Quest25:新奥義を会得せよ【中編】
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マコト達が教会に行くと、司祭はいつものように優しげな微笑みで迎えてくれた。
「ようこそ、七悪の使い手とその眷属た――」
「待ちくたびれたぞ」
司祭の口上をクリスティンは遮り、仁王立ちした。
慎ましいどころか、真っ平らな胸をこれでもかと張っている。
幼女でなければサマになったことだろう。
まあ、これはこれで需要があるかも知れないが。
「司祭様の口上を遮ってはいけません」
「別に構わんじゃろ」
ローラが窘めるが、クリスティンは何処吹く風だ。
いや、唇を尖らせているので少し不満に思っているのかも知れない。
マコトはそっと司祭の顔色を窺う。
彼女はいつもと変わらぬ笑みを浮かべている。
気分を害したようには見えない。
「……クリス様」
「分かった。もう司祭の言葉を遮るような真似はせん」
ローラがやや語気を強めると、クリスティンは渋々という感じで頷いた。
年齢的なことも少なからず影響しているだろうが、クリスティンは部下の話を聞く耳を持ち合わせているようだ。
このまま成長して欲しいものだ。
「ようこそ、七悪の使い手とその眷属達よ。本日はどのような用件ですか?」
「依頼料の振込だな。先にフジカの口座に1万Aを振り込んでもらって、その後は俺とユウカ、フェーネ、リブ、ローラの口座に499万Aを等分で」
「承知しました」
司祭は両手を差し出し、フジカとクリスが自身のそれを重ねる。
次の瞬間、二つのウィンドウが表示された。
どうやら、無事に振込は済んだようだ。
「次はあたし達ね」
「なんで、お主が前に出るんじゃ?」
クリスティンが問い掛け、ユウカはふと笑った。
笑っただけである。
「何か言えよ」
「何を言えばいいのよ?」
マコトが突っ込むと、ユウカはムッとしたように言い返してきた。
「何かあるだろ?」
「ないわよ。それに言い返したらこの子が泣いちゃうじゃない」
「大人げねーな」
幼女を泣かす女子高生。
まあ、子ども好きと言われるよりもしっくりくるが。
「一応、ワシは領主じゃし、ちょっとくらい文句を言われても泣かんぞ?」
「そう?」
「――ッ!」
ユウカがニヤリと笑い、クリスティンは体を強張らせた。
「言っていいの?」
「嫌じゃ! 聞きとうない!」
「残念ね」
クリスティンが悲鳴じみた声を上げ、ユウカは軽く肩を竦めた。
見るに見かねたのか、フジカが口を開いた。
「子どもを苛めるのはよくないし」
「チッ、子ども好きとか言い出すんじゃないでしょうね」
「なんで、舌打ちしているのか分からないけど、子どもは普通に好きだし、親戚が集まった時によく面倒を見てるし」
「……アンタ」
ユウカは理解できないようなものを見るような目でフジカを見つめた。
「どうして、そんな目で見るの?」
「アンタが学校で子ども嫌~い! うるさいし、臭いし、汚いし、子どもなんて生みたくな~い! とかほざいてたからに決まってるでしょ」
「た、確かに言ったけど、それはロールの一環って言うか」
ユウカが裏声で言うと、フジカは口籠もった。
フジカの口真似なのだろうが、あまり似ていない。
「つか、聞いてたの?」
「あれだけ大きな声で話してたら嫌でも聞こえるわよ。あんなことを言ってたくせに子ども好き、面倒をよく見てるとかマジでムカつくわね」
「いや、だって、その」
フジカはしょぼんと項垂れた。
もしかしたら、ユウカの言っていることはもっともだと思っているのかも知れない。
まだ付き合い方が分かっていないようだ。
「お前、凄いな」
「何がよ?」
ユウカはきょとんとした顔で問い返してきた。
「いやさ、教室の隅でフジカ達の話を聞いてたんだろ?」
「悪かったわね!」
「あ、教室の隅って所は否定しねーのか」
