Quest26:パワーレベリングをせよⅡ その4
※
マコトが目を開けると、そこは城門のすぐ近くだった。
視線を巡らせ、全員――ユウカ、フェーネ、リブ、ローラ、フジカがいることを確認して胸を撫で下ろす。
「……ちょっと」
「何だ?」
「もう何度も転移してるんだから『皆、無事か』みたいな態度は止めなさいよ」
ユウカはムッとしたように言った。
「そうは言うけどな」
「何よ?」
「お前ってダンジョンに人を置き去りにしそうで怖いんだよ」
「そんな訳ないでしょ! あたしを何だと思ってるのよ!」
「ざまぁ展開がお望みなんだろ?」
「……そうだけど」
マコトが確認すると、ユウカは視線を逸らしながら答えた。
「また、始まったッスね」
「まあ、いいんじゃねーの?」
「二人の遣り取りを聞いていると安心します」
「け、喧嘩は駄目だし」
フェーネ、リブ、ローラの三人は慣れたものだが、フジカはおろおろしている。
「俺には見える。フジカを置き去りにして高笑いしているお前の姿が」
「うん、まあ、それは何度も考えたわ」
「いきなり私に矛先が向いてるし! しかも、内容があんまりだし!」
「アンタこそ人を殺そうとしたくせにあんまりでしょうが!」
「そ、それは申し訳ないことをしたと思ってるし」
フジカは抗議の声を上げたが、ユウカにあっさりと撃墜された。
「いい? アンタのやったことは立派な殺人未遂よ」
「それは分かってるし」
「だったら反省しなさい、反省」
「どうしたら許してくれるみたいな?」
「……許す?」
ふん、とユウカは鼻で笑った。
「蛇みたいに執念深いな」
「誰が蛇よ!」
マコトが感想を口にすると、ユウカは吠えた。
その背後にとぐろを巻く蛇の姿を幻視する。
「大体、アンタだって……何か、色々あるんでしょ?」
「まあ、色々あったな」
マコトは天を仰いだ。
空には星が瞬いている。
「原因を作った張本人が許してくれって言ったらどうするの?」
「許す訳ねーだろ」
「それでよくあたしを非難できるわね!」
「自分のことはいくらでも棚に上げられるんだよ」
「自分のことを棚に上げて他人に寛容を求めないで!」
「あなたがたの中で――」
「あたしは石を投げつけるわよ!」
ユウカはフジカの言葉を遮った。
多分、フジカは罪のない者が石を投げろみたいなことを言おうとしたのだろう。
置き去りにした張本人が寛容を求めるのは違うような気がするが――。
「お前は石を投げちゃだめだろ?」
「盗賊の件を言ってるんならあれは事故よ」
盗賊を蹴り殺した女はそんなことを言った。
「いや、でもよ」
「あれは事故なの! 領主を襲った山賊を撃退する中で起きた痛ましい事故なの! ローラを助けるために必死だったのよ、あたしは」
仕方がなかったのよ、とユウカは俯き、拳を震わせた。
「あの、私の記憶と相違があるのですが?」
「俺の記憶とも違うな」
ローラがおずおずと手を上げ、マコトは首肯した。
あの時、山賊――本当にそうだったのか今となっては分からないが――は全滅していたし、ローラを助けた後だった。
「何ですって?」
「わ、私の記憶違いかも知れません」
ユウカに睨まれ、ローラは前言を撤回した。
「あれは事故だったわよね、マコト?」
「猫撫で声を出すなよ、気持ち悪ぃ」
「気持ち悪くないわよ!」
いつもの口調に戻って叫んだ。
「とにかく、あれは事故だったの」
「山賊の一人や二人殺したくらい気にするなよ」
「アンタは一人や二人じゃないでしょ!」
「何人殺したかなんて覚えてねーよ。お前は今まで食った米粒の数を覚えてるのか?」
「パンならまだしも、米粒の数なんて数えられないわよ!」
「パンだって無理だろ」
「アンタが言い出したんじゃない!」
「まあ、そうだけどよ」
