先輩の期待
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春壱が練習教室を出て行った後、三年生の先輩はみんなに声をかけた。
「みんな、ちょっといいかな?ちょっと聞いて~!」
おしゃべりをしていた一年生は黙る。
「まず、元部長として、極端に2年が少ない今年の体制に謝ります。」
先輩……先輩はみんなの前で深々と頭を下げた。
「役の編成が今後変わると思うけど、我慢して了承してやってください。」
宮島ちゃんって呼ばれてたっけ?
「私の役がひらりちゃんになるんですよね?」
宮島ちゃんはそう先輩に言った。
「おそらくはね。山崎役は春壱にやらせる予定で、多分宮島が母親役になると思います。」
「私は……」
「羽多は変わらず美香役。」
それは……みんな納得いかないんじゃ…………
「あの、先輩、私初めてで……」
「わかってる。宮島以外はみんな初めてだよね。でも何故羽多が入るのかは、ここを1年生に理解してもらいたい。羽多は2年だから。1年生より出るチャンスが少ない。後から入ったからだけど、そこは関係なく、年功序列。ごめんね。芝居に影響しないように、学年は関係なく接するって言って来たけど、ここだけは特別ルールを適用して欲しい。もし、来年とんでもなく上手い後輩が入ったとしても、そこは守って欲しい。それが、それだけが、うちの演劇部が代々守って来たルールだから。それでも文句があるなら羽多に直接言いなさい。羽多、悪いけどそれだけは我慢してね。」
それは大丈夫だけど……。
「わかってます。入っていきなり役がもらえるって事はそうゆう事ですよね。それでもいいです。引退まで、ひらりちゃんと同じ舞台に立てるチャンスがあるなら、何でもします。」
でも、それじゃ、やりたい人が必ずしも3年間でやりたい事ができるとは限らない。そのシステムはよくないんじゃ……
「さすがひらりファンだね。でも、さすがに羽多にできないようなら、そんな年功序列なんてクソくらえな伝統持ち出したりしないよ。」
「え?」
先輩それは、どうゆう意味ですか?
「羽多、目指すなら、ひらり超えだよ。」
「そ、そんなの無理ですよ~!」
「無理は言わない!無理です。できません。は、今後禁句ね。役者の返事は、はい!やります!やってみます!だけ。演出の理想を形にする仕事だからね?演出の理想に近づける努力を惜しまないでね。」
無理は言わない……。先輩は、私に期待してるって事なのかな?
「ひらりには1人でも、上を目指す努力を惜しまないように教えて来た。だけど、羽多がいてくれれば、もっと上を目指せる。楽しみにしてるね。」
「はい!頑張ります!」
先輩は少し考えて、話始めた。
「あ、そうか、羽多は知らないのか……あのね……」
円陣の掛け声の由来や、ひらりちゃんの事、ひらりちゃんと春壱の事、春壱が戻って来るまで、出来るだけ説明してくれた。




