BGM
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美術室はとても静かで、しばらくみんなが描いていると、晴君が言い出した。
「何だか静かだね。いつもこんなに静かに描いてるの?」
「晴君、うるさくしちゃダメだよ?みんなの制作の邪魔になるから。」
私は子供に言うような台詞に晴君に言った。
「じゃあ、ひらりちゃん何か歌ってよ。」
「なんつー無茶ぶり!」
思わず本音でツッコんだ。ついさっきうるさくするなって言ったのに……。
「ひらりちゃんが歌うの嫌な人~!」
そう叫んで晴君は美術室を見渡す。
「誰もいない。はい。歌って。鼻歌でもいいから。」
いやいや、ここで手あげる人普通いないから!
「突然言われても何歌えばいいのか思いつかないよ~」
「最近何聞いたの?聞いた曲歌って。」
最近聞いた……私はふと、春壱の家で見た映画をもう一度見たくて、ちょうど昨日見ていた。その映画はミュージカルだった。
「最近聞いた曲……下手だよ?みんなは耳ふさいでてね!」
「先輩、耳ふさいだら描けないですよ~!」
「じゃ、心に蓋をして!」
「あはは!はーい。」
私はを歌う。サウンドオブミュージック
「……………。」
私が歌い終わると、やっぱり、美術室は微妙な雰囲気になった。
「これでいいでしょうか?歌ってるとこっちの手が止まる。じゃ、次は晴君ね。」
私は無茶振りに答えて、晴君に振り返した。
「この後に歌うのは気が引けるなぁ……」
「人に歌わせてずるいよ~?流行りの歌でも歌えよ~」
晴君が歌う歌を悩めば悩むほど、下書きが進んで来る。
「もう少し。暑い……」
もうそろそろ終わろうかと思うほど、汗をかいて描いていると、晴君は突然歌い始める。『エーデルワイス』を歌った。私はその歌声に、思わず手が止まる。途中からまた下書きを描き始め、所々、一緒に歌う。やっぱり、あの時、春壱の家で晴君は、少しも寝てなかったんじゃないのかな……?わざと寝たふりしてたのかも……。チャラいし、軽そうに見えるけど、本当はそうじゃない。人は外見からじゃ見えない所がある。外見で判断できる事もある。
私の絵は、どう判断されるんだろう。絵を描きながらそんな事を考えていた。
「あははは!晴君歌上手いね~!」
「ひらりちゃんこそ、鼻歌のレベルを越えてたよ?」
「日々発声練習やってたから、軽く歌うとかできないんだよね~次は慎ちゃんね!」
私は慎ちゃんも巻き込んだ。
「はぁ!?」
「こうゆうのに巻き込まれるのが慎ちゃんのキャラだから。」
「歌ってたら描けない。」
確かにそうだとは思う。でも、私達だけ歌うのは恥ずかしいし、おもしろくない。だから……
「じゃ、一緒に歌おうか!う~ん、何がいいかな~?」
「ドラえもんとかは?」
晴君はドラえもんの歌を提案してきた。
「じゃ、ドラえもん!1年生も一緒に歌えるよね?!」
何故かみんなでドラえもんを合唱する。すると、準備室からしいちゃんが出て来る。
「どうしたの?」
「あ、椎名先生、すみません。うるさくして。」
慎ちゃんは謝る。晴君は、冗談で私のせいにする。
「先生、ひらりちゃんがBGMが欲しいってワガママ言ったんですよ~!」
「ちょっと晴君の無茶ぶりでしょ~!?」
「あははは。楽しそうでいいね。そうだ!音楽かけてあげるの忘れてた。」
しいちゃんはデッキの場所を教えてくれた。
「ここ、聞きたい音楽かけていいからね。曲はみんなで話合って。音楽は絵画に影響されるから。そうだな~相田さんはロックとかいいけど、片岡君はクラシックの方がいいかも。まぁ、好きな時間に好きにかけていいからね~?」
「なーんだ。ひらりちゃんと歌えなくなっちゃったね。」
「だから、歌いながら描けないって。私器用じゃないんだから。」
しいちゃんはパネルの近くに来て言った。
「相田さん下書き終わりそう?」
「まだメインの線が決まらないっていうか……所々決めていくと、修正したい所が出て来るっていうか……」
「相田さんは完成のイメージがはっきりしてるんだね。そのまま描き進めてみて、納得いく下書きになったら色をつけて行こうか。」
その絵を見て晴君は珍しく提案をしてきた。
「ずっと思ってたんだけど、これ、モノクロだとカッコいいかも。」
モノクロ……白と黒だけか……。
「モノクロもカッコいいね。色がない方がよりクールな感じになるね。」
「色でごまかせない方が難しくないですか?」
「まぁ、油絵とかじゃないから、考えて塗り進めるのは同じだから、考えてみて。縮小版を描いて、どっちもやってみるのはどう?」
「じゃあ、スケッチブックにやってみます。」
私はスケッチブックを出し、描いてみる。晴君はその真剣な眼差しをみつめる。
「ん?どうしたの?」
少し考えたら、私の行動はおかしい事に気がついた。
「あ、下書き終わったら帰るって言ってたよね?ごめん描き始めちゃった。」
私が片付けを始めようとすると、晴君は私を止めた。
「いいよ。いくらでも待つよ。」
「本当に?いいの?」
「いいよ。」
晴君は笑顔を浮かべて言った。
私は晴君の視線に気がついて言った。
「そんなに見つめられると描きづらいんだけど……?」
「なんかさ、男前だなぁ~って思って。」
「どうも。……それって誉めてる?」
「誉めてるよ。」
「ありがとう。」
そう言うと、私はまたスケッチブックに描き始めた。




