Quest28:群体ダンジョンを再攻略せよ その5
※
「旦那、起きて下さい」
マコトの意識はシェリーの声によって半分だけ現実世界に引き戻された。
残り半分は夢の世界を漂っている。
「旦那、さっさと起きて下さい」
シェリーはベッドの傍らに立ち、マコトを揺すった。
それで、もう半分が現実世界に引き戻された。
「おはよう、シェリー」
「おはようございます」
シェリーは溜息を吐くように挨拶を返した。
「皆、もう集まってるのか?」
「まだ誰も来ちゃいませんよ」
マコトが眠い目を擦りながら体を起こすと、シェリーはベッドに腰を下ろした。
残念ながら服を着ている。
仄かに石鹸の匂いを漂わせているので、かなり前に目を覚ましたのだろう。
残念だ。実に残念だ。
もっと少し早く目を覚ましていたら一戦できていただろうに。
「なら、もう少し寝かせてくれ」
「そういうと思ったから早めに声を掛けたんですよ」
「早くも行動パターンを把握され始めてるな」
「毎日顔を合わせてればこれくらいできるようになりますよ」
「そうか」
マコトは欠伸をしつつ、背後からシェリーを抱き締めた。
シェリーはわずかに身動ぎしたが、すぐに動きを止める。
静かに目を閉じる。
「旦那、寝ちゃ駄目ですよ?」
「いや、寝ねーよ」
「どうしたんです?」
「うん、まあ、何となく」
「何となくの割に手付きがいやらしいですねぇ。私がその気になっちまったらどうするんです?」
手の甲に痛みが走る。シェリーがつねったのだ。
リブなら『おう、やるか!』と応じてくれそうだが、割と常識人だ。
「別の女のことを考えながら揉まないで欲しいんですけどね」
「よく分かったな」
「そりゃ、分かりますよ」
「怖ぇ~」
恐るべき勘の冴え――ぶっちゃけ、超能力レベルだ。
「リブなら応じてくれそうだが……」
「もう!」
シェリーは少しだけ声を荒らげた。
本気で怒っている訳ではなく、単なるアピールだろう。
マコトが再びベッドに横になると、シェリーは振り返った。
「だ、ん、な!」
「いや、寝ねーよ。ちょっと横になっただけだ」
目が冴えてしまったので二度寝も難しそうだ。
「……シェリー」
「嫌ですよ」
「もちろんだ。ただ、ちょっと上に乗ってもらいたかっただけだ」
「旦那~」
シェリーは情けない声を上げた。
「……仕方がないですねぇ。乗るだけですよ?」
「おう」
シェリーは溜息交じりに言って、マコトの上――へその下辺り――に乗った。
スカートが捲り上がり、太股が露わになる。
「何つーか、こういうのいいよな」
「返答に困りますねぇ」
シェリーは困ったように眉根を寄せた。
「こういうだらだらした感じがいいなって意味だ」
「だらだらって、私はきちんと働いてますよ」
シェリーは拗ねたように唇を尖らせた。
「手伝った方がいいか?」
「いきなりどうしたんです?」
「いや、働いてるって言われるとな」
「宿代をもらっている上に仕事を手伝わせちまったらこっちが申し訳ないですよ」
「だったら言わなくてもいいんじゃね?」
「事実を指摘したんです」
やれやれと言わんばかりの口調だ。
「でも、まあ、飽きそうだな」
「何にです?」
「スローライフにだよ」
一年か、二年ならだらだらと過ごせそうだが、それ以上だと暇を持て余しそうだ。
「旦那の夢だったんでしょう?」
「夢つーか、うん、夢なんだけどな。そう言えばシェリーは俺の夢に付き合うつもりは――」
「ありませんよ」
「だよな」
最後まで話を聞いて欲しいと思うが、シェリーの夢は父親の宿を継ぐことだったのだ。
自分のために夢を捨てさせるのは身勝手すぎるだろう。
「となると、この宿でスローライフだな」
「田舎で悠々自適の生活を送るんじゃなかったんですか?」
「田舎に拘りがある訳じゃねーしな」
