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聖ウェヌス女学院  作者: Paddyside
第1章 不思議のメダイ -Mysterious Medal-
3/215

#003 嚆矢濫觴

チュン,チュン,チュン‥‥‥


ベランダの柵に留まりお互いを啄ばむ雀の囀りと窓のレースのカーテン越しにベッドに差し込む朝日の眩しさに樋口ソフィアは目を覚ました。


「う~ん‥‥‥あれぇ?確か‥‥‥礼拝堂でお祈りをしていて‥‥‥」


惚けた頭で思い出そうとする。ぼんやりと意識が覚醒し始めて,辺りをキョロキョロと見回す。そしてここが自分の部屋だと確認する。

そして,タオルケットを捲るとパジャマも着ている。枕元の時計を見ると5時30分だった。昨日とまったく同じ状況‥まさにデジャヴというやつだ。


「今日から授業があるし,とにかく学校に行く支度をしなきゃ‥‥‥」


普段の樋口ソフィアなら就寝前に翌日の授業で使う教科書や参考書,ノートなどを鞄に詰めているのだが,明らかに支度をした記憶がないから慌てて準備に取り掛かる。

そして部屋を出て,いつもの日常と変わらず,制服に着替えて,洗面所で顔を洗い,歯を磨き,キッチンに入り朝食の用意をする。

そう何もかもが習慣のように‥‥‥いつものようにパン・ド・ミのトーストに目玉焼きの朝食を済ませて,使ったお皿などを食洗器に仕舞い,スイッチを入れる。


「よし,学校に行こう‥‥‥」


学校に向かう道すがら昨日のでき事を思い返すが,一昨日と同じくウェヌス・ウェルティコルディア礼拝堂で気を失ってから起きるまでの事が思い出せない。というよりまるっきり記憶がない。


「本当に私,どうしちゃったんだろう‥‥‥」


ずっと考え込んでいたせいで周りの事をまるで気にしていなかった。それがその疑問は正門の前に着いた時,違和感となって樋口ソフィアに襲い掛かる。






「おはよう!」

「おはようございます!」

「はい,おはよう。」


久しぶりに顔を合わす友だちや正門前に立つ先生と挨拶を交わしながらわいわいと賑やかに女子生徒たちが女学院内に入り,遊歩道をそれぞれの校舎へ向かって歩いて行く。


「ねぇねぇ,夏休みどうだったのよ?」

「これ,写メ見て,これが新しい彼氏!夏祭りでナンパされたんだけどぉ‥‥‥大会に出られるほどテニスが上手でぇ,スマートで身長も高いしぃ‥‥‥それから,それから‥‥‥」

「いいなぁ,私は花火大会の時に二股掛けてた彼氏に振られちゃったし‥‥‥」

「ほら,そこの3人は学校の入口でそんな会話はしないように!」


女子生徒たちが一昔前の初心で夏休み明けには何処でもありそうなお約束の,他愛もない会話を交わしていて,嬉しそうに自慢げに話す子もいれば,どよーんと沈みダンマリを決めて涙ぐむ子もいる‥‥‥そばで生徒指導の先生に会話を聞かれてツッコミを喰らっている。


『あれ?これって昨日同じ光景を見たような‥‥‥いや絶対に見た!それに一言一句一緒じゃない!?何で?そうすると今日は始業式?‥‥‥いや,そんなことはないよね。だって,始業式は昨日だったし。まさかドッキリ?でも私にそんなことしても何の意味もないし‥‥‥』


樋口ソフィアは思わず正門の前で立ち竦んでしまった。一瞬,目の前で何が起きているのか理解に苦しむ。まさかと思いつつテレビカメラを探すがそんなものは当然のごとく見当たらない。辺りを見回した樋口ソフィアは困惑していたが,取り敢えず遊歩道に脚を進めて,高等部の入り口にいた担任の山県先生に近づいていく。


