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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest14:魔石を売り捌け【後編】



 翌日、マコトは自室のベッドで目を覚ました。

 枕元に魔石の入った布袋があることに安堵しながらベッドを下り、素早く服を着る。

 冒険に行く訳ではないので、籠手と脚甲は身に着けない。


「……新しい服も買った方がいいか」


 冒険に出るたびに服を繕ってもらっていたらすぐにボロボロになってしまう。

 服に対してこだわりはないが、粗末な服を着ていると見下されたくはない。

 それに冒険者はアウトローではない。

 日本の職業区分に合わせれば業務請負――武力と専門技術を提供するお仕事である。

 そう考えると、サラリーマンと同程度に身なりに気を遣う必要がある。


「ビジュアル面の強化も必要か?」


 名刺を配るのも手だと思うが、ユニフォームを着るなどして誰が見ても自分達だと分かるようにすべきではないだろうか。


「チームのマークでもいいな」


 マコトは袋を背負い、部屋を出た。

 朝食の準備が整っているのだろう。

 廊下には香ばしい匂いが漂っている。

 シェリーの料理は不味くないが、味噌汁を飲みたいと感じてしまう。

 もう少し頑張れば味噌と醤油を手に入れられるようになるだろうか。

 マコトは欠伸を噛み殺しつつ階段を下りる。


「旦那、おはようございます」

「おう、マコト」


 階段の半ばでシェリーとリブに声を掛けられた。

 シェリーはカウンターの中で料理中、リブはカウンター席の中央付近に座っている。


「おはよう」


 マコトは挨拶を返しながら階段を下り、カウンター席の端っこ――指定席になりつつある――に座った。


「おいおい、あたいが真ん中に座ってるのに端っこに座るなよ」

「ここが落ち着くんだよ」


 リブはちょっと不満そうな表情を浮かべながらマコトの隣の席に移動した。

 何がおかしいのか、シェリーはクスクスと笑っている。


「どうぞ」

「ありがとう」


 シェリーからレモン水を受け取り、半分くらい飲む。

 寝起きだからか、冷たいレモン水がやたらと美味い。


「今日はオフって言ったはずだが?」

「あたいも教会に行こうと思ってな」

「そんなに気を遣わなくてもいいんだぞ」

「気を遣ってる訳じゃねーよ。あたいが行きたいから行くんだ」

「そうか」


 マコトはレモン水を飲む。

 隣を見ると、リブはニヤニヤと笑っていた。


「どうしたんだ?」

「いや、マコトに付いてきてよかったと思ってな」

「付いてきたって思えるほど付いてきてねーだろ」

「そりゃ、そうだけどよ」


 リブは不満そうに唇を尖らせた。


「まあ、でも、よかったよ」

「何が?」

「後悔させずに済んで」


 リブは傭兵だ。

 彼女の言葉を信じるのならば傭兵兼冒険者になるが、当然、それまでに積んだキャリアというものがある。

 キャリアを棒に振ってまで付いてきてくれたのだ。

 彼女自身の決断とは言え、報いることができてよかったと思う。


「マコトはそんなことまで考えてるのか」

「これでもリーダーだからな」

「あたいの知ってるリーダーとは違うな。いや、あたいが知らなかっただけで色々考えてたのか?」


 リブは腕を組み、唸った。


「……シェリー、ユウカとフェーネは?」

「ユウカさんは下りてきてないんで、まだ寝てるんじゃないですかね? フェーネさんは今朝早く出て行きましたよ」

「そうか。失敗したな」

「どうしたんだ?」


 マコトが呟くと、リブは身を乗り出してきた。


「フェーネ用の武器を新調しようと思ったんだよ。レベルが上がらないから武器で火力を補う感じで」

「使ってたスリングショットはかなりいい出来だと思うけど、具体的にどうするんだ?」

「攻撃用のマジックアイテムをスリングショットで飛ばすってのはどうだ?」

「えらく金が掛かりそうだな、それ」


 リブは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「あくまで一例だからな。スリングショットに拘ってる訳でもねーし。お前も強化案を考えてくれよ」

