Quest22:シェリーを攻略せよ その1
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マコト達は『黄金の羊』亭のテーブル席で話し合っていた。
「――という訳でローラをチームに加えたいんだが」
「まあ、いいんじゃない。盾役は何人いても困らないし」
「おいらは兄貴に従うッス」
「あたいは構わねーよ」
事情を説明してローラのチーム加入について是非を問うと、ユウカ、フェーネ、リブの三人は了承してくれた。
一人だけ鬼みたいなことを言っているヤツがいるが、最初のハードルを越えたことに内心胸を撫で下ろす。
「……ローラ、改めて自己紹介をしてくれ」
「ローラ・サーベラスです。クリス様に仕えておりましたが、度重なる失態で……くっ」
ローラは口惜しそうに呻いた。
「もう事情を説明してるんだから自分で傷に塩を塗りたくるような自己紹介は止めろ」
「失礼しました。本日からチームの一員として粉骨砕身の覚悟で頑張りたいと思います」
「ジョブは騎士ね。レベルは15と」
ユウカが目を細めながら言う。
「はい、騎士として修業を積んできました。盾を使った戦闘が得意です」
「ふ~ん。どうでもいいけど、盾役が粉骨砕身って不吉よね」
「……ぐッ」
ユウカに指摘され、ローラは小さく呻いた。
本人は一生懸命頑張りますくらいのニュアンスで言ったのだろうが、不吉と言えば不吉な組み合わせだ。
「まあ、玉砕覚悟って言わなかっただけマシだけど」
「盾役が玉砕したらマズいだろ」
「だから、言わなかっただけマシって言ったじゃない」
話をちゃんと聞きなさいよ、とユウカは唇を尖らせた。
「失礼しました。このローラ・サーベラス、不撓不屈の精神で盾役をこなしてみせます」
「そ、あまり気負いすぎないでね」
自分で話を振ったくせにつれない態度だ。
「次の予定なんだが、ローラのレベルアップを図りたい」
誘拐事件を解決したこともあり、ランクアップは時間の問題だろう。
もしかしたら、もうランクアップしているかも知れない。
割のいい仕事をこなして早期リタイヤしたい。
そう思うが、焦りは禁物だ。
これからのことを考えればチームの強化を図るべきだ。
「何か意見は?」
「ないわ。盾役が紙じゃ意味がないもの」
「……」
「……」
フェーネとリブは無言だ。
「じゃ、ダンジョンでレベル上げだな」
「よし、ダンジョンか」
リブは嬉しそうに拳を手の平に叩き付けた。
ジャイアント・スケルトン戦、キング戦で役に立てなかったことを気にしていたのかも知れない。
「死霊王のダンジョ――」
「却下ッス!」
フェーネがリブの言葉を遮る。
「どうしてだよ? 死霊王のダンジョンには強いアンデッドがうじゃうじゃしてるし、到達した階層の記録を更新すれば箔が付くぜ」
リブは不満そうに唇を尖らせた。
死霊王――王と呼ばれているからには骸王に匹敵する存在に違いない。
RPGならラストダンジョン手前と言った所か。
何故、そんなダンジョンに行きたがるのか。
「死霊王のダンジョンには物理攻撃の効きにくい死霊系のアンデッドが多いんスよ。兄貴と姐さんはともかく、おいら達は足手纏いッス」
「だから、行くんじゃねーか。自分を追い込まないと強くなれねーだろ」
言っていることは分からなくもないが、控え目に言って自殺行為だ。
これがバイソンホーン族の一般的な感覚だとしたら平均寿命はかなり短いに違いない。
リブには命を大事して欲しいものだ。
「兄貴と姐さんがいて、自分を追い込むとは片腹痛いッス」
「……対案はあるのか?」
激昂するかと思いきや、リブは冷静だ。
「不吉な噂のあるダンジョンは止めてくれよ」
「もちろんッス。おいらが提案するのは群体ダンジョンッス」
「群体ダンジョン?」