「山県先生,おはようございます。」

「はい,おはよう。」

「あの,先生‥‥‥今日は‥‥‥始業式‥‥‥ですか?」

「今日は始業式ですよ。」


樋口ソフィアは恐る恐る訊ねてみるが,それに対して山県先生は怪訝そうな顔で答えた。


「やっぱり始業式なの?」


樋口ソフィアは消えるような小声で呟き,山県先生の訝し気な表情を見て,これ以上何か言うとおかしいと思われると感じ取ったからか,軽く一礼すると踵を返して校舎の方へとゆっくりと歩きだした。

樋口ソフィアは置かれている状況をまるで理解できなかった。


「ソフィアちゃん!おはよう!」

「あっ,おはよう‥‥‥」

「何かあったの?」


高等部の校舎の玄関ホール前で樋口ソフィアの背後から声を掛けてきたのは長尾智恵だった。そして,考え込んでいた樋口ソフィアは思わず長尾智恵の声にいつもと違う感じで応えていた。長尾智恵も違和感を感じて,樋口ソフィアの顔を覗き込むようにして聞き返していた。


「今日ってっさ‥‥‥始業式‥‥‥だよね?」

「うん,そうだけど‥‥‥どうかしたの?」

「いや‥‥‥何でもない‥‥‥もう放っておいて‥‥‥」


迷いながらの樋口ソフィアの問いに戸惑いながら答える長尾智恵。

長尾智恵は樋口ソフィアのいつもと違う様子を敏感に捉えていた。


「お・は・よ・っ!」

「えっ?!」


そして,樋口ソフィアに考え込む余裕を与えず,背中をポンッと軽く叩かれた。2人の後ろから声を掛けてきたのは本庄真珠だった。そして,本庄真珠は長尾智恵ではなく樋口ソフィアの左腕と取り腕を組んで来た。


「さっ,いいから早く教室に行こうよ!」

「えっ?本庄さん?」


本庄真珠は組んだ腕を外して,今度は樋口ソフィアの制服の袖を引っ張る。


「えっ,ねぇ,何か間違ってない?」

「何が?」


あからさまに戸惑う樋口ソフィアは本庄真珠に尋ねてみるが,そんな事は我関せずの本庄真珠は樋口ソフィアをグイグイと引っ張り,連れていく。見るからにその力は女子高生のものとは思えない力強さだった。


『真珠,いったいどうしたんだろう‥‥‥?』


長尾智恵はそんな光景を見送りながら,いつもと違う雰囲気に何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くしてしまった。


「おはよう,智恵。‥‥‥って,どうしたの?」

「あ,いや大丈夫だよ。心配させてごめんね。」

「あれ?下駄箱の所に居るの真珠じゃない?その隣にいるのは‥‥‥えっ,ソフィア‥‥‥?」


長尾智恵の後ろから声を掛けてきたのは加地美鳥だった。茫然自失となって立ち尽くす長尾智恵を心配して加地美鳥は両手で肩を掴んで揺すってくる。

長尾智恵は我に返り返事をしたが,今度は加地美鳥が目の前に起きているあり得ない光景に驚愕している。


「だってあんなに反目って言葉が合うくらいに口も利かなかったのにね。何があったの?」

「さぁ,私にもさっぱり‥‥‥とりあえず,真珠とは帰りに話しをすればいいかな‥‥‥」


加地美鳥と長尾智恵の会話を割くように予鈴のチャイムが鳴る。


急いで教室に入ると長尾智恵は本庄真珠に話し掛けようとしたが,間髪入れず担任の山県先生が現れて教室移動をクラスの生徒全員に促した。

仕方がないので委員長である長尾智恵はクラスメイトを廊下に並ばせてウェヌス・ウィクトリクス講堂に向かうように指示をする。

確認でチラ見をすると列の後ろの方で本庄真珠の隣には加地美鳥が居て話し掛けている。その様子は普段と変わらず,その光景に安心した長尾智恵は気持ちを切り替えて始業式に向かった。






