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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest24:色欲を討伐せよ その5



 マコトはテーブルに寄り掛かり、こめかみを押さえた。


 ――! ――ッ!


 人面兎と思われる声がどんどん近づいてくる。

 その数は十や二十ではきかない。

 さらに近づくにつれて声は大きくなっていく。

 マコトは顔を顰めた。

 数や声の大きさは気にならないのだが、その質にうんざりする。

 人面兎の声は極めて原始的な欲求――性欲に根ざしている。

 文明人を気取っているつもりはないし、性欲が悪だと言うつもりもない。

 強いて言えばはっちゃけるDQNを横目に仕事をしている感覚に似ているだろうか。

 まあ、要するに自分と相容れない価値観の持ち主はそこにいるだけ不快に感じるということだ。


「近くに来てるのか?」

「よく分かるな?」

「眉間に皺が寄ってるぜ」


 リブがニヤリと笑い、マコトは眉間に触れた。


「便利な力だな」

「そうでもねーよ」


 声が聞こえても具体的な人数は分からないし、何が起きているのか分かる訳でもない。

 せめて、具体的な人数が分かるようになればいいのだが。


「この仕事、受けるんじゃなかったな」

「何を今更」


 マコトがぼやくと、リブは呆れたように言った。


「スゲー報酬の仕事じゃん」

「リスクが高すぎるだろ」


 お、とリブは意外そうに目を見開いた。


「何だよ、その顔は?」

「見たまんまだっての。つか、この手のリスクは付きものなんだからそこまで気にする必要はないんじゃねーの? なあ、ローラ?」

「わ、私に振らないで下さい!」


 リブが問いかけると、ローラはややヒステリックに叫んだ。

 元の世界なら絶対にセクハラで訴えられる質問だ。


「で、どうなんだよ?」

「……そういうこともあると思っています」


 ローラは呻くという言葉が可愛らしく思えるほど苦しげな様子で言った。

 どよ~んとか、ず~んという擬音が目に見えるようだ。


「ほらな、覚悟を決めて――」

「い、いえ、覚悟は決めていません。そういうこともあるだろうと考えているだけです」


 ローラは必死に否定した。

 気を取り直すためにか、リブは咳払いをした。


「マコト、俺が守ってやるくらいのことを言えねーのか?」

「軽はずみに約束なんかできねーよ」

「じゃ、守ってくれねーの?」

「守るけど、力が及ばないこともあるだろ」


 仲間を危険に曝すくらいなら危険そのものを避けた方がマシだ。


「守ってくれる気はあるんだな?」

「当たり前だろ」

「そうかそうか」


 何が嬉しいのか、リブはニヤニヤと笑っている。


「ま、安心しろよ。備えはばっちりしてるからよ」

「備え?」

「貞操帯だよ、貞操帯」


 リブがパレオを捲り、マコトは顔を背けた。

 顔を背けるのが間に合わず、チラッと黒いヒモのようなものが見えた。

 直に貞操帯を着けているわけではなく、褌の上に着けているようだ。


「見せるなよ」

「遠慮するなって、あたいとマコトの仲じゃねーか」

「貞操帯を見せてもらうような仲じゃねーよ」

「いや、待て」


 リブはマコトに手の平を向けた。


「おかしくねーか?」

「何がだよ?」

