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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest24:色欲を討伐せよ その10



 マコトは夢の中で色欲――ヤマダ フトシの人生を追体験している。

 あくまでマコトの感想に過ぎないが、恵まれた人生だと思う。

 何しろ、金持ちだ。

 何でも欲しい物を買ってもらえる。

 さらに両親は可能な限り愛情を注いでいた。

 少なくともマコトはそのように感じた。

 穏やかな人生が急変するのは大河学園の初等部に入学してからだ。

 そこで、フトシは身の程を思い知らされることになる。

 世間的には金持ちでも大河学園では平均の域を出ず、学力と体力は人並み未満だ。

 容姿に恵まれておらず、コミュニケーション能力も高くなかった。

 必然、スクールカーストの下層に追いやられることになる。

 カーストが決まってしまえば浮き上がるのは至難の業だ。

 小中高一貫教育の大河学園では尚更だ。

 最悪、卒業するまでの十二年を同じカーストで過ごすことになる。

 もちろん、フトシだって安穏としていたわけではない。

 下層から抜け出すための努力をした。

 努力した分だけ成績は上がったが、それも初等部まで。

 中等部になってから下降の一途だった。

 そんな中で才能を開花させる者が現れる。

 彼らに向けられる称賛がさらにフトシを追い込んでいった。

 オタク趣味に傾倒していったのもこの頃だ。

 フトシは鬱屈した生活の中で劣等感を育んでいく。

 そして、異世界に転移し、フトシは歓喜した。

 スクールカーストの下層から抜け出すチャンスだと思ったのだ。

 だが、現実は過酷だった。

 フトシが客人まれびとであることに価値を見出す者はいても、フトシ個人に価値を見出す者はいなかった。

 捨て鉢な気分になり、片っ端から女を抱いた。

 いつか自分を好きになってくれる女が現れると期待して――。


「いやいや、それは虫がよすぎるだろ」

「ふひ!」


 マコトが目を開けると、何処かで見たような天蓋が視界を覆っていた。


「……クリスティンの屋敷か」


 色欲――フトシを倒したことは何となく覚えているが、どうやって戻ってきたのか覚えていない。

 普通に考えればユウカが意識を失ったマコトを転移させてくれたのだろうが――。


「……よいしょ」


 体を起こすと、ユウカとフジカがベッドに突っ伏していた。

 二人の後ろではローラがイスに座ったまま眠っている。

 マコトはユウカのうなじを見つめ、生唾を呑み込んだ。

 とても色っぽく感じられたのだ。

 う、う~ん、とユウカが呻き、ゆっくりと目を開けた。

 これもまた何処かで見たような光景だ。


「……おはよう」

「メガネを掛けてないんだな」

「ぶん殴られて壊れたのよ」


 ユウカはムッとしたような――単に目を凝らしているだけかも知れないが――表情で言った。


「大丈夫だったのか?」

「大丈夫じゃないわよ! 脚の関節が増えるし、人間かザクロか分からないって言われるくらいの大ダメージよ!」


 ユウカは声を荒らげたが、フジカとローラに気を遣ってか、やや抑え気味だ。


「いや、そのな、ごうか――」

「そっちはないわよ」

「……そうか」


 マコトは胸を撫で下ろした。

 いつもと変わらない態度だったので、そうじゃないかと思っていたのだが、本人の口から聞くと安心する。


「俺がぶっ倒れた後は?」

「ローラがアンタの代わりにルーク団長と交渉して一足先に戻ってきたのよ」

「悪いことをしちまったな」

「ローラ? それともルーク団長?」

「ルーク団長だ」


 お詫びの手紙を書かねーとだな、と頭を掻く。

 ユウカ達が攫われた後、マコトはルークに救出作戦を提案した。

 フェーネのマジックアイテムのお陰で居場所が分かっていたとは言え、騎士団を囮にするなんて作戦をよく受け容れてくれたものだと思う。


「機嫌がよさそうだったし、気にしなくてもいいんじゃない?」

「そういう訳にはいかねーんだよ」


 これからも良好な関係を続けたいし、手紙一枚でそれが叶うのならば安いものだ。


「フェーネとリブは?」

「宿に戻ってるわ。あと、フジカは『黄金の羊』亭で寝泊まりするから、ちゃんと面倒を見てやって」

「へいへい」


 マコトは溜息を吐いた。


「……そう言えば」

「何よ?」


 視線を向けると、ユウカは体を引いた。

 気のせいか、頬が赤い。


「……お前ってメガネをしてないと」

