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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest18:精霊祭の準備をせよ


※


「ったく、うるせーな」


 マコトは周囲の喧噪で目を覚ました。

 人々の話し声だけではなく、金槌の音まで聞こえてくる。

 明日の精霊祭に備えて今から準備をしているのだろう。

 気持ちは分かるのだが、ゆっくりと寝かせて欲しい。

 これだけ五月蠅いと寝直すのは至難の業だ。

 眠ることもできずにだらだらと時間を過ごすくらいなら起きた方がマシだ。

 マコトはベッドから下り、ダラダラと服を着た。

 もちろん、今日はオフなので籠手と脚甲は身に着けない。

 溜息を吐きつつ廊下に出ると、ガチャという音が響いた。

 音のした方を見ると、フェーネが扉を開けた状態で動きを止めていた。


「あ、兄貴!」

「フェーネ、おはよう」

「お、おはようございますッス」


 熱でもあるのか、フェーネの顔は真っ赤だ。


「あ、あうぅぅぅ」


 フェーネは訳の分からない声を上げながら扉の陰に身を隠し、チラチラと視線を向けてくる。

 いや、チラチラではなく、照れ照れだろうか。


「一階に行かないのか?」

「いや、その、ちょっと……」


 フェーネはモジモジしている。


「やっぱり、無理ッス!」


 そう言って、フェーネは部屋に戻ってしまった。


「あまり意識すると余計に恥ずかしいぞ」


 マコトはボソッと呟き、扉を閉めた。


「やっぱり、抱き返したのがマズかったか」


 あの時は抱き返すのが自然な流れだと思ったのだが、今にして思えばやり過ぎだったような気がする。

 相手は年頃の女の子なのだし、もう少し考えて行動すべきだった。

 セクハラで訴えられるのは嫌だ。

 そんなことを考えつつ階段を下りる。


「旦那、おはようございます」

「おはよう」


 いつもと同じように階段の中程で声を掛けてきたシェリーに挨拶を返し、指定席――カウンター席の端――に座る。


「扉を開ける音が二つ聞こえましたけど、どうしたんです?」

「フェーネとばったり出くわしたんだが――」

「それで、どうしたんです?」


 シェリーはマコトの前にカップを置き、身を乗り出してきた。


「すぐ部屋に戻ったよ」

「若いっていいですねぇ」


 シェリーはしみじみとした口調で呟く。


「今の話の何処からそんな感想が出てくるんだよ」

「目を合わせることもできないなんて可愛いじゃないですか。私も初めてキスした時は彼と恥ずかしくて話すこともできませんでしたよ」

「キスはしてねーから」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ」


 マコトはうんざりした気分で水を飲んだ。

 爽やかな酸味と甘味が口に広がる。


「果実水か」

「ええ、明日は精霊祭ですからね」


 ふ~ん、と相槌を打ち、果実水を口にする。

 村で飲んだ時も感じたが、しばらく甘味を断っていたので余計に美味しく感じる。


「旦那はないんですか?」

「何が?」

「恋ですよ、恋」


 シェリーは胸の前で手を組み、恋する乙女のように言った。


「……恋ねぇ」

「恋はいいですよ。明日も頑張ろうって気になりますから」


 そう言って、シェリーはフロント・ダブル・バイセップス。

 ちなみにこれは両腕で力瘤を作るポーズである。


「……恋ね」

「旦那はないんですか?」


 もう一度呟くと、シェリーは身を乗り出してきた。


「忘れちまったね」

「もう!」


 シェリーは少し大きな声を出す。

 本気で怒っている訳ではなく、怒ってますよというアピールだ。

 もしくは拗ねたフリである。


「ファーストキスの甘酸っぱさも忘れちまったんですか?」

