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代役

107


お昼休みに晴君と羽多ちゃんと非常階段前で過ごした日の放課後に、演劇部の練習に行く事にした。


私はしばらく、部長を盾に歩く。

「ひらり、1人で行きづらいのはわかるけど、そんなにくっつかなくても……」

「春壱も、わかってると思うから……」

井上先輩と羽多ちゃんになだめられて、普通に歩く事にした。練習教室には、春壱と数人の一年生が先に来ていた。三人で挨拶をして、練習教室に入る。

「おはよう!」

「おはようございます!あ、ひらりちゃん!戻って来てくれたんですね!?待ってました!」

「いや……その……」

一年生に嬉しそうに出迎えられて、少し胸が傷んだ。


私は、春壱の前へ行って、頭を下げる。

「春壱……あの……春壱の事置いて勝手に辞めて、ごめんなさい。また、演劇やらせてください。」

「まぁ、そこまで言うなら……。」

春壱はそれ以上何も言わなかった。言いたそうだったけど…結局何も言わなかった。


基礎練習が終わり、立ち稽古が始まる。

「ひらり、どこまで読んだ?」

「目を通したのは一回で、内容まで読んだのは、前半くらいまでです。」

「じゃあ、前半やってみよう」

一年生が私に言った。

「あの、この役は……」

「宮島ちゃんがもらった役でしょ?宮島ちゃんがやるのが当然。」

私は一年生にやるように返した。


「1場、美香と佑樹。よーい、スタート!」

春壱は手を叩く。オープニングの1場から練習は始まった。美香役の羽多ちゃんと、佑樹役の宮島ちゃんの、二人のかけ合いが始まる。二人は台詞を読むのが精一杯でそのまま終わった。春壱は手を叩いて演技を止める。

「そこまで。」

「…………。」

誰も、何も言わなかった。ただ、おそらく誰も、いいとは思っていない。


「はい!須藤部長!」

私は手を挙げた。

「お前に部長って言われると気持ち悪いな。何だよ。」

「これ、本読みやりました?」

「…………。」

春壱は答えなかった。代わりに先輩が答えた。

「やったみたいだよ?」

「みんなで台本内容話し合いました?」

「…………。」

また春壱は答えなかった。また、代わりに先輩が答える。

「やったみたいだよ?」

私は井上先輩に小声で聞いた。

「先輩~!どうしてこうゆう事になってるんですか?ちょっと……よくわからなくて……。」

「まぁ、誰のせいって……あんたのせい!!本来はひらりが引っ張って行かなきゃいけないのに、いなかったせい!!」

「ずみまぜん~!」

手を合わせて私は先輩に謝った。


「じゃあ、春壱、宮島とひらりをチェンジ。ひらり、あんたの思う佑樹をやってみな。」

突然先輩は代役を提案する。

「………え?…………はい!やります!じゃあ、美香は先輩やってください」

私は相手役に先輩を指名した。

「え……私もやるの?」

先輩が迷っていると、宮島ちゃんは言った。

「部長とひらりちゃんの掛け合い、是非見たいです!!」

一年生のその一言に、先輩は火が着いた。

「そうね。やってやろうじゃないの。」

こうして、先輩は美香役、私は佑樹役の代役で演じてみる事になった。


久しぶりの、お芝居の世界…………!


佑樹……この役は、お姉ちゃんが大好きな男の子小学五年生くらいかな?私の思う、小学生の男の子。声は低めで、息継ぎは多め。大好きなお姉ちゃんと別れる。でも、暗い別れなんて嫌だ。暗くならず、辛さを我慢。ここはどこ?彼らはどこで別れの言葉を交わす?スタートの合図があるギリギリ前まで考えた。


「よーい、スタート!」

春壱が手を叩いて合図した。


先輩と私の演技が始まる。私はまるで風のように駆け抜け、先輩は木のようにしっとりと立つ。掛け合いはテンポ良く、エネルギッシュに進んだ。


1場の台詞の最後が終わると、春壱は手を叩く。

「そこまで。」

「…………。」

先輩との演技が終わると、また、しばらく誰も何も言わなかった。


ただ、さっきと違うのは、見ていた部員から拍手が起こった。


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