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Quest1:ゾンビを討伐せよ【後編】



「クソッ、足がいてぇ」

「文句言わずに歩きなさいよ」

「若返ったせいで靴のサイズが合ってねーんだよ」


 マコトは足を上げ、革靴を指差した。

 サイズが指一本分大きいせいで足の甲がじくじくと痛む。

 靴擦れができているのだ。

 スマホを見ると、歩き始めてから一時間も経っていなかった。


「こっちで大丈夫なんだろうな?」

「うん、多分」


 ユウカは自信なさそうに言った。

 記憶を頼りにダンジョンを脱出する。

 何とも心許ない話だが、他に方法がないのだから仕方がない。

 マコトは先頭に立って先に進む。


「せめて、精霊術の使い方が分かればな」

「仕方がないじゃない。私は魔法使いなんだから」

「責めてる訳じゃねーよ」


 肩越しに背後を見ると、ユウカは拗ねているかのように唇を尖らせていた。

 もう少ししおらしくしてくれれば守ってやろうという気持ちも湧いてくるのだが。


 ――ッ!


「どうかしたの?」

「声が聞こえたんだよ」

「アンデッド?」

「そこまでは分からねーよ」


 マコトは前方を見つめ、目を細めた。

 通路の奥に人影が見えた。

 そいつは体を左右に揺らしながら近づいてきた。


「お~、お~!」


 そいつの皮膚は変色し、目は白く濁っていた。


「……ゾンビ!」

「こいつが?」


 マコトは拳を構えたが、ユウカは呆然としている。


「ユウカ?」

「何?」

「戦闘準備」

「あ、うん、分かった!」


 ユウカは慌てふためいた様子で杖を地面に突いた。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、穿て穿て礫の如く――」


 呪文を唱えると、光り輝く魔法陣が浮かび上がった。


「我が敵を貫く礫となれ! 顕現せよ、魔弾ブリット!」


 魔法陣が強く輝き、緑色の光が杖から放たれる。

 握り拳ほどもあるそれはゾンビの脇腹に直撃し、大きく抉り取った。

 しかし、ゾンビを仕留めることはできなかった。

 脇腹を大きく抉られているのに走って近づいてきた。


「走るタイプのゾンビかよ! ユウカ、もう一発だ!」

「分かってるわよ!」


 ユウカは先程と同じように杖で地面を突いたが、魔法陣は展開されなかった。


「オオオッ!」

「俺かよ!」


 ゾンビが雄叫びを上げながら飛び掛かってきた。

 避けなければ、と頭では分かっているのに足が竦んだ。

 マコトは為す術もなく押し倒され、そこにゾンビがのし掛かってきた。


「ユウカ! 魔法魔法魔法!」


 マコトは必死で腕を突っ張りながら叫んだ。かなり腐敗が進んでいるのか、ゾンビは強烈な悪臭を放っている。


「ユウカ!」

「え、え?」


 パニックに陥っているのか、ユウカは杖を握り締めたままオロオロしている。

 使えないと思ったが、彼女は高校生――子どもなのだ。


「オオオッ!」


 ゾンビは大きく口を開いた。

 何をするつもりなのか考えるまでもない。

 噛み付こうとしているのだ。

 ゾンビは身を乗り出し、マコトの右腕に噛み付いた。


「は、放せ!」


 マコトは顔を殴りつけたが、ゾンビは何の痛痒も感じていないようだ。

 相手は死んでいるのだから当たり前と言えば当たり前だ。

 ギシギシと骨が軋む。

 目に指を突っ込んでも、石で殴りつけてもゾンビは離れようとしない。

 それどころか、ますます力を強めている。

 このままでは殺されてしまう。

 死を意識したその時、歯車が噛み合った。

 漆黒の炎が右腕から噴き出し、力が漲ってきた。

 漆黒の炎に焼かれ、ゾンビの体が崩れ始める。

 それに伴い、噛む力が弱まる。


「放せ!」


 マコトは渾身の力でゾンビを蹴飛ばした。

 ゾンビは立ち上がり、仰向けに倒れた。

 リュックを背負っているからか、立ち上がれずに手足をばたつかせている。


「まるで亀だな」


 マコトは立ち上がり、ゾンビの顔面に拳を叩き付けた。

 どれほど威力があったのか、頭部が砕け、中身が飛び散った。

 ゾンビは一度だけ大きく痙攣し、それっきり動かなくなった。


「……これが精霊術ってヤツか」


 右腕を上げると、漆黒の炎が不規則に点いたり消えたりを繰り返していた。

 消えろ、と念じる。

 すると、漆黒の炎は消えた。


「……痛ぇ」


 袖を捲ると、ゾンビに噛まれた部分が内出血を起こしていた。


「ユウカ、大丈夫か?」

「え? う、うん、役に立てなくてごめん」


 ユウカは申し訳なさそうに頭を垂れた。


「気にするなよ。実戦は初めてか?」

「……初めてじゃないけど、普段は壁役がしっかり守ってくれるから」


 頼りなくて悪かったな、という言葉をすんでの所で呑み込む。

 その時、頭の中に声が響いた。


【レベルが上がりました。レベル2、体力13、筋力10、敏捷12、魔力13】


「ゲームかよ」

「御使いの声よ。レベルが上がるとアナウンスしてくれるの」


 マコトがぼやくと、ユウカが解説してくれた。


「お?」


 思わず声を上げる。

 内出血していた部分が時間を巻き戻す、あるいは早送りするかのように治ったからだ。

 変化はそれだけに留まらなかった。

 トライバル系のタトゥーのようなものが手の甲から肘に掛けて浮かび上がったのだ。


【ボーナスポイントが1付与されました】


「ボーナスポイント?」

「教会に行くとボーナスポイントを消費してスキルを取得できるわ」

「ますますゲームみたいだな」


 もう一度ぼやく。


「ユウカのレベルは?」

「レベル5よ。ゾンビに攻撃したから少しは経験値が入ったと思うけど」


 ふ~ん、とマコトは頷いた。


「取り敢えず、食料問題は解決しそうだな」

「死体から盗む気?」

「そーだよ」


 マコトはリュックの肩紐を外し、足でゾンビを転がした。

 地面に伏したままピクリとも動かない。

 ついでにブーツを回収する。


「……ブーツまで」

「仕方がねーだろ」


 革靴を脱ぎ、ブーツを穿く。

 幸運にもと言うべきか、サイズはぴったりだ。

 あとは水虫でないことを祈るばかりだ。

 リュックを開け、中身を確認する。

 硬く焼いたパン、干し肉、小さな瓶、毛布、鳴子らしきものまである。


「一人分にしちゃ量が多いな」

「その人は荷物運びよ」

「荷物運び?」

「騎士団は戦闘チームと支援チームに分かれてるの」

「贅沢だな」

「騎士団は比較的大きな敵狙いだもの」

「中途半端に現実的なんだな」


 ゲームなら飲まず食わずで大丈夫だが、現実はそうもいかない。


「前途多難だ」


 マコトは天井を見上げて、小さく息を吐いた。

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