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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest22:シェリーを攻略せよ その4



 ユウカの声がダンジョンに響き渡る。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、導け導け灯火の如く、我を導く灯火となれ! 顕現せよ! 灯火ライト!」


 呪文が完成し、杖から眩い光が放たれる。

 転移テレポーテーションの目印となる魔法だ。

 今日の探索はこれで終了だ。

 転移で街に戻り、次回はここ――二階層に続く縦穴から探索を再開する。


「……今日は疲れたわ」

「家に着くまでが遠足だぞ」

「何が遠足よ」


 ユウカは拗ねたように唇を尖らせた。


「二つもモンスターハウスがあるとは思わなかったわ」

「まあ、ちょっとびっくりしたな」

「少し!?」


 マコトが苦笑すると、ローラはギョッと目を剥いた。


「普通は死んでしまうと思うのですが?」

「何とかなったしな」


 ローラは呆れたような口調で言ったが、一つ目のモンスターハウスでも、二つ目のモンスターハウスでもそれほど苦労せずにゴーストを殲滅することができた。


「……私は疲れました」

「新入り、だらしねーぞ」


 ローラは青息吐息だが、リブは元気が余っているようだ。


「リブはあまり働いてないッスからね」

「……新入りのレベルアップが目的だったし、モンスターハウスじゃポールハンマーが届かなかったんだよ」


 リブはふて腐れたように唇を尖らせる。


「まあ、姐さんとローラさんが疲れたって言うのも無理ないッス。何しろ、一階層を探索し尽くしたッスからね」

「凄いことなのか?」

「もちろんッスよ。一日で一階層を探索し尽くすなんて騎士団でもできないッス」


 むふ~、とフェーネの鼻息は荒い。


「お陰でレベルが2も上がりました」

「やっぱり、安全マージンを取ってるとレベルアップが遅いな」

「……かなり早いペースだと思いますが」


 ローラは訝しげに眉根を寄せる。


「兄貴と姐さんはぶっ壊れてるッスからね」

「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでよ」

「でも、本当のことッスよ?」

「あたし達だって、安全マージンを取って強くなれるんならそうしたかったわ」


 骸王ダンジョンのことを思い出しているのか、ユウカは拳を握り締めた。

 酷い目に遭ったのは俺だけどな、と思わないでもない。

 川に流され、滝から落ちた時もユウカは傷一つ負わなかった。

 あの時は本当に庇わなかったので、強運の持ち主と言える。

 いや、マコトが不運なだけか。

 もしかしたら、運を吸い取られているのかも知れない。


「とにかく、街に戻るわよ」


 ユウカは溜息を吐き、杖を構えた。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、繋がれ繋がれ回廊の如く、我が歩く道となれ! 顕現せよ! 転移テレポーテーション!」