「褌一丁の時より反応が過敏じゃん」


 マコトが問い返すと、リブは困惑しているかのような表情を浮かべた。


「なんでだ?」

「知るかよ」


 とは言ったものの、見当は付いている。

 恐らく、パレオを身に着けたことで褌を見てはいけないもの――下着と認識するようになったからだろう。

 やはり、リブは困惑しているかのような表情を浮かべながらパレオを摘まんだ。


「とにかく、あたいらは貞操帯を着けている。安心しただろ?」

「あたいら?」

「あたいら、だ」


 リブはニヤニヤと笑っている。

 思わず、フェーネとローラを見る。


「ま、まあ、念のために」

「備えあれば憂いなしッス」


 ローラはもじもじと太股を摺り合わせながら、フェーネはこれでもかと胸を張って言った。


「……あたしに聞いたらセクハラで訴えるわよ」

「誰に訴えるんだよ」


 鬼のような形相を浮かべるユウカに突っ込む。


「誰でもいいじゃない! とにかく、訴えるわ!」

「最初から聞くつもりはねーよ」

「まあまあ、喧嘩すんなって」


 リブがニヤニヤと笑いながらマコトの肩に腕を回した。

 彼女が割って入るのは初めてだ。

 ユウカも貞操帯を着けているのだろうな、と察する。

 何とはなしにユウカに視線を向ける。


「こっちを見るな! 変態ッ!」

「……」


 ユウカはスカートを押さえ、顔を真っ赤にして吠えた。


「備えがあるのは分かったんだけどよ。貞操帯ってそんなに防御力があるのか?」

「試してみるか?」

「試さねーよ」


 チェッ、とリブは可愛らしく舌打ちした。


「で、どうなんだ?」

「あたいの力でも引きちぎれなかったから大丈夫なんじゃねーか?」


 リブは首を傾げた。


「まあ、リブの力で引きちぎれなかったんだから大丈夫か」


 レベル40の戦士に破壊できない貞操帯ってどんなだよ、と突っ込みたい気持ちが湧き上がるが、止めておく。

 答えられるような人間はいないだろうし、藪蛇になりかねない。


「ちょっといい?」

「なんだよ?」


 問い返すと、ユウカはムッとしたような表情を浮かべた。


「……敵が迫っているのに待機しててもいいの?」

「レイモンドが来ないからな」

「どうして、レイモンドが来ないと駄目なのよ?」

「指示に従うって騎士団長のルークと約束したんだよ」


 口約束とは言え、従うと約束したのだから勝手に動くのはマズい。


「敵が来てるんでしょ?」

「約束は約束だ」

「指示待ちって、お役所仕事かっての」

「騎士団は公務員だろ」

「あたし達は違うんじゃない?」

「約束を破って責任を取れって言われても困るだろ」

「責任を取りたくないって、これだから社畜は……」

「好きに言えよ。俺は二度と、二度と借金を背負いたくないからな」

「借金?」


 ユウカは不思議そうに首を傾げた。


「世の中には賠償金ってもんがあるんだよ」

「知ってるわよ、賠償金くらい」

「契約不履行で賠償金を請求されても構わないって言うんなら好きにしろ。念のために言っておくが、俺は関係ないからな」

「ちょっと、あたし達はチームでしょ? 仲間を見捨てる気?」

「忠告を聞かないヤツなんて知るか。借金で苦しみたくなければレイモンドが来るまで待ってろ」

「ぐ、ぐぅぅぅぅ」


 マコトが指を突き付けて言うと、ユウカは口惜しそうに唸った。


 ――! ――ッ!