ウェヌス・ウィクトリクス講堂での始業式が終わって,生徒たちは各自の教室に戻り,ホームルームが始まった。

1年A組では担任の山県先生が席替えや新学期のカリキュラムの説明など諸々の伝達を淡々と進めていく。

座席は長尾智恵は窓側に近い前寄り,本庄真珠は廊下側の真ん中辺り,加地美鳥は教壇の正面で一番後ろ,樋口ソフィアは教壇の正面一番前になった。


樋口ソフィアは今朝の本庄真珠の急変した態度に加えて,昨日に続き今日も始業式だというのがどうにも腑に落ちず,考え込むあまり山県先生の話には身が入らない。

長尾智恵は本庄真珠の今朝の態度が気になってはいたが,先ほどの加地美鳥との様子で若干不安を拭えており,クラス委員という立場と元来の真面目さから先生の話には集中するようにしていた。

そんな対照的な2人に我関せずと本庄真珠は至極普通に先生の話に耳を傾けている。


「今朝の智恵への態度を見ると真珠と何かあったのかな?でもさっき話をした感じではそんな素振りもなかったし。だからと言ってあれだけ毛嫌いしていたソフィアと仲良くできるものかな?」


そんな長尾智恵,本庄真珠,樋口ソフィアの様子が加地美鳥は気になって仕方がなく,考えを巡らせながら3人を見続けて,あまり山県先生の話に身が入らないでいた。


「‥‥‥では,これでホームルームを終わります。委員長お願いします。」

「起立!礼!」


長尾智恵の合図でクラスメイトたちは立ち上がり,一礼する。ホームルームが終わり,礼を直り,長尾智恵は本庄真珠と話をしなきゃと席を見たが,そこにはすでに本庄真珠の姿はなかった。


『あれ?真珠はもう練習に行っちゃったのかな?』


長尾智恵は一礼の間ほんの一瞬だけ目を逸らした程度で,本庄真珠の姿を見失った事には動揺してしまった。そこに加地美鳥が長尾智恵の席に近づき声を掛けてきた。


「智恵,私はこのあと部活動があるけど,何か用事がある?」

「いや,私は特にはないけど‥‥‥」

「私の部活動が終わるまで待っててくれる?」

「うん,いいけど‥‥‥どうしたの?」

「理由はいいじゃない。じゃあ,絶対に待っていてね。待ち合わせは下駄箱のとこね。私は今日は新学期の顔合わせだけだから1時間もあれば終わるから。」

「うん,分かった。」

「じゃあ1時間後にね。」


加地美鳥は振り向きながら手を掲げて長尾智恵を教室に残して後側の扉から出て行った。


「智恵,私たちも部活動があるから行くね。」


開け放たれた教室の前側の扉越しに廊下からひょこっと顔を出して呼び掛けてきたのは水原光莉だった。


「じゃあね!」


一緒に千坂紅音,安田晶良,齋藤由里,高梨瑠璃が手を振って姿を消した。


『さてと,どうしようかな?ソフィアちゃんもいつの間にかいなくなっているし,今日は生徒会の活動はないけど,会議室に顔を出して時間を潰そうかな。』


本庄真珠と話のできなかった長尾智恵は樋口ソフィアと話ししてみようかと思っていたが,彼女も既に教室には居なくなっているのを確認して加地美鳥との待ち合わせまで生徒会室で最近はまっている小説を読んでいることにした。






高等部のグラウンドでは本庄真珠の所属する陸上部がウォーミングアップを始めていた。今日は秋の大会に向けて出場する選手がタイムを取ることになっている。準備運動の終わった本庄真珠は他の短距離走の選手と200mのタイムを計る。