 浮遊感に襲われて目を閉じる。

 目を開けると、そこは南城門の前だった。

 夜の帳が降り、大気はやや冷たい。


「なんだ。また、アン――お疲れ様です!」


 門番は胸を撫で下ろそうとし、ビシッと背筋を伸ばした。


「ご苦労様です」

「いえ! とんでもございません!」


 ローラが声を掛けると、門番は上擦った声で答えた。

 暇を出されたと言っていたが、権勢は衰えていないようだ。

 恐らく、これは周囲の人間がクリスティンの意図――示しのために暇を与えざるを得なかった――を理解しているからだろう。

 確かにローラは失態を繰り返したが、盗賊団からクリスティンを守りきり、誘拐犯からクリスティンを奪還しているのである。


「通行証の確認をお願いします」

「……確認などしなくても」

「いえ、それでは示しが付きません」

「で、では」


 門番は怖ず怖ずと手を伸ばし、ローラの通行証を確認した。

 マコト、ユウカ、フェーネ、リブの順で確認する。


「問題ございません。お通り下さい」

「ご苦労様です」


 ローラは門番に労いの言葉を掛け、歩き出した。

 マコト達も後に続く。

 城門を抜け、市街に入る。

 やはり、この時間になると人気は少ない。

 マコト達は大通りを進む。


「大したものだな」

「何がですか?」

「さっきの対応だよ」

「普通だと思いますが?」

「なかなかできねーんだよ」


 立場を笠に着ないというのはなかなか難しいのだ。

 今の遣り取りを見ると、ローラが権勢を失っていないのは人柄故ではないかという気がしてくる。


「立派なもんだ」

「あ、ありがとうございます」


 ローラは恥ずかしそうに俯いた。


「マコト、今のアンタって凄く偉そうよ」

「なんでだよ?」

「見た目がガキだからよ」

「結局、それかよ」


 マコトはうんざりした気分で言う。

 まあ、言いたいことは分かる。

 中身はアラフォーでも、外見は少年なのだ。

 傍から見れば礼儀を弁えていないガキに見えることだろう。


「毎朝、鏡を見るたびに夢を見てるんじゃないかって気になるよ」

「そう言えばローラっていくつなの?」

「スルーすんなよ」


 結構、格好いい台詞を吐いたつもりなのだが、スルーされると辛い。


「……二十歳を少し超えました」

「いくつよ?」

「二十歳を、少し、超えました」


 ローラは奇妙な迫力を滲ませつつ言った。


「この世界って何歳くらいで嫁ぐのが普通なの?」

「……くっ」


 ユウカに容赦なく責め立てられ、ローラは小さく呻いた。

 くっ、殺せと言い出しそうな雰囲気である。


「大体、十五歳って所じゃないッスかね?」

「人によるだろ、そんなもん」


 リブの言葉にローラは表情を和らげた。


「でも、二十歳前にゃ結婚するんじゃねーの?」

「余裕ッスね?」

「あたいにゃまだまだ余裕があるからな」

「そんな調子だと行き遅れるッスよ」

「大丈夫だっての」

「……ぐっ」


 フェーネとリブが追い打ちを掛け、ローラは呻いた。


「ふ~ん、この世界って結婚が早いのね」

「生物としてのサイクルに従ってる訳か」


 聞きかじった知識に過ぎないが、人間は十五歳くらいで子どもを産むのが生物として正しいサイクルらしい。

 まあ、未成熟な社会と成熟した社会を比べても仕方がないとは思うのだが。


「アンタは生物としてのサイクルを無視してる訳けどね」

「見た目はガキなんだからノーカンだ、ノーカン」

「精々、頑張りなさい」

「なんで、上から目線なんだよ」

「あたしは一回目だし」

「……そうかよ」


 お前も同じ目に遭ってしまえ、と心の中で呪詛を吐く。


「でも、大変じゃない?」

「何が?」


 マコトが問い返すと、ユウカはローラに視線を向けた。


「な、何が大変なのでしょう?」

「世間体が悪いでしょ」

「……世間体」


 ローラは神妙な面持ちで呟いた。


「見た目の年齢差がね」

「……ぐっ」


 ローラはまたしても呻いた。


「カップルにしては歳の差が――」

「止めてやれ、ローラのHPは0だぞ」


 マコトはユウカの言葉を遮った。


「で、でも、マコト様の気持ち次第ですよね?」

「兄貴は若い方がいいんじゃないッスかね」

「いや、胸だろ。あたいの胸をジーッと見てることがあるからな」

「……ふぐっ」