「してないと?」


 ゴクリ、とユウカは喉を鳴らした。


「目付きが悪ーな」

「余計なお世話よ!」


 ユウカは顔を真っ赤にして言った。


「チッ、新しいメガネを買わなきゃならないなんてとんだ出費だわ」

「大した額じゃないだろ」

「気分の問題よ、気分の」


 今回の依頼だけで200万A近く稼いだのだが、メガネ代を端金と割り切ることはできないようだ。


「は~、でも、今回の依頼はマジでしんどかったわ」


 ユウカは溜息を吐き、ベッドに突っ伏した。


「疲れてるんなら宿に戻れよ」

「アンタの世話がなけりゃそうしてたわよ」

「悪ーな」

「別に謝らなくてもいいわよ。助けてくれたんだし」


 それっきり、ユウカは黙り込んだ。

 しばらくして沈黙に耐えきれなくなったのか口を開いた。


「……私のうちなんだけど」

「お前んちが何だよ?」

「母子家庭なの」

「珍しくないだろ、今時」


 ユウカが家族について話すのは初めてだな、とベッドに横たわる。


「話を聞く態度じゃないわよ」

「お前も話をする態度じゃねーよ」

「そうね」


 何となくだが、ユウカは実のある会話を期待していないと思ったのだ。

 まあ、誰にでも告白衝動はあるものだ。


「……ごめんね」

「普段からこれくらい素直ならな~」

「うちのお母さんの口癖よ」

「それって口癖か?」

「口癖みたいに謝ってたのよ。多分、母子家庭……何て言うか、普通の家庭が普通にできていることができないことを申し訳ないと思ってたんでしょうね」

「冷静だな」


 マコトは天蓋を見上げたままぼやく。


「あたしはそれが嫌だったわ。だって、あたしは謝られるようなことを何もされていないんだもの」

「お前が捻くれてるのはそれが原因か?」

「関係ないって言ったら大嘘ね」


 そう言って、ユウカは苦笑する。

 怒るかと思ったのだが、地雷を敷設し直したようだ。


「あたしは……今の自分をまあまあ気に入っているのよ。アラフォーのアンタには馬鹿に見えてもね」

「捻くれ者には捻くれ者の矜恃があるってことだな」

「そ、そういうことよ」


 ユウカは頬を引き攣らせながら言った。


「そう言えば猫を被ってたって言ってなかったか?」

「あれはマジで失敗だったわ。きっと、浮かれてたのね。嫌われる時は嫌われるんだから猫を被るべきじゃなかったわ」


 駄目な方向に開き直っているような気がするが、孤立も、傷付くことも恐れない姿勢は凄いと思う。


「ユウカは帰りたいんだよな?」

「前も言ったけど、あたしは元の世界に帰るの。元の世界に帰って高校を卒業して、一流どころの大学に行って、上場企業の社員か、公務員になる」


 ユウカはそこで言葉を句切った。


「で、お母さんに言ってあげるの。こんなに立派に育ったんだから謝る必要なんてないんだって」

「……立派」

「少なくとも世間から後ろ指を指されることはないわ」


 ふん、とユウカは鼻を鳴らした。


「……そうか」

「マコトは元の世界に帰りたくないのよね?」

「ああ、理由がない」


 今更のように元の世界と縁が切れてしまったことを実感する。

 だが、ユウカはまだ繋がっている。

 元々、力を貸すつもりだったが――。


「……ユウカ」

「何よ?」

「俺が母親の所に帰してやるよ」

「――ッ!」


 ユウカが息を呑み、顔が紅潮していく。

 目が潤んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。


「……ありがと」

「その台詞は元の世界に戻る時まで取っておいてくれよ」

「ちょっとトイレに行ってくる!」


 突然、ユウカは立ち上がり、部屋を出て行った。


「……鬼の目にも涙だな」

「鬼はないっしょ」


 首を起こすと、フジカがベッドに突っ伏したままこちらを見ていた。


「もう少し寝るか」

「私にも付き合ってよ」


 枕に頭を預けると、フジカは枕元に移動し、改めてベッドに突っ伏した。


「ユウカは大丈夫って言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

「強姦はされてないから安心して」

「そうか」


 マコトはホッと息を吐いた。


「お前は大丈夫か?」

「サンドバッグになったのはユウカだけだし」

「タケシとキララは?」

「タケシは両腕両脚の骨をへし折られて、キララは気絶してただけ」


 要領がいいよね、とフジカはぼやくように言った。


「……ユウカのこと、かなり見直した」

「サトウって呼んでなかったか?」