「いい加減ですねぇ」
「柔軟と言ってくれ」
マコトはシェリーの太股に手を這わせる。
「けど、それだと、ちょっとな~」
「何か問題があるんですか?」
「問題って、ヒモみてぇだろ?」
「宿代はきっちり頂きますよ」
「分かってる」
「じゃあ、ヒモじゃないじゃないですか」
「そりゃ、そうだけどよ」
マコトは呻いた。
宿代を払っていればヒモとは言わないだろうが――。
「事情を知らないヤツにはヒモにしか見えねぇって意味だ」
「意外に気にするタイプなんですねぇ」
「意外は余計だって」
コミュニケーション能力が高い訳ではないが、二十年も社会人をやっていればある程度の社交性を身に付けられるものだ。
「シェリーは気にならねぇのか?」
「そんなのいちいち気にしてたら仕方がないじゃありませんか」
「そんなもんか?」
「そんなもんですよ。人ってのは面白おかしく囃し立てるもんなんですから」
シェリーは少しだけ険のある口調で言った。
「もしかして、俺のせいで変な噂が立ってるのか?」
「上手いことをやったって言われてるみたいですねぇ。ま、いきなり若い男ができて、その人が凄腕の冒険者なら無理もないですけどね」
シェリーは溜息交じりに言った。
「苦労を掛けるな」
「苦労なんてしちゃいませんよ。こんな年増をもらってくれて感謝してるくらいですよ」
「俺基準だとスゲー若いんだけどな」
と言いながらシェリーの尻を揉む。
肌はきめ細かく、表面はマシュマロのように柔らかい。
立ち仕事だからか、力を込めると押し返してくる。
おや、とシェリーが口元を押さえる。
「なんだ?」
「いえね、旦那も分かってきたと思ったんですよ」
「俺にも学習能力はあるんだよ」
シェリーの言葉を肯定したら怒られそうなことくらい分かる。
「服とか買った方がいいか?」
「洗濯したばかりですよ?」
「いや、こう、プレゼント的な?」
「そんなに気を遣わなくていいですよ」
「気を遣っている訳ではなく」
「いやらしい下着ならいりませんよ」
シェリーは眉根を寄せる。
「俺がプレゼントしたいんだよ」
「どういう風の吹き回しです?」
「まあ、何となく」
理由があるとすれば金がなくて昔の彼女にプレゼントを買ってやれなかったせいか。
プレゼントどころか、何もしてやれなかった。
「また、別の女のことを考えてませんでした?」
「女って言うか、貧乏してた頃を思い出しちまってな」
「……そうですか」
シェリーが沈んだ口調で呟いた。
「……そうか」
「なに、一人で納得してるんです?」
「俺は普通のことがしたいんだなと思ってさ」
「二股が普通ですか?」
シェリーは腕を組み、拗ねたように唇を尖らせた。
だが、それも長くは続かない。
口元を綻ばせたのだ。
「ま、でも、何だか分かる気がしますねぇ」
「って訳で期待しないで待っててくれ」
はいはい、とシェリーは溜息を吐くように言った。
※
マコトが装備を身に着けて食堂に入ると、ユウカ、フェーネ、リブ、ローラ、フジカの五人は中央のテーブル席に着いていた。
シェリーはと言えばカウンターで食器を洗っている。
「さ、行くわよ」
ユウカは文句を言わずに立ち上がった。
「文句を言わないんだな」
「――ッ!」
マコトが呟くと、ユウカがキッと睨み付けてきた。
「店の奥から出てきたら誰だって何をしてたか分かるわよ! だから、スルーしてやったのに……」
ユウカは俯き、ぶるぶると拳を震わせた。
「アンタ! あたしがセクシャルな話題を避けようとしてるってのに、なんでわざわざ振ってくるのよ!」
「いきなりブチ切れ――」
「あーッ! もう分かってるのよ! アンタの本性がおっさんで、あたしがおたおたする様を見て、愉しんでるって! セクハラで訴えられないと思って無茶苦茶やって、こん、ちく、しょうッ!」