「あたしの指定席は窓際の最後尾よ。文句ある?」
「ねーけど」
指定席と言うからには高校に入学する前からそうだったのだろう。
窓際の最後尾に座り、つまらなそうに外を見ている姿が目に浮かぶようだ。
「で、あたしの何処が凄いのよ?」
「ボッチのくせに聞き耳を立ててる所だよ」
壁に耳あり、障子に目あり、教室にユウカありだ。
「誰がボッチよ!」
「お前以外にいないじゃん」
「あたしは一人を選んだの!」
「分かった分かった。本当は話しかけて欲しかったんだな。孤立してるんじゃなくて、孤高なんだって思い込もうとしてるんだよな」
マコトは指で目尻を拭った。
残念ながら涙は出ない。
「ごめんな。先生、気付いてやれなくて」
「誰が先生よ」
マコトが雑な演技を披露すると、ユウカはうんざりしたように言った。
「そうだったんだ。ごめんね、気付いてあげられなくて」
「謝らないでよ!」
フジカが涙目で言うと、ユウカは声を荒らげた。
「同情なんていらないわよ! あたしは好きで一人でいるの! 遠足も、写生会も一人だったけど……」
当時のことを思い出したのか、ユウカは言い淀んだ。
「とにかく、アンタ達とは違うの!」
「お前は凄いな」
「そうッスね。多分、おいらは一人じゃ無理ッス」
「あたいも何だかんだと仲間がいたからな」
「ユウカさんは強いんですね。私は耐えられそうにありません」
マコトの言葉にフェーネ、リブ、ローラが同意する。
一人だけニュアンスが違うような気がするが、気のせいだろう。
「大丈夫ッスよ! 姐さんは一人じゃないッス!」
「ああ、あたいらが付いてるぜ!」
「そうです! 私達はチームです!」
「ユウカに友達ができてよかったし」
フェーネ、リブ、ローラの三人がユウカを元気づけ、フジカはそっと目尻を拭った。
それにしても四人とも人間ができている。
劣等感を覚えてしまうほどだ。
「う、うぐ」
ユウカは小さく呻いた。
泣き出してしまいそうな顔をしている。
気持ちは分からないでもない。
気分がささくれ立っている時の優しい言葉は心に染みるのだ。
「もう止めておけ。ユウカは一人でいることに慣れすぎて人間が駄目になってるんだ」
「誰が駄目よ!」
ユウカは声を荒らげた。
「お前に決まってるだろ」
「アンタだって似たようなもんでしょ」
「ちょっとはマシになったような気がするんだけどな」
マコトは頭を掻いた。
「何処が?」
「何処って言われると困るが、閉塞感はなくなったな」
それを前向きになったと言うのならそうなのだろう。
「閉塞感?」
「人間、何が一番辛いかって前に進んでる実感がない時だと思うんだよな」
「ふ~ん、今は実感があるんだ」
「まあ、な」
「ああ、それで」
ユウカはようやく合点がいったとばかりに頷いた。
「一人で納得してんなよ。何が『ああ、それで』なんだよ?」
「教えてあげない」
ユウカはプイッと顔を背けた。
マコトは軽く目を見開く。
アンタに教える義理はないと言われるとばかり思っていたのだが、この短期間で随分とマイルドになったものだ。
「もう帰っていいかの?」
「駄目に決まってるでしょ!」
「だって、お主らは雑談してばかりなんじゃもの」
ユウカが鋭く叫ぶと、クリスティンはうんざりしたような表情を浮かべた。
「サクッと振込を済ませるわよ」
ユウカが司祭の手に自身のそれを重ねる。
「ほら、アンタ達も」
「分かったよ」
「了解ッス」
「もう少しで目標金額達成だな」
「お金よりも愛が欲しいです」
マコト、フェーネ、リブ、ローラが手を重ねてもクリスティンは動かなかった。
じっとローラを見ている。
「ローラ?」
「何ですか?」
「お主はワシの騎士じゃろ?」
「そうですが?」
問いかけの応酬――報酬をケチりたいという思いと是が非でも報酬をもらいたいという思いが伝わってくる。
「え、遠慮はしてくれんのか?」
「却下です」
縋るような申し出を無慈悲に撃墜する。
