女の子だから
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その日の演劇部の練習は、元部長の井上先輩に来てもらった。
「それで、ひらりは来ない訳ね?」
ひらりが来ない事情も話した。
「部長、すみません。演技指導をお願いします。」
昼休みの俺の態度に、羽多はかなりイライラしていた。
「春壱は根に持つタイプだとは思ってたけど、この状況であんな事言ってられないよね?春壱がそんなに女々しいなんて意外だったよ。」
「女々しい!?」
そんな事を羽多に言われるとは思わなかった……。今までそんな風に言われた事は一度も無かった。
「それは女々しいね。」
先輩まで…………!
「まぁ、春壱の気持ちもわかるから責めたりはしないけど、ひらりが辞めた理由もわかる。あの子ならああするしかなかったんだと思う。でも、部外者が立ち入るのも野暮かなって思って、強引に戻す事はしなかった。結局は、彼とひらりの問題だからね。」
彼と?……晴の事か?
「彼って……晴喜?」
羽多も同じ事を思って言った。
「じゃあ、晴が許可すればひらりちゃんは帰れるって事だよね?」
なんだか……羽多は燃えていた。幸か不幸か、こうゆう時に羽多の負けず嫌いが出て来る……。
その頃私は、美術室で猛烈に下書きをしていた。床にパネルを置いて、下書きを描く。
「うーん。横だと書きづらいな……。慎ちゃん、どうにか立てて描けないかな~?」
「何か立て掛けられる物探して来る。」
慎ちゃんは美術室のあちこち探し始めた。
「そっちにありそう?」
「相田さんこっち来ない方がいい。こっち倒れやすい物ばっかり。」
なんか……慎ちゃんの中で私、何でも壊すイメージなのかな?
「じゃあ、私はこっちの棚の方探すね。」
私は慎ちゃんとは違う方を探した。
「あ、ちょっと待って。」
慎ちゃんがこっちに来て、呼び止めた。少し遅かった。私はもうクレードルを引き抜いていた。
「あ、壊れたクレードル!改造したら作れるかも!」
私の手にしたクレードルが上の段ボールを引っかける。
「相田さん、危ない!」
慎ちゃんは私の上に覆い隠すように近づく。その後、上から段ボールがドサっと落ちて来る。
「先輩達、大丈夫ですか?」
落ちる音を聞いて、美術部の一年生が言った。
「慎ちゃん大丈夫!?痛かったよね!?」
「相田さん大丈夫?あー。段ボール意外と痛い。」
「ごめんね。私上全然見てなくて……」
「そんな顔しないでよ。ははは。顔に黒鉛ついてる。」
私の頬の黒鉛を慎ちゃんは手で拭こうとする。
「嘘!どこ?」
慎ちゃんの手が触れる前に、私は慌てて手で顔を拭いた。
「余計ついた。」
「えー!とれない~!」
何度も何度も拭いた。
「あははは!髭みたい。」
「泥棒?変なおじさん?」
「どっちも。」
どっちも?
「じゃあ……あ、変なおじさんだから、変なおじさん!変なおじさんだから、変なおじさん!だっふんだ!!」
全力で変なおじさんを披露した。
「ぎゃはははは!!この距離でだっふんだの顔……まともに見たら……」
私は慎ちゃんの前でもう一度、だっふんだの顔をしてみる。慎ちゃんはゲラゲラ笑う。後輩部員は……失笑していた。
「慎ちゃんだいぶ笑い上戸になって来たね~!」
「誰かさんのせいだよ。腹がよじれて笑い死ぬかと思った……。」
腹を抱えて慎ちゃんは笑った。
「光栄でーす!段ボール上に戻した方がいいよね!机に乗るから、段ボール取って~!」
そう言って私は机の上に飛び乗ってみせる。
「いや、普通は逆。僕が乗っけるから、段ボール取ってよ。」
「だって、慎ちゃんが落ちてきても私、受け止められないでしょ?私が落ちたら慎ちゃんよろしく!」
「いや、落ちてくる前提はおかしい。」
そう言っている慎ちゃんを放って置いて、机から机に飛び移って見せた。
「私の運動神経なめんな?もう乗っちゃったし。はい、早く!段ボールカモン!!」
段ボールを慎ちゃんに催促していると、そこへ晴君がやってくる。
「何やってるの?ひらりちゃん。それ乗っけるの?代わるよ。ほら、女の子がそんな所乗っちゃダメだよ。パンツ見えたらどうするの?」
「インナーパンツ履いてるから大丈夫だよ?別に落ちないし。自分が落とした物ぐらい自分で片付けるよ。」
「ダメ。」
晴君は本気の力で引っ張って私を机から引きずり降ろそうとする。
「晴君、引っ張らないで!落ちるっ!落ちるっ!怖いっ!」
晴君は私を支えて、降ろして、抱きしめる。
「ほら、ひらりちゃんは女の子なんだから、意地張らないで、誰かに頼りなよ。」
離れた私は冷静に言った。
「晴君……。ってゆうか、今のは晴君が落としたんだよね?!」
「いや……相田先輩、そこは普通にありがとうで良くないですか?」
話を聞いていた一年生が思わずツッコんだ。
「じゃあ、晴君代わりに机に乗って、段ボール乗っけて!」
そう言うと、晴君はさっと机に乗り、段ボールを受けとる。
「これ、半分しか乗らないけど大丈夫?また落ちて来るよ?中身何?開けてもいい?」
中身を開けてみると、返却されていない作品が入っていた。
「誰かの忘れ物?」
「返却して、置いて行ったか、忘れて行った作品?どっちにしろいらない物だと思う。椎名先生に聞いてみるよ。危ないから降ろして置こう。ありがとう白石。」
慎ちゃんは晴君から段ボール箱を受け取って棚の前に置いた。
「どういたしまして。ひらりちゃんからは、ありがとうのちゅーがいいな。」
はいはい。私はいつもの通りスルーした。
「ありがとう。晴君。」
晴君は不満そうに机から降りていた。