「朝からテンションが高ぇな」
「アンタのせいでしょ!」
マコトがしみじみと呟くと、ユウカは顔を真っ赤にして叫んだ。
そのテンションを一割だけ分けて欲しいものだ。
そうすれば爽やかに起きられそうな気がする。
「ネットも、スマホもあるご時世なのにな」
「日本中の高校生がネットの恩恵に与れる訳じゃないわよ」
「ユウカの家って、貧ぼ――」
止せばいいのにフジカが口を開いた。
「うっさいわね、このブルジョワがッ! この前も言ったけど、あたしの家は平均的なご家庭より貧乏よ! 悪いッ?」
「わ、悪くないし」
「チッ、見下して。これだから金持ちは嫌なのよ。『ぷぷ、クリスマスにケン●ッキー?』とか考えてるに違いないわ」
「二重の意味で答えにくいし」
フジカは呻くように言った。
「お前の場合、金持ちだからなのか、キリスト教徒だからなのか分からねーしな」
「どっちが正解みたいな?」
「地雷原だぞ」
「うぐ、正解がないとか意地悪なクイズみたいだし」
「強いて言えば黙っているのが正解だな」
「もはや手遅れみたいな」
フジカはがっくりと肩を落とした。
「さあ、行くわよ!」
「今日は早かったッスね」
「ネタがなかったんじゃねーの?」
「いつも言い合ってますからね」
ユウカが立ち上がると、フェーネ、リブ、ローラの三人も立ち上がった。
どうやら、三人ともこの状況に慣れつつあるようだ。
実に頼もしい。
「今日は5階層まで行くわよ、5階層まで!」
「気合が入ってるッスね!」
「私も頑張ります!」
「今日はサプライズが起きないといいみたいな」
ユウカ、フェーネ、ローラ、フジカの四人が外に向かう。
何故か、リブは動こうとしない。
「旦那、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
何となく気恥ずかしくなって頭を掻くと、シェリーはくすくすと笑った。
頬が熱くなるのを自覚しながら歩き出す。
バシッと肩に衝撃が走る。
リブに叩かれたのだ。
「マコト、次はあたい――」
「そこ! エロトーク禁止ッ!」
「へ~い」
ユウカが鋭く叫び、リブは間延びした返事をした。
「まあ、そういう訳で今日か、明日にでも――」
「だから、エロトークは禁止って言ったでしょ!」
「へ~いへい」
ユウカが叫び、リブはやはり間延びした返事をした。
「ユウカがエロトーク禁止って言ってるから控えろ」
「仕方がねーな」
リブはぼりぼりと頭を掻きながら歩き出した。
※
マコト達はいつもの空き地に到着すると、ユウカを中心に円陣を組んだ。
「出発前に所持品チェックだ」
「いきなりね」
「今、思い付いたからな」
「まあ、いいけど」
ユウカは渋々という感じだったが、頷いた。
「水薬は二本持ってるな?」
「持ってるわよ」
「もちろんッス」
「使ってねーからな」
「はい、持ってます」
「ちゃんと買ってあるし」
「よしよし」
マコトは頷き、ローラの元気がないことに気付いた。
「ローラ、何か気になることでもあったか?」
「あ、いえ、その……折角、マジックアイテムを買ったのにと思いまして」
ローラは俯き、拳を震わせた。
どうやら、マジックアイテムの補助で治癒魔法を使えるようになったのに消耗が激しすぎて役に立たないことを気にしているようだ。
「マジックアイテムは高いもんな~」
「そうなんです!」
リブが同意すると、ローラは声を張り上げた。
「すごく高かったんですよ! それなのに水薬の方が役に立つだなんてあんまりです!」
「アンタの場合、マジックアイテムで無理に魔法を使ってるからでしょ」
「でも、高かったんですよ!」
ローラはムキになったように言った。
「ローラの魔法は最後の手段だからな」