「マコトさんが意識を失っている間に色々あったの」

「そうか」


 好奇心が刺激されるが、聞かない方がいいような気がする。


「で、どう見直したんだ?」

「サンドバッグにされて謝れって言われたんだけど、謝らなくて……何か、凄いヤツなんだなって」

「まあ、確かに」

「笑わなくてもいいじゃん」


 マコトが苦笑すると、フジカは頬を膨らませた。


「タケシのヤツ、偉ぶってるくせに骨を折られてあっさり屈服しちゃったんだよね」

「大抵のヤツはそうなるだろ」


 サンドバッグにされても謝らないユウカの方がおかしいのだ。

 だからこそ、凄いヤツだと思われているのだろうが――。


「そりゃ、私だってタケシと同じ目に遭ったら謝っちゃうかもだけど、タケシ達のせいで人が死んでるんだよ? それなのに謝っちゃうって違くない?」

「そうだな」


 上司が自己保身を優先していたら部下は付いてこない。

 命を預かる立場ならば尚更だ。


「その話は誰かにしたか?」

「してない。もう私には関係ないし」

「ドライだな」


 言いふらして恨みを買うよりマシか。


「マコトさんは元の世界に帰らないんだ」

「聞いての通りだよ」

「そっか、マコトさんは帰らないんだ。じゃ、私も残っちゃおうかな?」

「フジカは帰りたくねーのか?」

「帰りたくないって言うか、帰れなくてもいいかもって感じ。何て言うか、元の世界に帰っても先が見えてるって言うか」

「閉塞感を感じてるってことか?」

「まあ、そんな感じ」


 フジカは曖昧に頷いた。

 何が不満なんだと思うが、金持ちでも、貧乏でも悩みはあるということだろう。


「甘ったれてるって言わないんだ?」

「言って欲しいのか?」

「ノーサンキュー」

「じゃ、言わねーよ。けど、ちゃんと考えておけよ」

「ちゃんと考えてるし」

「その三倍くらい考えとけ」

「三倍も?」


 フジカは顔を顰めて言った。


「自分じゃ真剣に考えてるつもりでも穴だらけってことはよくあるもんなんだよ。若い頃なら尚更だ」

「説教臭ッ!」

「おっさんからの忠告だ」


 その時はよく考えたつもりでも後になってみると稚拙さが目に付くものだ。


「自分の人生が掛かってるんだ。考えすぎってことはないと思うぜ」

「……」


 フジカは黙って聞いている。

 面白くなさそうに下唇を突き出しているのはマコトの外見と無関係ではないだろう。


「真面目にって言うけど、どうすればいいの?」

「どうして、帰りたくないのか考えりゃいいんだよ。メモに書いて、なんで、なんでって突き詰めていくのが一番簡単な方法だな」


 ビジネス本に載っていた原因追及の方法だ。


「不安な時もお勧めだ」

「なんで?」

「どうして、不安なのか言語化すると気が楽になるんだよ」

「そんなもん?」

「騙されたと思ってやってみろよ」

「う~ん、やってみる」


 フジカは渋々という感じで頷いた。


「……もういいですか?」


 声のした方を見ると、ローラが片目を開けてこちらを見ていた。


「起きてたんなら声を掛けてくれよ」

「声を掛けづらい雰囲気だったので」


 そう言って、ローラは立ち上がった。



 マコト、ユウカ、フジカの三人はローラに先導されて屋敷の廊下を進む。


「ここに来るのも久しぶりね」

「……」

「ちょっと!」

「何だよ?」

「無視しないでよ」


 二の腕を叩かれて隣を見ると、ユウカがムッとしたような表情を浮かべていた。


「悪ぃ」

「もしかして、調子が悪いの?」

「まあ、そんな感じだ」

「仕方がないわね。これが終わったら宿でゆっくりと休みなさい」

「……ああ」

「マジで重症ね」


 マコトが頷くと、ユウカは深刻そうに言った。


「……クソ」


 小さく吐き捨て、頭を振る。

 マズい。

 このままじゃマズい。

 頭では理解しているのに、どうしてもローラから目を離せない。

 引き締まった尻から目を離せない。

 ふわりと漂ってくる匂いもマズい。

 脳を蕩けさせようとしているとしか思えない。

 どう考えても色欲の影響だよな、とマコトは顔を顰めた。

 強欲を取り込んだ時にも影響はあったが、あの時は精神的なものだった。

 今回は肉体に作用している。

 要するにムラムラするのだ。

 疼いて疼いて仕方がない。


「話が終わったら『黄金の羊』亭に転移してあげるからもう少し頑張りなさいよ」

「……ああ」


 ユウカが普段より優しい声で言い、マコトは頷いた。

 もう一杯一杯なのだが、本当のことを言う訳にはいかない。