「あれは事故だったのよ」
「お前も大概だよな」
殺人を認めようとしないユウカに少しだけ呆れる。
「百歩譲って事故だとして――」
「譲らなくても事故なの」
「事故だとしてもフジカを責める資格はないんじゃねーの?」
「あたしが事故で山賊を殺したこととフジカがあたしをダンジョンに置き去りにしたことは別でしょ?」
「そうか? 道義的に――」
「法律的には別件よ」
ユウカはマコトの言葉を遮って言った。
確かに裁判で争えば別件として扱われるだろうが――。
「それでも、未遂と既遂の差はあるわけだが?」
「それはそれ、これはこれよ」
ふ、とユウカは笑い、髪を掻き上げた。
「し、信じられないし」
「だから、事故だって言ってるでしょ!」
「人を殺して悪びれないなんて人としておかしいし!」
「あたしがおかしいならアンタも同罪よ!」
「私は人を殺してないし!」
「実際にあたしをダンジョンに置き去りにしたんだから生きてるか、死んでるかなんて関係ないわよ!」
「う、うぐぐぐ……とんでもないことをしちゃったし」
フジカは呻き、胸の前で手を組んだ。
「はっ、次があるならきっちりトドメをさすことね! 転移の魔法を覚えてるから無駄だけど!」
ユウカは無駄の部分に力を込めて言った。
フハハハハッ、と笑い出しそうで怖い。
「あ~、それで転移を覚えたのか」
「そんな訳ないでしょ」
ペシッ、とユウカは手の甲でマコトの二の腕を叩いた。
「まあ、お前が盗賊を蹴り殺したことには変わりないが」
「しつこいわよ! あれは事故死なの!」
「おい、死因が変わってるぞ」
事故で死なせたと事故死の間にはとんでもなく広い溝がある。
「とにかく、あれは事故死なの」
「……そうだな。あれは事故死だな」
「ようやく分かって――」
ユウカはハッとしたようにマコトの顔を見た。
「な、何よ、その笑みは?」
「笑ってねーよ」
と言いつつ、マコトはニヤニヤ笑いを維持する。
「な、何を考えてるのよ?」
「別にぃ」
「あ、アンタ……ま、まさか」
ユウカは両腕で我が身を掻き抱き、後退った。
「あたしの弱みを握ったつもりね。言っておくけど、あたしはアンタの思い通りにならないわよ」
「予想通りの反応だな」
「首を掻き切ってやるから」
「予想外だよ! 何をどうしたら首を掻き切られるんだよ!」
「アンタのことだからエッチなこととか、エッチなこととか、エッチなことを要求すると思ったのよ! 覚えてなさい! あたしは絶対に泣き寝入りしないから! 絶対に首を掻き切ってやる!」
「何もしてねーんだから覚えようがねーよ! つか、首を掻き切ろうとするなよ!」
「正当防衛よ!」
「ただの殺人だ!」
ユウカが叫び、マコトは叫び返した。
「つか、エッチなこととか人聞きが悪ぃことを言うなよ」
「アンタ……あたしにやらせろって言ったことを忘れてるでしょ?」
「言ったか?」
「言ったわよ! 復讐に協力する代わりに分かってるよなって」
ユウカは俯き、唇を噛み締めた。
「殺人の手伝いさせるならやらせろよって言ったんだよ!」
「覚えてるじゃない! 忘れたふりして誤魔化そうって言ったって、そうは問屋が卸さないわよ!」
「面倒臭ぇ女だな」
酒の席での失敗を延々と言い続ける女みたいだ。
「アンタのその一言であたしがどれだけ不安な思いをしたか」
「なんで、不安だったんだよ?」
「襲われると思ったからに決まってるでしょ!」
「襲わねーよ! もっと俺を信じろよ!」
「不安で不安で……枕元にナイフを忍ばせたわ」
「怖ぇよ!」
「あたしの方が怖かったわ!」
「メキシコのマフィアみたいな処刑方法を聞かされた俺の方が怖かったよ!」
「処刑方法って何よ! 四肢を切断したくらいじゃ人間は死なないわよ!」
「四肢を切断したら死ぬに決まってるだろ!」