「な、何故じゃ?」
「将来のことを考えて、です」
困惑するクリスティンにローラは言い含めるように言った。
「ワシの所に戻ってくるつもりはないのか?」
「戻りたいとは思っておりますが……」
ローラは辛そうに顔を背けた。
彼女は二度も失態を演じたせいでクリスティンの護衛を辞めることになったのだ。
処罰したとアピールする狙いもあったはずだが、呼び戻してくれる保証はない。
ならば大金を手にした方が得と考えても不思議ではない。
金に目が眩んだとも言う。
「おお、お主の忠誠はその程度なのか?」
「そんなことを言うくらいなら守ってやればよかったじゃない」
「ぐッ!」
ユウカが呆れたように言うと、クリスティンは呻いた。
まさに正論だ。
「自分で解雇したくせに忠誠云々って舐めてるの?」
「ふぐッ!」
険のある言葉にクリスティンは再び呻いた。
「いるのよね。自分から裏切ったくせに仕返しされたら被害者面するヤツが。そういうヤツに限って声が大きいからこっちが悪者扱いされて……」
当時のことを思い出したのか、ユウカはグチグチと文句を言い続ける。
クリスティンは顔面蒼白だ。
「ユウカ、もう止めろ」
「は? なんでよ?」
「クリスティンのライフがゼロだからだよ」
視線を傾けると、クリスティンは打ちのめされたように項垂れていた。
「子ども相手に大人げないし」
「何がよ? この子は領主なんでしょ? 領民を守って、部下に死ねって言わなきゃいけない立場なんだから子ども扱いする方がおかしいでしょ? つか、子ども扱いされたいんなら領主なんてやるべきじゃないわ」
「それは……そうかも知れないけど」
フジカは助けを求めるように視線をさまよわせたが、フェーネ、リブ、ローラの三人は顔を背けた。
「だから、さっさとお金を寄越しなさい」
「わ、分かったのじゃ」
クリスティンが鼻を啜りながら司祭の手に触れる。
すると、ウィンドウが表示され、金額が切り替わった。
「他に用件は?」
「ないわ」
ユウカは用件は済んだとばかりに司祭から離れた。
「ワシはもう帰るぞ」
はぁ、とクリスティンは大きな溜息を吐き、教会の出口に向かう。
ホールの途中で立ち止まり、がっくりと頭を垂れる。
哀れな姿だ。
「さて、俺達も行くか」
マコト達も教会の出口に向かって歩き出す。
「今日はどうする?」
「あたしは宿に戻って魔道書を読むわ。ちょっと覚えたい魔法があるし」
「おいらは情報収集ッスね。適当なダンジョンをピックアップしとくッス」
ユウカは自身の、フェーネはチーム全体の強化を考えているようだ。
マコトはフェーネの頭を撫でた。
えへへ、と相好を崩す。
「次の目的はチーム全体の強化だな。意見は?」
「ないわよ」
「おいらもないッス」
「あたしもねーよ」
「賛成です」
ユウカ、フェーネ、リブ、ローラが賛意を示す。
「フジカは?」
「え?」
肩越しに視線を向けると、フジカは驚いたように目を見開く。
「あたし達のチームは全員の意見を一致させてから次の行動に移るのよ」
「じゃ、それで」
「文句を言えなくなるんだからちゃんと考えなさいよ」
「え? え?」
ユウカの言葉にフジカは軽いパニック状態だ。
「お前は嫌な先輩か」
「フジカのためを思って言ってるんじゃない!」
ユウカはムッとしたように言った。
「いるんだよな~。大したことを教えてないのに『はいはい言ってるけど、分からないことがあったら聞かないと駄目だから』って言ってくるヤツ」
「だったらアンタが説明しなさいよ!」
「分かった分かった」
「チッ、マジでムカつくわね」
ユウカは舌打ちし、顔を顰めた。
マコトは立ち止まり、視線を巡らせた。
受付はそれなりに混んでいるが、待合室のソファーには誰も座っていない。
「あっちに行こうぜ」
待合室に移動し、ソファーに腰を下ろす。
フェーネとリブはマコトの隣、ユウカ、ローラ、フジカは対面の席だ。
