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聖ウェヌス女学院  作者: Paddyside
第1章 不思議のメダイ -Mysterious Medal-
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#005 暗澹冥濛

チュン,チュン,チュン‥‥‥


ベランダの柵に留まりお互いを啄ばむ雀の囀りと窓のレースのカーテン越しにベッドに差し込む朝日の眩しさに樋口ソフィアは目を覚ました。

枕元の時計を確認すると表示は5時30分で,ここまではこの3日間と変わらない。昨日の寝るまでの記憶もしっかりとある。今日の支度も昨晩のうちに済ませてあるし,あとは何時もと同じように朝ご飯を食べて学校に向かうことにする。


『今日こそは始業式ではありませんように‥‥‥』


その願いは脆くも打ち砕かれてしまう。普段は両親の躾でご飯を食べる時にはテレビや新聞とかを視る習慣がないのだが,テーブルにあったテレビのリモコンを不意に床に落としてしまい,偶々テレビのスイッチが入ってしまった。そして,手にしていたパンをポトリと床に落としていた。

電源の入ったテレビから流れてくるニュース‥‥‥その画面の日付は昨日と一緒だった。


『これで4日連続で始業式が確定‥‥‥いったい私はどうしてしまったんだろう‥‥‥いっそのこと今日は休んじゃおうかな?そうだ病院に行った方がいいかもしれない。』


樋口ソフィアにはもう学校に行く気が起きなかった。


『よしっ,今日はもう学校を休んでしまおう!そして,病院に行ってこの症状がどんな病気なのか聞いてみよう。もし病名が分からないにしても学校に行かないことで何かが変わるかもしれないし‥‥‥』


気持ちを切り替え,決意して家を出る。

玄関先で,近所に住むうちのお母さんと仲の良い話好きなおばさんとばったり会った。あまり出掛ける前に会いたくない人でもあるけど,ちょうど旦那さんを見送ったところのようだ。


「あら,おはよう!もうすっかり元気そうね。ソフィアちゃんはこれから学校へ行くのね。そういえば,昨日は帰りがものすごく遅かったけど,何処かに出掛けてたのかしら?」

「えっ?どういうことですか‥‥‥?」

「どういうことって‥‥‥昨日はうちの主人の帰りが遅くなって,タクシーで家まで乗り付けて来たのを迎えに出たら,ちょうどあなたが家に入って行くのを見掛けたんだけど‥‥‥ボーッとしている感じで何回も声掛けたのに返事もしなかったからかなり疲れていたのかと思ってね。」

「それって,何時頃ですか?」

「そうね,午前2時は過ぎてたと思うけど‥‥‥」

「えっ?そんな時間に?」


樋口ソフィアは唖然となった。だって,昨日は確か18時には帰宅して20時には眠くて布団に入っていたいうのに‥‥‥どういうことなの?気持ちを落ち着けてもう一度樋口ソフィアはおばさんに尋ねる。


「それって,本当に私でした?」

「確かにソフィアちゃんだったわよ。その金髪は目立つしね。」


そう言うとおばさんは軽くお辞儀をして家の中に歩いて行ってしまった。立ち尽くす樋口ソフィアはその後ろ姿を茫然と見送るしかなかった。今,これ以上何か訊いても自分の欲しい答えは出ないだろう。にしてもそんな深夜に出掛けた記憶はない。まさか夢遊病?ここのところ家では独りだからこんな病気があっても自分自身では分からない。


『一体,私は何処へ出掛けたというのだろう?確か夢遊病は歩き回るのがせいぜい30分くらいだからそうそう遠くまで出掛けるわけないし,そんな時間だからバスや電車は動いてないし,徒歩でなら行けるところも限られる‥‥‥そういえば服装ってどうだったんだろう?まさかパジャマで?それはちょっと恥ずかしい‥でもそれだったらおばさんも格好のこと何か言うよね,普通。だとしたら着替えて出掛けて,帰って来てまたパジャマに着替え直したということ?』


樋口ソフィアは玄関先で呆然と立ち尽くす。意を決して病院へ行こうという気持ちも削がれてしまった。虚ろな目になり,何分‥‥‥いやもっと時間が過ぎただろうか,肩を落として家の中に戻る。自分の部屋に入って制服のままベッドにうつ伏せでダイブする。くるりと寝返りし,おでこに左腕を載せて天井をボーッと見上げる。