「なんで、決まってるのよ!」
「止血できねーからだ!」
「馬鹿ね。傷口を焼いて止血してあげるに決まってるでしょ」
「怖ぇよ」
ユウカが真顔で言い、悪寒が背筋を這い上がった。
苦しませることが目的なのに善意のように言っている所が恐怖を掻き立てる。
「そういうことを言わなけりゃ信用できるのにな」
「しつこいわね。また、フジカに文句を言うわよ?」
「また、矛先が向いたし!」
「何度でも向けるわよ、アンタが生きてる限り何度でも!」
「厄介な相手に弱みを握られたし」
ユウカは実に愉しそうに言い、フジカはしょんぼりと肩を落とした。
「これに懲りたら二度とあたしに逆らうんじゃないわよ」
「何だか、すごい試練みたいな」
「アンタ、自分が何をしたかいきなり忘れてやがるわね」
「試練だと思うことにしたし」
「チッ、これだから宗教脳は」
「頑張ってユウカと友達になるし」
「まだ、諦めてなかったの?」
ユウカは理解できないものを見たと言いたげな表情を迎えた。
「これだから宗教女は嫌なのよ」
「友達になれるんじゃねーか?」
「希望的観測ね」
「お前は悲観的だな」
「一度裏切った相手を無条件で信じるヤツは間抜けよ、間抜け」
「うん、まあ、そうだな」
フジカがユウカと友達になる日はずっと先になりそうだ。
「で、あたしのことを本当に疑ってるの?」
「どちらかと言えば魔法だな」
「どちらかと言えばって……チッ、まあ、いいわ。今まで何度も転移をしてるのに何が信じられないのよ?」
「魔法そのものが信じられないってのはあるんだが……それで納得できねーんなら指差し呼称みたいなもんだと思ってくれ」
「ヘルメットよし、安全靴よしってヤツ?」
「そんな感じだな」
「心配性ねぇ」
「転移したら一人いなかったとか、一人増えてたとか後になって気付くのは嫌だろ?」
「ちょっと怖いことを言わないでよ」
怖いのか、ユウカは両腕で自分の体を抱き締めた。
「あれだけ幽霊を殺しておいて怖いのかよ?」
「あれはアンデッド! モンスターよ!」
「ふ~ん、ユウカは怪談が怖いんだな?」
「こ、怖くないわよ」
「……これは俺の友達から聞いた話なんだが」
「ちょ、なんで、いきなり怪談を始めてるのよ?」
「友達がさ、車を運転してて黒い子猫を轢いちゃったんだよ」
ユウカが杖を握り締めて後退るが、マコトは構わずに続けた。
「で、車を止めて振り返ったら親猫が――」
「止めろって言ってるでしょ!」
「うわッ!」
ユウカが杖を振り下ろし、マコトは咄嗟に横に避けた。
「いきなり攻撃するなよ!」
「止めろって言ってるのにアンタが続けるからでしょ!」
ユウカは顔を真っ赤にして吠えた。
「やっぱり、怖いんだろ?」
「こ、怖くないわよ。さっさと街に入るわよ。明日も――」
「なあ、ユウカ」
「何よ!」
ユウカはリブを睨み付けた。
「そんなに睨まなくてもあたいは怖い話なんてしねーよ」
「で、何よ?」
「明日は休みにならねーかな?」
「リブが休みたいなんて意外だな」
「あたしは構わないけど……」
ユウカはチラリとこちらに視線を向けた。
「俺も構わねーよ。何か、用事でもあるのか?」
「……マコト」
ユウカは手を交差させて×を形作った。
「気を遣ってもらって悪ぃけど、教会とロジャース商会に行こうと思ってよ」
「スキルを取得して、装備を新しくするってことか?」
「そういうことだな」
リブはニヤリと笑った。
「どうしてまた?」
「ちょっと思う所があっ――」
「物理一辺倒は止めて欲しいッス、物理一辺倒は」
「そこまであたしは馬鹿じゃねーよ」
「本当ッスか?」
「……今まで物理一辺倒だったし、物理耐性も欲しいなとは思ってるけどよ」
フェーネが疑いの眼を向けると、リブは気まずそうに視線を逸らした。