「まず、報酬についてだが――」
「お金の話からするの?」
「当たり前だろ」
ユウカが言葉を遮り、マコトは元凶が何を言ってるんだと睨み付ける。
「ああ、まず、俺達のチームは報酬……モンスターの討伐報酬も、依頼の報酬も等分してる。分かるな?」
「分かったし」
フジカは神妙な面持ちで頷いた。
「で、次にチームの方針と言うか、次に何をするかは話し合いで決める。反対の時は理由を教えてくれれば話し合いに応じる。まあ、こんなもんだな」
「それだけ?」
フジカはキョトンとした顔で問い掛けてきた。
「基本的には、な」
「命が懸かってるんだから慎重に考えなさいよ。賛成したら自己責任になるんだから」
「……そっか。命が懸かってるんだよね」
ユウカの言葉にフジカは表情を引き締める。
「前にも言ったが、きちんと考えろよ」
「命が懸かってるんだから当たり前っしょ」
「その命が懸かってる決断を他人に預けたでしょうが」
「うッ」
ユウカが突っ込むと、フジカは言葉を詰まらせた。
「それはそっちだって同じっしょ」
「預けられなかったからダンジョンに置き去りにされたんじゃない。でも、まあ、今にして思えばもっと早い段階で意見を言っておけばよかったと思うわ」
ユウカは小さく溜息を吐いた。
「状況に流されたって言うか、楽をしようとした心の隙を突かれたって言うか、そんな感じなのよね」
「それはあるかも」
思い当たる節があるのか、フジカは頷いた。
これは二人が高校生――子どもだからではない。
大人になっても重要な決断を他人に預けてしまう者はいる。
そういうヤツは騙されたと分かっても信じた自分が悪いと言い出すのだ。
騙したヤツが悪いに決まっているが、騙されるヤツは騙されるべくして騙されるのだ。
マコトは頭を振り、悪い思い出を追い払う。
「で、まあ、話は戻るんだが、新メンバーが加入したことだし、ダンジョンを探索してレベルを上げておこうって感じだな」
「それなら賛成」
フジカは遠慮がちに手を上げた。
「じゃ、これで話は終わりね」
そう言って、ユウカは立ち上がった。
「何処に行くの?」
「さっきも言ったでしょ。宿で魔道書を読むのよ」
「おいらは情報収集ッス」
ユウカとフェーネは教会から出て行った。
「えと、私は……」
「装備の新調だな」
「お、お願いします」
マコトが呟くと、フジカは畏まって言った。
「おいおい、あたいのことを忘れてねーか?」
「忘れてねーよ」
寄り掛かってきたリブを押し返す。
「なあ、しようぜ?」
「まだ昼前なのにふしだらだし!」
フジカは手で顔を覆って俯いた。
「誤解されるような言い方をするな」
「誤解?」
マコトがうんざりした気分で言うと、フジカは顔を上げた。
「手合わせしろってんだろ?」
「そういうこと」
リブは愛嬌のある笑みを浮かべる。
「ま、もう一つの意味でもいいけどな! あたいはいつでも受けて立つぜ!」
「男前だな」
「誉めんなよ」
ははっ、とリブはソファーに寄り掛かって笑った。
「そう言えば……」
「気になることでもあるのか?」
「司祭様が七悪の使い手とその眷属達と言ってましたが、これは――」
「おう、マコトとヤったぜ」
「はぅッ!」
リブが親指を立てると、ローラは仰け反った。
一秒、二秒――再起動を果たし、身を乗り出した。
「ど、ど、どど、どういうことですか?」
「ヤった以上の意味はねーよ」
「マコト様は変な所で奥ゆかしいじゃないですか。それ以前に昨日は体調が悪くて先に帰ったはずでは?」
「……」
マコトはローラから視線を背けた。
「色欲を取り込んだ影響でムラムラしてたんだと」
「え?」
「色欲を取り込んだ影響でムラムラしてたんだと」
ローラが問い返し、リブは同じ言葉を繰り返す。
「クリス様の館で視線を感じたのは?」
「マコトが見てたに決まってるだろ」
決めつけはよくないと思うが、リブの言う通りだ。
