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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest22:シェリーを攻略せよ その7【修正版】


※


「入っていいぞ」

「突撃!」


 マコトが合図すると、衛兵が『黄金の羊』亭に雪崩れ込んできた。


「もう終わってるよ」


 犯人達は無力化してある。

 髭面の男は死亡、残る二人は運がよければ助かるだろう。

 一人残っていたか、とマコトはアランを見つめた。

 アランは衛兵に囲まれていた。


「大人しくしろ!」

「分かった。分かったから乱暴にしないでくれ」


 アランが降参の意思を示すように手を上げ、衛兵が乱暴に縄で手首を縛る。

 抵抗されないように後ろ手に、だ。

 シェリーは豊かな胸を隠すように我が身を掻き抱きながら立ち上がる。

 水薬(ポーション)が効いたのか、足取りはしっかりしている。

 マコトは髭面の男を見下ろし、舌打ちをした。


「……アラン」

「……シェリー」


 シェリーは一歩、二歩と歩み寄り、アランは辛そうに俯いた。

 馬鹿な女だと思う。

 あんな目に遭ってもまだ愛しているのだ。

 その一方で、自分の小ささを思い知らされる。

 フェーネから夢――借金を返して弟と一緒に暮らす――を聞かされた時と同じだ。

 あの時は否定的なことしか考えられなかった。

 今回だって同じだ。

 自分にはフェーネのような健気さも、シェリーのような一途さもない。

 だから、両親や兄のことを受け容れられなかったのではないか。

 そんなことを考え、頭を振る。


「……どうすれば」


 よかったんだろうか、とマコトは小さく息を吐いた。

 もう少し時間があれば別の方法――三人だけを殺してアランを自由にしてやることもできたはずだ。

 そうすればシェリーは傷付かずに済んだ。

 衛兵がアランを外に連れ出そうとしたその時――。


「どうして、俺を裏切ったんだ! 俺は、俺はお前のために頑張ったのに! クソみたいな生活をしている時もお前のことを考えていたのに!」


 突然、アランが喚きだした。

 一瞬、頭が真っ白になった。

 この男は何を言っているのか。

 マコトにだって、シェリーがアランを愛していると分かる。

 それなのに――どうして、そんな酷い言葉を吐けるのだろう。


「この裏切り者! その男とできてるんだろ!」


 ――ッ!!