「そうッス。ダンジョンには一体のアンデッドがダンジョンを作るタイプと複数のアンデッドがダンジョンを作る二種類があるんス」
マコトが問い返すと、フェーネは誇らしげに答えた。
「そこは不吉な噂がないのか?」
「ないッス。それに、強いアンデッドがいないからレベル上げにはもってこいッス」
「まあ、それなら大丈夫か」
強いアンデッドと戦えばレベルアップが捗るが、ローラを死なせてしまったら目も当てられない。
安全第一だ。
「次は群体ダンジョンに行きたいと思うんだが、どうだ?」
「ないわ」
「もちろん、ないッス」
「まあ、仕方がねーな」
「問題ありません」
「これで次の行動は決まったな」
もう少し揉めるかと思ったが、杞憂だったようだ。
「この後は教会で報奨金を振り込んでもらって――」
「マコト」
リブが手を上げる。
「聞くまでもねーか。手合わせだろ?」
「流石、分かってるな」
リブは歯を剥き出して笑った。
「俺とやっても自信を喪失するだけじゃねーの?」
「分かってねーな。圧倒的な強者がすぐ傍にいるんだぜ。このチャンスを活かさずにどうするんだよ」
「チャンスねぇ」
「おうよ。格上を相手にどう戦うのか学べることなんてそうそうないからな。新入りもそう思うよな?」
「そうですね。強者と戦うのは得難い経験だと思います」
ローラは真剣な面持ちで問いかけに応じる。
「だよな。新入りもどうよ?」
「マコト様と手合わせですか?」
「マコトだけじゃなく、あたいともやろうぜ。レベル15ってだけじゃ何処まで戦えるのか分からねーしさ」
リブはニヤニヤと笑っているが、もしかしたら最初からこの流れに持っていきたかったのかも知れない。
「……分かりました。武防具を取りに戻りたいのですが」
「じゃ、教会に行ったら――」
「南の城門に集合ではどうですか?」
「ああ、そっちでいいぜ」
まあ、リブに付いていけば問題ないな、とマコトは視線を傾けた。
昼前ということもあり、店内に人気はない。
自分達以外の客はアランという男だ。
シェリーの元彼はカウンター席の端――マコトの指定席――に座って、会話を楽しんでいるようだ。
兄貴と言い、この男と言い、よくもまあ顔を出せたものである。
マコトなら恥ずかしくて顔を見せられないが、厚顔無恥とはよくぞ言ったものだ。
そういう連中を受け容れてしまう脳天気さにもムカムカしてしまう。
一度裏切ったヤツは何度でも裏切るのだ。
兄貴と重ねすぎか、とマコトは頭を振った。
あのアランという男が兄と同じだとは限らないではないか。
シェリーは男を待っていて、男はシェリーの下に戻ってきた。
約束を守った。
つまり、そういうことだ。
「……マコト」
「何だよ?」
「怖い顔しすぎ」
ユウカは溜息を吐くような声音で言った。
※
「マコト様!」
「よ、よう」
マコト達が教会に入ると、受付の少女が興奮した面持ちで詰め寄ってきた。
「おめでとうございます!」
「おめでとうってことは?」
「マコト様のチームがBランクに昇格しました!」
「……そうか」
昇格は時間の問題だと思っていたけど、呆気ないもんなんだな、とマコトは思う。
自動車の免許を取得した時に似ているだろうか。
徹夜して勉強し、あっさりと免許を取得してしまったあの感覚。
「やっぱり、不満ですよね」
「いや、そんなことはねーよ」
少女が申し訳なさそうに言い、マコトは慌てて否定する。
マコトとユウカに限って言えば短期間にEからBに昇格したのだ。
期間を考えれば上出来だ。
「いえ、マコト様が仰りたいことは分かっています。私はマコト様達がAクラス、いえ、Sクラスの実力を持っていらっしゃると確信していますが、教会のお偉方は前例がどうだの、他の冒険者から不満が出るだの……」
少女はブツブツと文句を言うが、教会のお偉方は前例がなく、他の冒険者の不満が噴出しかねない状況でBランクに昇格させてくれたのだ。