「かなり近づいてきたな」


 マコトがこめかみに触れたその時、扉を叩く音が響いた。

 しばらく待っていると、レイモンドが扉を開けた。


「やあ、失礼するよ。人面兎が近づいてるんだけど、準備はいいかい?」

「ああ、整ってる」

「頼もしいね」


 マコトが胸の前で籠手を打ち合わせると、レイモンドは苦笑じみた表情を浮かべた。


「けど、君達の出番はないかもね」

「なんでよ?」


 レイモンドの言葉にユウカが噛み付く。


「ルーク様がコウキ殿に任せてもいいと仰ってるんだよ」

「けど、何もするなとは言ってないんだろ?」

「まあ、ね」


 マコトが問いかけると、レイモンドは曖昧に頷いた。


「なら、外に出るくらいはするさ」

「勤勉なんだねぇ」

「雇い主が強い部下がいることを知らしめたいって言ってるんだよ」

「大変だね」

「お互いにな」


 マコトとレイモンドは顔を見合わせて笑った。


「笑ってないで、外に出なさいよ」

「分かったよ」


 通じ合う所があったので、もう少し話したかったのだが、ユウカにはこういう機微が分からないようだ。

 マコト達が外に出ると、ユウカのクラスメイトが村を走り回っていた。

 騎士達もいるが、手伝おうという雰囲気はない。

 どちらかと言えば高みの見物、お手並み拝見という雰囲気だ。


「いいか! ビビるな!」


 野太い声が集落に響き渡る。

 声のした方を見ると、タケシが槍を持ち、クラスメイトを鼓舞していた。


「柵を挟んで戦えば敵の攻撃は届かない! 柵越しに槍を突き出すだけだ!」

「……」


 クラスメイトは答えない。

 その時、コウキが目の前を駆け抜けていった。

 しばらく進んでから振り返る。


「やあ、サトウさんの……」

「黒炎のリーダー、マコトだ」


 コウキは歩み寄ってきたが、握手を求めてはこない。


「手が足りないんなら力を貸すぞ」

「申し出はありがたいんだけど、ルーク団長が僕達に任せてくれると言ったからね」

「そうか。頑張れよ」

「もちろんだよ」


 コウキは爽やかな笑みを浮かべてクラスメイトの下に向かった。


「皆、待たせたね。もう聞いてると思うけど、敵が近づいてるんだ。怖いかも知れないけど、頑張っていこう」


 コウキの言葉によって雰囲気が和らいだ。

 タケシは一瞬だけムッとしたような表情を浮かべたものの、すぐに敵わねーなと言うように頭を掻いた。


 ――ッ!


「来たな」


 マコトは声のする方――森を見た。

 姿を確認することはできないが、暴走しそうになる衝動を必死に抑えながらこちらを窺っている。

 その自制心はすでに綻び始めている。

 切っ掛けがあれば自制心なんて吹き飛ぶだろう。

 茂みが揺れ――。


 ――ッ!!


