異世界転生を(略)簡単なお仕事です
異世界転移、異世界転生。
それは、ネットを中心に一大ジャンルとして地位を築き上げてきた。
だが、それはあくまでフィクション。
いくら異世界に行くことを夢見たところで、現実にそんなことは起こりえない。
誰もがそう思っていた。
しかし、数名が地球に帰ってきたり連絡を入れてきたという事実が発覚。
世は空前の異世界ブームになっていた。
ほどなくして、どこからかある発想が生まれた。
『トラックに轢かれれば異世界に行けるんじゃないか?』
それは異世界行きを夢見る者達にとって天啓に等しい閃きだった。
結果、世間ではトラックへの身投げによる異世界チャレンジが流行。異世界転生、異世界転移を夢想する『チャレンジャー』と呼ばれる人々はトラックを探して血眼になっていた。
だがちょっと待ってほしい。
冷静に考えてみよう。
世間一般でそれは自殺と呼ぶ。
トラック側もいい迷惑、遺された家族もいい迷惑。賠償、裁判沙汰に発展した例も少なくない。というか、状況次第では威力業務妨害罪が成立するからね? 立派な犯罪ですよ?
そうでなくとも人をはねてしまった運転手の精神状態を意識してほしい。絶対トラウマになるわ。
その上、運転手に過失が一切ない飛び出し自殺と判断されたとしても悪評はついて回る。過失の有無にかかわらず「人をはねた運転手」という評判が職場や近隣で立ってしまいかねない。
悪影響しかない以上、運転手は飛び出しを考慮した上で人をはねないように運転せざるをえない。
結果、多くのトラックは対策として低速走行を余儀なくされ、流通速度は低下。こんな馬鹿みたいな理由なのに割と深刻な経済への打撃が発生してしまったのだ。
それだけではない。人口密集地を走るトラックが低速移動すれば、同じ道路を走る車両も自動的に低速移動せざるをえなくなる。
つまり、当然のように渋滞が悪化した。
さらに、事故の多発によって警察業務も増加、当然現場検証による通行止めも増加するためさらに渋滞は悪化。
帰還者の確認から一年も経たずして深刻な社会問題が発生した。
こんな馬鹿馬鹿しい原因でありながら及ぼした悪影響は広範かつ深刻、もはや行政が手をこまねいていられるものではなかった。
そんな中設立されたのが我々、特殊条件下における交通及び流通問題特別対策課、通称転生阻止課である。