「種族スキルが物理一辺倒なのにさらに物理ッスか」
「今回は違ーよ」
「私も新しいスキルを取得して、新しい装備を購入すべきかも知れませんね」
「おいらも新しいスキルを取得すべきッスかね~」
「……」
リブはフェーネを見つめ、拗ねたように唇を尖らせた。
なんで、ローラには何も言わないんだよみたいなことを考えているのかも知れない。
「じゃ、私は久しぶりにお菓――」
「お菓子を作るなんて言ったら張り倒すわよ」
「暴力反対みたいな」
「……あのね」
ユウカは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
「オフってのは次の冒険への準備期間なの。そりゃ、準備が終わって、気分転換のためにお菓子を作りたいって言うんなら好きにすればいいけど、アンタには他にやるべきことがあるでしょ?」
「他にやるべきこと?」
フジカは分かっていないらしく首を傾げた。
「魔法の練習に決まってるでしょ! アンタ、散々嫌味を言われたの忘れたの?」
「あの、ユウカさん。私はそこまで嫌味を言ってませんが?」
「聖光弾を百発百中で当てられるようになるまで練習しなさい!」
ローラは弱々しい口調で抗議したが、ユウカは無視して叫んだ。
「付け焼き刃な気がするし」
「何もしないより百倍マシよ」
仕事をしているアピールは大事だな、とマコトは頷いた。
「そう言えばスキルについて話し合ったことがなかったな」
「あたしは分かるわよ」
ふふん、とユウカは得意げに鼻を鳴らし、髪を掻き上げた。
「種族スキルについては分からねぇだろ?」
「……そうね」
ユウカは呻くように言った。
「マコト様はスキルについてご存じないのですか?」
「各種族に固有のスキルがあるってのは知ってるけどな。いや、考えてみればジョブについてもよく知らねーな」
マコトは頭を掻いた。
取得条件がよく分からないし、地震撃や盾撃とは何なのだろうか。
「よろしければ私が説明しますが?」
「頼む」
「はい、もちろんです!」
ローラは声を弾ませて言った。
「ユウカとフジカもそれでいいな?」
「あたしは構わないけど……」
「お願いするし」
「そういうことでよろしくな」
「……はい、分かりました」
ローラは暗く沈んだ口調で言った。
「……分かってやってるわよね?」
「俺は朴念仁じゃないからな。ローラの狙いは分かってる」
個人授業からその先にシフトするつもりだったのだろう。
「もうハーレムを作っちゃえばいいじゃない」
「とんでもないことを言うな~」
「アンタに、言われたく、ないわ」
ユウカは虫でも見るような目でこちらを見た。
「もう二人も三人も一緒でしょ。ったく、何が不満なのよ?」
「別に不満って訳じゃないんだが……」
「じゃ、どうして手を出さないのよ?」
「どうしてって言われると困るんだが……」
マコトは腕を組み、唸った。
「…………何となく」
「マジで火付きが悪いわね」
「時々、お前の立ち位置が分からなくなるな」
「いつだってあたしはあたしの味方よ」
ふん、とユウカは髪を掻き上げた。
※
「旦那、お帰りなさい」
マコト達が宿に戻ると、シェリーはカウンターから声を掛けてきた。
食堂には醤油の芳ばしい匂いが漂っている。
「ただいま。今日は――」
「この匂いは唐揚げね」
「ええ、あれからちょくちょく作ってるんですよ」
「へ~、そうなの」
ユウカは中央付近のテーブルに着いた。
「偶には唐揚げもいいわね」
「ちゃんと金を払えよ?」
「え?」
マコトが対面の席に着きながら釘を刺すと、ユウカは意外そうに目を見開いた。
「なんで、意外そうな顔をしてるんだよ? ただ飯を食いてぇなんていくらなんでも図々しすぎるだろうが」
