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異世界チャレンジはかくも面倒


 地面とタイヤの摩擦による急ブレーキ音が響き、人間と大型トラックがぶつかった爆音が周囲を圧した。

 既に聞き慣れてしまった、人が撥ねられる音だ。

 よりにもよって担当地区の境あたり、ちょうど警備が手薄になりやすい場所で身投げなんて……


「救急車と警察、頼みます」


 風花に声をかけてそのままバイクを止め、現場に駆け寄る。聖女も一緒だ。


「大丈夫ですか? 返事できますか?」


 撥ねられた人に声をかけるが反応はない。

 うつぶせに倒れたままピクリとも動かない。返事云々以前に意識がなさそうだ。頭を打っているのか、かなり血も出ている。

 ……厳しいな。

 こうなるとそうそう生き延びられる人は……なんだ?

 後ろから声が響いた。まるで、詠唱しているような意味不明な音。


「待っ……!」


 馬鹿、こんな目立つ場所で……!

 詠唱を始めていた聖女がチャレンジャーに手をかざす。


 ――エクストラヒール


 声が響くと同時に、野次馬による人垣がどよめいた。

 いうまでもなくアウト判定だ。チーフからのお説教確定である。俺が。

 しばらくして、聖女が項垂れた。チャレンジャーは何かが変わっているようには見えない。


 ――ダメです。手遅れでした


「そうですか」


 人前なので敬語で応える。

 そんな気はしていた。あの勢いでぶつかれば大方の人は死んでしまう。

 もう事後処理にも慣れてしまった。転生阻止課にいれば嫌でも事故と死体を見慣れてしまう。

 あまりいい気分はしないが。実際、耐えきれずにやめていった同期も珍しくない。人手不足の原因の一つだ。

 じきに警察もくるし、まずプライバシーの保護をしよう。


「下がってくださーい! 写真も動画もとらないで!」


 言っても聞かないだろうが一応言う。パフォーマンスは大事だ。

 もちろん本当にやめてくれるに越したことはない。

 不謹慎なだけで済むならまだましというものだが、個人が特定されれば家族や関係者に迷惑がかかってしまう。運転手にいたっては過失がない場合でも犯罪者扱いだ。

 実例はいくらでもある以上、手を止めている時間はない。

 

 鞄からこういうときのために持ち歩いている布を取り出し、広げて被害者の上半身にかける。

 たとえ生きていても死んだと勘違いされるためあまりいい方法ではないのだが、プライバシー保護という意味ではこれが手っ取り早い。あとは子供にそんなもの見せるなというクレーム対策的にも。

 そこまでやってられないなんて言えないのが公務員だ。言えば叩かれる。


「……」


 マニュアルがあるのだろう。運転手はジャケットを被って運転席に隠れるように身を小さくしていた。

 それでいい。

 本来なら出てきて撥ねられた人の手当てをすべきだが、今は俺達がいる。こうなれば全てを任せてドアにロックをかけ、顔を隠すのが一番だ。

 異世界チャレンジが流行する前なら心証を悪くする対応だっただろうが、今ならむしろ推奨される行動だ。


「道を空けてください! 警察です!」


 人垣の向こうから声が聞こえた。

 出番はここまでのようだ。

 一つ気になるのは、ここがトラック警護の受け渡し地点ということ。予定では隣の地区の転生阻止課職員がここまで送るはずだったのだが、姿が見えない。

 何かあったのか? 大方、他の場所で異世界チャレンジが起きて対応せざるをえなかったとかそういうところだろうが……だからって連絡が来ないというのはおかしい気がする。

 あとで確認しておこう。

 今はこの聖女の相手をすべきときだ。


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