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come on! come on!


「……は?」


 自身の口から零れた音だと気づくのに時間がかかった。

 朝礼で課長から告げられたのは、ありえない内容だった。


 ――白井風花君が亡くなりました。


 ありえない。

 信じられない。

 信じたくない。

 昨日までそんな素振りはなかった。死ぬなんて、そんな……


「事故、ですか?」


 何かを続ける課長を遮り、震える声で問い掛ける。

 失礼な行いだとはわかっているが気にならない。


「……トラックに撥ねられたそうだよ」


「事故ですか。自殺、ですか……?」


「…………」


 課長が口を開き、迷いを浮かべた末に何も言わずに閉じた。

 それだけでわかってしまう。


「チャレンジ、したんですね?」


「……」


 風花は、異世界チャレンジをして、死んだ。


 その事実が脳に染み渡る。

 親身に付き合ってくれた人が死んだ。異世界チャレンジで。

 今まで仕事で何度も残された側の悲嘆を見てきたが、初めて実感できた。

 ふざけるな。納得なんてできるものか。

 そんな素振りはなかった。自殺の兆候もなかったのに、異世界チャレンジ?

 ありえるものか。


「っ!」


 その瞬間、どうでもいいことと流していたものが戻ってきた。

 どうして流していた。

 異世界チャレンジの流行をあれだけ調べておいて、どうしてどうでもいいなんて流していた。

 どうでもいいわけあるか。

 最悪、世界が終わるほどの大事件じゃないか。


「それと、隣の地区の転生阻止課が連絡取れなくなってねえ。誰か確認に行ってくれないかな?」


「私が行きます」


 名乗り出る。

 少し外に出たい。

 何かがおかしい。ここにいるのはマズい。そう直感が告げている。


 ――私も行きます


「それじゃあ、二人に頼もうか」


 特に反対者もいないまま朝礼は終わった。

 その直後だった。

 電話が鳴る。


「……はい。……はい。……はい!? え、少しお待ちください」


 電話を取った先輩職員がゆっくりと皆の方を見る。


「チーフが、異世界チャレンジで亡くなったそうです」


 は?


「……君、あまりそういう冗談は――」


「本当です! 本当に、チーフが……!」





 転生阻止課は蜂の巣をつついたような騒ぎになったが、すぐに事実だと確認された。

 職員二名の異世界チャレンジによる死亡。

 しかも、片方は説教役として対チャレンジャーの最後の砦となっていた職員。

 異常事態だった。

 異常を確信させるには十分だった。

 そして、その日の午前。どうやっても連絡が取れない隣の地区の転生阻止課に向かい、凍り付いた。


「誰もいない?」


「ええ。いません。昨日の夜から転生阻止課の人と連絡が取れないんですよ。それどころか他の課の職員もほとんど連絡が取れないし、もう散々です」


 隣の地区の別の課の職員がそう話す。

 あまりに手が回らないせいで電話対応も市民対応もほとんどできないそうだ。


「……では、状況がわかったらご連絡をいただけないでしょうか」


「ええ、お約束します。それと……」


「はい。手伝いの人員を回すよう連絡しておきます。戻りますよ」


 ――はい


 頭を下げ、その場を辞す。

 バイクに乗り、相変わらず妙な肩の重さに悩まされながら道を進む。

 想像以上に大きなことが進行している。

 それはわかるのに、それについて考える余裕がなかった。


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