「痛ッ!」


 マコトは耳を押さえた。

 声が聞こえた。

 いや、それは音に近かった。

 ギリギリの所で破壊を免れていた心がとうとう限界を迎えて砕け散る音だ。


「静かにしろッ!」


 衛兵が殴りつけ、さらに罵声を浴びせかけようとしたアランを黙らせる。

 アランは無言でシェリーを睨んだ。

 目が悪くてよかったな、とマコトはそんな感想を抱く。

 彼の瞳が憎悪に歪んでいたからだ。

 俺がこんな目に遭ったのはお前のせいだ。

 俺がこんな惨めな境遇に身を落としたのはお前のせいだ。

 どうして、俺がこんな目に――。

 それは身に覚えのある感情で、マコトは吐き気を堪えなければならなかった。

 シェリーは糸が切れたようにその場にへたり込み、アランは連行されて行った。


「失礼します」


 数人の衛兵が入ってきた。

 死体を片付けるためか、戸板を持っている。

 衛兵は死体を戸板に乗せ、店の外に運び出した。


「シェリー?」

「――ッ!」


 マコトが呼びかけると、シェリーはビクッと体を竦ませた。


「こっちで何とかするからシャワーでも浴びてろ」

「は、はい、お願いします」


 シェリーは立ち上がり、夢遊病者のような足取りでカウンターの奥に消えた。


「……マコト」


 リブはマコトの肩に腕を回す。


「何だよ?」

「シェリーを慰めてやれ」

「なんで、俺がそんなことをしなきゃいけねーんだよ」


 思わずリブを見つめる。

 誰かが一緒にいてやる必要はあると思うが、その役目はマコトではなく、女の方が向いているのではないだろうか。


「あのな、あの状態で放置したら死んじまうぞ?」

「面ど……明日はどうするんだよ?」


 明日はダンジョンの探索――ローラのレベル上げだ。


「あたいがユウカとローラにミーティングになったって言っておくよ」

「リブはシェリーを助けるのに反対じゃなかったのか?」

「別に、反対って訳じゃねーよ。放っておけばいいじゃんって思ってただけだ。フェーネもそうだよな?」

「まあ、そうッスね」


 フェーネは歯切れが悪い。


「それに、あの状態なら簡単に股を開くぜ? マコトだって狙ってたんだろ?」

「狙ってねーよ」


 マコトはうんざりとした気分で突っ込んだ。


「じゃあ、どうしてッスか?」

「どっちにしても嫌な思いをするんなら助けた方がいいと思ったんだよ」

「兄貴らしいッスね」


 フェーネは微かに口元を綻ばせる。


「お前らは、その、いいのか?」

「何がッスか?」

「お前らの気持ちに……応えられなくて」


 好きだと言ってくれたのだ。

 その気持ちを裏切ることにはならないだろうか。


「あたいは次のチャンスを待つからいいよ」

「嫌いって言われた訳じゃないッスからね」

「……俺はそこまで甲斐性ねーぞ」


 自分のことだけで一杯一杯になってしまうのだ。

 万が一、シェリーとそういう関係になったら完全に余裕がなくなるような気がする。

 自分のような人間には悪い男になるのは難しい。


「そういう価値観ってここじゃ普通なのか?」

「貴族や金持ち連中は妾を囲ってるな」

「そうッスね」


 俺らの世界でも囲ってるヤツはいたけどよ、とマコトは心の中で突っ込む。


「けど、まあ、ありがとうよ」

「どうしたんだよ、藪から棒に?」

「なんだかんだと付き合ってくれたからな」


 放っておけばいいと言ったくせに付き合いがいいにも程がある。


「兄貴が助けるって決断をしたならそれを後押しするだけッスよ」

「そうだな」

「本当に俺には勿体ない仲間だよ」


 マコトは口元を小さく綻ばせた。


※


「……慰めてやれと言われてもな」


 マコトは自分の部屋――101号室のベッドに横たわり、独りごちる。

 照明を消し、カーテンを閉めているが、暗視(スキル)のお陰で闇を見通すことができる。


「まあ、ま……慰めてやれとは言われたけど、抱けとは言われてないしな」


 精神的に弱り切っている所に夜這いを掛けるのは気が咎めるし、さらにショックを受けて自殺されても困る。

 ヘタレと言われそうだが、無用なリスクを犯したくない。


「よし、抱かない方向で」


 マコトが決意した時、扉が開いた。

 ランプ――これもマジックアイテムだ――の明かりが白々と部屋を照らす。

 同時に部屋に入ってきた者の姿も。

 部屋に入ってきたのはネグリジェを着たシェリーだった。

 今、『黄金の羊』亭にいるのは自分達だけなので当たり前と言えば当たり前だが、夜這いを掛けられるとは思わなかった。


