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ポンコツ

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学園祭実行委員会を終えると、走って演劇部の練習教室へ向かった。

「遅くなりました!あれ?みんなは?基礎練習?」

戸を開けると、井上先輩以外誰もいなかった。

「うん。さっき行った。」

「そうなんですね。」

「ひらり、今日は基礎練習の代わりにダンスやらない?発声練習は中でも出来るし。」

「はい!」


公演前や、部活時間短縮で時間のない時は、ダンスを基礎練習の変わりにしていた。二人は曲をかけて、ダンスをする。すると、先輩は踊りながら話しかけて来た。

「やっぱり羽多が言われてるっぽいね。」

言われてる?一年生に何か?

「そうなんですか。」

「気にならないの?」

「気にはなりますけど……羽多ちゃんは覚悟してた事じゃないですか?」


正直、めちゃくちゃ気になるけど、ここで私が羽多ちゃんの肩を持てば、1年と2年で分裂する。


「まあね。」

二人は話ながら、ダンスを踊る。先輩のダンスは相変わらず、キレキレだなぁ。ダンスを終えて、二人で黒板の下に腰をおろす。

「それに、しばらくすればわかる事ですよ。学年がどうのじゃなくて、羽多ちゃんの力に気がつけば、何も言えない。」

「羽多の事期待してるね~」

「ライバルってあこがれます!とにかく羽多ちゃん嬉しいです!同学年はいなかったし……。」

「私も楽しみ!二人の演技、楽しみにしてるね!」


私は立ち上がって先輩に頭を下げる。

「それも、先輩のおかげです。ありがとうございます!」

「私は何もしてないよ~?」

「姫、もう一度、踊っていただけますか?」

私は王子様風に先輩をダンスに誘った。もう一度曲をかける。

「えー!もう疲れたよ~!」

先輩はそう言って、相変わらずのキレで踊っていた。




私達が外から帰ると、先輩とひらりちゃんが教室のど真ん中で伸びていた。

「つ、疲れた……。」

「三回連続ダンスはさすがにキツイ……。」

「だから先輩……何してるんですか?」

春壱が二人を見て言った。


「基礎練習代わりにダンス……しばらく……休ませて……。」

ひらりちゃんは、寝転んだままはいずって教室の黒板の下へ行った。

「私春壱の演技見たいな~!せっかくだから春壱と羽多の場面やってみようか?」

先輩は立ち上がって、一年生の台本を借りて言った。

「春壱、いきなり立てる?」

「……無理だと思います。」

「まぁ、とにかくやってみよう。」

「出た!先輩の聞くだけスルー!」

先輩がこうゆう時、話を聞かない。やっぱり春壱もわかってるよね。


「この前羽多にも言ったけど、基本役者の返事は、はい!やります!やってみます!まぁ、演出が無茶言ってない前提だけど。ひらり、叩いて~!」

「はーい!13場よーい、スタート!」

え!あ!私も……!心の準備もままならない間に、急に始まった。


春壱との掛け合いは、宮ちゃんとは全然違う。タイミングが取りにくい?全然台詞が出て来ない。すると、途中でひらりちゃんは手を叩く。

「そこまで!もう見てられない。」

「そうだけど、一度は最後までやらせないと」

「部長ぉ~どぉするんですか~!?一番壊滅的な奴がいた~!!1年生に戻してくださいよ!」

壊滅的……それは、私と春壱?


「羽多は、人が変わってどうだった?」

「え……っと……」

「ハッキリ言っていいんだよ?やりづらかったって。」

いや、ひらりちゃん、そんな事言えないよ……。私も下手なんだし……。

「でもさ、この役はやっぱり男の方がいいと思うんだよね~ひらりもそう思わない?」

「そ……それは……。」

どうして?ひらりちゃんもそう思うのかな?

「確かに、タイムトラベルの案内人が男だったら、見せ方によっては、大きくなった佑樹の姿としても見せれる。バッドエンドとみせかけて、佑樹と美香の恋が実るハッピーエンドにもできる。かも……可能性の話だけど……。」

そうなんだ……。

「男か女か違うだけで演出が変わってくるんだ……ひらりちゃんはどっちがいいの?」

「え……私?それは……ハッピーエンドにしたいけど……。春壱……。」

ひらりちゃんは春壱の方を見る。


「無理だ!俺には無理!役というより、演技。全然、できない!体は思った通りに動かないし、台詞に集中すれば、体に意識がいかない。お前、こんなに難しい事平然とやってたのか!?」

春壱は自分の両手を眺めて愕然としていた。

「いや、平然とはやってないし。」

「いや、マジで。大声をださずにただ普通に大きな声で台詞言うのさえ難しい……。とにかく、緊張で体が石みたいに重く固くなる。ひらり、お前末恐ろしい女だな。初めて尊敬したわ。」

春壱はハダカデバネズミが高価だと知ったかのような顔をして、ひらりちゃんを見ていた。

「それって誉めてるの?けなしてるの?」

「十分誉めてるだろ?」


先輩が少し笑って言う。

「役者の難しさがわかって良かったね。まぁ、とりあえず、これで無茶にやれとは言わないね。」


すると、どこからかこんな声が聞こえて来た。

「クスクス……部長なのに全然できてない。」


それを聞いたひらりちゃんの顔が一気に変わった。ひらりちゃんは真顔で、仁王立ちで教室の真ん中に立つ。

「おい!こら!今……部長のクセにって言ったの誰だ?今すぐここに出て春壱に謝れ!!演技が上手いのがそんなに偉いのか?春壱がどれだけ働いてると思ってんだ!?台本は人一倍読み込んで、実行委員会との打ち合わせ、今後の練習場所の確保や本番の控え室の手配、先生と練習時間の交渉、大会の台本選考まで考えて台本も探してる。あんた達の見えない所で、部長として十分すぎるほど仕事してるんだよ?それを……初めてやった演技がポンコツなぐらいで…ちゃんと感謝と敬意を払え!」

ひらりちゃんは大きな声で一気にまくし立てた。

「ひらり……。」


「1年生、悪いと思うならちゃんと前に出て来て謝ろうか。」

1年生はそろそろ立ち上がり、前に出て来る。

「部長……すみませんでした!」

「私達、部長がそんなに仕事してくれてるなんて知らなくて……あの、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

三人は春壱に深く頭を下げた。

「いいよ。ポンコツなくせに演出するのも申し訳ないけど、これからもよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします!」

春壱も、深く頭を下げた。


お互い、何度も何度もペコペコしていて、見ていたみんなは少し笑った。


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