Quest28:群体ダンジョンを再攻略せよ その3
※
スケルトン・ウォーリアが駆けてくる。
前衛が二体、後衛が一体だ。
と言っても武器は剣なので、そこまで警戒する必要はない。
リブはポールハンマーを、ローラは盾を構えながらタイミングを計る。
「フジカ、頼むぞ」
「わ、分かったし」
フジカは錫杖を構えて呼吸を整える。
「緊張しすぎでしょ。どんだけメンタルが弱いんだか」
「……ぐ」
ユウカが小馬鹿にするように言うと、フジカは小さく呻いた。
「ペリオリス様! よろしくお願いしますみたいな! 昇天!」
フジカが祈りを捧げ、魔法を使う。
光がダンジョンを照らし、スケルトン・ウォーリアが動きを止める。
「狙撃狙撃ッス!」
フェーネがスリングショットでミスリル合金の弾を放つ。
狙いは後衛だ。
弾が立て続けに眉間を貫き、頭蓋骨が割れる。
頭蓋骨を失ったスケルトン・ウォーリアは骨の結合が解ける。
残ったスケルトン・ウォーリアが動き始める。
どうやら、昇天の効果が切れたようだ。
だが、もう遅い。
リブとローラはすでに距離を詰めていた。
「オラオラオラッ!」
「盾撃!」
リブの三連撃が、ローラの盾撃がスケルトン・ウォーリアに炸裂する。
昇天のダメージもあってか、スケルトン・ウォーリアはバラバラになって地面に落ちる。
「やったし!」
「……」
フジカが拳を突き上げるが、ユウカの目は冷たい。
「またか」
「またかって何よ!」
マコトが溜息を吐くと、ユウカが詰め寄ってきた。
「あたしが何を考えてるか分かってて、今の台詞を吐いたんでしょうね?」
「どうせ、アレだろ」
「アレって何よ、アレって」
「お前は何でも噛み付くな」
「何でもは噛み付かないわ。ムカついたことだけよ」
ユウカはムッとしたように言った。
まあ、ムッとしていないことの方が珍しいのだが。
「で、あたしが何を考えてるか分かってるんでしょうね?」
「どうせ、フジカが拳を突き上げた時に片足を上げてたから『かわいこぶってんじゃねーわよ』とか思ったんだろ?」
「ち、違うわよ!」
「言い当てられたからって否定するなよ。ったく、どんだけ負けず嫌いなんだよ」
「当たってないわよ! それに負けてもないわ!」
ユウカはムキになったように言った。
「あたしは……ほら、アレよ、アレアレ」
「北●の拳に出てくる雑魚キャラの真似か?」
「何処をどう聞いたら断末魔になるのよ!」
「そこは、ほら、フィーリングで」
「どんなフィーリングよ!」
ユウカは顔を真っ赤にして言った。
「つか、北●の拳を知ってるんだな」
「そりゃ、図書館に置いてあるもの」
「嫌な図書館だな」
「図書館の館長もアラフォーおたくに言われたくないでしょうね」
ユウカは腕を組み、鼻を鳴らした。
「そうかよ。それで、なんで北●の拳を借りたんだ?」
「TVで昔のアニメを特集してたからよ」
「感想は?」
「人体破壊描写が最高ね。北斗●拳を使えたら爆ぜさせてやるわ。誰とは言わないけど、誰とは言わないけど!」
「ユウカは目も、口も同じくらい物を言うし」
フジカはぼそぼそと呟いた。
「今なら使えるような気がするわ」
「レベル73もありゃ北斗●拳なんて必要ねーよ」
指で突いただけで致命傷になりかねない。
「拳一つで飛び散る訳ね」
「そんなに飛び散らせたいなら盗賊を探してこいよ」
「嫌なことを思い出させないで!」
ユウカはピシャリと言い、顔を覆った。
「……いくら不幸な事故だったとは言え、命を奪った罪悪感に押し潰されそうだわ。気に病んで手首とか切っちゃいそう」
沈んだ口調だが、指の間からこちらを見ている。
