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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest23:狐火を使いこなせ【前編】



「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、繋がれ繋がれ回廊の如く、我が歩く道となれ! 顕現せよ! 転移テレポーテーション!」


 ユウカの魔法が発動し、マコトは浮遊感に包まれた。

 目を閉じ、再び開ける。

 すると、そこはダンジョン――探索を中断した縦穴の近くだった。

 マコトは視線を巡らせ、仲間がいるか確認する。


「ユウカ、フェーネ、リブ、ローラ、ちゃんといるな」

「ちゃんといるって何よ、ちゃんといるって」


 ホッと息を吐いたのも束の間、ユウカが絡んできた。


「石の中にいる、みたいな展開を心配してたんだよ」

「そんな訳ないじゃない」


 ユウカが呆れたような口調で言い、マコトは内心胸を撫で下ろした。

 元ネタのゲームをやったことがないので、あのゲームよね! と食い付いてきたら非常に面倒な事態になったはずだ。

 にわか扱いされるのは目に見えている。


「で、アンタって元ネタのゲームをやったことがあるの?」

「……」


 案の定と言うべきか、ユウカは食い付いてきた。

 可愛らしく小首を傾げる。

 仕草は可愛いのに可愛くない。


「なんで、後退るのよ?」

「嫌な予感がしたんだよ」


 マコトが後退ると、ユウカは突っ込んできた。


「で、あるの?」

「ねーよ」

「……」


 このにわかッ! と叫ばれると思ったが、無言だ。


「なんで、黙ってるんだよ?」

「にわかって言ったら、言い返されそうな気がしたのよ」


 ユウカは難しそうに眉根を寄せた。


「そりゃ、言い返すだろ」

「……にわか」

「言い返すって言ったのに、なんで言うんだ?」

「なんて言い返すか興味があったのよ。で、あたしがにわかって言ったらどう切り返すつもりだったの?」

「予想通りの行動だなって」

「ふ、残念ね」


 ユウカは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「アンタにあたしの行動は読めない」

「読めねーよ」

「でも、あたしにはアンタの行動が読めるわ。アンタは――」

「面倒臭ぇ女だなって思ってるよ」

「……」


 機先を制して言うと、ユウカはムッとしたように下唇を突き出した。

 アンタは面倒臭ぇ女だな、と言う。

 面倒臭ぇ女だな――ハッ! みたいな流れに付き合ってられないのだ。


「あたしに勝ったと思わないでよね」

「お前は何と戦ってるんだよ」

「気に食わないもの全部とよ」

「お前が変われよ」

「嫌よ」


 ユウカの場合、気に食わないものの方が多いのではないかと思う。

 だが、気に食わないものと戦おうとする気概は凄い。

 凄いだけで真似しようとは思わないが。


「けど、それじゃ疲れるだろ?」

「常在戦場、日々之決戦って感じね」

「お前は予備校の回し者か」

「……予備校には行ってないわよ」


 ユウカは呻くように言った。


「つまり、お前は学校で勉強している時にクラスメイトがシャープペン片手に襲い掛かってきたり、スーパーで擦れ違った主婦が大根片手に襲い掛かってきたりするかも知れないって考えてるのか」

「何よ、それ! まるっきり病気じゃない!」

「常在戦場は何処に行ったんだよ。常在戦場って言うくらいなんだから常に戦う想定をしろよ。擦れ違ったコートの男がいきなり真っ裸になって奇声を上げながら髭ダンスを踊り出しても対応できるくらいの心構えが必要だろ」