「あたいは考えるのが苦手なんだよ」

「難しく考える必要はねーよ。こういう攻撃は嫌だったとかあるだろ?」

「なんだ、その程度でいいのか」


 リブは拍子抜けしたと言わんばかりの表情を浮かべた。


「その程度でいいんだよ」

「分かった。考えておく」

「頼りにしてるぜ」

「ああ、任せておけ」


 リブは胸を叩いて請け負い、シェリーの方、いや、料理を見た。

 どうやら、お腹が空いているらしい。


「……それと」

「まだ何かあるのかよ」

「そんなに嫌な顔をするなよ」

「で、なんだ?」

「これから売り出して行くに当たってビジュアル化を進めるべきかと思うんだが、どう思う?」

「ビジュアル化?」


 リブは問い返し、首を傾げた。


「要は俺達がチームだって分かるように装備を統一したりするんだよ。傭兵にはそういうのってないのか?」

「紋章みてーなもんか?」

「まあ、そんな感じだな」

「装備を統一することはねーけど、紋章ならあるぜ。どんな感じにするんだ? やっぱり、マコトと同じタトゥーを彫るのか?」

「タトゥー?」

「右腕、右腕」


 リブが自分の腕を叩き、マコトは自分の右腕を見下ろした。

 ついつい忘れがちになるが、右腕にはトライバル系のタトゥーのようなものが浮かんでいる。


「いや、タトゥーはちょっと」

「なんで? 格好いいじゃん」

「いやいや、チームってことをアピールするために親からもらった体に墨を入れさせる訳にゃいかねーだろ」


 ユウカなら絶対に断る。

 チーム崩壊の危機だ。


「なんだよ、格好いいのに」

「こういうのはノリで入れるもんじゃねーだろ?」

「そうか?」

「そうなんだよ」


 平行線を辿りそうなので、話を打ち切る。


「じゃ、どうするんだよ?」

「無難な線で服だろ」

「そう言えばマコトも、フェーネも、ユウカも黒いコートを着てたな。しゃーない、あたいも黒いコートを買うか」


 リブはボリボリと頭を掻いた。

 ちなみにユウカが着ているのはコートではなく、黒いケープである。

 期せずして黒いコート、もしくはマントを着る方向で話が纏まってしまった。


「……あとは」


 マコトはリブの太股、もとい、前垂れを見つめて溜息を吐いた。

 その下は褌である。


「ん? あたいの股間に興味があるのか?」

「ねーよ」

「ひょっとして――」

「ひょっとしねーよ。ノンケだよ、俺は」

「童て――」

「違ーよ!」


 マコトは声を荒らげた。


「見栄を張らなくてもいいぜ。マコトくらいの歳なら普通だ、普通。溜まってるんならあたいが抜いてやろうか?」

「冗談でもそういうことは言わないでくれ」

「あたいは惚れた男にしか言わねーぞ」

「分かった分かった」

「……絶対に分かってねーな」


 リブは面白くなさそうに唇を尖らせた。


「で、どうしてあたいの股間を見てたんだ?」

「褌は止めよーぜ」

「これはバイソンホーン族の伝統衣装だぞ?」


 リブはギョッとした顔でマコトを見つめた。

 驚いたのはマコトも一緒だ。

 褌が伝統衣装ってどんな部族だと突っ込みたい。


「目のやり場に困るんだよ。せめて、前垂れじゃなくてパレオを巻いてくれ」

「パレオか」


 リブは苦々しげに呻いた。


「仕方がねーな。その代わり、同じ部族のヤツから突っ込まれたらフォローしてくれよ」

「まあ、そのくらいなら」

「絶対だぞ」

「ああ、約束する」


 そうか、とリブは実に満足そうな表情を浮かべた。

 間違ったことをしてしまったような気がしなくもない。


「はい、朝食ですよ」


 話が一段落し、シェリーが料理をカウンターに置いた。



 マコト達が教会に入ると、冒険者達の視線が集中した。

 正確には彼らが見ているのはリブであり、彼女が背負っている魔石の詰まった布袋だ。

 彼らは魔石が詰まっている事実を知らないはずので、見ているのはリブということになる。


「やっぱり、俺が持った方がよかったんじゃないか?」

「そういう視線じゃねーって」


 リブは苦笑いを浮かべた。

 そうか? とマコトは首を傾げた。

 何故、女に荷物を持たせて的な視線を向けられていないと言えるのだろう。

