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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ねがてぃヴ

作者: 宇野 ひらく

キモイです。エモいです。ちょっとした日常での噂っていろんなカタチで伝言ゲームになりえます。自分も若いころ、『都市伝説』ってやつが好きでした。

『最近、電車で起きた事故知ってる~?』

『え~、あれでしょ?電車の車両が燃えたやつでしょ~。怖っ!って思った~。私、昔読んだ小説思い出しちゃった~。』

『誰誰!何て作品?』

『なんだっけ~。』


あっそう、


『ファイアスターター』

『絶対、テキトーっしょ。』



人身事故のアナウンスが車内に充満する。

だれも嗅ぎたくない、やんごとない屁。

こんなときは、イントネーションの可笑しな、車掌に同情する。


励ます気のない声。車掌にとっては、万事想定内の『またか』なんだろう。

でも、私はいや。そう、誰だってイヤ。


身じろぎ出来ない体。動かない車両。いつ動くかわからないとのたまうアナウンス。

自分が呼吸するのを躊躇ってしまう。きっと、みんなそう。

スマホを持つ腕が肘先で、目の前のサラリーマンを小突いている。

諦めて、画面を見るのをやめる。


10分、15分、経ったのだろうか?


私は背が高い方では、ない。から、周囲の状況があんまり見えない。でも、方々から、溜息や鼻息、静かな話し声が聞こえてくる。


なんて、タイミングなんだろう。自分のツキのなさを呪い、私も溜息を洩らす。


すると、ケタタマシイ音が鳴り響いた。

私の携帯?

恥ずかしくて、下を向く。


でも、そこら中で鳴り響く、電子音。着信の音。一斉に鳴り出した、音の群れは不愉快を通り越して、頭痛を覚醒させる。


目の前のサラリーマンがアイドル歌謡のナマ着を、無表情の顔でオフにしようとしている。


彼は、アイフォンの電源をオフった。これで、音は出ない。

だって、私も同じ機種なんだもん。


でも、音は止まない。


周囲はけたたましい電子音の群れ。

なにが起きているのか勘える。


『なんだよっ!これ!うるせーんだよっ!』


薄く色の入った眼鏡をかけている私の横で立っていた、昔のヤンキーみたいな格好のオヤジが叫んだ。

誰も答えようともしない。

いろんな音がごちゃまぜになる。

気持ちワルイ。


音が止む。ぴったりと。


誰かが、ヒッと空気を飲む音がした。


私はかろうじて動かせる首を曲げて、車窓の外の世界を見る。少しでも、この世界から逃げ出したかった。


外に、テニスコートが見えて、5人がコートを挟んでボールを弾ませている。

マンションのベランダでは、洗濯物がはためいる。少し風があるんだろう。ハンドタオルが揺れている。


世界が正常に動いていることに安心する。

再び車内にアナウンスが流れる。

『只今、安全確認を行っています。もうしばらくお待ちください。』

苛立ちと溜息。早く、動かないかな…。脳内で補完される情景。

やり場のない怒りが、車内の気温をどんどん、あげてっているみたい。

嫌。

まるで、私の現実全てがこの電車の車両に閉じ込められてしまったみたいだ。

鋼鉄の檻のように。想像して、身震いする。

どうしよう、おしっこ…。したくなってきちゃった。


ヤバイ。

私は、呼吸するのを躊躇ってしまうようになってきた。

私の呼吸は乱れているんじゃないか?