「人聞きの悪いことを言わないでよ。あたしは正当な取り分を要求しているだけよ」
ユウカはムッとしたように言った。
「正当な取り分?」
「小麦粉、醤油、味噌は報酬としてもらったものでしょ? つまり、あたしにも所有権はあるのよ」
「それだけで唐揚げができる訳ねーだろ」
「分かったわ。小麦粉と醤油、味噌の所有権を放棄するわ。これならいいでしょ?」
「素直に金を払うって発想はねーのか?」
「交渉に失敗したら素直に払うわ」
「それは素直とは言わねーよ」
まったく図々しい女子高生だ。
「で、どうなの?」
「私は構いませんよ」
「ほら、シェリーはいいって言ってるわよ」
ユウカは勝ち誇ったように言った。
「何が『ほら』だ。シェリー、あまり甘やかさねぇ方がいいぞ」
「甘やかしてるつもりはありませんよ」
シェリーは困ったように笑った。
「まあまあ、シェリーさんが納得しているならいいじゃないッスか」
「あたいらよりも考えて返事をしてるって」
フェーネはマコトの隣に、リブは対面の席に座った。
「ユウカはもう少し遠慮を覚えた方がいいし」
「アンタは経験に学ぶべきね」
フジカが隣に座り、ユウカはポキポキと指を鳴らして威嚇する。
あれだけ口撃に曝されたのに立ち向かう姿勢は立派だ。
「私も夕食を御一緒しても……もちろん、お金は払います」
ローラはイスを引き寄せて座った。
所謂、お誕生日席だ。
「シェリー?」
「もう少し待って下さいよ」
シェリーは困ったような、嬉しそうな表情を浮かべた。
そんな彼女を横目に見つつ、ユウカがポツリと呟いた。
「……アンタって」
「何だよ?」
「蟻地獄みたいなヤツね」
「喧嘩なら買うぞ」
「モテモテって意味だし」
「んな訳ないでしょ」
ユウカは手の甲でフジカの胸元を軽く叩いた。
「適度に面倒臭くて、適度に頼りがいがあるって意味じゃねーの?」
「その通りよ」
ユウカは手を打ち合わせ、リブを指差した。
「そんなに面倒臭いか?」
「適度にだよ、適度に。あたいらが対応できる範囲で面倒臭くて、あたいらが役に立ててると思う程度に頼りがいがあるって感じだな」
「戦闘面じゃ大して役に立てないッスけどね」
「そこは今後の課題だ」
リブはムッとしたような表情を浮かべて腕を組んだ。
「では、私が知識面でマコト様をサポートしたいと思います」
ローラは誇らしげに胸を張った。
「何から説明しましょう?」
「スキルとジョブについて」
「……なるほど」
ローラは頷き、思案するように腕を組んだ。
「では、スキルについて説明したいと思います」
「ジョブじゃなくて?」
「スキルから説明した方が分かり易いと思いまして」
ローラは気を取り直すように咳払いをした。
「まず、スキルと言われるものには四つの系統があります。一つ目が教会で取得できるコモンスキルです」
「コモンってことは誰にでも取得できるってことか?」
「その通りです」
ローラは満足そうに頷いた。
教会でスキルを取得した時、人間が持つ能力の延長線上にあるものと見当を付けていたのだが、微妙に違ったようだ。
「二つ目が種族スキルと呼ばれるものです。たとえばフォックステイル族は稀に認識阻害というスキルを発現し、レベルアップ時に敏捷や魔力が伸びやすくなるというスキルを持っています」
「バイソンホーン族は筋力や体力を上昇させるスキルを持ってるんだったか?」
「その通りです」
「けどよ、レベルアップ時に特定のパラメーターが伸びやすいのはスキルじゃなくて種族的な特徴なんじゃねーか?」
「スキルということになっています」
ローラは困ったような表情を浮かべた。
「ユウカはどう思う?」
「あたしの能力はソウル・ヒールのおまけみたいなものだから何とも言えないんだけど、街を歩いている獣人のステータスには表示されていなかったわ」