 フェーネとリブが見事に連携し、ローラを撃墜する。

 ちょっと涙目だ。

 ローラにだって結婚できない事情があったのだろうし、指摘しすぎるのはマズいような気がする。

 何だか、可哀想になってきた。


「俺は気にしねーよ」

「ま、マコト様!」


 ローラは喜色満面だ。


「まあ、ローラさんが大丈夫ならおいらも」

「そうだな」


 フェーネとリブは安堵しているかのような表情を浮かべている。

 ドツボに嵌まったような気がするのは何故だろう。


「アンタのサードジョブは墓掘りね」

「……自覚はあるよ」


 ユウカの追い打ちに呻く。

 呻くしかない。


「……面倒臭ぇ」

「面倒臭がっている間に外堀を埋められるに100Aを賭けるわ」

「デカい額を賭けるんだな?」

「時間の問題だと思ってるもの」


 ユウカは自信満々だ。


「アンタは?」

「俺が埋められない方に賭けないと、賭けが成立しないだろ」

「で、どっち?」

「賭けは成立しねーよ」


 すぐではないにしろ、いずれ押し切られそうな気がする。

 マコトは深々と溜息を吐いた。


「俺の何処がいいんだよ?」

「お金を持ってて、強いからでしょ」

「金が上にくるのかよ」

「この場合、強い=お金を稼げるって意味だけど」

「両方、金じゃねーか」


 女性に幻想を抱くような歳ではないが、もう少し取り繕って欲しいものだ。


「馬鹿ね。女はお金が好きなのよ」

「俺だって、金は好きだよ」


 元の世界では金に好かれていなかった。

 むしろ、嫌われていた。

 あんなに激しく求めていたのにマコトの気持ちは一方通行だった。

 相思相愛という訳にはいかないらしい。


「……あいつは」


 マコトはアランが路地に入っていく所を目撃した。

 怪しげな男も一緒だ。

 視線を巡らせるが、ユウカ達は気付いていないようだ。


「どうしたのよ?」

「悪い、用事ができた」

「用事?」


 ユウカは訝しげに眉根を寄せた。


「分かったわ。それで、明日はどうするの?」

「明日は……」


 マコトはユウカ達を見つめた。

 ユウカ、フェーネ、リブは平然としているが、ローラは疲労の色が濃い。


「わ、私なら――」

「明日はオフだ」

「足を引っ張ってしまい、申し訳ありません」


 ローラは申し訳なさそうに肩を窄めた。


「気にするな。じっくり休んで万全の体調でレベルを上げようぜ」

「ありがとうございます」

「期待してるからよ」


 マコトはローラの肩を叩き、アランの後を追った。



「おかしいな。こっちに来たはずなんだが」


 マコトは路地に立ち、周囲を見回した。

 大通りから遠く離れたそこには薄汚れ、朽ちかけた家々が並んでいる。

 街灯はなく、頼りは月明かりのみ。

 と言ってもマコトは暗視スキルを取得しているため行動に支障はない。


「兄貴、こんな所で何をしてるんスか?」

「うおッ!」


 思わず声を上げて振り返る。

 すると、フェーネが立っていた。


「なんだ、フェーネか」

「そりゃないッスよ」

「悪ぃ悪ぃ、どうしてここにいるんだ?」

「そりゃ、兄貴が心配で見にきたんスよ」


 もう! とフェーネは可愛らしく頬を膨らませた。


「兄貴こそ、どうしてこんな所にいるんスか?」

「いや、あ~、それはだな」


 マコトは口籠もった。

 アランの後を追い掛けてきたとは言いにくい。


「娼婦ならここでも買えなくもないッスけど、病気が怖いッスよ。歓楽街にある高級店をお勧めするッス」

「違ーよ」


 マコトは溜息を吐いた。

 娘ほども歳の差があるフェーネに娼婦を買うだの、歓楽街の高級店がお勧めだの言われると何ともやるせない気分になる。


「じゃ、どうして来たんスか?」

「それはだな」


 マコトはボリボリと頭を掻いた。


「兄貴、アランってヤツを追ってきたんじゃないんスか?」

「分かってるなら聞くなよ」

「一応、聞いておいた方がいいかなって思ったんスよ」


 フェーネは拗ねたように唇を尖らせた。


「でも、どうしてッスか?」

「怪しげな男と一緒にいたからな」

「どうして、兄貴が追い掛けるんスか?」

「どうしてって、シェリーが心配じゃないのか?」


 知人の元彼が怪しげな男と付き合っていれば確かめたくなるものではないだろうか。


「兄貴はお節介なんスね」

「……お節介」


