Quest24:色欲を討伐せよ その4
※
「ようやく着いたな」
マコトは箱馬車から下り、凝りを解すために体を伸ばした。
ベキベキという音が響く。
宿を出てから半日ほどしか経っていないが、随分と凝っていたらしい。
小さく息を吐き、視線を巡らせる。
「……農村か」
独りごちる。
規模はジャイアント・スケルトンに襲われた村よりも遥かに小さい。
村と集落の境界が何処にあるのか分からないが、ここは集落という感じがする。
集落を取り囲む塀はやや太めの木材を組み合わせたものだ。
その外側には収穫を終えた麦畑が、さらにその外側には森が広がっている。
避難済みなのか、村人の姿はない。
「村人の姿が――」
「そこに立たれたら下りられないんだけど?」
「お、悪ぃ悪ぃ」
マコトは軽く言って、脇に退いた。
「少しくらい悪びれなさいよ」
「そこまで悪いと思ってねぇから十分だろ」
「……チッ」
ユウカは舌打ちし、箱馬車から下りた。
すぐにマコトの隣に移動する。
その場に留まっていたら嫌味の一つも言ってやろうかと思っていたのだが、考えを見透かされたのかも知れない。
「アンタの考えはお見通しよ」
「何を言ってるんだ、お前は」
こいつは心が読めるのかと戦慄しながら平静を装って答える。
「ピンときたのよ」
「お友達の前で優しくしてやらねーぞ」
「は? できる範囲で協力してくれるって言ったでしょ?」
「できる範囲は俺の心証で変わるんだよ」
「それは契約の不履行でしょ? できる範囲で協力するって言ったんだからちゃんと約束を守りなさいよ」
「契約書を交わした訳じゃないんだから努力義務だ」
「じゃ、やりなさいよ」
「おいおい、努力義務って意味を知ってるか?」
「知ってるわよ。努力義務は義務で、任意は強制って意味でしょ」
「何処の利権団体だ」
「色々あるわよね」
ユウカは指折り数えながら言った。
「ああいうお金を集めるシステムって、どうやったら作れるのかしら?」
「間違ってもネズミ講や募金詐欺に手を出すなよ」
「しないわよ。犯罪者にはなりたくないもの」
ちっとも安心できないのは何故だろう。
「でも、こっちの世界じゃ合法よね?」
「せめて、真っ当な商売をやれよ」
マコトは小さく溜息を吐いた。
「真っ当な商売でしょ?」
「足下を掬われても助けてやらねーからな」
「……じっくり考えてからにするわ」
ユウカは真剣な表情を浮かべて言った。
多分、自分が騙される可能性に思い当たったのだろう。
こいつはそういう女だ。
「お前の友達はまだ来てないみたいだな」
「来てるんじゃない?」
「なんで、分かるんだ?」
「村に人がいないし……建物の陰にちょっと豪華な幌馬車が止まってるでしょ、ちょっと豪華な幌馬車が」
改めて視線を巡らせると、建物の陰に幌馬車が止まっていた。
「確かに止まってるな」
「でしょ?」
「ところで……」
ん? とユウカは首を傾げた。
「どうして、二度も豪華な幌馬車って言ったんだ?」
「あたし達は箱馬車、あっちはちょっと豪華な幌馬車。どっちが大切にされているのか丸分かりでしょ」
ユウカは満足そうに言った。
まあ、予想通りだが――。
「到着、ですね」
「何事もなく到着できてよかったッス」
「ここからが本番だろ」
ローラ、フェーネ、リブの三人が箱馬車から下りる。
「これからどうするんだ?」
「箱馬車はこのままロックウェルに帰ってもらいます」
「帰りはどうするのよ?」
「魔法があるだろ、魔法が」
「そうだったわね。コロッと忘れてたわ」
ユウカはバツが悪そうに頭を掻いた。
「リブ、荷物を下ろすのを手伝って欲しいッス」
「おうよ」
フェーネとリブが箱馬車から荷物――食料などを下ろす。
「箱馬車はそれでいいとして、俺達はどうするんだ?」
「騎士団長のルーク殿に挨拶をします」
「知ってるか?」
「知ってるわよ」
マコトが尋ねると、ユウカはムッとしたように言った。
「本当か?」
「か、顔と名前は知ってるわよ」
念を押すと、ユウカは視線を逸らし、ふて腐れたように唇を尖らせた。
「なんで、見栄を張るんだよ?」
