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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest22:シェリーを攻略せよ その2



「ローラのヤツ、遅ぇな」


 リブは城壁に背中を預けてぼやいた。


「準備に時間が掛かってるんだろ」

「あたいはすぐに準備できるぞ。マコトだってそうだろ?」

「俺らは軽装だからな」


 特にリブの装備は服みたいなものだ。


「……そう言えば」

「何だよ?」

「ユウカやフェーネとの仲はどうだ?」

「上手くやれてると思うぜ」


 リブは空を見上げながら言う。


「そっちはどうよ?」

「上手くやれてるんじゃねーか」


 マコトも空を見上げながら答える。


「お前って、ユウカのことをどう思ってんだ?」

「どうも思ってねーよ」


 面倒臭いヤツだと思うことはあるが、憎みきれない。

 フェーネも、リブもユウカを立ててくれている。

 自分達は意外にまとまりのあるチームなのではないかと思う。


「そうか、ユウカのことは何とも思ってねーのか」


 隣を見ると、リブは嬉しそうに笑っていた。

 嫌な予感がした。


「なあ、あたいの――」

「お待たせしました!」


 ローラの声がリブの言葉を掻き消した。


「お、お~~」


 マコトはローラを見て、思わず声を上げた。

 ローラは鎧を着ていた。

 残念ながら板金鎧ではない。

 白銀の胸甲冑を身に着け、その下にはどぎついスリットの入ったドレスを着ている。

 ただし、太股まである防具のせいで脚線美は隠れている。

 ついでに言えば腕も二の腕まである防具で覆われている。

 腰から長剣を提げ、巨大な盾を持っている。

 防具の種類には詳しくないが、身を屈めれば陰に隠れられるだろう。


「どうでしょうか?」

「騎士って感じだな」

「他にありませんか?」

「気合の入ったコスプレって感じだ」

「……そうですか」


 ローラは落胆したかのように溜息を吐いた。


「と、とっとと手合わせしようぜ、手合わせ!」

「……はい」


 リブはバシバシとローラの肩を叩いた。

 何となく笑いを堪えているように見える。

 衛兵に通行証を見せて城門を抜ける。

 目的地はいつかの空き地だ。


「マコト、手合わせしようぜ」

「ローラと手合わせをするんじゃなかったのか?」

「万全の状態でマコトと戦いてーんだよ」


 リブは空き地の中央に立ち、ポールハンマーを構えた。

 表情は真剣そのもの。

 断れそうな雰囲気ではない。

 マコトは溜息を吐き、空き地の中央――と言ってもリブから距離を取っているが――に立った。


「ローラ、合図を頼む」

「分かりました」


 ローラはリブの言葉に頷き、手を上げた。


「ルールは前回と一緒だからな」

「分かってるって。目潰し、金的、後頭部への攻撃は禁止。武器の尖ってる方はできるだけ使うなだろ?」

「できるだけじゃねーよ。絶対に使うな」


 マコトはリブに突っ込んだ。


「へいへい」

「……」


 絶対に使ってくるな、と確信にも似た思いを抱く。


「では、よろしいですか?」

「おうよ!」

「ああ」


 前回、リブは合図があるかないかの内に突っ込んできた。

 今回はどうだろう。

 リブの表情を窺う。

 何が楽しいのか、獰猛な笑みを浮かべている。

 この分だと同じことをしてきそうだ。


「始――めッ!」


 マコトはローラが手を振り下ろすと同時に地面を蹴った。

 てっきりリブも突っ込んでくると思っていたのだが、今回は武器を構えたままだ。

 マコトは舌打ちし、手の平でリブの胸を押す。

 攻撃の意図はない。

 もちろん、胸を触りたかった訳でもない。

 このまま突っ込んだら一瞬で勝負が付いてしまうと思ったのだ。


「うおッ!」


 リブがバランスを崩したようによろめき、マコトは後方に跳躍する。


「ッシャ!」

「よっしゃじゃねーって」


 こっちが退かなければ勝負は付いていた。

 こちらが退くと分かっていて、攻めてこなかったのなら大したものだ。


「オラオラオラオラッ!」


 リブは流れるような連撃を繰り出してきた。

 前回よりも速い。

 まあ、レベルが上がっているので当たり前と言えば当たり前だが――。

 マコトは体捌きを駆使して攻撃を躱す。

 予想外の攻撃を仕掛けられた時に備えてガードは下ろさない。


「オラァァァッ!」


 リブがポールハンマーを振り下ろし、マコトは距離を取る。

 下手に踏み込めば尖った方で首を刈られるか、足を刈られる。

 水薬は持っているので死ぬことはないと思うが――。

 そんなことを考えていたらポールアクスが伸びた。