 やっぱり、自分で持った方がよかったかも知れない。

 もちろん、宿にいた時は自分で持つつもりだった。

 しかし、リブは自分が持つと言いだし、半ば強引に布袋を背負ったのだ。

 マコトは溜息を吐きつつ、受付に向かった。

 大した距離ではないが、その間に囁きが聞こえてきた。


「おい、あれはバイソンホーン族のリブだぞ」

「なんで、あんなガキと一緒なんだ?」

「傭兵団を抜けたって噂は本当だったのか」

「リブに荷物を持たせてるってことは相当強いのか」


 リブがポンッとマコトの肩を叩く。

 見上げると、野太い笑みを浮かべていた。


「マコト様、いらっしゃいませ」

「おう、二日ぶり」


 マコトが受付の前に立つと、受付の少女は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 それだけのことだったのだが、冒険者達はどよめいた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔石を手に入れたんで、仲介してもらおうと思ってな。リブ?」

「おうよ、リーダー」


 リブは受付カウンターに袋の中身をぶち撒けた。

 驚愕にか、少女が目を見開く。

 冒険者達の反応はもっと劇的だ。


「あ、あれは全部魔石か?」

「お、おい、空間魔石まであるぞ」

「あのサイズなら捨て値で売っても100万Aは下らないぞ」

「見ろ、あの高純度の魔石を」

「まさか、ダンジョンを攻略したのか?」

「馬鹿な、あんな若造に?」

「だから、リブが従っているんだろう」

「そう言えば骸王のダンジョンが攻略されたって話だな」

「あれは騎士団が攻略したって話だっただろ」


 取り敢えず、顔を売ることには成功したようだ。


「仲介を頼めるか?」

「は、はひ、じょ、上司を呼んでくるので、お待ち下しゃい」


 動転しているのか、少女の呂律は回っていない。

 彼女は背後にあるイスを薙ぎ倒しながらパーティションの向こうに消えた。

 しばらくして上司――禿頭の老人がパーティションの向こうからこちらを見つめ、猛烈なスピードで駆け寄ってきた。


「ようこそ、いらっしゃいました! 魔石の仲介でございますね!?」

「そうです」


 あまりの剣幕に丁寧な言葉遣いで応じてしまった。

 まあ、手数料が入ってくることを考えれば腰が低くなっても仕方がないと思う。

 しかし、教会関係者にはもう少し浮き世離れして欲しいと思う。


「それで、ご希望の金額は?」

「そんなのが必要なのか」

「……マコト」


 マコトが値段を考えていると、リブが割って入った。


「空間魔石は最低金額100万、他の魔石は……10万は欲しいな」

「10万の値が付かなかった時は如何なさいますか?」

「空間魔石を買ったヤツに買ってもらいてーな」

「かしこまりました」


 老人はカウンターから紙とペンを取り出し、これまた猛烈な勢いでリブが話した内容を書き記していく。


「ご購入を希望された方がいらした際にはどちらに連絡をすればよろしいですか?」

「……マコト」

「俺は『黄金の羊』亭って宿に泊まってる。ただ、明日から隊商の護衛をするから連絡は戻ってきてからにしてくれ」

「かしこまりました。では、こちらの書類に必要事項をご記入下さい」


 老人はイスに腰を下ろし、カウンターの下から書類を取り出した。


「あ!」


 マコトはイスに座り、声を上げた。


「どうしたんだよ?」

「報奨金の件をすっかり忘れてた」


 あれだけアンデッドを討伐したのだ。

 報奨金もかなりの金額になっていたのに今の今まで思い出せなかったとは――。


「魔石が売れた時でいいんじゃねーの?」

「……そう、だな」


 ふとユウカの姿が脳裏を過ぎる。

 アンデッドを倒していなかったので一人で報奨金を受け取りにくることはないだろうが、文句を言われそうだ。


「そんなことより書類をさっさと書いちまえよ」


 ああ、とマコトは頷き、溜息を吐いた。

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