そう思うと、余計に苦しくなってくる。尿意がせり上がってくる。

どうしよう、どうしよう。

押し殺そうとすればするほど、心臓の音は大きくなり、私の鼓膜を制圧する権利をもっているかのように、ワガママに振る舞い出す。膀胱がハレツしそう…


小さい子、赤ん坊かも知れない。見えないところから、鳴き声が聴こえてくる。しょうがない。

みんな、泣きそうなんだよって、思ってから後悔。


『みんな、ピリピリしてんだよっ!っせぇ!黙らせろよっ!!』

キツくて、甲高い、イヤな声。


思わず下を向いてしまう。


なんて、1日なんだろう。

あとどれくらい、我慢すればいいのだろう。


制服がじっとりと湿ってきた。

冷たい汗が、背中を滑り落ちる。


前に立っているサラリーマンが、小刻みに体を揺すっている。


私は大声で叫びたいけれど、絶対後悔することがわかっている。でも、もうダメかもしれない。

刹那、絶叫が私のカラダを貫いた。

『うあ~~~っ!なんだよっ?燃えてんのかっ?なんだよっ!なんでっ!』


私は、背が低いからよく見えないが、狂騒が、一人一人が少しずつ重なって押し寄せてくる、塊のように。


痛いっ。押し潰されてしまいそう。悲鳴と何かが燃える匂いが混ざり合って、私の感覚をグチャグチャにしていく。


ダメだ。涙が出てきた。


怖い。


手で涙を拭おうとした一瞬。

目が合った女の人。


一瞬止まった。白く光った。

真っ赤な炎が、彼女を包み込んだ。


え、なんで?

人が燃えている。


髪の毛を掻き毟りながら、悲鳴をあげている。

近くにいた男の子が、タオルで叩いている。でもタオルも燃えていく。

ありとあらゆる類の叫び声。


窓をドンドンとドラムバッグで打ちつけている白髪の人。

それに続けと別の車両との連結部にいる人がドアをガチャガチャとやっている。

思わず、視線は釘付けになる。


ドアをいじって、蹴っていた男が、白く光った。


『ぎゃ~~~~っ!アチいぃぃ!』


私は、今、呼吸を飲み込んだ。

ヒッと、高い音がする。


私がモヤシタノ?

一閃するドライな感覚に、ハッとする。


髪の毛が燃えるイヤな匂いと、嘔吐しそうな肉の燃える臭い。


前のサラリーマンは小便を漏らしたのか、足までスラックスが濡れている。


そんなはずない、そんなわけないから。


私は縋るように、赤く腫れてるだろう目で周囲を見渡す。


次々と、人が燃えていく。

車内に煙が立ち込める。

私は、どうしていいかわからなくて、煙にむせて、何も考えられなくなって叫んだ。


『もう、やめて~~~っ!』


電車の中の蛍光管がボンッと鳴って砕け散った。

わからない!わかんないよ!


前に立っていたサラリーマンの首がおかしな感じに曲がっている。体は私を向いているのに、首が窓のほうに捩れている。


さっき、震えていた体は、小刻みに痙攣している。


もう、全ての音が遠ざかっていく。


白髪の男が、もえかかったジャケットを脱ぎ捨て、数人で窓に何かを打ちつけている。


私は、もう怖くなかった。


今、何時なんだろう?

首の曲がったサラリーマンは、車窓に寄っ掛かっている。

私は、彼の体を押し退けて窓の外を見ようとする。


テニスコートには、誰もいなくなっていた。

眼前のマンションのベランダに、人影はない。


何か、動いてるものを見つけなきゃ!


私は必死に捜す。


遠くに、小さく、上昇していく飛行機。

空は信じられないくらいに青かった。


私は、心から祈った。


飛行機が、堕ちませんように。






『結局さ~、生きてる人っていたわけ?』


『うん。生存者って言うんだよ、そーゆーの。その電車の燃えた車両から、赤ちゃんとお母さんだけ生きてたんだって。』

『なにそれ。逆に怖くね?でも、なんで隣の車両の人とか、気が付かなかったんだろうね。』

『案外、みんなスマホにでも夢中だったとかじゃ~ん?』

『そんなのあるわけないっしょ。』

『じゃあ、こないだの弟をバラバラにしちゃった….。』 


たまにホラーが書きたくなったりします。拙筆に過ぎると、筆者も自覚はしているのですが...

感想など、いただけたら幸いです。

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