 いや、握りを緩めてポールハンマーを滑らせたのだ。

 握力の精密な調整が必要だったりするのだろうか。

 色々と工夫してるな、とマコトはさらに距離を取る。


「地震撃ィィィィィィッ!」


 リブが叫び、マコトは体を竦ませた。

 石突き付近を握っている状態から地震撃を繰り出せるのか。

 ポールハンマーが地面を叩く。

 叩くが、それだけだ。

 要するにハッタリだ。

 何でもやりやがるな、とマコトは拳を握り締めた。


「オラァァァッ!」


 リブが距離を詰め、蹴りを放つ。

 ヤクザキックに近い。

 マコトは距離を取ってこれを躱す。

 不意に視界が翳る。

 視線のみを動かして頭上を確認すると、ポールハンマーが迫っていた。

 石突き付近を握っていたので武器による攻撃はない。

 そう踏んでいたのだが、どうやらリブは肩を支点に梃子の原理でポールハンマーを振ったようだ。

 マコトは攻撃を受け止めようと手を上げ、リブが笑みを浮かべていることに気付いた。

 悪寒が這い上がる。

 地面を強く蹴り、リブの脇を擦り抜ける。

 直後、背後から轟音が響く。

 地震撃を放ったのだ。

 石突き付近を握っている状態では地震撃を繰り出せないと思わせたのはこの時のための布石だったのだ。

 マコトは膝の裏に軽く蹴りを入れる。

 要は膝カックンなのだが――。


「うおぉぉぉぉッ!」


 リブは見事にその場に膝を屈した。

 すぐに起ち上がろうとするが、マコトは首筋に触れて動きを封じる。


「……俺の勝ちだな」

「あたいの負けだ」


 マコトが離れると、リブは立ち上がり、パレオを叩いた。


「畜生、いけると思ったんだけどな」

「俺が退いてなけりゃ瞬殺だっただろ、瞬殺」

「でも、結果的に退いただろ。だったら、あたいの作戦勝ちだ」

「まあ、そうかもな」


 実際、あの時は大したものだと思ったのだ。

 そこは一杯食わされたと認めるべきだろう。


「だが、結果的には俺の勝ちだ」

「わ、分かってるよ」


 マコトが腕を組んで宣言すると、リブは拗ねたように唇を尖らせる。


「で、あたいはどうだった?」

「強くなってるんじゃねーの」

「いやいや、そういうことじゃねーよ」


 リブはパタパタと手を左右に振る。


「……結構、色々やってくるなと思ったな。グリップの力を緩めたり、梃子の原理で攻撃してきたり」


 マコトは拳を見下ろした。

 ああいう戦い方を習得すべきかも知れない。


「それにしても地震撃を読まれるとは思わなかったぜ。どうして、分かったんだ?」

「笑ってたから何かあると思ったんだよ」


 あれがなければ素手で地震撃を受け止める羽目になっていただろう。


「笑ってたか?」

「……ああ」

「ああ、それでか!」


 リブは口惜しそうに手の平に拳を打ち付ける。


「ポーカーフェイスができないならギャンブルはしない方がいいな」

「言われなくてもしねーよ」


 さて、とリブは背筋を伸ばした。


「じゃ、約束通り胸を揉ませてやるよ」

「そんな約束してねーよ」

「ま、マコト様!」

「いや、信じるなよ!」


 マコトは二人に突っ込んだ。


「じゃ、次はリブとローラだな」

「すまねぇ。あたいは疲れた。マコト、頼むわ」

「何だよ、だらしねーな」

「だらしなくねーよ」


 リブは拗ねたように唇を尖らせた。


「マコトと戦うのはしんどいんだよ」

「……」


 自分から誘ってきたくせに、とマコトは喉元まで迫り上がってきた言葉を呑み込んだ。

 リブはぐっしょりと汗を掻いている。

 膝にダメージが残っているかも知れない。


「分かった。ローラの相手は俺がする」

「助かるぜ」


 リブは破顔し、足を引きずりながら岩に向かう。

 やはり、膝の裏は紫色に腫れ上がっていた。

 ローラが入れ替わるように空き地の中央に立つ。


「マコト様!」

「気合入ってるな」

「何を賭けますか?」

「賭けねーよ」


 余程のことがない限り、マコトの勝ちは揺るがない。

 これでは賭けにもならない。


「マコト様は自分が勝てると思っているのですか?」

「まあ、十中八九」

「舐められたものですね。マコト様にレベルの差が勝敗を決定する訳ではないと教えて差し上げましょう」


 えらく挑発的だ。

 もしかしたら、ローラにも必殺技があるのかも知れない。


「賭けです、賭けをしましょう。私が勝ったらマコト様は私の命令を一つだけ聞く」

「俺が勝ったら?」

「私がマコト様の命令を何でも聞きます」


 態度から察するにかなり強力な必殺技を持っているに違いない。


「何でもって何でもありなのか?」

「ええ、何でもありです」


 ローラは頬を朱に染めながら言った。

 エッチな要求をされると思っているのだろうか。


「まあ、いいぜ。その条件でやろう」