マコトは溜息を吐き――。
「お前が欠片も罪悪感を感じてないことは分かった」
「相棒が罪悪感で押し潰されそうになってるのに何を言ってるのよ。こういう時は不幸な事故だったって言ってくれるもんでしょ?」
「まあ、事故と言えば事故かも――」
「はい、事故ね! 事故決定ね! 言質を取ったから、二度と、二度とあたしが盗賊を蹴り殺したとか言わないでよね!」
「……お前ってヤツは」
マコトは再び溜息を吐いた。
「で、いつフジカを飛び散らせるの?」
「そんな話してねーよ」
「なんだ、残念ね」
ユウカは残念そうに言った。
「み、身の危険を感じるし、レベルを上げる必要性をヒシヒシ感じるし」
「精々、頑張ることね」
ふふん、とユウカは鼻を鳴らした。
「ともあれ、フジカの昇天は有効だな」
「動きが止まってる間に数を減らせるッスからね」
「ダメージを与えられる上、迎え撃つ態勢を整えられます」
マコトの言葉にフェーネとローラが同意する。
「これが試したいこと?」
「ああ、昇天……と言うか、フジカを軸にした戦闘スタイルだな。そう言えばリブはどう思う?」
「……いいんじゃねーの?」
リブは何処となく元気がない。
「どうしたんだよ?」
「兄貴、リブは地震撃がお払い箱になりそうでショックを受けてるんス」
「意外だな」
「どういう意味だよ?」
リブはムッとしたように言い、唇を尖らせた。
「いや、もう少しドライなヤツかと思ってたんだよ」
「いやいや、あたいは情熱的だって」
心外だと言わんばかりの口調だ。
「マコトだって知ってるだろ?」
「まあ、知って――」
「セクシャルな話題は禁止よ!」
マコトの言葉を遮り、ユウカが叫んだ。
「別にいいじゃねーか」
「よくないわよ! そういう関係になるのは仕方がないにしても、そういう、え、エロトークをされたら、どう反応していいのか分からないわ」
「エロくねーよ?」
ユウカは顔を真っ赤にして言ったが、リブはきょとんとしている。
「こ、これだから異世界人は!」
「ユウカ、それは差別だし」
「事実に基づいてるから差別じゃないわ!」
「郷に入れば郷に従えという言葉があるっしょ?」
「ケースバイケースよ!」
「分かった、ユウカの意見を尊重するって」
リブは降参と言わんばかりに諸手を挙げた。
「それでいいのみたいな?」
「あたいもエロトークがしてぇって言えばしてぇが、無理に聞かせてぇって訳じゃねーからな」
リブは軽く溜息を吐きながら答える。
「は~、リブさんは大人だし」
「アンタも見習いなさいよ」
「どうして、ユウカがドヤ顔するのか分からないし」
フジカはドヤ顔のユウカを横目で見ながら肩を落とした。
「まあ、とにかく、地震撃には割と思い入れがあるんだよ」
「それしか攻撃系のスキルを使えなかったからじゃないッスか?」
「習得するまでに時間が掛かったし、あれでピンチを何度も乗り越えてるんだから思い入れの一つや二つあってもいいだろ」
「そんなもんスかね」
「そんなもんなんだよ」
「リブの気持ちは分かったけど、敵の動きを封じられるってのは大きいんだよな」
マコトは頭を掻いた。
「ああ、いや、悪ぃ。フジカを軸にするメリットって言うか、戦い方のパターンを増やすメリットは分かってるんだ。今のはあたいの我が儘だ」
「悪ぃな」
「謝られると立場がねーな」
リブはバツが悪そうに頭を掻いた。
「フジカはどうだ?」
「どうって?」
フジカは可愛らしく首を傾げた。
「今の戦い方についてに決まってるでしょうが。首をへし折るわよ」
「サラッと余計な一言が付いてくるし」
「首をへし折るわよ」
「そっちが余計な一言だし!」
