な力ありますよ。
あれの技名、神技:崩天の曙光っていうんですけどもう1つが神技:煉獄の業火っていう世界を地獄の焔で燃やし尽くす技なんですけど見たいですか?」
皆首を横に降る。あれは危険そうだからな。やめたほうがいいだろう。