「覚えてねーな」


 マコトはチビチビと果実水を飲む。


「無気力と言うか、脱力感みてーなもんはあったな」

「どんな恋ですか」


 シェリーは訝しげに眉根を寄せる。


「まあ、シェリーの言う通り、素晴らしいものだとは思うんだ」

「そりゃそうですよ」

「でも、それが先に繋がってなかったらどうするんだ?」

「え?」


 シェリーは驚いたように目を見開く。

 結婚式を挙げる金がない。

 婚姻届の提出で済ませたとしても嫁と子どもを養う余裕がない。

 恋は幻想、結婚は現実だ。

 そして、現実は容赦がない。


「マジに受け取らねーでくれ。ただの戯れ言だ」

「恋は理屈じゃないと思いますけどね」

「マジに受け取るなって言っただろ」


 マコトは果実水を飲み、カップをカウンターに置いた。


「それにしても女ってのは恋バナが好きだよな」

「旦那は……嫌いなんですね」

「嫌いって言うか、面白くねぇ」


 他人の恋バナも、自分の恋バナもつまらない。

 恋に関わる思い出は苦虫と化している。


「――フギャァァァッ!」


 絶叫が響き、振り返る。

 すると、フェーネが落ちてきた。


「イタタタタッ」


 流石はレベル20と言うべきか。

 フェーネは何事もなかったように立ち上がると何処かに走り去った。


「もしかして、俺と顔を合わせるのが気まずくて飛び降りたのか?」

「私に聞かれても分かりませんよ」


 シェリーは困ったように眉根を寄せる。


「旦那はフェーネさんと精霊祭に行かないんですか?」

「フェーネは家庭の事情で無理だ」

「ユウカさんとリブさんは?」

「あの二人は適当に過ごすだろ」


 リブはともかく、ユウカが一緒に精霊祭に行くことは有り得ない。


「シェリーはどうなんだ?」

「私ですか? 私は宿のことで手一杯ですよ」

「いや、そうじゃなく」


 マコトはパタパタと手を左右に振った。


「どういうことです?」

「ほら、外が五月蠅いからさ」

「旦那、あれは賑やかって言うんですよ」


 シェリーは呆れたような表情を浮かべた。


「どっちでも変わらないだろ?」

「変わりますよ」

「何処が?」

「気分が違います」


 シェリーは断言した。

 カタツムリとエスカルゴは別物と言われたような気分だ。


「じゃあ、賑やかでいいや。外では祭の準備をしてるみたいだけど、シェリーは何もしないのか?」

「さっきも言った通り、私は宿のことで手一杯ですよ。そりゃ、まあ、父さんが生きていた頃は飾り付けくらいはしてましたけどね」

「ふ~ん、そうなのか」

「……」


 シェリーは何か言いたそうにこちらを見ている。

 多分、できる男ならアピールされなくても動くのだろう。

 そう言えば飲み会でビールを注いだり、鍋奉行になったりする連中はどうやってタイミングを計っているのだろう。

 ああいう連中を見るたびに自分はサラリーマンに向いていないと思ったものだ。


「するか、飾り付け」

「おや、旦那がやってくれるんですか?」

「まあ、それくらいなら」


 本音を言えばやりたくないが、話を振ったのは自分だし、どうせ暇なのだ。

 暇なのだ、と自分に言い聞かせた。


※


 シェリーに案内されてカウンターの奥にある扉を抜けた先は――。


「秘密の花園にようこそ」

「ただの物置だろ」


 マコトは思わせぶりな台詞を吐くシェリーに突っ込みを入れた。

 カウンターの奥にある扉を抜けた先は物置だった。

 一番奥には業務用の冷蔵庫――に見えるマジックアイテムだ――があり、棚には香辛料や食材などが雑然と置かれている。

 さらに床には大きな布袋がいくつも積まれている。


「それに、そういう冗談は反応に困るから止めてくれ」

「旦那はノリが悪いんですねぇ」

「ノリが悪いんじゃなくてセクシャルなジョークが嫌いなんだよ」