「あ、つまり、あの時の……一生の不覚です!」
「鈍いヤツだな」
ローラが頭を抱え、リブは呆れたように言った。
女性は自分に向けられる視線に敏感だと言うが、ローラも例外ではなかったらしい。
「どうして、リブはマコト様がムラムラしていると分かったのですか?」
「なんでって、普通は分かるだろ?」
「分かりません」
ローラは低く、掠れた声で答えた。
「獣人特有の感覚だったりするのでしょうか?」
「女なら分かるんじゃね?」
「――ッ!」
ローラは息を呑んだ。
「ああ、悪ぃ。ローラが女じゃないって意味じゃなくてだな。何か、こう、雌的な感覚が足りてないんじゃね?」
「……雌的な感覚」
ローラは神妙な面持ちで呟いた。
「普通は分かるよな?」
「え?」
リブに話を振られ、フジカは驚いたような表情を浮かべた。
眉根を寄せ、小さく唸る。
「そういう目で見られてるな、くらいは」
「それは、どういうものなのでしょう?」
「どういうものって言われても胸とか、太股とか見られてるな~って感じだったり、態度だったり、言葉使いだったり、まあ、色々」
「……なるほど」
ローラは頷いたが、今一つ分かっていない感じだ。
「十歳も年下のガキが分かってることを分かってないってどうなんだ?」
「そんなに離れてません!」
リブの言葉にローラは声を荒らげた。
「……失礼しました」
「多分、ローラは男女の関係ってヤツがどんなものか分かってねーんだな」
「それくらい分かってます」
ローラはムッとしたように言った。
山賊に襲われたこともあるので、そういう知識に疎くないと思うのだが。
「知識と感覚は違うだろ? その知識にしてもお花畑な感じがするぜ」
「くッ」
リブの言葉は辛辣だったが、思う所があったのか、ローラは小さく呻いた。
「チャンスを逃したな」
「……もし、私が看病してたら」
「襲われてたんじゃね?」
「くッ」
ローラは再び呻いた。
「だよな?」
「頼むから俺に振らないでくれ」
マコトは寄り掛かってきたリブを押し返した。
もし、ローラに看病されていたら襲ってしまったに違いない。
「……」
「何だよ?」
ジッと見つめてくるリブに問い掛ける。
「いや、もう落ち着いてるんだなと思ってよ」
「どうだかな」
マコトは右手を見下ろした。
強欲を取り込んだ時は時間を置いて、今回はすぐに影響が出た。
「どう影響が出るか今一つ分からねーんだよな」
「あんま深刻になるなって。マコトは枯れてたから丁度いいんじゃねーの?」
「他人事みたいに言うな」
「馬鹿、他人事じゃねーよ。同じチームなんだし、家族みてぇなもんじゃねーか」
「家族か」
何気なく呟いたつもりだったが、その声は自分でも驚くほど沈んでいた。
「嫌な思い出でもあるのか?」
「まあ、そんな感じだな」
「あたいも家族と折り合いがよくねーけど、大丈夫だって。あたいらなら上手くやってけるって」
リブはニヤリと笑い、ソファーに寄り掛かった。
その拍子に胸が揺れた。
「ポジティブだな」
「マコトがネガティブなんだって。そんなんじゃ幸せを逃がしちまうぜ」
「……そうだな」
積極的に幸せを追求するのも悪くないかも知れない。
その時、ギリッという音が聞こえた。
顔を上げると、ローラがこちらを見ていた。
「焦らずにチャンスを待ってろよ」
「分かりました」
リブが溜息交じりに言い、ローラは静かに頷いた。
「よし!」
リブが勢いよくソファーから立ち上がった。
「宿に戻らなきゃだな」
「あたいが装備を取ってくるからマコトはフジカの装備を買いに行ってくれ」
「大丈夫か?」
「ガキじゃねーんだから」
「そういう意味じゃねーよ。俺がいなくて部屋に入れるのか?」
「その辺は融通を利かせてくれるって」
それでいいのだろうか、とマコトは首を傾げた。
「じゃ、いつもの所で待っていてくれ」
「ああ、分かった」
リブが踵を返し、マコトは立ち上がった。