三つしか依頼をこなしていない状況を考えれば英断に感謝すべきではないだろうか。
「本当に、不満はねーんだ」
「……マコト様」
少女は胸の位置で手を組み、ほわ~んとした目でマコトを見上げた。
「ところで、依頼はどうされますか?」
「次はダンジョンを探索するつもりなんだ」
「そうですか」
少女はがっくりと肩を落とした。
「悪いな」
「……いえ」
マコト達は祭壇に向かう。
「ようこそ、七悪の使い手よ」
長イスが整然と並ぶホールを抜けると、司祭がいつもと同じように迎えてくれた。
この人はいつ休憩しているのだろう。
「先日はご苦労様でした」
「討伐報酬は出ないの?」
ユウカが尋ねると、司祭はクスリと笑った。
清楚なのに艶やかさを感じさせる。
「七悪は人間なので討伐報酬の対象外となっております」
「あれで人間なの?」
「ええ、人間です」
マコトは胸を撫で下ろした。
「出ないんだ」
「残念そうに言うなよ」
「どうしてよ?」
「キングに討伐報酬が出たら俺にも出るだろ」
高額の討伐報酬が設定されていたら世界の敵にされてしまう。
ユウカの場合、寝首を掻いてきそうで怖い。
「本日はどのようなご用件でしょう?」
「報酬の振り込みです」
「分かりました。では、手を……」
ローラが言うと、司祭は手を差し出した。
マコト、ユウカ、フェーネ、リブは右手に、ローラは左手に手を重ねる。
「四人の口座に1万Aずつ振込をお願いします」
「分かりました」
司祭はローラの言葉に小さく頷いた。
残高が表示され、一瞬で数字が書き換わる。
「またのお越しをお待ちしております」
「ああ、また頼むよ」
「もちろんです。私はそのためにいるのですから」
銀行業務だけをしている訳ではないのだろうが、司祭にはもっと他にやるべき仕事があるような気がする。
マコト達は教会の受付に移動する。
「一旦、これで解散だな。お前達はどうするんだ?」
「あたしは宿で魔道書を読んでるわ」
「おいらは買い出しッス」
ユウカは相変わらずのインドア派ぶりだ。
このまま引き籠もってしまうのではないかと心配になる。
「なによ、その目は?」
「何でもねーよ」
「何もないならそんな目で見ないでしょ?」
「引き籠もってないで外に出た方がいいんじゃねーの?」
「別にいいじゃない」
案の定、ユウカは面白くなさそうに唇を尖らせた。
どうしろというのだろう。
自分がユウカくらいの頃はもっとマイルドな性格をしていたと思う。
女子高生の親御さんは大変なのだな~、と思う。
「あたしはあたしなりに真面目に頑張ってるんだから」
「分かった。信じてるぞ」
「信じてるって目じゃないんだけど?」
「どうしろってんだよ」
「どうもしなくていいわよ」
「面倒臭ぇ。女子高生の父親は大変だな」
「……世の中の父親はアンタの百倍は頑張ってると思うわよ」
ユウカは真顔で言った。
いきなり真顔になるのはなしだと思う。
「お父さんはお前のことが心配なんだって言ったら――」
「今まで放っておいたくせに父親面をすんなって言い返すに決まってるでしょ」
「まあ、そうだな」
ちゃんと面倒を見ていてもユウカは父親面をするなと言ってきそうだが――。
「まず、お前の母ちゃんと結婚しないと父親面できねーな」
「そのなりで父親面をされたら堪らないんだけど。世間体も悪いし。つか、アンタって元の世界に戻る気があるの?」
「ねーよ」
この姿では以前の生活を取り戻すことはできない。
それに――。
「こっちの世界の方が稼げるんだよな~」
「マジで未練がなさそうね」
「自分を高く買ってくれる所に行くのは当たり前だろ。まあ、転職みたいなもんだ」
「随分とスケールの大きな転職ね」
「初めての転職で世界を跨ぐとは思わなかったけどな」
ユウカが呆れたように言い、マコトは苦笑した。