 声が一気に膨れ上がった。


「フヒィィィィィッ!」


 そんな雄叫びを上げて、森から人面兎の群れが飛び出してきた。

 人間から奪ったのか、それとも自分達で作ったのか槍を手にしている。

 人面兎は先を争いながら柵に殺到する。

 仲間を突き飛ばし、踏み付けて迫ってくる。


「槍を構えるんだ! 大丈夫! 練習通りにやれば上手くいくさ!」


 コウキが声を張り上げ、クラスメイト達が槍を構える。

 マコトはレイモンドに視線を向けた。


「魔法を使って数を減らした方が良いんじゃねーか?」

「温存するつもりなんだよ、きっと」

「魔法って、温存した方が良いのか?」

「場合によるね」

「そりゃ、場合によるだろうけどよ」


 マコトだって長丁場になると分かっていれば精霊術を節約しようと考えるが、正体不明の相手ならばありったけをぶつけるのが正解ではないだろうか。


「マコト殿なら大丈夫だろうけど、彼らはそんなに経験を積んでる訳じゃないんだよ」

「確かに、そんなにレベルが高いようには見えねーな」

「そういう意味じゃないよ」

「だったら、どういう意味だよ?」


 苦笑するレイモンドに問いかける。


「文字通りの意味さ。彼らは……素質はあるんだけど、二つしかダンジョンを攻略していないんだ」

「二つも攻略すれば上等だろ」

 マコト達だって三つしか――群体ダンジョンは最下層に到達しただけだが――ダンジョンを攻略していない。

「喧嘩は経験が物を言うんだよ。分かるでしょ?」

「分かるけどよ」


 この世界で殺し合いを経験して初めて高校時代の部活で習った拳法が自分の血肉になったような気がする。


「連中は経験がないから安全策を取ってるってことか?」

「う~ん、安全策しか取れないって感じかな?」

「なん――」

「うわぁぁぁッ!」


 悲鳴が聞こえ、慌てて柵の方を見る。

 すると、少年が腹部を押さえて尻餅をついていた。


「立て! 立って槍を突き出せ! 突かないとやられるぞッ!」

「で、でも、やっぱり……」


 タケシが槍を突き出しながら叫ぶが、尻餅をついた少年は立ち上がろうとさえしない。


「どうしたんだ?」

「敵がクラスメイトと同じ顔をしているから躊躇ってるんだよ」


 やれやれ、とレイモンドは肩を竦めた。


客人まれびとが人面兎になったのか?」

「七悪の精霊術士になったんだよ」

「人間ってモンスターになれ……なれるか」


 自分やキングのことを考えるとなれるとしか言いようがない。

 司祭に言わせれば七悪も人間ということになるが。


「ゴブリン王は百万の子を従えたと言われているからね」

「つか、あれと同種って言われるとへこむな」


 マコトはこめかみを押さえた。


「それにしても、ちゃんと説明してなかったのか?」

「一応、説明はしているはずだけれどね」

「どうだかな」

「覚悟を決めるのと覚悟をしたつもりの間には大きな溝があるんだよ」


 そう言って、レイモンドは肩を竦めた。


「ギャッ!」


 再び悲鳴が上がる。

 コウキが槍で人面兎の腹部を貫いたのだ。


「皆! 辛いだろうけど、ヤマダ君は数え切れないほどの悲劇を生み出している! 彼を止めるのは仲間だった僕達の役割だ!」


 コウキは辛そうな表情を浮かべ、槍で柵をよじ登ろうとする人面兎を突いた。

 すると、人面兎は悲鳴を上げ、柵から落ちた。

 コウキの言葉と行動に勇気づけられたのか、尻餅をついていた少年は槍を手に立ち上がった。


「フヒィィィィッ!」


 人面兎は死んだ仲間を踏み台にして柵をよじ登る。

 柵の一角が人面兎で覆われる。

 昔見たホラー映画みたいだ、とマコトは顔を顰めた。

 柵が人面兎の重量によって軋む。


「魔法を撃つんだ!」

「魔弾!」

「魔弾!」

「魔弾!」


 コウキが叫び、三人が魔法を放つ。

 魔弾に貫かれた人面兎が仲間を巻き込んで柵から転げ落ちる。

 だが、人面兎は止まらない。

 人面兎は死も、痛みも恐れていないのだ。

 女を孕ませることしか考えていない。


「フヒ、フヒ、フィィィィッ!」


 柵が大きく傾き、人面兎が次々と乗り込んでくる。


「オオオオッ!」


 タケシが雄叫びを上げ、人面兎が一瞬だけ動きを止める。