『もう何が何だか分からない‥‥‥どうせ学校に行ったって始業式だし,始業式なんか4回目ともなれば内容も分かっているし‥‥‥なんか病院に行くのも面倒くさくなっちゃったな。でもさっきのおばさんの話って本当なのだろうか?夢遊病の気でもあるのかな‥‥‥今思えば,今日はいつもに比べて気怠さがあったような気がする。そうでなければ,ご飯を食べる時にテレビを付けっ放しにするなんて事はあり得ない。だとすれば,寝ている間に何処かに出掛けて,寝付きが悪くて疲れていたという説明が成り立つけど。』






「おはよう!」

「おはようございます!」

「はい,おはよう。」


久しぶりに顔を合わす友だちや正門前に立つ先生と挨拶を交わしながらわいわいと賑やかに女子生徒たちが女学院内に入り,遊歩道をそれぞれの校舎へ向かって歩いて行く。


「ねぇねぇ,夏休みどうだったのよ?」

「これ,写メ見て,これが新しい彼氏!夏祭りでナンパされたんだけどぉ‥‥‥大会に出られるほどテニスが上手でぇ,スマートで身長も高いしぃ‥‥‥それから,それから‥‥‥」

「いいなぁ,私は花火大会の時に二股掛けてた彼氏に振られちゃったし‥‥‥」

「ほら,そこの3人は学校の入口でそんな会話はしないように!」


女子生徒たちが一昔前の初心で夏休み明けには何処でもありそうなお約束の,他愛もない会話を交わしていて,嬉しそうに自慢げに話す子もいれば,どよーんと沈みダンマリを決めて涙ぐむ子もいる‥‥‥そばで生徒指導の先生に会話を聞かれてツッコミを喰らっている。


「おはようございます!」


元気な声で長尾智恵は正門前に居る先生に挨拶をして,門を潜り遊歩道へと入って来た。何時もと変わらない登校風景。今日は始業式だ。早く教室に行って,クラス委員としてクラスを纏めて式典の行われるウェヌス・ウィクトリクス講堂へみんなを連れて行かないといけない。別に気負う必要はない。中学の頃からの事だからもう慣れたものだ。


「おはよう,智恵。」

「おはよう,美鳥。」

「始業式の用意もあるから早く教室に行こう。」


肩を軽く叩かれて振り向くと何時ものように加地美鳥が微笑みがそこにはあった。長尾智恵は促されて一緒に急ぎ足で校舎に入っていく。

教室に入ると2人が一番乗りだったようだ。まだ誰もいない。新学期だから席替えになるのだが,席は決まっていないので今までの席に座り,机に鞄を置く。


「おはよう。」

「おはよっ!」


次々とクラスメイトたちが登校して来て,先学期の座席に一先ず鞄を置いて行く。


「ねぇ,ねぇ,夏休みはどうだった?」

「どこか行ったの?」

「彼氏とはどうだったのよ?」


幾つかの輪ができて,ここでも夏休みの話に盛り上がる。長尾智恵と加地美鳥も席に腰掛けながら同じように夏休みの話で盛り上がっていた。


「おはよっ!智恵,美鳥。」

「おはよう。みんな。あれ,真珠たちは一緒じゃないの?」

「そういえば見ていないなぁ‥‥‥」

「ソフィアちゃんも来てないか‥‥‥」


長尾智恵と加地美鳥に声を掛けてきたのは幼馴染の安田晶良,齋藤由里,高梨瑠璃の3人だった。もうすぐ始業式の式典のためにウェヌス・ウィクトリクス講堂に移動する事を考えると長尾智恵は本庄真珠,水原光莉,千坂紅音も一緒に来ると思っていた。

本庄真珠,水原光莉,千坂紅音,そして樋口ソフィア‥‥‥30人程度のクラスでさすがに4人もいないと空席が目立つのは否めない。長尾智恵はスマホを取り出して,「もう始業式始まるよ?今どこにいるの?」と急ぎメッセージを送る。