「見栄を張ってる訳じゃないわ」
「まあまあ、二人とも不毛な会話は止めて下さい」
流石、盾役と称賛すべきか、ローラが割って入る。
「分かった。それでルークってヤツにはどんな風に接したらいいんだ?」
「敬意を以て接して下さい」
「そりゃ、まあ、喧嘩を売るつもりはねーけどよ。力関係ってあるだろ?」
「……そうですね」
ローラは思案するように腕を組んだ。
「ルーク殿はヴェリス王国騎士団、我々はエルウェイ伯爵領の騎士団所属です」
「大企業と中小企業みたいなもんか。いや、待て。名誉騎士が騎士団員面をしてもいいのか?」
会社組織に当て嵌めればマコト達は中小企業の下請けみたいなものだ。
「組織図的に言えば――」
「組織図なんて見たこともねーよ」
この中途半端な合理性は何なのだろう、とマコトは呻いた。
「組織図的に言えばマコト様はクリス様の部下なのです」
「クソ、強かなガキだな」
「アンタも大概だけどね」
マコトはユウカの突っ込みを無視した。
「見下されない程度にへりくだって下さい」
「分かった。適当にやる」
「……適当」
ローラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「俺は貴族じゃないし、微妙な匙加減なんて分からねーしさ」
「分かりました。頑張ってフォローし――」
「サトウさん!」
何処かで聞いたような声がローラの言葉を遮った。
声のした方を見ると、少女が建物の近くに立っていた。
長い黒髪の、清楚そうな感じの美少女だ。
確か、ホシノ キララという名前だったはずだ。
キララは驚いた様子で駆け寄り、ユウカの手を握り締めた。
「サトウさん、よかった! 無事だったんですね」
「ええ、まあ、大変だったけど」
ユウカは困惑しているかのような表情を浮かべていた。
気持ちは分かる。
あれだけ陰口を叩かれたのだ。
心配そうにされてもどんな対応をすべきか考えてしまう。
「ユウカ、その人は?」
「前に話したでしょ? クラスの副委員長、ホシノ キララさん」
「初めまして、俺はイチジョウ マコト。黒炎って冒険者チームのリーダーをしてる」
「こ、こちらこそ」
マコトが手を差し出すと、キララは怖ず怖ずと手を握り返してきた。
すぐに手を離す。
「ユウカさんとは何処で?」
「骸王のダンジョンだよ。死にかけている所を助けてもらって……それ以来の付き合いだな」
詳細を省いて説明する。
キララはチラチラとユウカに視線を向けた。
「無事だったのなら、どうして……」
「まあ、ちょっと、色々あって」
ユウカは言葉を濁し、助けを求めるように視線を向けてきた。
「俺に付き合わせた感じだな」
「付き合わせた、ですか?」
「ユウカは王都に戻りたがっていたけど、俺にはその予定がなかったからな。それに、王都に戻るにしても金は必要だろ?」
「そう、ですね」
情報を制限していたことに罪悪感があるのか、キララは気まずそうに目を伏せた。
「おいおい、マコト。あたいらも紹介してくれよ」
「おいらもッス」
リブが荒っぽくマコトの肩に腕を回し、フェーネがピョンピョンと跳ねる。
「大きいのがリブ、小さいのがフェーネ、最後の一人がローラだ」
「女性ばかりのチームなんですね」
「おう、マコトに惚れた女ばかりだぜ」
「あたしは惚れてないけど?」
「ユウカ以外はマコトに惚れてるぜ」
ユウカが抗議し、リブは言い直した。
キララは微かに眉根を寄せた。
マコトに悪い印象を持ったのは間違いない。
「お~い、キララ」
またしても何処かで聞いたような声が聞こえた。
声のした方を見ると、鎧を着た男がいた。
確か、タケシと呼ばれていたはずだ。
「サトウ!」
タケシは驚いたように目を見開いた。
「サトウ?」
「サトウだって?」
建物から少年少女が次から次へと出てきた。
彼らは嬉しそうにユウカを取り囲んだ。
まあ、居心地が悪そうにしている女子が数人いたが。
「よく無事だったな。心配してたんだぜ」
「へ、へぇ~、そうなんだ」
ユウカは引き攣った笑みを浮かべながらタケシに応じた。
「そいつらは?」