「位置について!‥‥‥よーい!‥‥‥」

「パーン!」


渇いた空砲の音を合図にスタートを切りトラックを駆け始める少女たち。その中,本庄真珠は異様とも云える加速で2番手の選手をグングンと引き離していく。

その光景を周囲で見ていた陸上部の部員をはじめ,顧問の秋山先生は唖然として目を思わず丸くする。まさにあっという間のでき事だった。

ゴールでタイムを取っていた部員はそのストップウォッチに計時された数値を見て絶句する。


「うわあぁぁぁぁ!」


しかしその刹那,光景を見ていた陸上部の部員たちは思わず声にもならない叫びとともに長尾智恵の周りに駆け寄った。

そして,秋山先生はゴール地点に駆け寄り,記録係の陸上部の部員が手にしているストップウォッチを奪い取り,その画面を覗きこむ。


そこにあった数値は非公式な記録とはいえ高校生記録どころか,女子陸上の日本記録にもほぼ匹敵するものだった。本庄真珠は優秀なスプリンターではあるが,いくら何でも女子陸上の記録を出せるほどの実力はまだない。何せ高校1年生なのだから。

秋山先生は何が起きたのか理解できないでいる。ドーピングでもしたのならあり得るが,学校の練習でそんな事しても仕方がないし,本庄真珠を中学生から見ている秋山先生からしたら彼女がそんな事を絶対にするわけないと思っている。

だからと言って計り間違いもないだろう。あの走りを見ていれば,そんなことは思えない。


「真珠,おめでとう!」

「本庄さん,すごいじゃん!」

「うん,ありがとう!ありがとう!」


陸上部の部員たちは先輩も後輩も関係なく本庄真珠を中心に歓喜の輪を作り祝いの声を掛ける。本庄真珠はその輪の中心であまりの喜びに我を忘れそうな心地になっていた。


「みんなひとまず,小休止ね!本庄さんは一緒に来て。」


秋山先生は部員たちを掻き分けて歓喜の輪の中に入り,そう声を掛けると直ぐに本庄真珠を連れて馬場学長のいる学長室へと向かった。






長尾智恵は高等部校舎の玄関ホールの下駄箱の前で加地美鳥を待っていた。

もちろん,本庄真珠が現れれば引き留めて今朝の話をしたかったのもある。

しかし,長尾智恵はつい先ほどグラウンドで本庄真珠が200m走で非公式とはいえ日本記録に並ぶタイムを出していて,その報告するのに帯同して学長室に行っていることは知る由もない。


「お待たせぇ,かなり待たせちゃった?」

「ううん,ついさっき来たばかりよ。」


加地美鳥がのほほんとした感じで声を掛け,長尾智恵と合流し,2人で玄関ホールからグラウンドの見える外へと出てきた。


「やっぱり,真珠は居ないかぁ‥‥‥」


グラウンドでは先ほどの興奮が冷めやらぬ陸上部の部員たちが練習を再開している。

長尾智恵はトラックを走る陸上部の部員たちの姿を目で追うが,その中には本庄真珠はもちろん居なかった。

遊歩道まで出てきた加地美鳥はようやく本題を切り出す。


「ねぇ,真珠と何かあったの?」

「えっ?別に何もないと思うんだけど‥‥‥」


長尾智恵は加地美鳥の問いに戸惑っていた。

夏休みが始まるまでは特に仲が悪くなるような事もなかった。

夏休み中は本庄真珠は陸上部の練習や合宿であんまり会ってなかったけど,メールや電話のやり取りも普通にしていた。だから拗れるような事もなかった。と信じたい。

仮に樋口ソフィアと仲直りしたとしてもそれが長尾智恵を無視する理由にもならないだろう。


「でも真珠の今朝の様子は明らかにおかしいよね。智恵はソフィアの事を気に掛けていたけど,入学式での事を考えたら真珠がソフィアに自分から近づくなんて事もないだろうし。だとしたら真珠の態度は智恵への当てつけとしか思えないから。」