 交際している女性がいないと言うと変な目で見られるし、もう少し無神経な人間になると女性経験の有無について質問してくる。

 迷惑は掛けていないのだから放っておいて欲しい。


「で、飾りはどこにあるんだ?」

「布袋の下ですよ」


 布袋を見ると、床下収納を連想させる枠があった。

 もっとも、布袋が積まれているせいで全体の半分も見えないが。


「大丈夫ですか?」

「まあ、大丈夫だろ。シェリーは離れててくれ」


 シェリーが奥に移動し、マコトは布袋に手を掛けた。

 力を込めると、布袋はいとも容易く持ち上がった。

 20キログラムはあるはずだが、羽のように軽い。

 軽すぎて空のポリタンクを持ち上げた時のようにビクッとなってしまった。


「何処に移動させればいいんだ?」

「後ろに置いて下さい」

「OK」


 マコトはその場で反転し、布袋を床に置く。


「二つ同時でも軽いか」

「旦那、無茶はよして下さいよ」


 二つ布袋を持ち上げ、最初に置いた布袋の上に重ねる。

 やはりと言うべきか、布袋は羽のように軽い。

 調子に乗って三つ布袋を持ち上げる。

 調子に乗ると失敗するのが世の常だが、そんなことはなく、無事に布袋を積むことができた。


「開けてもいいか?」

「ええ、お願いします」


 マコトは蓋を開けると、そこには階段があった。


「旦那、行きますよ」


 いつの間に用意したのか、シェリーがランプを点ける。

 そのまま階段を下り、マコトはその後を追う。

 意外なほど長い階段を下りると、そこはかなり広い空間になっていた。

 古びたり、壊れたりしている家具がいくつも置いてある。

 何故か、剣や長柄の武器まであった。


「武器は冒険者が置いていったものなんですよ」

「差し押さえでもしたのか?」

「まあ、そんな感じですね」


 シェリーは苦笑し、奥にある棚に向かった。


「旦那、ランプを持ってて下さい」

「俺がやるよ」

「そこまでしてもらう訳にはいきませんよ」


 マコトがランプを受け取ると、シェリーは木箱に乗り、棚の上に手を伸ばす。

 視力のせいか、木箱が古いせいか、どうにも危なっかしい。


「よく覚えてるな」

「そりゃ、小さい頃から精霊祭が楽しみだったものですから」


 シェリーは嬉しそうに言った。


「うちは宿屋なんで遊びに行くことはできなかったんですけどね。父さんが生きていた頃は馴染みのお客さんも沢山いて……」


 そこで言葉を句切る。


「知ってますか? 飾りを付けると、精霊様が集まって、そりゃもう綺麗なんですよ」

「見てみたいな」

「ええ、楽しんで下さいね」


 シェリーは棚の上にあった箱を引き寄せる。


「ああ、ありまし――ッ!」

「危ねぇッ!」


 シェリーの体がぐらりと傾き、宙に舞った。

 マコトはランプを投げ捨て、シェリーを抱き留めた。

 落ちた拍子に壊れたのか、ランプは消えてしまったが、暗視(スキル)を取得しているマコトには影響がない。


「……旦那?」

「ここにいるから大丈夫だ」


 シェリーが心細そうにマコトを呼ぶ。


「下ろすぞ?」

「え、ええ、ゆっくりお願いします」

「もちろんだ」


 マコトはゆっくりとシェリーを足から地面に下ろした。


「生きた心地がしませんでしたよ」

「お互い様だ。飾りはさっき触った箱でいいのか?」

「そうですけど……」

「俺は暗闇でも目が見えるから大丈夫だ」


 マコトはひょいと木箱に乗り、棚の上にあった箱を手に取った。

 蓋を開けると、中には紐と金属片が入っていた。

 骸王のダンジョンでゾンビから奪った鳴子状の結界によく似ている。


「だ、旦那?」

「そんなに心細そうな声を出すなよ」


 マコトは木箱から下り、シェリーの手を掴んだ。


「……あの」

「明るい所まで連れてってやるよ」


 マコトは有無を言わさず歩き出した。

 ヤバいな~、とシェリーを抱き留めた時の感触を思い出す。