「そこまで想定できないわよ」


 ユウカは拗ねたように唇を尖らせる。


「お前は戦場を舐めてる。兵隊さんはもっと色々想定してるんだよ」

「嘘を吐かないでよ! 擦れ違ったコートの男が……とにかく、そんな戦場ないわ! そもそも、アンタには戦争経験がないでしょッ?」

「ばッ、おま、俺がこの世界に召喚されてから何度死にそうな目に遭ったと思ってるんだよ! 普通なら死んでるぞ!」


 マコトは怒鳴り返した。

 確かに戦争経験はないが、何度も死にそうな目に遭っているのだ。

 修羅場の経験では兵士にだって負けていないはずだ。


「とにかく、そんなお前に一言だ! 敵を作るな!」

「敵を、作るな?」


 ユウカは神妙な面持ちで言った。

 そこで目から鱗が落ちたと言わんばかりの表情を浮かべられても困るのだが。


「武術を学ぶ時は技だけじゃなくて礼儀作法も学ぶんだよ」

「どういうことよ?」

「つまり、だ」

「要点だけでいいわ」

「礼儀正しくしておけば余計な敵を作らずに済むってことだよ」


 武術と礼儀をセットで教えることで生き残ってきたという側面もあるのだろうが、護身という側面もあるのではないだろうか。

 武術を学ぶ人間は血の気の多い者が多いと思う。

 血の気の多い人間が互いに舐めた態度を取り合えば喧嘩になると容易に想像できる。

 現代ならいざ知らず、帯刀が許されていた時代なら刃傷沙汰だ。

 そういう事態を避けるために技と礼儀をセットにしたのではなかろうか。


「ちょっといい話を聞いたわ。人間四十年も生きていれば一つくらい他人に話せることがあるものね」

「四十年も生きてねーよ」


 まだ三十八歳だ。

 それに、何気に小馬鹿にされている。


「まあ、だから、お前も礼儀作法を学べ」

「礼儀作法ね」

「面倒臭いって顔に書いてあるぞ?」

「そんなことないわよ」


 図星だったのか、ユウカは目を泳がせた。


「とにかく、礼儀を学べ」

「分かったわよ」

「そして、俺を敬え」

「真っ平御免よ!」

「礼儀を学ぶのはよくて、俺を敬うのは嫌なのかよ!」

「そうよ!」


 ユウカは力強く言い切った。

 ここまで言い切られると清々しい。


「兄貴と姐さんはいつもテンションが高いッスね」


 フェーネがボリボリと尻尾を掻きながら言った。


「まだ、痒いのか?」

「痒いと言うか、ムズムズするッス」


 フェーネは顔を顰め、尻尾を激しく掻く。


「病院に行ったか?」

「……」


 マコトが問いかけてもフェーネは無言だ。

 恐らく、病院に行かなかったのだろう。


「どうして、行かない――」

「まあ、待て」


 マコトはユウカを手で制した。

 体調不良で会社を休んだ時、どうしても億劫で病院に行けなかったことがある。

 あの時は上司に散々文句を言われ、酷く傷付いたものだ。

 もちろん、上司の言うことは正しい。

 だが、時には理屈としての正しさより相手のことを気遣う優しさが必要なのではないかと思う。


「どうしたんだ?」


 マコトはフェーネに目線を合わせ、優しく語りかけた。


「病院は嫌ッス。お金を取られるばかりで治らないッス」

「……そっか」


 マコトはフェーネの頭を優しく撫でた。

 もしかしたら、両親の死に関係しているのかも知れない。

 そこにズカズカ踏み込むのは酷だろう。


「心細いのは分かる。だから、俺が一緒に行ってやるよ」

「う~、兄貴と一緒なら」


 マコトはポンポンとフェーネの頭を叩き、ローラに視線を向けた。


「いい病院を教えてくれ」

「もちろんです」


 ローラは任せて下さいとばかりに頷いた。

 マコトは体を起こし、縦穴を見つめた。

 ロープが垂れ下がっているので、すでに二階層に下りた者がいるのだろう。


「よし、下りるか」

「待った」

「分かってるよ。パンツを見られたくないんだろ」

