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妖精さんの哲学

 

 どうも皆様おはようございます。

 朝からお叱りを受けております。


「君はね、これだから――」


 叱っているのは白井風花(しらいふうか)

 まだ入って数ヶ月である俺の指導係だ。

 年齢は一つ下ではあるが、俺が短大卒、風花が高卒なので職場では一つ先輩にあたる。

 なお、指導は風というか嵐に近い。年下だからってなめられないようにしてるんだろうとは思う。

 叱られてる理由はクレーム対応のミス。俺の対応中の低姿勢がまずかったと、住民の方からさらなるクレームが他の人に飛んだ件について。

 別に他のクレーマーと同じ対応だし下手にも出たんだが、低姿勢すぎて馬鹿にしてるのかとのお言葉だ。

 入ったばかりの頃、もっと下手にでろとクレームが来て以来こうしていたのに……どうしろというのか。

 しかし、納得がいかずとも叱られるのが社会の悲哀。一応他の同僚に迷惑をかけてしまったことに関しての申し訳なさはあるから、反省はしている。

 ようやく説教が一段落し、締めの言葉が飛んでくる。


「いい? うちの課の標語をきちんと刻みなさい。そうすれば大丈夫だから」


 たぶん、元ネタ知らないんだろうなあ。


 だらしないという戒めの心

 歪みないという賛美の心

 仕方ないという許容の心


 元ネタから微妙に改変されてはいるが、去年までいたという先代の課長による悪ふざけの産物である。さすがに気になって先輩に聞いたところ苦笑いして教えてくれた。いい歳した公務員なのに元課長がロックすぎる。

 なお、元ネタに気づいている一部の職員(なぜか全員男性だった)は、絶対に口外しないことを誓っている。

 何故かって? 下手に知られるとセクハラになりかねないから。巻き添えはごめんだ。

 言葉のチョイスに違和感はあるものの、内容自体は結構いいこといってるからなあ……知らないと気づけないものなんだろう。

 というか、決める時点で先代課長の暴走を止めていればそれで済んだ話だったんだが。

 先輩方もそれくらいはわかってるだろうし、実際のところは何らかの事情で止められなかったのか。

 ちなみに我らが人型最終説教兵器チーフは元ネタを知らない。

 正直、女性陣にバレるよりチーフにバレる方が怖い。


「えー……こほん。皆、いいかい?」


 皆といいながら主にこちらを見て課長が声を上げた。

 たぶん、通達事項があったけど説教中で話せなかったんだな。

 課長は気が弱いから、こういうこともよくある。チーフなら立ち上がって顔を向けるだけで誰でも気づく。

 身の危険に敏感というか、案外人間の生存本能は残っているんだなと思う今日この頃だ。


「今日から職員が一人増えるんだ。君、入って」


 課長の呼び掛けで入ってきたのは、映像でよく見る少女だった。

 この世の者とは思えない、人の想像が具現化したような整った顔立ち。日本人にはありえない輝くような銀色の長髪。人と信じられないほど滑らかな白い肌。十代後半程度の外見は最初に表に出た三年前から一切変化がない。

 勇者(惨)の影に隠れてはいるものの、やらかしてくれやがっているという事実は何も変わらない帰還者コンビの片割れ。

 各地の転生阻止課の人間が強烈な敵意を向けているその少女は……


「……聖女」


 どこからか呟きが聞こえてきた。

 そう。彼女こそ聖女。

 内心聖女()とか呼んでいたのだが、実際に目の前にするとその威厳に呑まれてしまう。

 本当にこうなれるなら、と考えてしまうチャレンジャーの気持ちを一瞬理解してしまった。


──珊瑚(さんご)(いく)と申します。よろしくお願いいたします。


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