「……旦那、起きてますか?」

「ああ、起きてるよ」


 マコトは体を起こし、ベッドの縁に座り直した。

 シェリーは机の上にランプを置き、ベッドから少しだけ離れた場所で立ち止まった。


「どうしたんだ?」

「……」


 こんな夜更けにネグリジェ姿で男の部屋を訪れたのだ。

 夜這いの確率が高い。

 もし、夜這いでないとしてもそれなりに覚悟はしているはずだ。


「どうしたんだ?」

「……旦那に、御礼を言っておこうと思ったんですよ」


 改めて尋ねると、シェリーは声を絞り出すように言った。

 羞恥からか、頬は朱に染まっている。


「夜這いじゃねーのか?」

「――ッ!」


 シェリーは息を呑み、恥ずかしそうに俯いた。

 抱かないと決めたせいか、面倒臭さが先に立つ。


「夜這いに来たんなら止めようぜ。俺は……そんなことをされなくてもシェリーを支えてやるからさ。分かったら、とっとと帰ってくれ」

「……」


 シェリーは唇を噛み締める。

 傷付けてしまったかと思ったが、こんな方法で慰めても傷付くのはシェリーだ。


「……区切りを付けたいんですよ」

「利用されるのは好きじゃない」


 頼むから諦めてくれ、とそんな気持ちでシェリーを見つめる。


「区切りを付けたいんです」

「俺は……酷いことをするぞ?」


 まあ、嘘ではない。

 こっちの意図を汲んでくれないシェリーに苛々しているし、本当に久しぶりに女を抱くので歯止めが利くのか分からない。


「……区切りを、付けさせて下さい」

「分かった」


 マコトは静かに頷いた、


※


 シェリーがベッドに座り、手櫛で髪を整えている。

 うなじから首筋のラインが色っぽく、その姿が実にサマになっている。

 カメラがあれば写真に撮っている所だ。

 この敗北感はなんだろう、とマコトは頬杖を突いた。

 恋人ならば絶対にしないような乱暴さで抱いたのだが、シェリーは最後まで耐え抜いて見せた。

 耐える姿がいちいちエロいのだ。

 正直、後生ですから堪忍して下さいは反則だ。

 狙って言ってたんじゃないかとさえ思う。

 だからこその敗北感だ。

 この敗北感を拭い去る方法は一つ。

 マコトはベッドから下り、机の上に置いた煙草を持って戻る。

 取り敢えず、煙草を吸っておけば何となく余裕が演出できるのだ。

 ジッポーでマルボロに火を点け――。


「ゲホゲホッ!」

「旦那、何をしているんですか?」


 マコトが激しく噎せ返ると、シェリーは振り返った。

 呆れたような表情を浮かべている。


「吸えもしないのにこんな物を」


 シェリーはマコトからマルボロを奪い、フィルターを咥えた。

 そして、紫煙を吐き出す。

 今度こそマコトは打ちのめされた。

 マルボロはタール数が高いので、初心者にはキツいのだが。


「普段から煙草を吸ってるのか?」

「偶に吸いますよ」


 シェリーはこともなげに答えた。

 責任を取らなきゃな~、とマコトはベッドに横たわり、頬杖を突いた。


「旦那、責任を取るなんて考えないで下さいよ」

「考えてねーよ」


 咄嗟に嘘を吐く。

 年下の娘に心の内を見透かされたのが恥ずかしかったのだ。


「よかった」

「何が?」

「旦那は上に行く人ですからねぇ」

「上に行けるとは限らねーだろ」


 実力があっても上に行けるとは限らないのが世の中だ。


「それでも、私みたいな女に躓いちゃいけませんよ」

「躓いたとは思ってねーけど」


 本当に上に行く力があるのならシェリーを抱えてでも上に行けるはずだ。

 全てを抱えて上に行く。

 そんな気持ちが湧き上がる。

 金も、女も――実に欲深い。


「シェリー、もう一回するぞ」

「煙草はどうするんです?」

「点火(イグニッション)」


 マコトはシェリーからマルボロを奪い、漆黒の炎で塵に変える。


「これでいいだろ?」

「もう区切りは付いたんですけどねぇ」

「初めてを捧げた男にそれはねーだろ?」

「――ッ!」


 シェリーは息を呑んだ。


「あれだけぎこちなけりゃ気付くって」

「それなのにあんな酷いことをしたんですか?」

「俺は酷いことをするって言ったぜ」


 忠告したのに従わなかったのはシェリーだ。

 よって、シェリーが悪い。


「……優しくして下さいよ?」

「善処する」


 マコトはシェリーを背後から抱き締めた。

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