「くッ、そうよッ!」


 恥ずかしいのか、ユウカは顔を真っ赤にして言った。



 マコト達は隊列を組み、ダンジョンの二階層を進む。

 隊列は一列目にリブとローラ、二列目にフェーネ、三列目にユウカ、最後がマコトだ。

 二階層の構造は一階層と同じだ。

 広い空間を通路が繋いでいる。

 骸王ダンジョンも、不帰ダンジョンも同じ構造をしていた。


「ダンジョンは何処も変わらねーんだな」

「一階層でも同じことを言ってたわよ」


 マコトが感想を漏らすと、ユウカは呆れたような口調で言った。


「そうだったか?」

「そうよ」

「でも、変だよな」

「何がよ?」


 マコトはダンジョンの壁に触れた。


「ダンジョンってのは強いアンデッドとか、弱いアンデッドの群れが作るんだろ?」

「……そう説明されたけど」


 ユウカの声は不信感に塗れている。

 最低限の知識しか与えられずにダンジョンに放り込まれたのだから疑いたくなるのも無理はない。


「ローラ、ダンジョンはアンデッドが作るってことでいいのか?」

「……その通りです」


 ローラは少し間を開けて答えた。


「アンデッドは生物を殺すことでペリオリス様が管理する力を奪うと言われています。恐らく、奪った力でダンジョンを作っているのでしょう」

「ああ、なるほど」


 マコトは頷いた。

 本来ならば死んだ生物はペリオリスの御許に召される。

 言い換えれば管理下に置かれるということだ。


「やっぱり、力を奪われると弱体化するのか?」

「世界が滅ぶと言い伝えられています。それを回避するために客人まれびとが召喚されるとも」

「テンプレ的と言うか、他力本願ね」


 ユウカは呆れたように言った。

 もう少し言葉を選べと思うが、概ね同意見だ。

 う~、う~、とフェーネは尻尾を掻いている。

 かなり辛そうだ。

 本人には言えないが、毛が転々とダンジョンに落ちている光景はヘンゼルとグレーテルと思い出す。

 あとは姥捨て山か。

 山に捨てられる母親は息子が道に迷わないように枝を折るのだ。

 しかし、息子は親心に気付かず、未練がましいことをせんでくれと言ってしまうのだ。

 親心に気付いた時にはすでに遅しである。


「そろそろ、広い空間に出そうだな」

「え?」


 マコトが呟くと、フェーネは慌てふためいた様子で顔を上げた。

 その時、首筋がチクリと痛んだ。


「敵だ」

「分かってるって!」

「はい!」


 リブとローラが武器を構える。

 直後、五体のスケルトン、いや、スケルトン・ウォーリアがこちらに近づいてきた。

 かなりスピードが速い。


「はわッ!」


 フェーネは奇妙な声を上げ、地図をポーチにしまい、スリングショットを取り出す。

 いつもなら気付いているはずだが、痒みで集中できていないらしい。


「ユウカ、魔法で数を減らせ!」

「分かってるわよ! リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、穿て穿て礫の如く――」

「地震撃!」


 呪文を唱える時間を稼ごうとしてか、リブがポールハンマーを地面に叩き付ける。

 亀裂が地面に走り、スケルトン・ウォーリアに向かって伸びる。

 直線の通路に逃げ場はない。

 スケルトン・ウォーリアは地震撃の効果――移動阻害を受ける。


「我が敵を貫く礫となれ! 顕現せよ、魔弾ブリット!」


 ユウカの魔弾が先頭にいたスケルトン・ウォーリアの頭蓋骨を粉砕し、その後ろにいた個体の頭蓋骨を半ば吹き飛ばす。

 頭蓋骨を粉砕された個体はバラバラになったが、頭蓋骨を半分吹き飛ばされた方はまだまだ健在だ。

 普通のモンスターならば行動不能になっているはずだが、アンデッドは厄介だ。

 ともあれ、スケルトン・ウォーリアは残り四体だ。


「ハァァァァッ!」