 恐らく、ローラが使ったモンスターを引き付ける技だ。

 だが、人面兎はタケシを無視してクラスメイト――少女達に襲い掛かった。

 少女達が悲鳴を上げた。


「キャーーーッ!」

「コウキ君! コウキ君、助けて!」

「退けよ、キモオタ!」

「や、止めて!」

「止めろ!」


 コウキが槍を投げ捨て、斬りかかる。

 銀光が閃くたびに血飛沫が上がり、人面兎が倒れていく。


「コウキ!」


 タケシが叫ぶ。

 言わんとしていることは明白だった。

 コウキが抜けたことで均衡が崩れ、人面兎が次々と柵の内側に侵入しているのだ。


「何とか食い止めてくれ!」

「分かった!」


 助けを求めればいいのにと思うが、自分達で人面兎を退治したいのだろう。

 マコトはレイモンドに視線を向けた。


「助けちゃマズいか?」

「マズくはないけど、恨まれるんじゃないかな?」

「どっちに?」

「コウキ殿に」

「じゃ、問題ねーな」


 コウキは影響力を行使できる立場になさそうだし、陵辱されそうになっている少女達を見捨てるのも人としてどうかと思う。


「……できればでいいんだが、ルークの指示で助けたって感じにできねーか?」

「マコト殿の実績じゃなくなってしまうよ?」

「指示に従うって約束を破るわけにはいかないだろ」

「律儀だね。まあ、そういうことなら団長にはそう伝えておくよ」

「サンキュ」

「礼には及ばないさ」


 レイモンドは気障ったらしい仕草で肩を竦めた。


「今からユウカのクラスメイトを助けに行く」

「ようやくあたいらの出番だな」


 マコトが向き直って言うと、リブは獰猛な笑みを浮かべた。


「いや、俺が助けに行くからお前達はここで待っていてくれ」

「なんでよ?」


 問いかけてきたのはユウカだ。


「俺が遊撃を担当して、お前達には防御を固めてもらった方が効率的だと思うんだよ」


 マコトの能力は前衛としても、後衛としても中途半端なのだ。


「まあ、いいわ」

「……納得してもらえて嬉しいよ。点火イグニッション


 心理状態を反映してか、炎の勢いが弱いような気がする。

 頑張るんだ、と自分に言い聞かせる。

 すると、ようやく炎はいつもの勢いを取り戻した。

 マコトは柵に向かって走る。


炎弾ファイア・ブリット!」

「キャァァァァッ!」


 マコトが炎弾を放つと、人面兎に組み敷かれていた少女が悲鳴を上げた。

 まあ、目の前で人面兎が炎に包まれれば悲鳴の一つも上げるだろう。

 少女にのし掛かる人面兎を蹴り殺し、炎弾を放って塵に変える。

 何匹か倒した所で人面兎がこちらを見る。

 少女を組み敷いている個体はすぐに興味を失ったが、そうでない個体は素手、もしくは槍を持ってマコトに襲い掛かってきた。

 人面兎が槍を突き出すが、マコトは敢えて踏み込んだ。

 顔面を殴りつけると、空中で何回転かして後頭部から地面に叩き付けられた。


「ま、マズい! 柵がッ!」


 メリメリという音を立てて、柵が倒壊し、人面兎が雪崩れ込んできた。


「ふひ、ふひ、ふひひ!」

「ふひひ、ふひひひッ!」

「ふひーッ!」

「ふひひ!」


 人面兎が股間を膨らませながら押し寄せる光景は恐怖の一言に尽きる。


「気持ち悪ぃんだよ!」


 マコトは足を地面に叩き付けた。

 地面に亀裂が走り、漆黒の炎が噴き出す。

 さらに漆黒の炎は亀裂を押し広げながら人面兎に向かっていく。


「点火!」


 漆黒の炎が膨れ上がり、亀裂の上にいた十数体の人面兎を呑み込む。

 だが、炎から逃れた個体もいた。


「悪ぃ! 取りこぼした!」

「任せとけ!」


 マコトが叫ぶと、リブが叫び返してきた。

 取りこぼしは仲間に任せ、目の前の敵に集中する。

 人面兎を殴り殺し、蹴り殺し、精霊術で塵に帰す。


「……効率が悪ぃな」


 思わずぼやく。

 炎弾は一体ずつしか殺せないし、地面から噴き出す炎――炎版地震撃とも言うべき技は発動までに時間が掛かるので、どうしても取りこぼしてしまう。

 もっとスピーディーに範囲攻撃ができる技を練習しておいた方がよさそうだな、とそんなことを考えていると、人面兎の圧力が弱まった。


 ――ッ!!