「活躍の場が増えると期待していたのですが」
「俺は水薬の世話にも、治癒魔法の世話にもなりたくねーけどな」
「確かに使わないに越したことはありませんが、憧れもあったので」
ローラはごにょごにょと言った。
「その気持ちは分かるし。私も小さい頃は憧れたし」
「アンタの憧れとは別物よ、きっと」
目を輝かせるフジカにユウカは呆れたように言った。
「プ――」
「気持ち悪い」
ユウカは顔を顰めた。
「まだ何も言ってねーよ」
「プって言ったわ、プって。日曜日の朝にやってるアニメの話をしようとしたわ」
「そりゃ、確かに言おうとしたけどよ」
「気持ち悪いわね。まさか、毎週見てたとか言わないわよね?」
「その時間帯は仕事してるか、寝てるかだよ」
「本当に?」
「こんなことで嘘を吐いてどうするんだよ」
マコトは小さく溜息を吐いた。
「まあまあ、女の子はお姫様や魔法少女に憧れるものみたいな」
「あたしは憧れてないわよ」
「ゆ、ユウカはちょっと特殊だし」
ユウカが真顔で返すと、フジカは気まずそうに視線を背けた。
「と言うか、ローラだってお姫様や魔法少女には憧れないわよ」
「そ、そうですね」
「――ッ!」
ユウカはギョッとローラを見つめた。
「ま、まさか、魔法少女に――」
「違います!」
「安心したわ」
ローラが否定すると、ユウカは胸を撫で下ろした。
「でも、お姫様願望はあるってことよね?」
「……うぐッ」
ユウカが訝しげに眉根を寄せ、ローラは呻いた。
「お、お姫様願望というほどのものではなく……」
「ではなく?」
「ただ、ちょっと、迎えに来てくれればと」
ローラは俯き、ごにょごにょと呟いた。
「意外に少女趣味なのね」
「意外ですか?」
「いやいや、そんなことないし。女の子はいくつになっても女の子みたいな」
「ぐはッ!」
ローラは苦しそうに胸を押さえ、荒々しい呼吸を繰り返した。
「追い打ちを掛けてどうするのよ?」
「や、私は、女はいくつになっても夢見る心を忘れない的な意味で言ったみたいな」
「……うぐぐ」
「もう止めろ、ローラのHPはゼロだ」
年齢を気にする歳ではないと思うが、よくよく考えてみれば中途半端な年齢というのがいけないのかも知れない。
「あたいは……どうかな?」
「おいらはあるッスよ」
フェーネは何処か得意げに言った。
「そうなのか?」
「そうッス」
「高望みしすぎじゃねーの?」
「そんなことないッスよ」
そう言って、フェーネはマコトに視線を向けた。
「借金があった時、おいらは誰か助けてくれないかな~と思ってたッス」
「それは違うんじゃねーの?」
「違わないッス。助けてもらって、借金もなくなって……完璧ッスよ」
「なるほど」
納得したのか、リブは腕を組んで頷いた。
「ってことはあたいもそうか」
「うぇぇぇ」
「あたいだってそうだろ? ピンチの時にマコトに助けてもらったんだから」
「言われてみればそうッスね」
リブがムッとしたように言うと、フェーネはあっさりと肯定した。
「……考えてみればシェリーとローラもそうね」
「逆です、逆」
「は?」
「マコト様に出会ったのは私が先です」
「はいはい、ローラとシェリーもそうね。シェリーに先を越されたけど」
「うぐッ!」
ユウカがボソッと呟くと、ローラはまたしても呻いた。
ローラの心にも地雷原があるようだ。
「ユウカもそうだし!」
「……確かに助けられたけど」
ユウカは眉根を寄せ、こめかみに触れた。
「マコトさんはピンチに格好よく登場したし」
「ま、まあ、格好悪くはなかったけど」
ユウカは何とも歯切れが悪い。
「ラブ?」
「張り倒す――」
「マコトさんはそういうことってあるみたいな?」
フジカはユウカを無視し、マコトに話を振った。
「そういうこと?」
「いくつになっても男の子みたいな……ネタ」
