シンデレラはハダカデバネズミ
3
午前中は保健室で寝ていた。正直、体がだるくて辛い。
私は午後になってやっと、教室に戻った。昨日は緊張と熱のせいでよく眠れなかった。今は深く深く、反省してる。というより後悔してる。電車で寝た事も、傘を忘れた事も、舞台に立つ人間として意識が足りなかった……。今日から、新入生歓迎公演なのに……。
私がロッカーの前でうなだれていると、クラスの女子が話かけてきた。
「相田さん、昨日は教科書ありがとう!」
まさか、同じクラスで教科書を貸すことになるとは思わなかった。お人好しって訳じゃない。休みの日にたまたまロッカーに置いてあったから、使ってもらった。
「あ、そうだ!ごめん!資料集だけ須藤君に貸しちゃった。須藤君から返してもらえる?」
え…………又貸し?それはどうかと思うんだけど……。
「…………うん。わかった。」
そんな事強く言える体力も気力もない。まぁ、あっても言わないけど……。
「須藤君!資料集、相田さんにちゃんと返してね!」
「相田ってどれ?」
女子が男子を呼んで来た。クラスの男子なんかと話したことない。今は喋りたくない。髪はボサボサだし、マスクに眼鏡…体調も最悪だし…………今は止めて!そう……思っていても、その時は今すぐ来る。
「相田さーん。これ。これが相田さん。」
女子が私を呼ぶ。後ろを振り向くと、そこには見知らぬ男子が立っていた。凄い見られてる…………いや、見すぎでしょ!何?一体私、何に見えるの?妖怪?幽霊?そんな、ハダカデバネズミを見るような目でこっちを見ないでよ…………怖い……。
私はロッカーの前でしゃがみながら、その刺すような視線に動けずにいた。
「これ、借りた。ありがとう。」
意外だった。普通に、ただ普通にありがとうって言われた。私は何も言えずに、資料集を受け取った。のに…何で離さないの?
「バニラ……。」
え…………!?私が驚くと、男子は資料集から手を離す。
「……中の紙、見た?」
「見た。」
やっちゃった……。こんな物見せたら絶対バカにされる!!からかわれる!私はこれ以上話かけられないように、すぐに資料集をロッカーにしまって、教室へ逃げ込んだ。席につくと、すぐにホームルームが始まった。