いてッ!」


 大きな声が響き、マコトは顔を顰めた。


 次の瞬間――。


「フヒィィィィィッ!」


 雄叫びが響き渡り、マコトの目の前にいた人面兎が一斉に退いた。

 声のした方を見ると、人面兎が森の近くに佇んでいた。

 人面兎と言っても他の個体とは一線を画する。

 まず、体格だ。身長は二メートルほどあり、その肉体はボディービルダーのような筋肉の鎧で覆われている。

 身に着けているのは腰布のみ、手にしているのは刃の部分が円形になっている斧だ。

 他の個体と同じように性欲を滾らせているが、それ以上に闘争心が強い。

 取り敢えず、人面兎リーダーとしておく。


「フヒィィィィィッ!」


 人面兎リーダーは雄叫びを上げながら突進、地面を蹴って柵を跳び越えた。


「皆、こいつの相手は僕らが引き受ける!」

「柵の内側に侵入したヤツを頼む!」


 コウキとタケシが人面兎リーダーの前に立ち塞がり、キララがその背後に控える。

 まるでアニメのワンシーンのようだが――。


「柵の内側に侵入したヤツって、俺が殆ど倒したじゃん」


 生き残っていた個体も人面兎リーダーの命令に従って柵の外まで退いている。


「っきしょ、キモオタのヤツ。マジで勘弁して欲しいんだけど」


 近くにいた少女が体を起こし、地面に唾を吐いた。

 肌は日焼けしていて、染めているのか、長い髪は茶色だ。

 こんな状況なのに化粧までしている。

 つまり、ギャルである。

 ペッ、ペッと地面に唾を吐く。

 最悪の事態にはならなかったようだが、他の少女に比べてダメージが大きく、汚れの度合いも酷い。


「大丈夫か?」

「大丈夫な訳ないっしょ!」

「まあ、そうだな」


 マコトは水筒を渡すと、少女は頭から水を被った。

 濡れたことで服が透け、下着のラインが露わになる。


「……ほらよ」


 コートを脱ぎ、頭から被せる。


「……あ、ありがと」

「礼は言えるんだな」

「そんなの当たり前っしょ」


 少女はムッとしたように言う。


「俺はマコト、黒炎って冒険者チームのリーダーをしてる。ジョブは格闘家と精霊術士だ」

「私はアヤネ、アヤネ フジカ。ジョブは僧侶」

「……僧侶」

「そんな顔しなくても似合ってないのは分かってるし」


 少女――フジカは拗ねたように唇を尖らせた。


「私を助けてる暇があったら仲間を助けに行けば?」

「大丈夫だろ」


 マコトはユウカ達の方を見た。

 侵入を果たした人面兎達はきょろきょろしながら集落の奥へと進んでいく。


「よし! ようやく出番だぜ!」

「引き付けます! ハァァァァッ!」


 ローラが声を上げると、人面兎達は一瞬だけ動きを止めた。

 すぐにローラ――女の存在に気付き、一斉に襲い掛かる。


「数を減らすッス!」


 フェーネがスリングショットで鏃を放つ。

 鏃が太股に突き刺さり、人面兎がその場に転倒し、後続の個体が巻き込まれる。


「ふひ、ふひ、ふひぃぃぃッ!」


 無事だった人面兎がローラに殺到する。

 だが――。


盾撃シールド・バッシュ!」


 ローラの盾撃が炸裂、人面兎が吹っ飛ぶ。

 ダース単位で骨の折れる音が聞こえてきそうな光景だ。


「ふひふひ、ふひ!」


 このままでは殺される――本懐を遂げずに死んでしまうと判断したのか、人面兎は押し合いへし合いしながら逃げようとする。


「スキル・魔法極大化マキシマイズ並列起動マルチタスク×10」


 ユウカがスキルを発動するが、呪文の詠唱が間に合うか微妙な所だ。


「地震撃!」


 リブがポールハンマーを地面に振り下ろす。

 地面が激しく揺れ、人面兎をその場に足止めする。


「――顕現せよ、追尾弾ホーミング・ブリット!」


 その間に呪文が完成し、魔法が放たれる。

 追尾弾は無数に枝分かれし、自由になったばかりの人面兎の頭部を貫く。