「見えないだけなのか、存在してないのか判断に迷うな」
マコトは頭を掻いた。
「ユウカの能力を使って情報収集をしておけばよかったな」
「常識が分かってないんだもの。情報なんて集めようがないじゃない」
ユウカは溜息交じりに言った。
「ローラ、どれくらい信憑性があるんだ?」
「教会の古い本に記されていたので事実だと思いますが……」
「検証もできそうにないな。そう言えばバイソンホーン族に魔法を使えるヤツはいないのか?」
「いるにはいるけどよ。そんなに人数は多くねーし、他種族に比べると魔法の威力や効果が弱い感じだな」
「親の資質は子どもに受け継がれるんだよな?」
「まあ、な」
「……そうか」
リブがニヤニヤと笑い、マコトは顎を撫でさすった。
「どうせ、答えなんて分からないんだし、悩んだって無駄じゃない?」
「そうだな」
仮説ならいくらでも立てられるが、確かめようがないのは事実だ。
「人間はどんな能力があるのか教えて欲しいし」
「人間は可もなく不可もなくという感じですね」
「それじゃ分からないし」
「特に強みも弱みもないってことでしょ。まあ、魔力がない人間もいるからそういう意味では不遇よね」
ユウカは小さく溜息を吐いた。
「三つ目がジョブスキルです。基本的にジョブは獲得するものですが、例外も存在します。それがノーブルです」
「ノーブル?」
ユウカは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「アペイロン様によって人々の導き手として選ばれた血族になります」
「要するに王族や貴族ってことでしょ?」
ユウカは露骨に顔を顰める。
「その通りです」
「……でも、ローラはノーブルじゃないわよね?」
「私は……三代前に貴族に列せられただけなので」
ユウカが目を細めながら尋ねると、ローラは申し訳なさそうに肩を窄めた。
「つまり、社会制度としての貴族ってことか」
「はい、王族や大貴族はノーブルですね。逆に大貴族の生まれでもノーブルのジョブを持たずに生まれてきた場合、家督を継げません」
「嫌な世界ね」
ユウカはうんざりしたように言ったが、支配を正当化する方法としては陳腐だ。
まあ、汎用性が高いからこそ陳腐になるのだろうが。
「ジョブを獲得するにはどうするんだ?」
「個人差はありますが、鍛錬を積むことでジョブを獲得できます。と言っても魔力のない人間はいくら努力しても魔法職になれませんし、魔力があっても伸びると限りませんが……」
ローラは小さく溜息を吐いた。
「ローラは魔力がないのか?」
「一応、あります」
「魔力5ね」
「……うぐッ」
ユウカが呟き、ローラは呻いた。
「で、ジョブスキルってのは?」
「種族スキルのジョブ版という感じですね。騎士ならばレベルアップ時に筋力と体力が上がりやすくなります。私の感覚ですが、ジョブの取得前と取得後では鎧を身に着けた時の疲労度や動きやすさが違います」
「疲労度や動きやすさって思い込みじゃないの?」
「ステータスについては実験データが残ってます」
ユウカが胡散臭そうに言い、ローラは呻くように言った。
「まあ、御使いなんてものが存在するからな」
「それもそうね」
何しろ、世界の管理者が実在しているのだ。
それくらいできても不思議ではない。
「じゃあ、リブやローラの使っている技は何なんだ?」
「あれもジョブスキルです」
「魔法もスキルになるのか?」
「はい、広義の意味では」
「……なるほど」
ユウカが複数の魔法を使いこなせるように戦士や騎士も複数の技を使えるようだ。
「どうやって、覚えるんだ?」
「私は修業して覚えました」
「あたいは一度見て覚えたぜ」
「……ぐぅぅぅ」
リブが男前な笑みを浮かべ、ローラは呻いた。