フジカはギョッとユウカを見つめた。
「分かってるんならとっとと感想を言いなさいよ」
「分かってるし」
む~、とフジカは唸る。
「昇天は射線を気にしなくていいから楽みたいな。けど、その代わりに魔力の消耗が激しいような気がするし」
「気がする?」
「まだ覚えたばっかりだし」
フジカは恨めしそうにユウカを見ながら言った。
「確かに連発は厳しいか」
「さっきのは使うタイミングが分かってたからいいけど、戦況を見ながら使うのはちょっぴり自信がないし」
「アンタ、どんだけ自信がないのよ」
「皆の命を背負う覚悟は流石にないし」
呆れたように言うユウカにフジカが反論する。
「そう言えばフェーネも狐火を覚えた時はぶっ倒れてたな」
「昔のことッス、昔の」
「そんなに昔のことでもねーだろ」
「昔のことッス!」
リブが呟き、フェーネはムキになったように言った。
「折角、覚えた狐火もあんまり使ってねーけどな」
「使う場面がないからッス」
ぐぬぬ、とフェーネは呻いた。
「消耗が激しいから雑魚戦でホイホイ使われても困るんだが」
「流石、兄貴ッス。分かってらっしゃるッス」
フェーネは嬉しそうに手を叩いた。
「流石、狐だな」
「差別ッスか、狐差別ッスか?」
リブが揶揄するように言い、フェーネは食って掛かった。
「そういう偏見がフォックステイル族を苦しめるんス」
「それだけが原因じゃねーだろ」
リブはうんざりしたような表情を浮かべた。
「差別される謂われでもあるのか?」
「ん? まあ、フォックステイル族は種族的に認識を誤魔化すスキルや魔法に長けてるってのはあるんだけどよ」
「それこそ差別ッス!」
フェーネはぶんぶんと手を振った。
「東の――」
「東国のことか?」
「ああ、その東国を滅ぼしかけたのが狐のバケモノ……つか、七悪なんだけど、とにかく狐のバケモノなんだよ」
ふ~ん、とマコトは相槌を打った。
「で、討伐隊にボコられて半死半生で逃げた先がフランク達の言ってた遺跡って訳だ。まあ、そこでも色々とやらかしてるけどな」
「一説によれば森の植物が枯れ、動物が死に絶えたそうです」
ローラがリブの説明を補足する。
「殺生石みてぇだな」
「マコト様の世界にも同じような話があるのですか?」
「似たような話はあるな」
「おいらは大丈夫ッスよ! おいらは尽くす女ッスから!」
フェーネはぴょんぴょん跳ねてアピールする。
「フェーネちゃんを見てると、ほっこりするみたいな」
「……まあ、いいけど」
フジカが温かな眼差しでフェーネを見つめ、ユウカが憐れむかのような視線を向ける。
「ですが、フジカさんの言葉にも一理あると思います」
「そうね。確かにフェーネを見ていると、ほっこりする時があるわ。けど、あまり子ども扱いするのもどうかと思うのよ」
「いえ、そちらではなく」
ローラは左右に手を振った。
「まあ、フェーネさんを見ていてほっこりすることはありますが、マコト様を受け入れられるライバルなので気を引き締める必要があると思います」
「アンタが脱線させてどうするのよ」
「し、失礼しました」
ユウカが突っ込み、ローラは気を取り直すように咳払いをした。
「で、一理ってのは何よ?」
「昇天を使うタイミングを任せることです」
「そうだな」
マコトは頷いた。
「フィーリングでいいんじゃねーの?」
「それだと流れを作れません」
ローラはきっぱりとリブに言った。
「そうか?」
「そうです」
リブは今一つ釈然としていないようだ。
フリーランスとして生きてきたリブと組織人として生きてきたローラの差なのだろう。
だが、マコトにはローラに理があるように思えた。