「目付きの悪い男がマコト。お世話になってるチームのリーダー。で、フェーネに、リブに、ローラ」
ユウカは親指を立ててマコトを、手の平でフェーネ、リブ、ローラを指し示した。
それにしても、お世話になっているチームとは他人行儀な表現だ。
「今までどうしてたの?」
「マコトと一緒に冒険者稼業ね。今は活躍が認められてエルウェイ伯爵から名誉騎士の称号をもらったわ」
「冒険者になったんだ?」
「ええ、ダンジョンを探索したり、隊商の護衛を務めたり、最初は大変だったけど、今はBランクの冒険者よ」
「レベルは?」
「ビックリするくらい上がったわ。魔法も、スキルも沢山覚えたし」
「じゃあ、教会で討伐報酬がもらえることを知ってるんだ?」
「ええ、もちろんよ」
少年少女――クラスメイト達の質問にユウカは得意げな表情を浮かべて答えた。
どうやら、討伐報酬に関する情報は公開されているようだ。
「ユウカ、挨拶回りに行ってきていいか?」
「よろしく頼むわね、リーダー」
「おう」
失敗しなければいいんだが、とマコトは小さく溜息を吐いた。
「任せてもいいか?」
「ああ、ユウカのフォローは任せておけ」
リブはニヤリと笑った。
「ローラ、行こうぜ」
「では、こちらに」
「あ、あの!」
マコトとローラが歩き出し、キララが声を上げた。
「宜しければ案内しますが?」
「どうする?」
「……お願いします」
ローラは考え込むような素振りを見せてから言った。
ルークの場所は概ね把握しているが、案内してもらった方がいいと判断したのだろう。
※
「こちらにルーク団長がいらっしゃいます」
「へ~、ここに」
キララが立ち止まり、マコトは建物を見上げた。
尖り屋根で、古い映画に出てくる教会を思わせる。
村の中央にあるので、本当に教会として利用されていたのかも知れない。
「少々、お待ち下さい」
そう言い残して、キララは建物の中に入った。
「キララが申し出た時に考え込んでいたけど、あれって場所が分かってたからか?」
「ええ、こういう作戦の時は村の中央に指揮所を設けるものですから」
「それだけか?」
「馬車の配置からも何となく」
マコトは周囲を見回し、馬車の位置を確認する。
だが、規則性らしきものは見出せなかった。
「騎士ってのは凄いんだな」
「今はマコト様も騎士ですよ」
「勘弁してくれ」
マコトが呟くと、ローラはクスクスと笑った。
「その気になれば騎士団長にもなれると思いますが?」
「俺はスローライフを送りたいんだよ」
「本気ですか?」
「当たり前だろ」
「では、そういうことにしておきます」
金が貯まったら貯まったで暇を持て余しそうだな、とマコトは天を仰いだ。
扉が開き、キララが顔を覗かせた。
「マコト様?」
「マコトでいいよ」
「では、マコトさんで。どうぞ、お入り下さい」
促されて建物に入ると、そこはホールだった。
奥には祭壇があり、ホーリーシンボルが飾られている。
どうやら、本当に教会だったようだ。
長イスは左右に寄せられ、中央に大きなテーブルが設置されている。
上座には強面の男が座っていた。
恐らく、彼がルークだろう。
他に五人ほどの男が席に着いているが、コウキは末席にいた。
離れ小島みたいな位置なので、彼――ユウカのクラスメイトが冷遇されていると分かる。
「エルウェイ伯爵麾下、ローラ・サーベラス――」
「挨拶はいい」
ルークはゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてきた。
デカい、とマコトはルークを見上げた。
身長は優に2メートルを超えるだろう。
横幅もある。
「私はルークだ。王国騎士団の団長を務めている」
「俺はマコトだ」
息を呑む音が聞こえた。
ふと視線を落とすと、ローラが体を強張らせていた。
反応から察するに失礼な態度を取ってしまったらしい。
今更、取り繕っても仕方がない。
「俺は黒炎って冒険者チームのリーダーを務めている。今回は名誉騎士の称号を授かっていることもあって参加した」
「若いが、実力者なのだろうな?」
「さあ、ね」
