無意味な傘
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「これ、ひらりちゃんのだよね?」
教室に入ると、今度は背の高い見知らぬ男子に話かけられた。
誰?同じクラスの男子……?
「ウサギのマーク。資料集にもついてたよね?」
え…………この人も資料集見たんだ……。最悪だ……。
「相田さんって、ひらりって名前だったんだね~。可愛い名前だね。」
「あ、ありがとう。」
私はビニール傘を受け取って、ロッカーに置きに行こうとする。でも、まださっきの男子がいて、ロッカーには置けない。なんでまだいるの?怖い…………。私が教室から様子を伺っていると、こっちにやって来る。やっぱり何か言いに来たんだ……と、私は身構えた。
「忘れ物。これにもバニラついてんだな。」
「あ、台本!」
あまりの衝撃に、思わず叫び、男子の手からもぎ取ってしまった。
「台本?」
どうしよう……とっさに強く取っちゃった……!
「あの…………演劇部だから……。」
男子は顔色を変えず、ぼそっと一言。
「あぁ、あの変人の集まりか。」
「…………。」
何も言えなかった。あまりの一言に、声が出ない。
「否定しないんだな。」
この人は、喧嘩を売ってるんだ。悔しい……!何も知らないクセに。
「……否定はしない。けど…………」
「けど……?」
怒りで急に頭がクリアになった。
「悪口、公演観に来てから言って。」
そうだ。舞台を見た事もない奴が、何言ってくれてんの?見てから文句言えっての。相変わらず体はだるいけど、頭はちゃんと戦闘モードに切り替わった。しっかりしなきゃ!
私はロッカーからチラシを取りだし、男子の目の前に突きつけた。男子は少しそれを見て、受け取る。
受け…………取った……!?
意外だった。こうゆう時は、無視されるか、何言ってんの?って冷たく言われると思ってた。
「何それ?ひらりちゃん僕にも1枚ちょうだい。」
後ろから声をかけられて、振り向くと、背の高い男子が手を差し出していた。私は慌ててもう1枚のチラシを手渡した。嬉しい……嬉しい!興味を持ってチラシをもらってくれた人が二人も!!
「もし……気が向いたら、観に来てください。」
これ以上、何をどう話していいかわからない。とにかく、傘を玄関に置いて来よう。そうしよう。
逃げるように、玄関の下駄箱前までたどり着くと、そこは惨状があった。沢山の公演のチラシがゴミ箱に捨てられていた。捨てるならもらうなよ……。今さら傘があっても無意味だ。このチラシも、無意味なのかな……?悔しい……。悔しい……!!
私はこんな所で、ビニール傘を持って立ち尽くすしかできないなんて。ねぇ、バニラ、今日はちゃんとできるよね?誰か、見ててくれるよね?私は傘のバニラにすがるように、取っ手の絵に触れた。そして、傘立てに入れて、とぼとぼ歩き教室へ戻った。