「やはり、ここはマコト様が指示を出すべきではないかと」
「指示か」
「なんで、溜息交じりなのよ?」
「指示を出すのって苦手なんだよ」
「二十年も社会人をやってたんでしょ?」
「まあ、アルバイトやパートに指示を出すことはあったけどよ」
あれは業務内容が決まっていたので楽と言えば楽だった。
「だったら、大丈夫でしょ」
「平社員に何を期待してるんだよ」
「二十年も勤めてたのに?」
ユウカは驚いたように目を見開いた。
「元々、評価されにくい部署だし、上が詰まってたからな」
「でも、上の人が辞めないんなら優良企業なんじゃない?」
「辞めてたぞ」
「じゃ、なんで上が詰まってたのよ?」
「他所から補充してたからだよ」
ちなみに他所の中には他の部署だけではなく、他の会社も含まれる。
「前言撤回、ブラックな感じね」
「他所のことは分からねーけど、少なくともホワイトじゃねーな」
「フジカ、アンタが贅沢できるのはマコトみたいな人間がブラックな環境で働いているからなのよ」
「ざ、罪悪感を煽ってくるスタイルはどうかと思うし」
「社会の最底辺で蠢く社畜どもに感謝しなさい」
「お前は言葉を選べ」
無駄と分かっているが、突っ込んでおく。
「それにしても指示か」
「一から十まで指示を出すのは不可能だと思うので、要所要所で指示を出して頂ければ」
「仮の指示を出すのもありか?」
「仮ですか?」
ローラが訝しげに眉根を寄せる。
「取り敢えず、敵に遭遇したらこうしようって感じで」
「ああ、そういうことですか」
「でも、それだと今までとあまり変わらないんじゃない?」
「敵と遭遇した時に指示出してもらえるのはありがたいし」
「まあ、確かにアンタは呪文を詠唱しなくていいからそれで十分ね」
ユウカは独り言のように呟く。
「指示が必要なら索敵の方法を変えた方がいいんじゃないッスか?」
「変えるって具体的にどうするんだよ?」
「どんな敵が来そうか口にするんスよ。所謂、情報の共有ッスね」
リブの問いかけにフェーネは答える。
「確かにそういうのはやってなかったわね。でも、分かるの?」
「二体までなら分かるッス。それ以上になると難しいッスけど」
「あたいはかなり近くまで来ねぇと分からねーな」
「それで十分です」
「そうだな」
マコトは頷いた。
襲い掛かってくるのが三体以上なのか分かるだけでもありがたい。
「一応、方針は決まったな」
「ちょっと待って!」
「まだ、何かあるのか?」
「なんで、嫌そうな顔をするのよ?」
「いいから言ってみろ」
「マジでムカつくわね」
ユウカは不愉快そうに舌打ちし、それからあるアイディアを口にした。
※
マコト達は隊列を組み、ダンジョンを進む。
隊列はいつも通り――一列目がリブとローラ、二列目がフェーネとフジカ、三列目がユウカ、最後尾がマコトだ。
「……そろそろ、分かれ道ッスよ」
フェーネが地図を見ながら呟き、程なくして道が二手に分かれていた。
首筋がチクッと痛む。
「来るぞ」
「ガチャガチャ音がするからスケルトン・ウォーリアッスね。数は二体ッス」
「だといいけどな」
フェーネがピクピクと耳を動かしながら呟き、リブが皮肉げな口調で言う。
「……リブさん」
「分かってるって」
ローラに窘められ、リブはポールハンマーを構えた。
ガチャガチャという音がマコトの耳にも届く。
「昇天は温存だ。援軍が来るかも知れないからフェーネとフジカは攻撃準備だ」
「援軍が来た時はどうすればみたいな?」
フジカが錫杖を握り締め、首を傾げる。
「リブとローラが戦っているようなら昇天を頼む」
「了解みたいな」
「あたしは?」
「ユウカは待機だ」
