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×聖女 ○問題児

 

 見回りに出る準備をしている間にチーフが聖女に言い含めていたのは以下の通り。


 一つ、帰還者であると気づかれないように行動する。

 二つ、能力の行使は緊急時を除いて禁止する。

 三つ、緊急時に能力を使用する際もバレないように最大限の努力をする。


 だが、これくらいは向こうでもいい含めていたはずだ。

 本人もわかりましたとは言っていたが、ここにいることが結果を物語っている。もう帰ってもらえばいいのでは?

 チーフも承知しているのか、最後に条件を付け足した。


 四つ、能力を使用せざるをえない状況に陥った場合、能力を使用せずとも打破できないか一度考える。


 さすが、チーフは有能だぜ。

 条件反射で能力を使われたらたまらない。聖女の使うよくわからない能力は人間の技じゃない。目立つどころの騒ぎじゃないし、憧れる人も増やしてしまう。

 これだけ言い聞かせれば自重を望まれていることくらい察しがつくだろう。





 そう思っていた頃もありました。


 目の前には中途半端に急停止したトラックに撥ねられ、地面に伏したチャレンジャー。そしてその傍で何やら祈りを捧げている聖女。

 見回り開始から十分も経たないうちにこれだよ。このペースで問題起こしてればそりゃ何も教えられないわ。


 あのさあ……君ら転移したんだよね?

 つまり、元々日本にいたんだよね?

 ……なんでここまで常識が欠如してるの? おかしいでしょ。箱入り娘でもまだましだよ、会ったことないけど。

 わかるでしょ。それしたら目立つって。

 わかるよね? 遠回しに目立つなって言われてるって。

 なんなの? バカなの? 人間じゃないの?


「はぁ……」


 どうしてこうなったのか。

 時は数分前にさかのぼる。





 ……肩が重い。

 見回りに出た直後、気になって肩を動かした。

 おそらく精神的な原因だ。俺の後ろにぴったりついてくるこの聖女のせいでこうなっている。

 予想通りいきなり目立ってる。いっそ本当にローブを着せようかとも思ったが、そもそもローブがなかった。

 考えてみれば当たり前だ。まだ冬どころか秋も来てない。


「はぁ……」


 これはもうそういうものだと思おう。

 仕方ないという許容の心だ。

 とりあえず、バイクの後ろに乗っている聖女に向けて解説を始めた。


「チャレンジャーを見分けるポイントは装備です」


 ――装備ですか?


「はい。彼らは飛ばされたあとに何もないのは困るとか考えてますから、無駄にサバイバル向けの装備を持っていることが多いんですよ」


 ――なるほど


 納得できるのか。

 俺は理屈はともかく心情的には納得しがたいんだが。

 傍から見れば装備揃えて自殺してるだけだぞ、これ。意味不明というか謎行動すぎる。

 だいたい、異世界などという謎世界に飛ぶことを夢見てるくせしてみみっちい。理屈はわからないでもないがあまりに格好がつかないように思えてしまう。

 仮にそれで成功したところでどうなの? それが必要な状況って時点で詰みじゃない?


「……そういうわかりやすい連中はむしろありがたいです。こちらから声をかけられますから」


 ――どういうことですか?


「そういう人は包丁とかサバイバルナイフとか、危険物を所持していることが多いんです。声をかけてその辺をつつけば話を聞く理由ができます」


 トラックに飛び込む前の段階で潰せる相手だ。

 こういう手合いは飛び込みの成功よりも異世界に飛んでからのことを考えがちなので転生阻止課としては止めやすい部類に入る。

 わざわざサバイバルナイフとか持ってるだけで怪しまれるようなもの買う行動力があるなら他に活かせよ、という突っ込みは無意味だ。気にしても心が疲れるだけである。


「逆に、止められないことを優先して着の身着のままで身投げするチャレンジャーもいます。そういう人を見分けるのは難しいですが……目ですね」


 ――目ですか?


「トラック探したり、飛び込む軌道を確認したり、周りに止めてきそうな人がいないか確認したり、とにかく視線が動き回ります。特に周りの店じゃなくて道に視線が向いているやつは怪しいですね」


 ――なるほど


 わかっていても見分けるのは難しいが。

 これは風花の受け売りだ。この技術を身につけているとは言い難い。

 ちらりと後ろで運転している風花を見る。

 こうして後方からついてきているのも、俺一人では力が足りないという証拠だ。

 大雑把な解説を終え、視線を周囲の観察に戻す。トラックとの合流点はもうすぐだ。

 その直後だった。


「左前! ワイシャツ!」


 風花の鋭い声が響く。

 視線を向けると、ワイシャツ姿の男が車道に向かって駆けだしていた。

 トラックは来ている。


 間に合うタイミングでは、なかった。


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