「真珠に光莉に紅音も来ていないなんてどうしたんだろう?」

「始業式が終わっても返信が来てなければ,あとで電話もしてみるね。」


心配する加地美鳥に長尾智恵は冷めやらぬ胸騒ぎを感じつつも抑えて,入室してきた山県先生の指図を受けて,クラスメイトを廊下に並ぶように長尾智恵は促した。






ウェヌス・ウィクトリクス講堂での始業式が終わって,生徒たちは各自の教室に戻り,ホームルームが始まった。1年A組では担任の山県先生が席替えや新学期のカリキュラムの説明など諸々の伝達を淡々と進めていく。

本庄真珠,水原光莉,千坂紅音,そして樋口ソフィアが座るはずの空席を見て,長尾智恵はスマホを確認したが,やはり彼女たちからは返信は来ていない。

校舎中にチャイムが響き渡り,ホームルームが終了すると,長尾智恵は山県先生に話し掛けた。


「真珠たちからは今日休みの連絡はあったんですか?」

「いいえ,樋口さんからは「体調が優れないので休みます」と連絡がありましたけどね。私も気になるから本庄さんたちに連絡してみてください。」

「分かりました。メッセージは送ってあるので返信待ちです。」

「そうですか。よろしくお願いしますね。」


そう言うと山県先生は教室から出て,職員室に戻って行った。


「そうか,連絡なかったんだ‥‥‥」

「私たちは部活動があるから行くね。」

「真珠たちには私が連絡しておくから‥‥‥」

「よろしくね。」


加地美鳥,安田晶良,齋藤由里,高梨瑠璃の4人が長尾智恵の背後に立っていて,声を掛けてきたのは加地美鳥だった。本庄真珠たちの事を長尾智恵に任せて加地美鳥たちは部活動に向かった。


「さてと,今日はまだ委員会の活動もないし,先に帰ろうかな。」






帰宅した長尾智恵はさっそく本庄真珠のスマホに電話してみる。トゥルルル,トゥルルル,トゥルルル‥‥‥空しく発信音が耳に響くが,本庄真珠が出る気配はない。


『真珠,どうしたんだろう?』


一旦電話を切って,水原光莉,千坂紅音のスマホにも続けて電話をしてみたが,結果は本庄真珠の時と一緒だった。


「今までこんな事なかったのに‥‥‥心配だなぁ。」


長尾智恵は3人の自宅にも電話をしてみた。数回の発信音の後,留守番電話に繋がるだけであった。仕方がないので,メッセージを聞いたら連絡欲しいと伝言だけ残しておいた。


「家の人も誰も出ないなんて‥‥‥」


トゥルルル,トゥルルル,トゥルルル‥‥‥


「もしもし,智恵?」


スマホに電話してきたのは加地美鳥だった。


「ねぇ,真珠たちと連絡取れた?」

「ううん,全然出ないし…‥向こうからも返信はないよ。」

「私もさっき掛けたんだけど繋がらなかったよ‥‥‥」


加地美鳥の話だと安田晶良,齋藤由里,高梨瑠璃と4人で部活動後に落ち合ってみんなで電話を掛けたようだ。長尾智恵だけ先に帰ったから何かあったらと心配して連絡して来てくれたらしい。






樋口ソフィアは学校に欠席の連絡を入れてから部屋に戻り,ベッドの中に頭から掛け布団を被り枕に顎を預けて俯せに潜り込んでいた。そして,さっき聞いたおばさんの話を思い返してみる。


「昨日は眠くて早めにお風呂に入って20時にはベッドに寝ころんでいた‥‥‥そして直ぐにウトウトとしてしまい,ものの5分くらいで寝てしまったと思う‥‥‥私の記憶では今朝までぐっすりと眠っていた‥‥‥だから途中で起きて,ましてや何処かに出掛けてなんて事はあり得ない。」


布団から顔を出して,寝返りを打ち,仰向けになる。


「おばさんが両親と私を見間違える事はないはず‥‥‥まさか誰かがその時間に家に侵入した!?いやいや,玄関の鍵は掛かっていたし,泥棒だとしたら家の中は荒らされてもいない。」


額に掌を載せて考えてみる。


「だとしたらやっぱり私‥‥‥なのかな?それに4日連続で始業式だという謎だって残っている。本当に私の周りで何が起きているの?」


いくら考えても纏まらないから苛立ってくる。枕に頭を預けて横向きになり現実逃避をするように瞼を閉じる。いつの間にか眠りに誘われ,意識を離していた。


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