マコトが肩を竦めると、ルークは意外そうに目を見開いた。
「謙遜か?」
「まさか、この前……馬鹿でかいスケルトンとやり合ったんだが、アンタの部下がいなけりゃヤバかった。レイモンド・スミシーって名前だったが」
「ああ、レイモンドは私の部下だ」
「一応、礼は言ったんだが、アンタから感謝していたと伝えてくれないか?」
「心得た」
ルークはニヤリと笑い、手を差し出してきた。
「バイソンホーン族風じゃないよな?」
「安心しろ。普通の握手だ」
手を握り返す。
意外にも普通の握手だ。
ルークは手を離し、小さく唸った。
「どうしたんだ?」
「マコト殿が手練れということは分かったが……」
「ああ、言いたいことは分かる。俺達は冒険者チームで、騎士団の流儀を心得ているのはここにいるローラだけだ」
マコトは言葉を句切った。
「たった五人のチームだ。意見を聞いてくれりゃ嬉しいが、果たせる役割は限られている」
「そうだろうな」
「だから、基本的にはアンタ達の決定に従いたいと思ってる」
「基本的にか?」
「これでも、四人の命を預かってるんでね。無茶な作戦はちょっとな。まあ、それ以外に方法がないんなら従うが」
「了解した。マコト殿には我々……ヴェリス王国騎士団と共に行動してもらう」
ルークはチラリとコウキに視線を向ける。
出汁にされたような気もするが、気にしても仕方がない。
「今日は何処に泊まれば?」
「部下に案内させよう。マコト殿が一休みするのは会議の後になるが……」
ルークは近くにあったイスを引いた。
ここに座れということだろう。
コウキより上座に近い。
「ローラ、フォローを頼む」
「もちろんです」
ローラは大きく頷いた。
※
「マコト殿の仲間はもう家で休んでるよ」
そう言って、レイモンドは手の平で家の扉を指し示した。
教会の近くにある民家だ。
美味しそうな匂いが漂っているので、ユウカ達は家で休んでいるのだろう。
「ありがとうよ」
「いやいや、いいんだよ。マコト殿のお陰で騎士団長の覚えがよくなったからね」
レイモンドは嬉しそうに微笑んだ。
「これからも頼むよ。君達が活躍してくれると、連絡員である僕も評価されるからね」
何処まで本気なのかレイモンドはそんなことを口にした。
連絡員――要はルークの意向をマコト達に伝える係だ。
マコト達の功績はレイモンドの、ひいてはルークのものとなる。
ユウカは汚いというかも知れないが、シフトや役割分担で便宜を図ってもらっている。
持ちつ持たれつというヤツだ。
「今日は早めに休むといいよ」
「ああ、聞いておきたいことがあるんだが?」
「何だい?」
「ルーク殿はどんな人なんだ?」
「マコト様!」
ローラが遠慮がちにコートを引っ張った。
「う~ん、嫉妬深い努力家って感じかな?」
「嫉妬深い努力家?」
「使えない技があると、努力して覚えるんだよ。多分、ヴェリス王国で最も多くの技を修めている騎士じゃないかな」
もちろん、騎士系の技に限られるけどね、とレイモンドは肩を竦めた。
「何かあったら真っ先に呼びに行くからね」
「ああ、頼む」
「頼まれたよ」
レイモンドは爽やかな笑みを浮かべ、去って行った。
「……マコト様」
「ユウカのクラスメイトとどんな関係だったのかも聞いておくべきだったか」
「マコト様!」
ローラがやや鋭く叫ぶ。
「なんだ?」
「あまり変な質問をしないで下さい」
「大事なことだろ?」
「それでもです」
ローラはムッとしたように眉根を寄せた。
「会議は上手く乗り切ったんだけどな~」
「肝を冷やしっぱなしでした」
「要求すべき所は要求しておかないと使い潰されちまうからな」
「はぁ、分かりました」
ローラは深々と溜息を吐いた。
マコトは扉を開け、家の中に入る。
家の中は地面が剥き出しで、入ってすぐの所にイスとテーブルがあった。
フェーネは料理の準備中、リブは席に着いて頬杖を突いていた。
ユウカは席に着き、笑っていた。
それはそれは嬉しそうに笑っていた。
「ただいま」
「お帰りッス」
「ご苦労さん」
マコトは空いている席に座り、リブを見つめた。