「いつも通りね」
ユウカが軽く肩を竦める。
パワーレベリングを実施していることもあり、ユウカはずっと待機状態だ。
かなりモチベーションが低下していることだろう。
なので――。
「いつも通り、頼りにしてるぜ」
「な、こ、こんな時に何を言ってるのよ!」
ユウカは顔を真っ赤にして言い、三角帽子を目深に被った。
直後、二体のスケルトン・ウォーリアが飛び出してきた。
剣を持ち、鎧を身に着けている。
まあ、要するにいつも通りということだ。
「オラッ!」
リブがポールハンマーでスケルトン・ウォーリアの脚を薙ぎ払い、ローラが盾でもう一体を壁に押し付ける。
「マコト、こいつらはどうする」
リブがスケルトン・ウォーリアの背中を踏み付けながら言う。
「……フジカ」
「分かったし! 聖光弾!」
フジカは射線を確保し、魔法を放った。
光弾がリブが踏み付けていたスケルトン・ウォーリアの頭蓋骨に命中し、亀裂が走る。
「どっちを狙うか言えよ、ビビっただろ」
「ご、ごめんなさい! 次も狙うし! 聖光弾!」
フジカが再び魔法を放つ。
今度こそ頭蓋骨が割れ、スケルトン・ウォーリアはバラバラになった。
「こっちもお願いします!」
「分かったし! 聖光弾!」
光弾が壁に押し付けられていたスケルトン・ウォーリアの頭蓋骨に命中する。
「聖光弾!」
フジカはすぐに魔法を放つ。
光弾が頭蓋骨を砕き、骨が地面に落ちる。
「どうだ?」
「ちゃんと聞き分けられてホッとしてるッス」
「楽になったと言えば楽になったぜ」
フェーネ、リブが答える。
「フジカはどうだ?」
「失敗して迷惑を掛けちゃったし」
「始めたばかりですから仕方がありません」
フジカが肩を落とし、ローラがフォローする。
「ユウカはどう思う?」
「始めたばかりだから、とにかく声を出していくべきだと思うわ」
「珍しく建設的な意見だな」
「あたしはいつだって建設的よ」
ユウカはムッとしたように言った。
「お前のアイディアは実行できなかったな」
「保険みたいなものなんだから別にいいわよ」
ユウカは軽く肩を竦めた。
「役に立ちそうだから確かめてみたいんだがな」
「保険が役に立つのか検証するために事故を起こすヤツはいないわよ、多分」
「多分?」
「世の中は広いんだからそういうことをするヤツもいるわよ。マコトがそうじゃないことを祈ってるけど」
ユウカは嫌みったらしい口調で言った。
「フェーネ、この先はどうなってる?」
「横道は行き止まりで、真っ直ぐ進むと広い空間に出るッス。第4階層に続く縦穴はもう少し先ッス」
「もう少し先か」
フェーネが魔石を回収しながら言い、マコトは顎を撫でさすった。
「ここは転移先に向いてないわ」
「通路だからな」
そう言えば、とマコトはユウカを見た。
「転移先に指定するのって条件があるのか?」
「転移はかなりファジーだから物と重なることはないわ」
「重なる時はどうなるんだ?」
「ズラしてくれるみたいよ」
ふ~ん、とマコトは相槌を打った。
この世界の管理者――ペリオリスは随分と親切なようだ。
「いつも縦穴の所で灯火を使う理由は?」
「地形操作系の魔法と一緒でダンジョンの中だと効果が不安定になるらしいの。だから、念のためよ。それにしても……」
「なんだ?」
「長いこと一緒に冒険してるのにこういう話をしたことがなかったと思ったのよ」
「そう言えばそうだな」
話す機会は沢山あったが、魔法に関してはユウカに任せきりだった。
「もっと話す機会を増やすか」
「うぇッ!」
ユウカは露骨に嫌そうな顔をした。
「……お前な」
「オフの日にまで顔を合わせるのは勘弁して欲しいわ、マジで」