 女の感触と匂いは理性を揺さぶるだけの威力を秘めていた。


※


 マコトはフックに飾りの先端にあった輪を通してイスから下りた。


「旦那、ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことはしてねーけど」


 シェリーに礼を言われて頭を掻く。

 実際、飾り付けは手間ではなかった。

 すでに設置されているフックに紐を通すだけだったのだから。

 こんなので大丈夫なのか? とマコトは店内を見回した。

 鳴子か、しめ縄にしか見えず、綺麗という言葉と結びつかない。


「あと一本残ってるけど?」

「それは店の正面にお願いします」

「分かった」


 マコトは飾りとイスを持って外に出た。

 店の壁を見ると、ここにもフックがあった。


「さっさとやっちまうか」


 気合を入れるまでもなく飾り付けはすぐに終わった。

 店内に戻ろうとイスに手を伸ばしたその時――。


「……もし」


 誰かが声を掛けてきた。

 振り返ると、そこには杖を突いた老婆が立っていた。

 髪は真っ白で、ミイラのようにしわくちゃだが、何処となく気品を感じさせる。


「何ですか?」

「貴方はここに泊まっている方?」

「ええ、そうですよ」

「しばらく逗留されるつもりかしら?」

「まあ、特に用事がなければ」


 依頼があれば数日空けることはあるかも知れないが、しばらくは『黄金の羊』亭を拠点に活動をする予定だ。


「それがどうかしたんですか?」

「私はお爺さんの時代から付き合いがありましてね」


 老婆は唐突にそんなことを言った。


「そんなに古い建物なんですね」

「いえいえ、この建物は建て直したものですよ」


 マコトが宿を見上げると、老婆はやや慌てた様子で訂正した。


「昔、アンデッドが街に現れたことがあって、壊されてしまったんですよ」


 私の家もその時に、と少しだけ辛そうに顔を歪めた。


「それは、辛かったですね」

「大勢の方がなくなって、家もなくなって、もう駄目かと思いましたよ。でも、ずっと座り込んでいる訳にはいきません。だって、生きているんですから」

「……どうぞ」

「ありがとう」


 話が長くなりそうだったので、イスを差し出すと、老婆は静かに腰を下ろした。


「シェリーちゃんのお爺さんは私らの倍は働いてましたよ。宿を建て直して、男手一つで息子さんを育てて、そりゃもう立派な方でした」


 老婆は自分のことのように誇らしげに語った。


「息子さんは、結婚は早かったんですけど、なかなか子宝に恵まれなくてね。シェリーちゃんが産まれた時は凄い喜びようだったんですよ」


 老婆は過去を懐かしむように目を細めたが、すぐにその表情は沈痛なものに変わった。


「何年か経って、シェリーちゃんの目が悪いと分かってね。天国から地獄ですよ。口さがない連中が信心が足りないなんて陰口を叩いたせいで余計にね」

「信心ですか」


 こういうのは何処の世界も一緒らしい。


「目が悪くても結婚はできるでしょう?」

「皆がそう考えてくれればいいんですけどねぇ」


 老婆は弱々しく笑った。


「だから、いい人ができたって聞いた時は嬉しかったんですよ」

「シェリーのいい人っていうのはどんな人なんですか?」

「駆け出しの冒険者で、お似合いのカップルでしたよ」

「それで、その人は?」

「今頃、何をしているのやら」


 老婆は溜息を吐くように言った。


「別れたんですか?」

「そうであれば踏ん切りも付いたんでしょうけどね。超一流の冒険者になるって言って、出て行ってしまったらしいんですよ」

「……」


 マコトは小さく溜息を吐いた。

 まあ、何処にでもありそうな話である。

 本気で言ったのか、その場凌ぎの嘘かは分からないが。


「シェリーちゃんは今でも恋人を待っているのかも知れないですねぇ」

「ひどい話だ」

「ええ、ひどい話です。さて、と」