「どうしたんだ?」
「昔の仲間にチヤホヤされてアレだよ」
何故か、リブの頬は朱に染まっている。
「どうかしたのか?」
「昔の……調子に乗ってた頃を思い出しちまってよ」
よほど恥ずかしい思い出なのか、リブは顔を覆った。
「ユウカ、お前……チョロいな」
「だ、誰がチョロいのよ!」
「お、ま、え」
マコトはユウカを指差した。
「ふ、ふん、今のあたしは余裕があるからそれくらいじゃ怒らないわよ」
「今、怒ったばかりだろ」
「今のはノーカン」
「調子のいい女だな」
「言ってなさい。今のあたしは何でも許せる気分だわ」
そう言って、ユウカは相好を崩した。
「ね、ねぇ、もし、あたしが……」
「チームを辞めたいってんなら好きにしろよ」
「あたしがいなくても平気なの?」
「平気って訳じゃねーけど、ユウカの決めたことなら仕方がねーよ」
「兄貴、ドライッスね」
「ドライって訳じゃねーよ」
辞めていく人間を何人も見送ってきた身である。
「色々と思う所はあるんだが、俺には止める権利がないんだよな」
「リーダーなのに止める権利がないんスか?」
「そりゃ、悩みがあるんなら相談に乗るけどよ」
フェーネは非難がましい口調で言ったが、結局はユウカ次第なのだ。
「きちんと考えたか?」
「……ちょっと言ってみただけ」
ユウカは唇を尖らせ、しょんぼりと俯いた。
「ちゃんと考えろよ」
「分かってる」
優しい声を心掛けたつもりだが、ユウカはそっぽを向いた。
「で、どうだったんだ?」
「思ってたより普通だった」
「まあ、本人がいない所で盛り上がることはあるよな」
「でも、あれが本心ってことよね」
ユウカは盛大に溜息を吐いた。
「今はレベルも上がってるし、頼りにされるんじゃねーか?」
「戦力として頼りにされても」
ユウカは唇を尖らせ、そっぽを向いた。
「このパターンは駄目だな」
「いきなり何を言ってるのよ?」
「これは愚痴を聞くモードだ。お前は共感して欲しいんだろうが、俺は解決策を考えちまうから話が噛み合わず、喧嘩になる」
恋愛経験は豊富ではないが、その中で何度も経験したケースだ。
「相談に乗ってくれるんじゃなかったの?」
「愚痴を聞くって意味じゃなくて問題解決の手助けをするって意味だ」
「役に立たな――」
「できたッスよ。取り敢えず、ご飯を食べるッス」
「じゃ、あたいは皿を準備するよ」
フェーネが鍋を持ち上げ、リブが立ち上がった。
「まあ、じっくり考えろ」
「そうする」
ユウカはふて腐れたような声で言った。
※
「は~、美味かった」
「お粗末様ッス」
フェーネは空になった木の皿を重ね、部屋の隅にあった桶に入れた。
マコトはイスの背もたれに寄り掛かった。
「そう言えばあたいらはどう動けばいいんだ?」
「警備をするって案も出たんだが、基本的に待機だな」
敵――人面兎を誘導するために無防備を装う。
それがルークの考えた作戦だ。
あくまで無防備を装っているだけで警戒はしているとのことだ。
「待機かよ。つまらねーな」
「そう言うなって」
リブは顔を顰めたが、山狩りをするよりは安全だろう。
「敵が出たら――」
「おいらの出番ッスか?」
「いや、追跡は騎士団任せだ」
「出番なしッスか」
フェーネがしょんぼりと頭と尻尾を垂れた。
「じゃ、あたしらって何をすればいいのよ?」
「敵が群れで襲ってきた時に戦う感じだな」
「それで、1000万Aを巻き上げるの? 碌でなしね、アンタ」
「人聞きが悪いことを言うなよ」
そうなっても仕方がないかなとは思うが。
――! ――ッ!
マコトはこめかみを押さえた。
「また、電波を受信したの?」
「電波じゃねーよ」
声に集中する。
数は多いが、そこに込められた意思は似たり寄ったりだ。
「どうなの?」
「数は多いな。どれくらいいるか分からないが、とにかく多い。感情と言うか、衝動の塊みたいな感じだな」
「衝動って?」
「ユウカさん、人面兎は女を孕ませると」
「まあ、そういうことだ」
「……この仕事、受けるんじゃなかったかも」
ローラの説明を受け、ユウカは溜息交じりに言った。





