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聖ウェヌス女学院  作者: Paddyside
第1章 不思議のメダイ -Mysterious Medal-
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#013 当意即妙

長尾智恵が図書館で不思議な体験をしていたころ‥‥‥

樋口ソフィアは聖ウェヌス女学院内の遊歩道を歩く。

ウェヌス・ウェルティコルディア礼拝堂の様子を見に来ていた。この聖ウェヌス女学院に編入して約半年,土日祝日も含めて毎日お祈りを欠かしていなかった。

その御蔭なのか,まるで友だちができる気配すらなかったというか話し掛けてもらえる機会すらなかったのが,2学期を迎えてこの1週間というべきなのか,それとも3日間というべきなのか分からないが本庄真珠をはじめとして長尾智恵の幼馴染から話し掛けられて仲良くなった‥‥‥と思っている。


『とは言ってもまだ朝の登校時と‥‥‥まあ,帰りも一緒もあったけど‥‥‥何で急に彼女たちから声を掛けてくるようになったのかな?そこは未だに分からない。休み時間にも彼女たちと話をしたいけど,そこは全然タイミング合わない。』


でも独りでないというのは嬉しいことでもある。


『そういえば,この前礼拝堂でお祈りしていて‥‥‥誰かが語り掛けてくる声を聞いたような‥‥‥』


始業式の前日に樋口ソフィアはこのウェヌス・ウェルティコルディア礼拝堂でお祈りをしたのは覚えているが,その時に何があったのかと訊かれたら今は詳しくは思い出せないでいる。

それにどうも学校が始まってからというもの記憶が曖昧になっていることが多い。だからか物覚えが悪くなっている気がしている。

朝起きてから学校に来るまでの事は‥‥‥憶えている。

学校での記憶もはっきりしている。

学校を出て家に着くまでの事も‥‥‥大丈夫だ。

でも始業式の日が何回もあったために混乱している。

そして夕方になると強い睡魔に襲われ起きていられなくなる。そして,目が覚めると朝になっている。その繰り返しだ。


『睡眠障害なのかな?過眠症とか睡眠不足症候群なんて病気もあるって聞くし。それで記憶が曖昧になることもあるらしいし。やはり一度,保健の先生に相談してみようかな?』


ウェヌス・ウェルティコルディア礼拝堂に着いて正面の扉に手を掛けて開けようとするが,やはり鍵が掛かっており,窓も確認するが何処も嵌め殺しになっていて開かなくなっていた。


『やっぱり開かないのか‥‥‥』


樋口ソフィアは諦めて踵を返し遊歩道に戻り,正門を目指して歩き始めた。

そしてまだ自分の体に起きている異変にはまだ気づいてはいなかった。






馬場学長は学長室の自分の椅子に腰掛けて,夜の帷に包まれつつある窓の外を眺めていた。

昨日の運動部の練習で陸上部では200m走で本庄真珠が,水泳部では200m個人メドレーで水原光莉が,日本記録に並ぶタイムを出したと報告があった。

さらに体操部では高梨瑠璃が床の演技でH難度のシリバスを決めたという。

3人は学内でも優秀な記録持っていたが,本庄真珠と水原光莉は日本記録を出すまでは行かないし,高梨瑠璃もD難度が精一杯だったと聴いていた。それにどちらかというと3人とも最近は成績が伸び悩んでいると報告を受けていた。

目前で達成された偉業にそれぞれのクラブの部員たちは興奮して手放しに喜んでいたというが,昨今の状況から眷属悪魔の影響を疑わざるを得ない。


「眷属に影響を受けた彼女たちが身体的能力を増していると考えるのが妥当でしょう。ヤルダバオトは既に7体の眷属悪魔を手に入れているはずですね‥‥‥」


椅子から立ち上がると内藤副学長と高坂学年主任,1年A組の担任である山県先生を学長室に呼び出した。全員が揃うとソファに腰掛けさせて,高坂先生はいつものように紅茶を淹れ始める。


「さて,なぜ皆さんに集まって頂いたのはヤルダバオトの件についてです。」

「まさか‥‥‥もう復活してしまったのですか‥‥‥」


馬場学長の言葉に山県先生は困惑した様子を見せて気持ちを吐露する。


「そうです。本当なら数十年は復活がないはずなのですが,やはり前回の封印が弱かったのでしょうね。私もこのようなパターンを聞くのは初めてです。」

「すみません‥‥‥」


馬場学長は責めるつもりはなかったが,山県先生は自分の責任を感じて思わず謝罪していた。


「山県先生,学長は別にあなたを責めようというわけではないです。」

「でも‥‥‥」

「あの時はあなたにとってあまりにも荷が重すぎた‥‥‥それだけです。」


俯いてしまった山県先生を内藤副学長がフォローをする。


「ともかく今はヤルダバオトを封印するのが先決です。今回はあなたのクラスの長尾さんが担当することになります。我々はしっかりと彼女のバックアップするのが仕事です。」

「長尾さんが‥‥‥ですか。」

「既に7体の眷属悪魔は復活を果たし,長尾さんの幼馴染を支配しつつあります。それは昨日の同級生である本庄さん,水原さん,高梨さんの件ではっきりしています。」


馬場学長は経緯を3人に説明する。山県先生はその説明を聞きながらも自分が背負うべきものを長尾智恵に背負わせてしまった後ろめたさに苛まれていた。山県先生の様子を見て馬場学長は一口紅茶を飲むと一喝する。


「山県先生,落ち込んでいる場合ではありません。あなたは責任感が強過ぎたからこそ背負いきれなかった。長尾さんを助けて,今度こそ名誉を挽回する時だと思いますよ。あなたがそんなだとまた問題を大きくしてしまう事もありますから。」

「そうですね‥‥‥分かりました。」


山県先生は気持ちを切り替えるために両掌で頬をパンッと一発叩く。そして俯いていた顔を上げるとその眼には強い決意の力が籠められていた。

馬場学長はそれを見て優しく微笑みティーカップの紅茶を飲み干した。






不思議のメダイが割れた事でどんな問題が起きるのか,解決方法はどんなものなのかは長尾智恵には今のところ分からない。ただ,何も起きないという事だけはないのは認識している。既に始業式の日を繰り返すという事象が起きているし,本庄真珠,水原光莉,高梨瑠璃の幼馴染3人には身体的な影響が出ているという。

それを考慮すると加地美鳥,安田晶良,齋藤由里,千坂紅音の4人にも今後どんな影響が出るのかは分からない。

今日の馬場学長の話ではヤルダバオトは7体すべての眷属悪魔が復活を果たし揃わなければ姿を現さないという。

それに加えて聖ウェヌス女学院の敷地を覆うように結界を張り始めているという。これはヤルダバオトを祓うほどの能力はないが,眷属悪魔に支配されつつある長尾智恵の幼馴染たちへの影響を少しでも抑えようというものらしい。要は時間稼ぎであり,ともかく時間を作り,対策を打つ余裕を持たないと。という考えだ。

長尾智恵は幼馴染たちとの無用な接触も禁止された。この問題が片付くまでは孤独な日々になるだろう。それでも幼馴染たちを助けたいという信念からそれを受け入れた。


『何でこんな事になったのかとか,もう私がウダウダ言って躊躇っている場合じゃない。学長を筆頭に先生たちも助けてくれるのだから頑張らなくちゃ。』


長尾智恵は自分の部屋で椅子に背凭れに寄り掛かりながら座り,窓の外で輝く星の瞬きを眺めながら改めて決意をした。


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