「私も気が付かないところで真珠に何かしちゃったのかな?」

「どちらにしても私が間に入るから真珠と明日ちゃんと話をしよっ!ねっ。」


長尾智恵には何が起きたのか理解ができていないが,それでも加地美鳥は長尾智恵と本庄真珠がいつもの2人に戻って欲しいから,そのためには何でもするつもりでいた。


「それに‥‥‥」

「それに?」

「いや‥‥‥いいや。」


長尾智恵にはホームルームの終わった後の事が気になっているのだが,それがあまりに漠然としているから加地美鳥に今の時点でどう説明すればいいのか言葉にならないと感じていた。


そんな長尾智恵たちの様子を教室の窓からじっと見つめる人影があった。


「次はあの娘‥‥‥」


そう呟くとその人影はスーッと教室の闇へと吸い込まれて消えた。





同時刻 ――――― グラウンドの奥にある屋内温水プールでは水泳部の部員たちが練習に励んでいた。

ここには長尾智恵たちのクラスメイトである水原光莉が次の大会に向けて競泳200m個人メドレーのトレーニングをしていた。成績は次の高校インターハイでは学校の代表になれるレベルであるが,どうしてもバタフライが弱点でそこで順位を落としてしまうのが難だった。


「光莉はバタフライさえ何とかできれば,個人メドレーでオリンピック強化選手にだって選出される。」


周りからもずっとそう言われ続けており,自分自身でもそうだと思っている。だからこそ歯痒くて歯痒くて仕方がない。

別に出場するのは他の自由形や平泳ぎなどの種目でもいいわけだが,そこは水原光莉なりの拘りがあった。

物心着いたころにはプールに浸かっていて,歩けるようになるよりも泳げるようになったのが早かったとまで云われた水原光莉の目標は日本の女子競泳選手としてオリンピックで金メダリスト最年少獲得記録を作り,「今まで生きてきた中で,一番幸せです。」と語り一躍時の人となった選手で,単一の泳法ではなく,メドレーのように総ての泳法で一番を狙いたいというのもある。






樋口ソフィアにとって今日は聖ウェヌス女学院に入って一番不可思議な1日だった。そう思わざるを得ない。


『昨日だったはずの始業式‥なのに今日も始業式が行われた。だとすると昨日の始業式は何だったのか?でも今日の智恵の反応は昨日の始業式を覚えていない様子だった。幾ら何でもあの子があんな他人を騙すような事はしないはず‥‥‥』


それだけは確かだ。それに今朝の本庄真珠の態度もおかしい。


『真珠は何時もなら私の事なんか気にも留めないのに‥‥‥智恵に目向きもせず,声も掛けずに‥‥‥ましてや私に絡んでくるなんて‥‥‥あり得ない‥‥‥それに始業式の後は真珠と喋ってもいないし,会ってもいない。だから真珠の真意が掴めない。真珠は夏休みの間に私との関係には何もなかったし‥‥‥まぁ,接触がないんだから当たり前だし‥‥‥それとも智恵との間に何かあったのかな?でもそれで私に絡んで来る理由にはならないよね。』


昨日の抜けている記憶についても未だに思い出せないでいる。正直,覚えている部分も断片的で細かいところまで思い出せない感じがする。まるで自分が自分でないような感覚‥‥‥

今日も両親は帰って来ない。お父さんは世界中を飛び回っていて帰って来るのは来月になると言ってたし,お母さんは翻訳の仕事を何本か抱えていて締切が近いから最低1週間はホテルに缶詰めだろう。2人とも相変わらずの忙しさのようだ。

まだ暫くこの家で樋口ソフィアは独り。でも何時もの事だからもう慣れている。


「はぁ~,もう寝よう。明日からは普通に授業始まるだろうし‥‥‥」


樋口ソフィアはそう自分自身に言い聞かせて,まだ19時だが,あまりにも眠気が襲ってくるので,パジャマに着替えるとベッドにごそごそと潜り込んだ。

明日からは何時もと変わらぬ日常に戻っていると信じて‥‥‥そんな異様な1日だったから毎日欠かさなかったウェヌス・ウェルティコルディア礼拝堂でのお祈りを今日はすっかり忘れてしまっていた。


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