「それはデートのお誘いみたいな?」
「仕事の話だって言ったでしょ。首をねじ切るわよ」
はい、とフジカは項垂れた。
「別にオフの日まで仕事の話をしようなんて思ってねーよ」
「本当でしょうね?」
「当たり前だろ」
元の世界ではオフの日にも電話が掛かってきていたが、やはりいい気はしない。
「仕事の後だな」
「あたしが泊まってる宿はかなり遠いんだけど?」
「私の家も同じくらいです」
「負担はできるだけ同じくらいにしたいんだけどな」
普段は大丈夫でも不平不満は蓄積されるものだ。
「……食事くらいなら奢ってやるぞ」
「仕方がないわね」
「私も、でしょうか?」
ローラが怖ず怖ずと尋ねる。
流石にユウカばかり特別扱いする訳にはいかない。
「もちろん、全員分な」
「兄貴、太っ腹ッス」
「流石、あたいの惚れた男だ」
「……」
フェーネとリブは嬉しそうに言ったが、フジカはもじもじしている。
「どうした?」
「申し訳なく感じるし」
「どうせ、奢ってもらうんだから遠慮してるんじゃないわよ」
「それを当然と思っちゃ駄目だし」
「マコトはリーダーなんだから必要経費ってヤツよ」
ユウカは当然のように言い放った。
「分かったら、さっさと先に行くわよ」
マコト達は隊列を組み直し、ダンジョンの探索を再開した。
※
通路を真っ直ぐ進むと、広い空間の入口が見えてきた。
チクッと首筋が痛む。
「敵がいるみたいだ。気を付けろ」
「音は聞こえないッスね」
「ってことはゴースト系か?」
「隅っこで動かずにいるだけかも知れないッス」
リブの問いかけにフェーネが答える。
「モンスターハウスと考えた方がよいのではないでしょうか?」
「嫌な感じだし」
「どうするのよ?」
「……中に入ったら昇天だな」
マコトは少し考えて答えた。
「スケルトン系にしろ、ゴースト系にしろ、ダメージは与えておきたいし、状況を把握する時間は欲しい」
「無難と言えば無難な作戦ね」
ユウカが呟き、マコト達は通路を抜けた。
視線を巡らせるが、敵の姿はない。
「……フジカ」
「昇天!」
光が広い空間を照らし、ガシャッという音と共にマンティスが落ちてきた。
縦穴で遭遇したマンティスよりもさらに蟷螂っぽさが増している。
手首から先は鎌状になり、脚は四本に増えている。
マンティスはすぐに体を起こし、口を開けた。
あの爆音を放つつもりだ。
「ローラ!」
「分かってます!」
ローラは盾を構えて飛び出した。
「衝撃反転!」
「――ッ!」
盾が光に包まれ、マンティスが爆音を放つ。
鼓膜が痛み、反射的に耳を押さえる。
「よっしゃ!」
爆音が止み、リブがローラの陰から飛び出した。
マンティスが口を閉じ、鎌を繰り出す。
前回のこともあってか、リブは余裕をもって攻撃を躱す。
これなら腕を引き戻しても首を刈られることはない。
安全マージンを取ったのは間違いではない。
だが、反撃に転じる時間を与えてしまった。
マンティスが再び口を開く。
リブは強く地面を蹴ったが、攻撃を仕掛けるには距離があり過ぎる。
「フジ――」
「再詠唱!」
ユウカの声が響き、光弾がマンティスの下顎を砕いた。
「オラッ!」
ポールハンマーが頭蓋骨を打ち据え、マンティスの体が傾く。
だが、それだけだ。
四本の脚はしっかりと地面を掴んでいた。
「オラッ!」
リブはポールハンマーを振り上げる。
それ自体が攻撃となった動作だ。
マンティスの上体が引き起こされ――。
「オラァァァァッ!」
渾身の一撃がマンティスの頭蓋骨を砕いた。
結合が解け、骨が地面に落ちて乾いた音を立てる。
チクッと首筋が痛む。
「気を付けろ! まだ敵がいるッ!」