 人面兎はバタバタと地面に倒れた。


「ほらな?」

「……」


 フジカはパクパクと口を開けたり閉じたりしている。


「さ、サトウのヤツ、あんなの反則っしょ」

「修羅場を潜ってるからな」


 死にそうな目に遭ったのは主にマコトだが、それは言わぬが花である。


「……三人組は、と」


 三人組と人面兎リーダーに視線を向ける。


「ぐわッ!」

「タケシ!」

「タケシさん!」


 火花が一瞬だけ闇を照らし、タケシが盾ごと吹き飛ばされる。

 民家の壁に叩き付けられ、そのままズルズルと座り込んだ。


「僕が食い止める! その間にタケシを!」

「分かりました!」


 コウキがタケシと人面兎リーダーの間に割って入り、剣を構える。


剣気解放オーラ・ブレード!」


 刃が白い光に包まれ、コウキは人面兎リーダーに突っ込んだ。

 剣を振るうたびに白い光が空間に残像を残る。


「これで勝負は決まりっしょ!」

「そんなに強力な技なのか?」

「当たり前っしょ! 並の武器なら簡単にぶった斬れるし!」


 剣と斧がぶつかり合い――。


「なッ?」


 驚愕にか、コウキが声を上げる。

 人面兎リーダーは斧でコウキの剣を受け止めていた。

 斧から黒い光が湯気のように立ち上っている。


「フヒィィィィィッ!」


 人面兎リーダーの肉体が膨れ上がり、いとも容易くコウキを押し返した。

 たたらを踏むコウキに襲い掛かる。


「オオオオッ! お前の相手は俺だッ!」


 タケシが雄叫びを上げながら突進する。


「フヒィィィィィッ!」

衝撃反転リフレクション!」


 人面兎リーダーが斧を振り下ろし、タケシの盾が光に包まれる。

 火花が散り、斧が振り下ろした時と同じか、それ以上のスピードで弾き返される。

 しかし、衝撃を跳ね返しきれなかったらしく、タケシが後退する。

 入れ替わるように体勢を立て直したコウキが突進、剣を振り下ろした。


「フヒィィィィィッ!」


 人面兎リーダーは声を上げ、跳び退った。

 塀を跳び越え、集落の外に出る。

 コウキの攻撃を躱しきれなかったらしく胸に傷が刻まれていた。


「フヒィィィィィッ! フヒィィィィィッ!」


 人面兎リーダーはコウキ達を睨み付ける。

 言葉自体は分からないが、復讐するみたいなことを言っているのだろう。


「フヒィィィィィッ!」


 人面兎リーダーは一際大きく叫び、身を翻した。

 そのまま人面兎と共に森に消える。


「やった! 勝ったし!」

「勝ってねーよ」

「どう考えても私達の勝ちっしょ?」

「こっちの勝利条件は人面兎を全滅させることなんだよ」

「それもそっか」


 フジカは素直に頷いた。

 見た目はギャルだが、性格は素直なようだ。


「ようやく一段落だな」

「お疲れ様です、マコト様」

「流石、兄貴ッス」

「……」


 もう危険はないと判断したのか、リブ、ローラ、フェーネ、ユウカが近づいてきた。

 ユウカはフジカから顔を背けている。

 どうやら、二人の間には確執があるようだ。

 十中八九、ユウカを置き去りにしたことが原因だろうが。

 バタッという音が聞こえ、振り返ると少年が倒れていた。

 口から泡を吹いている。

 それが切っ掛けとなったかのようにユウカのクラスメイト達が倒れたり、座り込んだりした。


「毒ッス!」

「キララ、解毒の魔法だ! フジカも早くしろ!」


 フェーネが叫ぶと、タケシが指示を出した。

 フジカは面白くなさそうな表情を浮かべる。


「えっと、このコートなんだけど」

「後で返してくれりゃいいよ」

「ありがと」


 フジカははにかむような笑みを浮かべ、クラスメイトの下に向かった。

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