 老婆は杖を支えにゆっくりと立ち上がった。


「もう少しゆっくりしてもいいんじゃないですか?」

「いえ、用は済んだので……シェリーちゃんをよろしくお願いします」


 老婆は深々と頭を上げ、表通りに向かって歩き出した。


「……何だったんだ?」


 マコトはイスを持って店内に戻ると、ユウカとリブがカウンター席に座っていた。


「旦那、お疲れ様。どうかしたんですか?」

「近所のお婆ちゃんと話してた」


 マコトはイスを元の場所に戻し、いつもの席に座った。

 御礼のつもりか、シェリーがカウンターに果実水の入ったカップを置いた。


「リブ、精霊祭はどうする?」

「あたいは傭兵団の連中と飲む予定だ」

「大丈夫なのか?」

「挨拶もそこそこに出ちまったから、気を利かせてくれただけで心配されるようなことは一つもねーよ」


 そう言って、リブは笑った。


「ユウカはどうする?」

「お祭りね。あたしってお祭りに行ったことがないのよね」

「そうか」


 マコトは相槌を打ち、口を閉ざした。

 店内が静寂に包まれる。

 聞こえるのはグツグツというスープを煮込む音だけだ。


「何か言いなさいよ」


 沈黙に耐えきれなかったのか、ユウカは身を乗り出し、手の甲でマコトの二の腕を叩いた。


「一緒に行こうって言えばよかったのか?」

「別に、誘ってくれなくてもいいけど」


 ユウカは面白くなさそうに唇を尖らせる。


「面倒臭ぇ女だな」

「は? いきなりそれ」

「誘ったら誘ったで悪態を吐くんだろ。分かってんだよ」

「OK、アンタがあたしにどんなイメージを抱いてるか分かったわ」


 ユウカはポキポキと指を鳴らした。


「つか、本当に祭に行ったことがねーの?」

「母親が仕事で忙しかったのよ」


 ユウカはふて腐れたように言って、カップを口元に運んだ。


「……母親がいるのか」

「当たり前でしょ。あたしが木の股から生まれたとでも思ってたの?」

「そんなこと思ってねーよ」


 父親について何も言わなかったので、母子家庭なのかも知れない。


「母親がいるんなら元の世界に戻らないとな」

「言われなくても戻るつもりよ。母親のことが心配だし、それに……」

「それに?」

「元の世界に戻れなかったら必死に勉強したのが無駄になっちゃう」

「ふ~ん、いい学校に通ってるのか?」

「ええ、超有名な進学校よ。あたしが通っているのは超有名な進学校だから」

「一度で十分だよ」

「大切な所だから二度言ったのよ」

「名前は?」

「私立大河学園高校って言うんだけど、知ってる?」

「名前だけは、な」


 私立大河学園高校――マコトでさえ知っている東京都にある超有名進学校だ。

 政財界の大物、その子弟が集う漫画みたいな高校だ。


「入学金や授業料は大丈夫なのか?」

「あたしみたいに頭のいい生徒は免除されるのよ。ま、金持ち連中は貧乏人に施してやってると思ってるでしょうけど」

「自慢するか、卑屈になるかどっちかにしろよ」

「いつかあたしの靴を舐めさせてやるわ」

「怖ーよ」


 どうして、こいつは入学金や授業料を免除してもらったのに復讐心を滾らせているのだろう。


「で、祭に行くのか行かないのかどっちだ?」

「お金を出してくれるなら」

「いきなり金の話かよ」

「お金は大事なんでしょ?」

「考えてみたらお前と一緒に祭に行きたい訳でもねーな」

「話を振っておいて、それ?」

「予定を聞いただけだしな」


 チッ、とユウカは舌打ちをした。

 険悪な雰囲気が漂い始めたその時、シェリーが口を開いた。


「まあまあ、そんなこと言わないで行ってきたらいいじゃありませんか」

「仕方がねーな。金を出してやるから祭に行こうぜ」

「アンタ、今に見てなさいよ」


 ユウカは地の底から響くような声で言った。

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