「その言葉に二言はありませんね?」

「ねーよ」

「では、敗北を教えて差し上げましょう」

「あたいが始めって言ったら始めろよ。始め」

「早ーよ!」


 マコトは距離を取り、拳を構えた。

 ローラは剣を抜き、盾を構えている。

 カウンター狙いなのか、盾を前面に押し出している。


「参ったな。あまり盾を持ってるヤツと戦ったことがねーんだよな」

「私が盾使いの神髄を教えて差し上げます」


 ローラは盾の陰に隠れながらジリ、ジリと距離を詰めてくる。

 だが、スケルトン・ロードほどのプレッシャーはない。

 マコトは迷わずに剣を持っている方に回り込む。


「ハッ!」


 ローラは剣を突き出してきた。

 狙いは首。

 寸止めするつもりがなさそうな一撃だ。

 刃引きもされていないのに躊躇いがなさ過ぎるのではないだろうか。

 マコトはガードを上げたままローラの脇に回り込む。

 脇腹に触れ、手を突き出す。

 力は込めていないが、ローラはたたらを踏む。

 倒れずに体勢を立て直したのは流石は騎士と誉めるべきだろうか。

 あの自信は何処から湧いてきたんだ、とローラから距離を取る。

 多分、凄い必殺技を持っているのだろう。

 挑発的な言動を考えるにカウンター系か。

 カッとなって突っ込んだ所にカウンター。

 ありそうだ。

 すぐに終わらせてもいいが、それだと実力が分からない。

 手加減し損ねて死なれても困る。

 様子を見ながら戦うべきだろう。

 マコトは剣を持っている側に回り込むようにして攻撃を繰り出す。

 と言っても距離を詰めて、手の平で押すだけだ。

 それだけでローラは疲弊していく。

 しばらくして――。


「……ハァ、ハァ、ハァ」


 ローラは肩を落とし、荒い呼吸を繰り返していた。


「流石、マコト様です」

「……」


 マコトは賛辞を聞き流す。

 目が死んでいない。

 ここからでも逆転する方法があるということだろう。


「盾使いの神髄を見せてくれるんじゃなかったのか?」

「ええ、これか――ッ!」


 ガクッ、とローラの体が沈み込む。

 体力の限界を迎えたのか。

 いや、とマコトは否定する。

 脳裏に過ぎったのはスケルトン・ロードの姿だ。


盾撃シールド・バッシュ!」


 次の瞬間、ローラは加速していた。

 だが、マコトは横に跳んで躱す。

 これを避けるんですか? とローラの顔は驚愕に彩られていた。

 騎士が騙し討ちをしていいのだろうか、と思わないでもない。

 マコトは一気に距離を詰め、拳を振り上げた。

 ローラは盾を構え――。


衝撃反転リフレクション!」


 盾が光に包まれ、マコトは動きを止めた。

 どうやら、これがローラの奥の手だったようだ。

 多分、攻撃を跳ね返す技なのだろう。

 マコトは距離を取る。


「……ぐ」


 ローラは小さく呻いた。

 盾を包んでいた光は消えている。

 持続時間は一、二秒。

 道理で挑発してきた訳だ。

 折角、奥の手を使ったのに不発だったのだから無理もない。


「……参りました」


 限界に達したのか、ローラはその場に跪いた。


「今のが切り札か?」

「……はい」


 ローラは神妙な面持ちで頷く。

 約束云々という表情ではない。

 多分、ローラは今の技で格上を倒してきたのではないだろうか。


「約束通り、何でも命令して下さい」

「別に、いいよ」

「あ、そうですか」


 ローラはがっくりと肩を落とした。



 マコト達が城壁の内側に戻ると、すでに陽が暮れていた。

 あれからリブとローラの訓練――技の実験台とも言う――に付き合わされたのだ。


「今日は充実した一日だったぜ」

「そうですね」


 リブとローラは晴れやかな顔をしている。


「お前らって遠慮がないよな」

「いや~、全力でやっても大丈夫な相手なんていねーからな」

「濃密な時間を過ごすことができました」


 嫌味のつもりだったのだが、二人はそう思わなかったようだ。

 マコトは小さく溜息を吐いた。

 顔を上げ、前方にアランがいることに気付いた。

 周囲を気にしながら路地に入っていく。

 あの路地を奥に進むと――フェーネが利用していた安宿に着くはずだ。

 わざわざ安宿を利用するということは金がないのだろうか。

 シェリーに迷惑を掛けたくないから安宿を使っていると考えるべきなのだろうが――。


「マコト、腹でも痛いのか?」


 リブに肩を叩かれ、現実に引き戻される。


「俺はガキか」

「ガキに見えるっての」


 リブはバシバシと背中を叩く。

 俺には関係のないことだ、とマコトは『黄金の羊』亭に向かって歩き始めた。

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