「マコト様は体調が悪いのですか?」

「見れば分かるでしょ?」


 ユウカに問い返され、ローラは肩越しにマコトを見た。


「確かに……熱があるのかも知れませんね。よ、よろしければ私が看病を」

「いや、宿で休むよ」

「そうですか」


 ローラはしょぼんと項垂れた。

 申し訳ないと思うが、看病してもらったら申し訳ないことになる。

 と言うか、犯罪を犯してしまう。

 それだけは何としても避けなければならない。

 ローラが立ち止まり、扉を叩く。

 しばらくして、入れという声がした。


「どうぞ、お入り下さい」


 マコト、ユウカ、フジカの順で部屋に入る。

 クリスティンは机に向かっていた。

 マコト達がやや机から離れた場所に移動すると、背後で扉を閉める音がした。


「話はローラから聞いておるが……七悪の精霊術士を倒しただけではなく、客人まれびとを引き抜くとは素晴らしい活躍じゃ! ワシも主人として鼻が高いぞ!」


 ふはは、とクリスティンはふんぞり返って哄笑した。


「これで、ワシにも強い部下がいると知らしめることができた。おまけに戦力の増強まで果たせるとは……」

「あの、私はそんなに強くないんだけど」

「ふむ、これは褒美をやらなければならんな」


 フジカが申し訳なさそうに言ったが、クリスティンは取り合わなかった。


「報酬だけで――」

「もらえる物はもらっておけばいいじゃない」


 マコトの言葉をユウカが遮る。

 どうやら、クリスティンという少女を分かっていないようだ。


「そこにいるローラなんてどうじゃ?」

「……勘弁してくれ」


 マコトはゴクリと生唾を呑み込み、何とか言葉を絞り出した。

 どうして、この疼いている状態で悪魔的な提案をしてくるのか。


「ちょっと心が揺れたな」

「本当ですかッ?」


 振り返るか振り返らないかのタイミングでローラが詰め寄ってきた。

 甘い香りが鼻腔をくすぐり、それだけで達してしまいそうになる。


「ローラ、押して押して押しまくるんじゃ!」

「ちょっと、ちょっと年齢差はあると思いますが……」


 ローラはマコトの手を優しく握り締めた。

 ほんのり上気した顔を見ていると、 あ~、もう、我慢しなくていいんじゃないかな~という気分になってくる。

 いや、駄目だ、とマコトは頭を振った。


「私の初めてを受け取って下さい!」

「重いわ!」

「え、えぇぇッ!」


 クリスティンが叫び、ローラは困惑の声を上げた。


き遅れが初めてをもらって下さいなんて言ってもドン引きじゃ! 軽く、軽く、責任は取らなくていいからみたいなノリで責めるんじゃ!」

「嫌です!」

「なんでじゃ!?」

「初めての時はちゃんとして欲しいんです!」

「ワシが面倒を見てやるから諦めろ!」

「マコト様! ちゃんと、ちゃんとして下さい! ああ、でも、今の時点で愛人が……これでは幸せな結婚生活なんて――」

「妾腹のワシをディスっとんのか!」


 クリスティンは机を叩き、吠えた。


「マコト様!」

「や、止めろ!」


 ローラがさらに距離を詰めようとし、マコトは理性を総動員して引き剥がした。

 すると、ローラは傷付いたような表情を浮かべた。


「ま、マコト様」

「悪ぃ、ちょっと体調が悪いんだ」

「いえ、私の方こそ浮かれてしまって申し訳ありません」

「何じゃ、体調が悪いのか。だったら、そう言ってくれればいいものを」

「そういう訳にはいかねーだろ」


 ローラとクリスティンの優しさに罪悪感を刺激される。


「報酬の件は心配せずともいいぞ」

「ああ、あとは……七悪の精霊術士の件なんだが、俺達が倒したって触れ回らないで欲しいんだ」

「なんでじゃ?」

「ルーク団長に色々と便宜を図ってもらったんだよ。そんな人の面子を潰しちゃまずいだろ?」

「う~~~~~む」


 クリスティンは難しそうに眉根を寄せて唸った。


「仕方がないのぅ」

「ついでに感謝状みたいなの送れねーか?」

「よ、よかろう。そ、それに、当初の目的は達成しているからの。他にはどうじゃ?」


 他にはどうじゃと尋ねながら、クリスティンは渋い顔をしている。

 頼まんでくれという心の声が聞こえてきそうだ。


「他にはねーな」

「そうか」


 クリスティンは胸を撫で下ろした。


「……あたしの出番ね」

「頼む」


 もうムラムラして頭がおかしくなりそうだ。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、繋がれ繋がれ回廊の如く、我が歩く道となれ! 顕現せよ! 転移テレポーテーション!」