 まあ、言われてみれば知人の元彼が怪しげな男と付き合っているからと言って確かめる人間はいない。

 そういうのは興信所の仕事だ。


「ま、そこが兄貴のいい所なんスけどね」

「ありがとよ」

「おいらと兄貴の仲じゃないッスか。じゃ、付いてきて欲しいッス」


 フェーネは照れ臭そうに笑い、歩き出した。

 マコトは慌てて後を追う。


「何処に行くんだ?」

「あのアランってヤツの所ッスよ」

「臭いを追うのか?」

「おいらは犬じゃないッス!」


 フェーネはピンと尻尾を立てた。

 狐はイヌ科の動物だったような気がするのだが。


「じゃ、どうやって追うんだ?」

「流れ者の行動パターンは決まってるんスよ」

「ホームズばりの名推理だな」

「それほどでもないッス」


 フェーネはホームズを知らないはずだが、誉めていることは伝わったのだろう。

 だらしなく相好を崩す。

 ついでに耳と尻尾がだらしなく垂れている。

 かなり嬉しいようだ。


「こっちッス」


 フェーネは危うげなく路地を進む。

 ふと既視感を覚えた。

 この路地を通ったような気がする。

 いや、絶対に通った。


「フェーネ、もしかして?」

「到着ッス」


 案内された先にあったのは二階建ての建物だ。

 老朽化がかなり進んでいる。


「ここが流れ者の定宿『名もなき英雄』亭ッス」

「お前が泊まってた宿だろ」

「そうッス」


 フェーネは胸を張った。

 ここは借金に苦しんでいたフェーネが宿として使っていた食堂兼宿屋だ。

 一泊10Aという脅威的な安さで泊まることができる。

 治安は悪く、街を東西に流れる川の川下にあるため悪臭が漂っている。


「さあ、行くッスよ」

「了解」


 マコトはフェーネに促され、『名もなき英雄亭』に入った。

 意外と言うべきか、『名もなき英雄』亭の構造は『黄金の羊』亭と似通っている。

 店内に漂う紫煙と強烈なヤニの臭いを除けばだが。

 マコトがアランを探すべく視線を巡らせようとすると、フェーネが手を掴んだ。

 そのまま壁際の席に移動する。

 驚いたことにそこはアランと怪しげな男がいる席の近くだった。


「いらっしゃ~い」


 巨乳のウェイトレスが猫撫で声を出して近づいてきた。

 フェーネに似た耳と尻尾の持ち主だ。

 巨乳ウェイトレスはフェーネに擦り寄った。


「あら、フェーネじゃない」

「久しぶりッス」

「こっちの人は?」

「おいらの兄貴ッス」

「あ~、この人が。今日は何にするの?」

「A定食を二人前頼むッス」

「は~い、A定食二人前!」


 凄いもんだな、とマコトは感心した。

 わずかな間にフェーネと巨乳ウェイトレスは指で合図を送り合っていたのだ。

 報酬なのか、銀貨――100Aを渡していた。


「兄貴、明日は本当にオフでいいんすか?」

「あ、ああ、今日は流石に色々あったからな」


 マコトが隣の会話に意識を集中しようとすると、フェーネが話しかけてきた。

 任せるッス、と口が動く。


「確かに色々あったッスね。兄貴は明日どうするんスか?」

「どうするって言われてもな。適当に宿でダラダラしてるよ。そっちは?」

「おいらは出掛けるッスよ」


 ところで、とフェーネは身を乗り出してきた。


「兄貴は四人の中で……姐さんは除くッスよ、姐さんは。誰が一番ッスか?」


 ユウカ以外ということはシェリー、フェーネ、リブ、ローラの四人だろう。


「なんで、除くんだ?」

「姐さんはどう見ても除外ッス」

「まあ、確かに」


 女ではなく、悪友という感じがする。


「けど、こんな所で恋バナかよ」

「大事なことッスよ」

「何故か、そういうことを考えられないんだよな」

「そうッスか」


 フェーネはしゅんと頭を垂れた。


「なんでッスか?」

「面倒臭いと言うか、前向きに考えられないんだよ」

「は~、兄貴は酷い経験をしたって言ってたッスけど、そのせいで人間が駄目になってるんスね」

「おいおい、人間が駄目になってるはねーだろ」

「兄貴は人間が駄目になってるんスよ」


 まさか、ユウカに言った台詞が自分に戻ってくるとは――。


「ま、その辺はおいらがカバーするッス」

「どんどん逃げ場がなくなってくな」


 マコトは深々と溜息を吐いた。

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