護るべきはトラックです
転生阻止課には対象地区のトラックの移動ルートと予想移動時間が送られてくる。
一応強制ではないのだが、大半の企業は送ってくる。手間は増えるが事故を減らせるなら安いものというわけだ。
その情報を基に見回りをする。基本的にバイクを使ってトラックを先導し、怪しい人を見つけたら速度を落とすという手段を取ることが多い。
同時に本部に連絡してその人とO☆HA☆NA☆SHI☆することになるが……まあ、大した問題はないだろう。精々連絡を受けた家族に滅茶苦茶心配されて泣かれる程度だ。
うちのO☆HA☆NA☆SHI☆係は見た目がヤバいことに定評があるチーフ(筋肉質で大柄なサングラスに剃った頭のおっさん)なので、大抵の人間は二度としようとしないはずだ。
俺だって怖いよ、あの人。
そうでなくとも、家族に泣かれるというのは結構利く。
多くのチャレンジャー達は転生というものにどこか実感がないから、身近な人に泣かれると以降は自制するようになる。
それでも自制どころか転生阻止課に悪質なクレームを入れてくる輩は一定数いるんだが。
命救ったんだから文句をいうなとまではいわないが、仮にも元々死ぬ気だったというならその程度でクレームなんて入れてこないでほしい。器が小さすぎる。
クレームってね、器から溢れたストレスを自分から他人に押し付けるだけなんだよ。そういう意味では解消にはならないの。巡り巡るだけだから。その行為、壮絶に無意味だよ?
そもそも、転生阻止課はチャレンジャーからは基本的に嫌われている。
厳しい風紀委員とか、真面目すぎて口うるさい学級委員長のポジションを思い浮かべてほしい。大体その扱いで合ってる。
基本がゲーム感覚だからゲームを邪魔する相手として転生阻止課を嫌っているのだ。ゲームじゃねえよ仕事だよという突っ込みはしたら負けである。ストレスに耐えきれなくなって胃に穴が空く的な意味で。気にしないのが一番だ。
で、チャレンジャー以外からの評判はどうかというと、大概が無関心である。
少数ではあるものの応援してくれたり感謝してくれる人もいるが、流通速度の低下を受けて転生阻止課が不甲斐ないせいだと非難してくる人もいる。
まあ、世間なんてそんなもんだからね、仕方ないね。というかそうでも思ってないとやってられない。
チャレンジャーは基本的に事故に見せかけようとしてくる。失敗しても問題になりにくいからだ。
事故に見せかける以上、形振りかまわないよりは阻止しやすいんだが連中は無駄に頭が回る。どんどん新しい手段を作り出すため予想は困難を極めるのだ。その発想力を別のことに活かせと強くいいたい。
もう普通に起業でもしたら? そりゃ大変だろうけど、異世界チャレンジよりは成功率高いと思うよ?
それでも異世界チャレンジをしてくる連中とか正直言って宝くじでも買ってろと思わないでもないのだが、そこは仕事。字面がどれだけ馬鹿馬鹿しくても手を抜くわけにはいかない。手を抜いたら普通に死者が発生するというのも真面目に取り組まざるをえない理由になる。
たまに馬鹿馬鹿しすぎてこっちが死にたくなってくるが、なんならいっそトラックに身投げしてやろうかと思ったことすらあるが、そういうときは愚痴で発散して仕事に戻るのだ。