「スケルトン・ウォーリア、数は沢山ッス!」
「どっちから来る?」
「おいら達が入ってきた所と――」
フェーネは入口と出口――もう一つの通路を見る。
「出口か!」
「どうするの? あたし達が対応する?」
「マコト!」
リブが鋭く叫び、反射的に視線を向ける。
すると、彼女は小さく頷いた。
その目がまだやれると訴えている。
安全を取るのならばマコトとユウカが対応した方がいい。
だが、彼女達は仲間なのだ。
一方的に守ってやるだけの関係ではないのだ。
「フェーネ、ローラは入口、リブは出口を頼む!」
「分かったッス!」
「分かりました!」
「任せろ!」
フェーネとローラが入口に、リブが出口に移動する。
「あたしはフェーネとローラのバックアップをするわ! マコトはリブをお願い!」
「わ、私は?」
「フジカは中央で昇天を使い続けてくれ! 一回目は俺が指示を出す!」
「分かったし!」
フジカは中央に、マコトはリブの隣に、ユウカはフェーネとローラの背後に移動する。
マコトは通路を見つめる。
敵の姿は見えないが、微かにガチャガチャという音が聞こえる。
へへ、とリブは鼻の下を擦った。
「何だよ?」
「あたいの気持ちに応えてくれたから嬉しくてよ」
「俺の期待に応えてくれよ」
「あたぼうよ」
リブは腰を落とし、ポールハンマーを構えた。
マジックアイテムはあと二回使えたはずだ。
音が大きくなり、とうとうスケルトン・ウォーリアが姿を現す。
その数は二十体近い。
スケルトン・ウォーリアは押し合いへし合いしながら近づいてくる。
もし、仲間が転倒しても構わずに踏み越えてくるだろう。
「まだだ、まだだぞ」
「ああ、分かってるよ」
距離が十メートルを切り――。
「フジカ!」
「昇天みたいな!」
光が通路を照らし、スケルトン・ウォーリアが動きを止める。
もっとも、止まったのは先頭集団だけだ。
後続が先頭集団に突っ込み、将棋倒しになる。
「地震撃・改!」
マジックアイテムではなく、地震撃・改の方がいいと判断したのだろう。
リブは大きく踏み込み、ポールハンマーを地面に叩き付けた。
ポールハンマーを起点に亀裂が走る。
亀裂がスケルトン・ウォーリアの足下に伸び、そこから漆黒の炎が噴き上がる。
スケルトン・ウォーリアが塵と化す。
炎が収まり、生き残ったスケルトン・ウォーリアがリブに迫る。
「昇天!」
光が再び通路を照らし、スケルトン・ウォーリアが動きを止める。
何体かが倒れる。
「轟け! 雷光!」
リブが叫び、ポールハンマーから雷が迸る。
スケルトン・ウォーリアはしばらく立ち尽くしていたが、次々とその場に頽れた。
「お、レベルアップだ」
「レベル41――」
「盾撃!」
背後から凜とした声が響く。
振り返ると、ローラが入口に殺到したスケルトン・ウォーリアを押し返す所だった。
「昇天!」
「盾撃!」
フジカが三度目の昇天を使うタイミングに合わせ、ローラはさらにスケルトン・ウォーリアを押し込む。
「虎の子ッス! 放ったら左右に避けて欲しいッス!」
フェーネはポーチから赤い球体を取り出し、スリングショットで放つ。
狙いは天井付近だ。
「避けるッス!」
フェーネ、ローラ、ユウカは左右――壁の陰に隠れる。
スケルトン・ウォーリアが侵入を果たした。
次の瞬間、入口から真紅の炎が噴き出した。
どうやら、あの赤い球体はマジックアイテムだったようだ。
「レベルが上がったッス!」
「私もです」
フェーネはぴょんと跳ね、ローラは小さく拳を握る。
フジカは――。
「……上がらなかったし」
錫杖に寄り掛かり、溜息を吐くように言った。