 ローラは盾を構えたまま突進する。

 地震撃の効果が切れたらしく、スケルトン・ウォーリアが足を踏み出しながら剣を振り上げる。

 だが――。


盾撃シールド・バッシュ!」


 ローラは一瞬にして加速、剣を振り上げていたスケルトン・ウォーリアを吹き飛ばす。

 スケルトン・ウォーリアは背中から地面に叩き付けられるが、行動不能に陥る程ではなかったらしくすぐに立ち上がろうとする。


「盾撃!」


 さらに盾撃を繰り出し、頭蓋骨が半分吹き飛んだ個体をダンジョンの壁に叩き付ける。

 盾と壁に挟まれたスケルトン・ウォーリアは砕け、骨がバラバラと地面に落ちる。

 残るスケルトン・ウォーリアは三体。


「オラァァァッ!」


 リブがポールハンマーを振り下ろし、スケルトン・ウォーリアを粉砕する。

 いや、押し潰すに近いか。

 ともかく、残りは二体だ。

 スケルトン・ウォーリアが剣を振り下ろす。

 ローラは難なく盾でいなし、前傾になったスケルトン・ウォーリアの首筋に剣を振り下ろした。

 スケルトン・ウォーリアの頭蓋骨が地面に落ち、体がバラバラになった。


「新入り、任せるぞ!」

「任されました!」


 ローラはリブに答え、最後のスケルトン・ウォーリアと対峙する。

 マコトは首筋を押さえた。

 まだアンデッドがいるのか、首筋がチクチクする。


「ハァァァァッ!」


 ローラが盾を構えながら飛び出したその時、天井付近からゴースト、いや、ゴースト・メイジが飛び出した。

 ゴースト・メイジが炎を放つ。


衝撃反転リフレクション!」


 ローラはその場で急停止、炎を反射する。

 ゴースト・メイジが炎に呑み込まれて消滅し、魔石が小さな音を立てて落ちる。


「新入り!」


 リブが叫ぶ。

 スケルトン・ウォーリアが剣を腰だめに構えて突っ込んできた。


「あ、危ないッス!」


 フェーネがスリングショットで金属の球体を放つ。

 次の瞬間、金属の球体が漆黒の光に包まれた。

 さらに着弾と同時に漆黒の炎が膨れ上がり、スケルトン・ウォーリアを呑み込んだ。

 スケルトン・ウォーリアはあっと言う間に崩れ去った。


「今の何スか?」


 フェーネが間の抜けた声を漏らし、ボムッという音が響く。

 音が生じたのはフェーネの尻尾付近だ。


「屁でもこいたのか?」

「こいてないッスよ!」


 フェーネがリブに食って掛かる。


「……待て」

「ギャヒィィィィッ!」


 マコトが尻尾を掴むと、フェーネは悲鳴を上げた。


「な、なな、何をするんスかッ?」

「……お、おい」


 フェーネがマコトの手を振り払い、リブが神妙な面持ちで声を掛ける。


「何スか?」

「尻尾が二本に増えてるぞ?」

「馬鹿なことを言わないで欲しいッス」


 そう言いながらも気になったのか、フェーネは体を捻って尻尾を確認する。

 沈黙が舞い降り、ユウカがカウントを開始する。


「一、二、三、四、五、ろ――」

「尻尾が二本になってるッス!」


 フェーネは絶叫し、その場でぐるぐると回った。

 そう、フェーネの尻尾は二本に増えていた。

 一本だった尻尾が二つに分かれたのではなく、文字通りに増えたのだ。

 つまり、尻尾のボリュームが二倍ということだ。


「病気ッスか? 病気ッスかッ? こんなことなら病い――」


 フェーネはピタリと動きを止めた。


「……おいらはレベルが上がったッス!」


 どれどれ、とユウカは目を細めた。


「レベル23になって、セカンドジョブが精霊術士になってるわ」

「余剰分の経験値でレベルアップしたってことか?」

「分からないわよ。でも、尻尾が二本に増えたのは絶対にアンタのせいね」


 ユウカは腕を組んで言い放った。

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