「ネタかよ」
一応、突っ込んでおく。
「隠れ家とか?」
「うちのパ……お父さんも隠れ家的な店があるとか、ないとか言ってたし」
「愛人の家じゃないの?」
「失礼すぎるし!」
ユウカの言葉にフジカは声を荒らげた。
「そういう店はなかったな。けど、何処か遠くに行きてぇな~とは思ってたな」
「冒険好きみたいな?」
「そんなんじゃなくて、単に何処か遠くに行きてぇなって思ってたんだよ。で、ある時に気付いた訳だ」
「ふむふむ、何にみたいな?」
「何処か遠くに行きたいんじゃなくて、誰も自分のことを知らない場所に行きてぇって思ってることに」
「い、いや、それは反応に困るし」
「社会人あるある、だな」
「ゆ、夢も希望もないし」
そんなものは初めからねーよ、という言葉を呑み込む。
「マコトの人生にそんなものがある訳ないでしょ」
「そ、それはあんまりな台詞だし」
「マコトは親の借金のせいで大学にも行けず、高卒で就職して、十年もかけて借金を返済した苦労人なのよ。アンタとは人としての格が違うのよ」
「なんで、お前が自慢気なんだよ」
ふふん、と自慢気に鼻を鳴らすユウカに突っ込んでおく。
「しかも、借金のせいで恋人と別れて、返済し終わった時には気力が萎え果ててたって聞くも涙、語るも涙の人生を送ってるのよ」
「ま、マコトさん、可哀想だし」
「……いいけどよ」
同情されないよりはマシだろう。
「……アンタの父親がマコトの勤めてた会社の社長ならよかったのに」
「エロトークは駄目って言ったくせに」
「エロトークじゃないわよ!」
「――ッ!」
ユウカが顔を真っ赤にして怒鳴ると、フジカは首を窄めた。
「で、でも、その展開だとえ、エロ展開しかないみたいな?」
「ざまぁ展開があるわよ。ったく、ピンクな妄想ばかり口にして良家のお嬢様が聞いて呆れるわ」
「何だか釈然としない気持ちで一杯みたいな」
「マコトも残念でしょ?」
「一応、俺は社長に感謝してるんだが?」
「は? アンタ、馬鹿じゃないの?」
「馬鹿じゃねーよ。就職氷河期に採用してもらった恩義があるし、社長がパワハラをしていた訳じゃねーしな」
クレームを感動に変えると言っていた時はアホかと思ったし、待遇や会社の体質に不満はあったが、恩人ではあるのだ。
「これだから社畜は。じゃ、こいつが社長の娘でも復讐しないのね?」
「一回なら助けてやってもいいな」
まあ、社長の娘はもう社会人なので意味のない質問だが――。
「一回だけ? 恩義があるんでしょ?」
「一回で十分だろ」
これで貸し借りゼロだ。
「恩義って言ってる割に軽いのね」
「目に掛けてもらってたんなら、もうちょい頑張るけどな。こんなもんだろ」
「まあ、そうね」
ユウカは少しだけ悩む素振りを見せてから頷いた。
「じゃ、そろそろ――」
「ちょっと待って欲しいッス!」
フェーネが手を上げた。
瓶を握り締めているが――。
「滋養薬を買っておいたッス。もちろん、マジックアイテムも補充済みッス」
「よく買う時間があったな」
「黒炎の名前を使ったんスよ」
むふー、とフェーネは鼻息を吐き出した。
「いくらだったの?」
「1本500Aッス」
「結構するのね」
「フジカに渡しちまって大丈夫か?」
「そのために買ってきたッスよ」
フェーネはフジカに歩み寄り、滋養薬を渡した。
「ありがとうだし!」
「新入りの面倒を見るのは当然の務めッスよ」
フジカは滋養薬をポーチに収めた。
「分かり易くマウントを取りにきたわね」
「……お前は」
ユウカ・フィルターの効果に頭痛を覚える。
「よし、今度こそ行くか」
「分かったわ。リュノ・ケスタ・アガタ――」
ユウカが杖を構え、詠唱を開始する。
「顕現せよ! 転移!」
呪文が完成し、マコトは目眩に襲われた。





