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器用

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次の日の昼休み、俺達三人は非常階段前で話し合いながら、昼食を食べていると、晴がやって来て言った。

「なんで人数増えてくかな?」

「仕方ないよ晴喜、ひらりちゃん忙しくてお昼休みも話し合いしたいんだって。」


羽多がそう言うと、晴は黙って廊下に座った。

「春壱はさ、おおまかな演出プランは決まった?」

「まぁ、だいたいは……。」


ひらりは台本を床に置いて、片手でめくりながら言った。

「部長が言ってたけど、大きく全体として伝えたいポイント、場面場面で、伝えたいポイントを押さえとくと、伝わりやすいって。」

伝えたいポイント……。全体と場面ごとにテーマみたいなもん決めろって事か?

「全体と、場面…なるほど。全体は考えてたけど、場面までは考えてなかった。」

「場面場面の細かい演出は、役者の出してきたキャラを見ながら決めてもいいと思うんだけどどうかな?」

別に構わないとは思うが……。

「それだと時間かからないか?」

「春壱、時間がないけど、ここは手間は惜しまないようにしよう。だって、みんな初心者なんだよ?春壱の理想のキャラが完璧にこなせるとは限らない。そこをどう魅せるか、そこが春壱の腕の見せ所だよ。」

ひらりは腕を叩いて見せる。どう魅せるか……。


「凸凹のキャラクターをどうまとめて形にしていくかって事か。」

まるで、組み合わせパズルのようだ。

「そうだね~。ま、全体の事は春壱に任せた!」

ひらりは親指を立ててこっちに向けた。

「おう。任せろ!」

「役者の細かいフォローは任せろ!」

その親指は、ひらり自身の胸に当てられた。

「おう。任せた!」


その様子を見ていた晴がポツリと言った。

「なんか、ひらりちゃんと春壱の会話、怖いほど部活の会話だね。」


台本を見ていると、ひらりは羽多に提案する。

「羽多ちゃん、一場の練習しよう。晴君、佑樹の所読んで。」

「何で僕!?」

え?ひらりがやるんじゃないのか?

「多分、上手いと思うから。1ページめ、ここ目通しておいて。」

「ひらりちゃん、佑樹はひらりちゃんの役じゃないの?」

羽多も同じ事を思ったようだ。

「私の役じゃないよ。私はまだ指名されてない。」

「指名?」

あ~!先輩達が確かにやっていた。指名儀礼。先輩達はこうゆうのが好きだった。

「演出が指名した人が、役をやれるの。私はされてないからね。春壱、そこの所きっちり取り仕切ってよね。」

「わかってる。」


今回もやれって事か。まぁ、指名儀礼なんて難しい事はない。ただ、演出が配役を読み上げて、役者が返事をするだけだ。やりたきゃやってやる。


「じゃ、よーいスタート!」

晴がちょうど一度読み終わった所だった。ひらりは手を叩く。

羽多と晴喜は、台本の台詞を読む。一場の台詞の最後を読み終わると、ひらりはまた手を叩く。

「はい!そこまで~!やっぱり晴君上手~!」

「本当!初めて読んだのにどうしてそんなに上手いの?」

「そうかな~?」

ひらりと羽多はめちゃくちゃ晴を褒め称えた。正直、俺も驚いた。昔から器用だとは思っていたけど……

「晴……お前にそんな才能があるとは思わなかった。」

「春壱……」


晴を見てひらりと羽多は笑った。

「あははは!晴君そんなに嬉しそうな顔する~?本当に春壱好きだね!」

晴は少し照れて、俺に抱きつこうとする。

「愛してるよ~春壱~」

「キモっ!あっち行け!」

俺が晴を拒否すると、ひらりと羽多はもっと笑った。

「あははは!」


「じゃ、晴君、私がいない時は羽多ちゃんと練習付き合ってあげて。」

「え?僕が?」

「私がいる時はできるけど、いない時は一緒に読んであげて。お願い!」

ひらりは手を合わせて晴にお願いした。

「晴喜、お願い。」


羽多も手を合わせていたら、晴喜は春壱の方を見る。羽多とひらりもこっちを見る。俺三人の視線に気づいて言った。

「え?……あ、じゃ、俺からも頼む。」

「春壱がそう言うならしょうがないな~」

「ウザいな~お前。」

また、二人は笑った。

「あはははは!!」


「ただし、台詞を覚えるまでね。抑揚とか、気持ちとかは考えなくていいから、まずは台詞を覚えて。」

「え?でも、覚えるだけなら僕じゃなくても……。」

ひらりは首を横に振った。

「そこで、読みの上手い晴君の力が必要なの。台詞の暗記は人それぞれだけど、私がやりやすい方法は、目と耳!文字とメロディー!」

「メロディー?曲をつけるの?」

「うんん。言葉を音で覚えるって意味。台本は楽譜だと思って。台詞は歌詞。」

またひらりが無茶言ってるような気がした。


「まるで歌を歌うみたい……?」

羽多は疑いもせず、聞いている。

「晴君は歌が上手いから、気持ちを理解すれば、だいたいの抑揚の付け方はまず正解。暗記には最適だけど、晴君のメロディーに慣れすぎると、他の人と合わせる時にズレが生じるかもしれないから……」

「それって、僕がまずいの?」

俺含め三人はひらりの言っている事が理解できなかった。


「違うよ~!その逆だよ~劇部が晴君より下手かもって事~!」

「いやいや、練習するんだからさすがにそれは…」

少し前までは俺も晴と同じに思っていた。でも、今は……少しわかる。

「あのね、私だって最初から思い通りに演じられた訳じゃないの。声の出し方、体の動かし方、何度も公演に出て、やっと思い通りに演技ができるようになってきた。1年半だよ?1年半かかったんだよ?不器用なめんな?」

「確かにみんな、晴ほど器用とは言い難いかも……。」

この1週間、器用ではない事が痛いほど伝わってきた。


「晴君~お前が憎い!この外見、この体型、この歌の上手さ、私が晴君になりたいよ~!」

「あははひらりちゃん誉めすぎ~!」

本当に誉めすぎだ。しばらく晴が調子に乗るな。

「そういえば、羽多ちゃんは最初から普通に読めてるよね。体幹もしっかりしてるし。初めての人は一場面すらちゃんと姿勢良く立ってられないんだよ?」

「剣道やってたからかな?昔から姿勢はいいの。」

確かに羽多は姿勢がいい。それで美人だから余計目立つ。

「そっか~元々体鍛えてる人はやっぱり有利だなぁ~最後は体力勝負だから。」

「体力勝負?」

「そのうちわかるよ。」


そのうちわかる。演劇部は、体力勝負な所がある。もちろん裏方もだ。


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