 マコトは浮遊感に包まれて目を閉じた。

 目を開けると、そこは『黄金の羊』亭の一階――食堂だった。

 突然、浮遊感から解放され、バランスを崩す。

 普段なら踏み止まれるのだが、本当に体調を崩しているのかも知れない。

 ああ、転ぶな、と覚悟したその時――。


「おっと」


 そんな声と共に柔らかな感触に包まれた。

 この感触はリブだ。

 汗の臭いがツンと鼻腔を刺激する。

 不快ではない。

 それどころか、臭いを嗅いでいるだけで達してしまいそうだった。

 歯を食い縛って耐える。

 一秒、二秒――長い時間が過ぎ、波がようやく通り過ぎる。

 マコトは枯渇寸前の理性を振り絞ってリブから離れた。


「いきなり転移してきたんで驚いたぜ。どうかしたのか?」

「体調が悪くて先に帰ってきたんだよ。フェーネとシェリーは?」

「フェーネは買い物、シェリーは裏手にいるんじゃね?」


 そうか、とマコトはホッと息を吐いた。

 シェリーに鎮めてもらうという段階は通り過ぎている。

 衝動のままに襲い掛かったらシェリーを傷付けてしまう。

 何の役にも立たないと分かっているが、頭を振った。

 乱れた息で歩き出す。


「肩を貸してやるよ」

「ひ、必要ねぇ!」

「強がるなよ。仲間じゃねーか」


 止める間もなくリブがマコトを支える。

 抵抗しようとしたが、どうにも力が入らない。

 リブはマコトを支えたまま階段を登り、101号室の扉を開けた。

 尻で押して扉を閉める。

 ベッドが近づいてくる。

 不意にシェリーのこと――正確に言えば彼女との睦事を思い出す。

 それが呼び水となったかのようにリブを抱く妄想をしてしまう。


「り、リブ、こ、ここまででいい」

「遠慮すんなって」

「ちが――」


 マコトは抵抗した。

 好意を寄せられているとは言え、色欲の影響で抱いてしまうのはマズい。

 だが、抵抗したのが悪かったのか。

 それとも、神の悪戯か。

 マコトはリブをベッドに押し倒していた。


「り、リブ?」

「ようやくその気になったのかよ」


 リブがニヤニヤと笑う。


「すまねぇ。もう我慢できねぇ」

「見りゃ分かるっての」


 リブは頭を起こし、マコトの一点を注視する。

 はぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返し、パレオを捲った。

 だが――。


「て、貞操帯?」


 マコトは頭を抱え、その場に蹲った。

 リブは褌の上に貞操帯を着けていたのだ。


「か、鍵は?」

「そんなにがっつくなよ」


 リブは呆れたように言い、胸元から鍵を取り出した。

 鍵を奪い取り、鍵穴に差し込もうとする。

 だが、手が震えてなかなか入らない。


「落ち着けって」


 リブが体を起こし、マコトの手に自身のそれを添える。

 思わず振り払いそうになったが、辛うじて耐える。


「そうそう、そのままな」


 鍵を鍵穴に差し込んで捻る。

 カチッという音が響き、それだけで達してしまいそうになった。


「……リブ」

「遠慮しなくていいぜ」


 リブがニヤリと笑い、マコトは――獣になった。



「あ~、やっちまった」

「やっちまったじゃありませんよ!」


 マコトが天井を見上げて呻くと、シェリーが体を起こした。

 怒っているとアピールするためにか、頬を膨らませている。

 ちなみにシェリーが寝ていたのはマコトの上である。


「あたいの体力が保てばよかったんだけどな」


 隣で俯せになっていたリブが少しだけ申し訳なさそうに言った。

 なんてこった、とマコトは両手で自分の顔を覆った。

 まさか、様子を見に来たシェリーを襲ってしまうとは――。


「やっぱ、色欲の影響か?」

「分かっててやったのかよ」

「シェリーを巻き込むとは思わなかったけどな」


 リブは悪びれた様子もなく嘯いた。


「どうすりゃいいんだか」

「あたい達がいるのにぼやくなよ。まあ、深刻に考える必要はないんじゃねーの」

「深刻に考える必要はないって」

「金はあるんだし、何とかなるって」


 リブはあっけらかんとした口調で言った。


「結婚とか、色々あるだろ」

「別にあたしは結婚したいとか思ってねーし。シェリーは?」

「知りません!」


 シェリーはプイッと顔を背けた。

 このままの流れに沿って死のう、とマコトはシェリーの胸を揉みながら決意した。

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