「四つ目がレア・スキルですね。これはコモン、種族、ジョブに該当しないスキルです」
「……ふふん」
「なんで、自慢気なんだよ」
一応、胸を張るユウカに突っ込んでおく。
「あと気になることがあるんだが……」
「何でしょう?」
「物理耐性を持っているヤツが斬撃や打撃、刺突耐性を取得したらどうなるんだ?」
「スキルの効果が加算されます」
「そうか」
マコトは胸を撫で下ろした。
「それなら耐性系をコンプリートしても問題ないな。皆はどんなスキルを取得するつもりなんだ?」
「あたいは魔法耐性と状態異常耐性だな」
「物理一辺倒は止めるんスね」
「斬撃、打撃、刺突耐性、筋力、体力、敏捷強化はもう持ってるしな。長所を伸ばすんじゃなくて当面は短所を埋める方向でいこうと思ってよ。ローラはどうすんだよ?」
「私はリブさんほどボーナスポイントが貯まっていないので魔力強化を取得しようと思っています」
「魔力強化?」
ユウカが訝しげな声で言った。
「魔力が5しかないんだから強化してもたかが知れてるじゃない。それに騎士系だから魔力が上がっても魔法は使えないでしょ?」
「そこは魔力を消費して発動するタイプのマジックアイテムで補おうと思います。どれだけ役に立つか分かりませんが、いざという時の切り札が欲しいんです」
「……面白そうだな」
マコトは手で口元を覆い、ボソリと呟いた。
ローラは基本に忠実――悪く言えば意外性のないタイプだ。
「おいらは魔力強化とステータス強化ッスかね」
「敏捷はどうしたんだよ、敏捷は?」
「それはもう持ってるッス」
フェーネはムッとしたような表情を浮かべてリブに答えた。
「他には取らねーの?」
「なかなか難しいんスよ」
リブの問い掛けにフェーネは拗ねたように唇を尖らせた。
「狐火が使えるようになった時は嬉しかったんスけどねぇ」
「ちょっと分類が難しいよな」
「そうなんス」
フェーネはマコトの言葉に頷いた。
物理寄りの魔法職と言えばいいのか、魔法も使える支援職と言えばいいのか。
どんなスキルを取得すればいいのか分かりにくい。
「レベルが上がったら化けるかも知れないぞ?」
「本当ッスか?」
「……多分」
「多分ッスか」
フェーネは力なく頭を垂れた。
元気づけようとしてか、リブが口を開いた。
「そんなにしょげるなよ。レベル20で頭打ちだと思ってたら……え~と」
「レベル24ッス、24!」
フェーネはムキになったように言った。
「おいらは兄貴の役に立ちたいんス」
「ベタ惚れねぇ」
ユウカはマコトを見ながらニヤニヤと笑った。
「それに……チームの古株として負けてられないんスよ! チームの古株として!」
「あまり惚れられてないかも知れないわね」
「どっちだよ」
あっさり前言を撤回したユウカに突っ込みを入れる。
「まあ、頑張れよ」
「その上から目線は何スか! 勝者の余裕ッスか!」
リブがニヤニヤ笑い、フェーネは尻尾を立てて吠えた。
「……ほれ」
「おいらだって何年かしたらバインバインになるッスよ!」
フェーネは勝ち誇ったように胸を張るリブに叫ぶ。
だが、口では威勢のいいことを言いながら尻尾は力なく垂れ下がっている。
多分、本心では敗北を認めているのだろう。
「期待して待ってるぜ」
「今に見てるッスよ! きっと、おいらは背が高くて、ボン! キュッ! ボン! なスタイルになるッスから!」
「……フェーネ」
マコトはフェーネの尻尾を見ないように顔を背けた。
威勢のいい言葉と尻尾のギャップが辛い。
「その時に後悔しても――」
「食事の準備が整いましたよ」
痛々しいフェーネの強がりはシェリーの言葉で終わった。
「きょ、今日はこれくらいで勘弁してやるッス」
捨て台詞もまた痛々しかった。





